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第二章 青春謳歌編

67話 調べ物をするために

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「フィールド、お前魔術を使えたんだな」

「ごめんなさい、あのとき話を聞いてませんでした」

「……いっそ清々しいな」

 教室に戻る途中、廊下ですれ違った私に、先生が言った。
 授業中に、魔術を使える者は手を上げろ、という時間があったが、私は話を聞いてなくて、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 そんな私の返答に、先生はため息を漏らす。
 後ろで、クレアちゃんが苦笑いを浮かべていた。

「まあ、その件はもういい。
 お前にはまた、詳しく事情を聞きたいと思っているんだが……」

「えぇ、あれ以上の情報はありませんよ」

「とはいってもな……なにしろ手がかりが少しでも欲しいところでな。
 あれから、動ける教師は総出で、森に異変が起こってないか調べたが、なにも問題がなかった。
 問題がないのに魔獣が出たのが問題、ってレベルでな」

 あのあと、先生たちは森を調べた。
 突然現れた魔獣、それも言葉を喋る上位種。自然に紛れ込んだか、そうでなければ誰かの手引きか……

 いろんな可能性を疑ったみたいだけど、結果として、異常はなかった……と。

「本当に他に、なにもないんだな」

「はい。言葉を喋ったこと以外にはなにも。
 その内容も、意味不明なものでしたし」

「ふむ……」

 嘘だ。魔獣は言葉を話し、こう言った……『エルフ、コロス』と。
 魔獣の言葉に意味はない。それは私も知っている。ただ人の言葉を真似ていて、自分でもなにを言っているかわかってないのだから。

 けれど……実際に、あの場にはエルフのルリーちゃんがいた。
 もしエルフという単語を発したと知れれば……考えすぎかもしれないが、ルリーちゃんの正体が、バレちゃうかもしれない。

「なにか思い当たることがあったら、私から伝えますから」

「そうか」

 それから二、三言葉を交わして、先生は去っていく。
 その後ろ姿を眺めながら、私は考えていた。

 ……もし魔獣の発した言葉に、意味があったとしたら。
 エルフを殺すと叫ぶ魔獣が、実際にエルフのルリーちゃんを狙ってきた。
 偶然にしては出来すぎている。

 魔獣がなぜ、ルリーちゃんを……エルフを狙うのか、わからない。
 だけど、その行動に意味があるのだとしたら。

 エルフが人々から迫害されている理由と、関係あるのかもしれない。

「エランちゃん、どうかした?」

「うんにゃ。行こっか」

 兎にも角にも……調べてみないことには、始まらない。
 放課後、ピアさんに教えてもらった書庫室とやらで、エルフについて調べてみよう。

 教室に戻った私たち……というか私は、実際に魔獣に接触したということで、やっぱり質問攻めにあった。
 先生がいたからなんとか倒せた……とごまかしてはいたが、これで終わりはしないんだろうな。

 その後、再開した授業を受ける。こうしていると、昼前の騒ぎが嘘のようだ。
 ……ルリーちゃんたちは大丈夫だろうか。ルリーちゃんにも他の三人にも、怪我はないとはいえ直接魔獣に襲われたのだ。
 しかも、三人は気絶までしている。授業どころじゃないのかもしれない。

 私も、意識は半ばそっちへ向けられていた。
 いくらここで考えても、なにかが変わるわけでもないけれど。

「エランちゃん、今日はどうする?」

 授業が終われば、放課後だ。鞄を持ったクレアちゃんが、話しかけてくる。
 昨日は、お茶会に誘われたんだったな。もしかしたら今日も……

「エランさん、クレアさん。
 今日も、お茶会に行きませんか?」

 と、声をかけてくれるのはカリーナちゃん。昨日同様、彼女が声をかけてくれたのだ。
 連日誘ってもらえるなんて、なんて嬉しいことだろう。

 だけど……

「ごめん、今日はちょっと用事があるんだ」

「あらまあ」

「用事?」

「うん、ちょっと調べ物があって」

 せっかくのお誘いを断るのは、なんとも心苦しい。
 それでも……このままにしては、おけないのだ。

「調べ物って、いったい……? 私たちでわかることなら、答えるわよ?」

「それとも、その調べ物をお手伝いしましょうか?」

 二人は、純粋に私のために言ってくれている。
 その気持ちはとても嬉しく、ついつい頼りたくなってしまう。

 でも……だめだ。

「ありがとう、二人とも。
 でも、これは……自分で調べなきゃ、いけないことなんだ」

 手っ取り早く、知りたいと思うなら……このあとお茶会に参加して、みんなに質問すればいい。
 そう……「エルフはなんで迫害されているの」と。

 でも、それじゃあ……その人の、主観からしか情報は得られない。ピアさんも言っていたことだ。
 それに、それを見てきたわけではないクレアちゃんたちからでは、伝え聞いた話しかわからない。

 過去になにがあったのか。それを知るには、本だ。
 もちろん、当時のことをそのまま、真実が書いてあるかわからないし、時間が経って書いているなら情報がズレているかもしれない。

「自分の目で見て、調べて……それから、情報を整理したいんだ」

 それに、エルフに関する本が一冊しかない、なんてことはないだろう。
 何冊もの本を読めば、それだけたくさんの情報が手に入る。

 そうすれば、真実と嘘とを、見分けられるかもしれない。

「そっか……
 なにを調べようとしているのかわからないけど、頑張って」

「うん、ありがとう。
 カリーナちゃんもごめんね、せっかく誘ってくれたのに」

「いえ、そういうことでしたら仕方ありませんわ」

「また、誘ってくれると嬉しいな」

 二人にそれぞれ、断りをいれてから私は立ち上がる。カリーナちゃんは、「もちろんですわ」と快くまた誘ってくれると約束してくれた。
 本当に、いい子だ。

 さて……と。
 これから私は、書物がたくさんある場所……書庫室へ、向かう。
 これまで学園内では迷子になり続けてきた私だけど、ピアさんから場所は聞いたし、バッチリだ。

 いざ行かん!
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