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第二章 青春謳歌編

70話 エルフとダークエルフ

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「カーマンくん」

「おっと、そろそろ行かないと。
 わからないことがあったら、カウンターに居るから遠慮なく聞いて。
 あ、でも図書室では、お静かにね」

 ふと、女の子に呼ばれたレニア先輩は、私に注意事項とばかりに、口元に指を立てた。静かにってことか。
 それから、呼ばれた先、受付カウンターへと向かっていく。

 カウンターには、レニア先輩ともう一人。
 レニア先輩を呼んだ女の子だ。仲良さげに話している。
 レニア先輩は委員、とか言ってたから、あの人もそうなんだろう。

「っと、いけないいけない」

 私には、やるべきことがある。
 教えてもらった、エルフに関する書物がある場所。早速、そこに向かう。

 図書室では静かに、と言ってるだけあって、なんとも静かな空間だ。
 それほど生徒が多いわけではないけれど、靴音さえ響いてしまうくらいに静かな空間だ。
 気をつけないと。

「……ここ、かな」

 確か、レニア先輩が指したのはこの辺だ。
 教室の隅に位置する、一角。そこに並ぶ本に、私は注目する。

 うーん、エルフ、エルフ……
 ……あった! これかな。

 エルフ族と名のつく本を、私は片っ端から手に取っていく。
 全部読めるかはともかくとして、ひとまず手元に置いておいて、気になったものから読んでいこう。

 とりあえず五冊を手に取り、胸に抱える。
 えっとー、読める場所読める場所……

「ここにしよ」

 どこか、空いている席はないかと視線を巡らせる。
 ここで読書している生徒はあまり多くないので、空いている席はたくさんだ。

 その中で、今本を取った場所と一番近い席を選び、座る。
 さあて、読むぞ。

「えっと……エルフという種族について、か」

 一冊を手に取り、本を開く。
 ページを捲ると目次があり、次のページには今言った、エルフという種族についてが書かれている。
 エルフ自体は、師匠と接していたのでよぉく知っているけど。

 改めて、エルフという種族について知るのも、悪くない。

「……」

 エルフ……別名森の妖精。それは、自然や精霊に愛され、自然の中に暮らすとされる種族。自然の中に生きるがゆえに魔力は純粋かつ膨大で、精霊に愛されるがゆえに魔術を得意とする。
 金色の輝く髪、翠玉すいぎょくに輝く宝石のような瞳、透き通るような白い肌は、確かに妖精を思わせる美しさだという。

 うんうん、師匠もかなりの男前だったもんな。
 ていうか、言われなきゃ美人の女の人でも通るんじゃないかな。

 また、エルフには魔力を感じ取りやすい特殊体質がある。
 肌で感じることができたり、魔力の流れをその目で見ることができる。魔力の流れを見ることが可能な、エルフのその瞳を、総じて"魔眼"と呼ぶ。

「……まがん……?」

 なんだろう、まがん……どっかで聞いたな……
 どこだっけ。エルフ関連だから、師匠か?
 ……いや、違うな。

 えっとぉ……確かぁ……

「ナタリアちゃんだ!」

 はっと思い出し、思わず私は大声を上げて、立ち上がっていた。
 そうだそうだよ、思い出し……た……

「……」

「ご、ごめんなさーい……」

 ここは図書室で、先ほど静かにするようにと注意されていた。
 にも関わらず、大声を上げて立ち上がってしまったわけだ。

 反省。

 ……ともかく、まがん……魔眼という単語で、思い出したのはナタリアちゃんのことだ。
 彼女の目が、確か魔眼だったはず。


『この"魔眼"ってのは、いろんなものを見ることができるんだよ。例えば、その人に流れる魔力の気配とか』


 ナタリアちゃんのきれいな青色の瞳は、そのときだけ緑色に変色していた。言われてみれば、エルフと同じ色の瞳だ。
 そして、魔眼について、説明してくれた。

 人やエルフなど、種族によって流れる魔力は違う。
 だから、エルフにはエルフにしか流れていない魔力があり、ルリーちゃんの正体がエルフ族だとわかったのだと。

「ってことは、ナタリアちゃん、エルフと関係があったのかなぁ」

 エルフの瞳、魔眼。それが、どうしてナタリアちゃんの目にあるのか。ナタリアちゃんは人間なのに。
 昔にエルフと会って、なにかしらあったのだろうか。

 考えてみれば、どうして"エルフの魔力"がわかったのだろう。
 それは、ルリーちゃんと会う前にも、エルフと会ったことがあるから。少し考えればわかることなのに。

 ううむ、エルフに知り合いがいるのかなぁ、ナタリアちゃん。

「ま、それは後々本人に聞くとして」

 エルフの瞳が魔眼と呼ばれているのは初耳だけど、私が知りたいのはそこじゃない。まあ、改めてエルフについて知ろうとしたのは私なんだけどさ。
 他にも、エルフの特徴は書いてあったが、私が知っているものがほとんどだ。

 えっと、他には……
 エルフ族と言われる彼らの中には、ダークエルフという種族が存在する。

「ダークエルフ……!」

 その単語に、私の目は止まる。
 ルリーちゃんの、種族だ。大きな枠組みではエルフだけど、普通のエルフとは対極的に違うようだ。

 なになに……
 精霊に好かれるエルフとは対象に、ダークエルフは精霊に嫌われ、邪精霊に好かれる。
 そのため、精霊の加護を受けられず一般的な魔術は使えない。が、邪精霊の加護を受けている彼らはただ一つ、ある魔術を使うことができる。

 その魔術こそ……

「闇の、魔術……」

 火でも、水でも、風でも土でもない……闇の、魔術。
 その存在を、私はルリーちゃんの魔術を見るまで、知らなかった。

 精霊には好かれないから普通の魔術は使えない。
 邪精霊に好かれるから闇の魔術は使える……か。

 そもそも邪精霊とは。
 闇や暗がりを好み、精霊とは相反する存在。精霊が好む場所を嫌い、精霊が嫌う場所を好む。
 精霊とは天敵のようなものなので、精霊の加護を受けている者は邪精霊の加護を、邪精霊の加護を受けている者は精霊の加護を、それぞれ受けられない。

 また、邪精霊は災いを呼ぶ精として……

「忌み嫌われている、か」

 ダークエルフの体質は、精霊に嫌われ邪精霊に好かれるというもの。
 もしかして、ダークエルフが嫌われてるのって、邪精霊に好かれているから……?

 ……いや、それだとエルフまで嫌われているのが説明つかないか。

「えっと、ダークエルフはエルフ以上にひっそりと暮らしていた。
 しかし、ある事件を堺に存在が明るみになって……」

 ……世界中から、嫌われることとなる。

「これだ」

 私が、知りたかったこと。これだ。
 この先のページに、知りたかったことが書いてある。

 ダークエルフが、エルフが、みんなから嫌われている、その理由が……!
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