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第二章 青春謳歌編
74話 憂鬱な気分
しおりを挟む「うーん……」
「どうかしたの?」
朝食を終えて、教室へとやって来た私は、クレアちゃんとおはようをした。
その後、いつも通り授業を受けるわけだけど……
その休憩時間、周囲を気にしている私を、クレアちゃんは不思議がっているようだ。
「いや、なんていうか……
今朝から、視線を感じるんだよね」
「視線?
……もしかして、エランちゃんのことが気になっている男の子とか!?」
「いや、そういうんじゃないと思う……」
なぜか黄色い声を上げるクレアちゃんだけど、そういうのでは、多分ない。
そういう経験があるわけじゃないけど、そういうのとは違うとわかる。
ならば、なんだろうこの、違和感みたいなの。
「今朝からって……今朝から?」
「うん。食堂にいるときからかな」
もちろん、常にずぅっと視線を感じていたわけではないけど……ふとした瞬間に、視線を感じるのだ。
被害妄想では、ないと思う。
食堂の場合は、朝とはいえ数多くの生徒が活用する場所だから、誰がという特定は難しいけど……
今も感じているなら、視線の主はこの教室の中にいるということ……?
「それって、ストーカーってやつ……?」
「ストーカーか……一人、心当たりならあるけど」
私のことを気持ち悪い目で見てくる筆頭は、やはりヨルだろう。
入学以来絡んでこないとはいえ、だから安心ということにはならない。
同じクラスのルリーちゃんに、変なことをされていないかと聞いたけど、特になにもないらしい。
まあ、私とルリーちゃんが友達だって知らなければ、わざわざヨルが絡みに行く理由もないんだけど。
「心当たりあるの!?
ならそいつが犯人じゃない!?」
「そうなら良いんだけど……いや良くはないけど……
どうにも、違うっぽいんだよねぇ」
犯人がヨルという話なら、良くはないけど事態は単純だ。
とっ捕まえて、やめさせればいい。
けれど、今朝から感じる視線は、どうにもと違う気がするんだよなぁ。
「そうねぇ、考えられるとしたら……
エランちゃんへの嫉妬、とか?」
「嫉妬、かぁ」
「えぇ。ほら、エランちゃん、魔力が膨大だったり魔獣騒ぎを収めたり、色々活躍してるじゃない?」
そう言われてみれば……まあ、そういう線もなくはないのかなぁ。
貴族連中にとっては、私の活躍なんて面白くないだろうし。
ただ、それと決めつけてしまうのも、なんだか違うような……
「あー、やめやめ!
今日はただでさえ憂鬱なのに、これ以上悩みを増やしたくないよー!」
「憂鬱って……あぁ」
机に突っ伏す私に、クレアちゃんが納得のいったような声を漏らす。
今日は、私にとって憂鬱な出来事がある。
それは……
「クラスごとの、代表者会議かぁ」
はぁ、とため息とともに、私は言葉を漏らす。
そう、今日は代表者会議なのだ。
クラスの中で、成績トップの各一人ずつ……計四名が放課後に集まって、それぞれお話とかするらしい。
言わば、報告会議だ。
ウチのクラスは今こんな感じで~とか、順調にみんな育ってますよ~とか。こんな感じ。多分。
別に、それはいいんだ。お話するんなら楽しそうだし。
このクラスからは私、別のクラスからはナタリアちゃんも出るし、仲のいい子がいるのは心強い。
……問題は。
「そんなに嫌なの? そのヨルって人」
「ヤ」
「はっきり言うのね」
問題は、代表者の中にヨルがいることだ。
成績トップが代表になるなら、私と同じ【成績上位者】のあいつが代表に選ばれるのは、当然のことだ。
だから、嫌なのだ。
「だってあいつ、初対面の私に迫ってくるような危ない奴なんだよー?」
「いいじゃない、ロマンチックで」
なにがいいもんか。
こちとら壁際に追い詰められ、イセカイだのメガミだのと頭のおかしいことを言われたんだ。
おかげですっかり、あいつのこと嫌い。
「まあでも、今からそんなんじゃ身がもたないわよ。
ナタリアちゃんだっているんでしょう?」
「うん……」
「それに、もう一人は誰かはわかってないんだし、楽しみだなぁとかエランちゃんなら言いそうじゃない」
クレアちゃんの言う通り、私、ナタリアちゃん、ヨルともう一人、誰かはわかっていない。
その子がいい子なら、ぜひお友達になりたいが。
逆に、ヨルタイプだったらと思うと……
「はぁあああ……」
「もう、らしくないわよ」
わかっている、わかっているんだ……でも、わかっていても、どうしようもないんだ……!
どうしようもない気持ちを抱えながらも、時間だけは無情にも過ぎていく。
休憩が終わって、授業を受けて、また休憩がやってきて……
お昼を食べて、授業を受けて……
そして、あっという間に、そのときはやってくる。
「では、フィールド。
このあとの、代表者による定例会議。ちゃんと出席するように」
「はぁい」
帰りのホームルームが終わり、先生に念押しされてしまった。
とほほ。
いっそお茶会に逃げて……
いや、だめかぁ。
「エランちゃん、その……頑張って!」
「頑張るぅ」
とうとう、クレアちゃんにもエールを送られてしまった。
仕方ない、行くかぁ。
まあ、ただ最近あったことを報告するだけだ。
ヨルに近づかれないために、距離も取っておこう。
若干の憂鬱な気分を保ったまま、私は定例会議の行われる教室へと、歩いていく。
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