史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第二章 青春謳歌編

64話 撃て、魔術!

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 あぁ、くそっ……痛い、痛い。
 かろうじて、腹というよりは横腹を貫いているのが……幸い、したのだろうかこれは。
 うまく内蔵を避けているという点では、運がよかった。

 しっかし、これ、いったいなぁ……けど、不幸中の幸いなのが、細い触手でよかったってこと。
 もっとぶっといので刺されてたら、急所もなにも関係ない……内蔵ごとなにもかもを貫いていただろう。

「……ぁ……え、エラン……さん?」

「あ」

 ふと、後ろから……か細い、声が聞こえた。
 ゆっくりと振り向くと、そこにはルリーちゃんの姿。
 その頬には、血が……私の返り血が、ついている。

 そっか、目の前で私が刺されたから、そのショックで逆に正気に戻った……って、とこか。
 ……って、悠長にしてられないか。

「エランさん……お、お腹、が……」

「だい、じょうぶ……見た目ほど、深い傷じゃ、ないから」

 これは強がりだけど、強がりじゃない。
 先生に比べたら、このくらい軽症だ。

 けれど、痛みがあることに違いない。
 気を抜いたら拳にふっ飛ばされるこの状況で、この痛みを抱えたままってのは……

「っ……燃え、ろ……!」

「!?
 ゴァアアア!?」

 私は、身体強化とは別に魔力を練り……それを、手のひらに集中させる。
 イメージするのは、熱。それも、あっつあつの。

 今私の手のひらは、灼熱とまではいかなくても相当熱くなっているだろう。魔獣が、拳を引っ込めた。
 やっぱり、バカでかくても熱さには弱いか。

「っ、はぁ、はぁ……」

 魔獣が動揺したついでに、私は腹部を貫いている触手を掴み……熱で溶かす。
 けれど、その熱は触手を伝わり、私にも熱さを伝えてくる。手のひらの熱は感じないのに、他の箇所だと感じるってのも変な話だ。

 このまま、距離を取りたいけど……

「ゴォオオオオン!」

「そんな暇、ないか」

 再び、触手が飛んでくる。それを捌くのはそれほど難しくないけど……
 お腹が空いて、魔力が……うまく、集中できない。それに、時間が経てば経つほど、傷も広がっていく。これもやっぱり、魔力を集中できない。

 この、やろ……!
 やっぱり私は、一人じゃなんにもできないんだろうか。
 師匠がいないと……

「…………く、で……」

「ん?」

 か細い……でも、しっかりと意思を持った声が、聞こえた。
 それは、私の後ろから……

「ルリーちゃん……?」

「……を……常闇に……覆い、隠せ……!」

 これは……詠唱……?
 それに、ルリーちゃんに凄まじいまでの魔力が、集まっていく。

 詠唱、そして膨大な魔力……間違いない……!
 これは……魔術!

「マ、リョク……ゴギャアアアア!」

闇幕ダークネスカーテン……!」

 膨大な魔力の集まりに、魔獣は反応する。
 それと同時、詠唱を終えたルリーちゃんは、魔術に付けられた名前を……あるいは術名を、呪文を、口にする。

 その瞬間、ルリーちゃんの杖からは光が……いや、違う。黒いモヤ……まるで闇だ……が放たれる。
 それが魔獣の大きな体をも包み込み、黒く薄い膜のようなものが魔獣を閉じ込める。

 魔力に反応し再びルリーちゃんを攻撃しようとしていた魔獣が……動きを止め、かと思えばその場でキョロキョロと体を動かし、吠える。
 まるで……探しものをしていて、それが見つからない、子供のように。

「見つからない……もしかして」

「し、視覚は、封じました……
 エランさんのおかげで、視覚があると、わかったから……」

 まだ震えながらも、涙と鼻水を乱暴に拭ったルリーちゃんは、強い瞳で告げる。
 視覚を封じた、と。

 あの魔術の効力は、対象の視覚を封じること、か。
 顔もない、訳の分からない魔獣に通用するかはわからない……が、さっき私は目眩ましを放った。
 それが通用したことで、どうあれ魔獣に視覚らしきものがあることは判明した。

 ならば、それを封じる手立てもある。

「今、なら……」

「ありがとうルリーちゃん!
 さいっこうだよ!」

 私は痛みも忘れて、自分の胸の中が熱くなっていくのを感じる。
 ルリーちゃんがここまでしてくれたんだ、私も応えないと。

 視覚が封じられた以上、魔獣にこちらの位置を補足する術はない。
 その時間稼ぎの間に、私は……

「絶対零度の氷襲こほりがさねよ、芯まで凍える冷気を持って、そのものの時間を永久とこしえに……」

「ガァアアア!」

「!」

 魔術の詠唱中、魔獣は暴れだす。
 視覚が封じられているのだ、ただ適当に暴れているのか……あるいは、魔力を手がかりに手当たり次第に、か。
 うねうねと、触手があちこちに伸びていく。

 まずい! この森は魔石がいっぱい眠ってる。つまり、あちこちに魔力があるってことだ。
 手当たり次第にそれらに手を出していったら、遠くないうちに他の生徒に被害が及ぶ!

 視覚が封じられたことで、目の前のルリーちゃんではなく、ルリーちゃんを狙うためにあたりの魔力反応があるものに攻撃を仕掛ける。
 こんな、ルリーちゃんの魔術が裏目に出るなんて……!

「!? ギャア!?」

「!」

 伸びた触手が私の視界の外へと放たれようとしたその瞬間……触手が、音を立てて千切れる。
 いや……斬れた? まるで、刃物で斬ったかのように。

 さらに、他の触手も次々と、斬れていく。
 その度、魔獣は悲鳴を上げる。

 この、不可思議な現象は、魔法によるものだ。
 そして、それをやっているのは……

「ぅ……」

「先生……!」

 大木に打ち付けられ、気を失っていた……先生だった。その姿に、ルリーちゃんは嬉しそうな声を上げる。
 大木に背を預け、体はボロボロ……動けないだろう。それでも、右腕だけをなんとか動かして、杖を持ち……魔力を、操っている。すごい精神力だ。

 あれは、風の刃。
 無数の風の刃を生み出すことで、触手を斬り、ここより外へと飛び出すのを防いでいる。

「すまん、今、起きた……情けない。
 だが、状況はなんとなく、わかった……かましてやれ、フィールド」

 起きたばかり、だというのに、状況を理解して、魔獣の脅威が他へ行かないようにしてくれているのか。
 さすがは、判断力に長けている。

 ルリーちゃんの目隠し魔術、先生の風の刃魔法……二人のフォローのおかげで、私の心配事は消えた!

「……そのものの時間を永久に奪い去れ!」

 魔術の詠唱が完了し、私は杖を対象……魔獣へと、向ける。
 杖の先端はまばゆく輝き、膨大な魔力が奔流となって周囲に渦巻く。これらが、大気に流れている魔力……それを、精霊の力を通じて、借りる。

 自身の保有する魔力を、遥かに超えた魔力。魔法の力を遥かに超えた、魔術の力。
 その矛先にいるのは……!

「ゴァアアアア!!」

 私の周囲に流れる膨大な魔力を察知したのだろう。
 もがいていた魔獣は、狙いを定めたかのように、私に向けて拳を繰り出す。

 けれど……もう、遅い!

永久凍結エターナルブリザード!!!」

 魔獣へ向けて私は、魔術を放つ。
 杖の先端から放たれた魔力は、キィンと耳の奥に届くような音を立てて、魔獣へと衝突する。

 ……それは、ほんの一瞬のこと。
 魔獣の体は、魔術が衝突した部分からカチカチ……と音を立て、瞬く間に氷に包まれていく。

 魔獣の巨体、そのすべてが氷像と化すのに、時間はかからなかった。瞬時、といってもいい。
 魔術を受けた魔獣は、もはや動かない。もしも、これが事前に動くのを見ていなければ、氷によって一から作られたものだと思っていたかもしれないほどに立派な氷像。

「……ふぅっ」

 魔獣が氷漬けになったのを確認し、私は緊張の糸を緩める。どっと、息を吐き出した。
 たまらずその場に膝をついてしまったけど、これくらいは許してほしい。

 いろいろと考えることはあるけど……とりあえず、魔獣を、倒した……ってことで、いいんだよね。
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