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第二章 青春謳歌編
53話 貴族と平民の格差
しおりを挟む「……だから私は、こう言ってやったんだよ。
そんなに待ちきれないなら、自分の髪でも食べてなさい、って。
そしたら、本当に髪をむしゃむしゃしちゃってさぁ」
「あははは、まあ、フィールド様ったら」
食堂の一角にて、私たちはお茶会を開いていた。
メンバーは、私とクレアちゃんを誘ってくれたカリーナちゃん、ロリアちゃん、ユージアちゃん。
そこに後二人を加えた計七人だ。
貴族も平民も関係ない、というカリーナちゃんの言葉通り、内一人は平民の子だ。
最初は委縮していたけど、時間が過ぎていくほどに慣れてきたみたい。
「まったく、師匠ったらだらしなくてさー」
「ホント、フィールド様はグレイシア様のことが大好きなんですのね」
「えぇ。先ほどからお師匠のお話ばかり」
「あ、う……
ま、まあ……」
誰が話の中心にいる……というわけではないのだけれど。
私が口を開くと、みんな興味津々といった風に話を聞いてくるのだ。
「け、けど、ちょっと意外。
てっきり、私から師匠のことをいろいろ聞きたいから、お茶会に誘ってくれたのかと……」
「まあ。私たち、そんな目でフィールド様のことを見ては……いない、とは嘘になりますけど。
でも、そんな理由でお声をかけたわけでは、ありませんよ」
「というか、師匠のことを話しているのはエランちゃんの方じゃない」
「ですわ」
「それは……その通りだね」
私の予想とは外れ、みんな師匠のことを聞いてはこなかった。
むしろ、自分からペラペラと、師匠のことを話していた。
だってしょうがないじゃないか、話の種って言ったら……
人生の半分以上を一緒に過ごした、師匠との思い出しかないんだもの。
「まあ……グレイシア様がお弟子を取っていたというのも驚きですが、まさかそのお弟子と共のクラスになれるだなんて」
「えぇ、夢のようですわ」
「ご本人のフィールド様も、とても面白い方ですし」
「ん、んん……
というか、普通にエランって呼んでよ。なんか、恥ずかしい」
なんか、勝手に自滅して面白い人になっていってる気がする……
つまらないと思われるよりは、いいんだけどさ。
師匠の弟子、としてだけではなく。私個人を見てくれている。
あぁ、いい人たちだなぁ。
「フィ……エラン様が、そうおっしゃるのでしたら」
「様もいらないけど……
シルメィちゃんとキリアちゃんも、気にしないでいいからね」
「わ、わかりました」
「あ、は、はい」
もう一人の貴族であるシルメィ・バンテンちゃん。そしてこの場で唯一の平民、キリアちゃんにも、私は笑いかける。
ルリーちゃんを見ててわかるけど、平民ってのはなんとも立場が弱い人間らしい。
まあルリーちゃんの場合は、平民ってだけの理由ではないんだけど。
どうやら、歴史ある貴族に対して、そもそも平民風情が同じ目線で立つことが許せない……って思ってる奴も多いらしくて。
もちろん、魔導第一のこの学園では、貴族と平民の差別をするようなことはない。
……表向きは。
入学試験時のダルマ男しかり、見ていないところで差別する奴もいる。
平民だ、自分とは流れている血が違うんだ、って下らない理由で。
「お金持ちの貴族に比べて、平民はまともな環境で鍛えられない……
それにも関わらず魔導学園に合格したって、すごいことだと思うけど」
「え?」
「あ、声に出てた?」
しまった、うっかり声に出ちゃったか。
……でも、今の言葉は本音だ。
身分の違いとか、いろいろあるのかもしれない。
でも、この魔導学園に入学できたってことは、少なくとも魔力に関しては、不合格になった貴族より勝っているってことだ。
平民風情が身の程をわきまえろってよりも、平民でこの学園に入学出来てスゲー、ってなんでそうならないのかな。
「そう、そうですわ!」
「わ」
突然、ガタンと音を立てて、カリーナちゃんが立ち上がる。
いきなりどうしたんだい。
「貴族だ平民だと、身分の違いでの差別……私、当たり前のようになっているこの光景を、変えたいんですの」
「変えたい?」
「……実は私、元は平民の出で」
「まあ」
元々は平民だったのだと、告白するのはロリアちゃん。
元は……って、でもそれって……
「どういうこと?」
「エラン様は、平民から貴族に成りあがる方法があるのを、ご存じ?」
カリーナちゃんからの問いに、私は首を振る。
平民から貴族に……そんな方法があるのか?
それって、私が師匠に『フィールド』の家名を貰ったってのと、似た方法ってことかな。
「成りあがる……なんて言うと聞こえが悪いですが。
平民から貴族になるには、少ないですがいくつかの方法があります」
カリーナちゃんは、指を立てていく。
「一つは、貴族の殿方、もしくは令嬢と伴侶になる。これは、貴族の相手に嫁入り、婿入りすることで、貴族の家名を受け継ぐという方法です。
一つは、貴族として認められるほどの功績を上げる。これは王族に認められるのが一般ですね。例えば平民の冒険者が、途方もない財力を得る、などです。要は、お金持ちになるってことですね。
まあ、認められ方は様々ですが」
「なので、平民の冒険者が多いんです。
もちろん、すべての冒険者が、貴族になりたいがために冒険者をしているわけではないですが」
「貴族の冒険者などは、逆に貴族の道楽だと、敬遠されることが多いですね」
「ちなみにロリアは、最初に挙げた方法で貴族になりました」
「……お母さんが、貴族の男の人と、結婚して……」
平民から貴族になる方法は、いろいろあるんだなぁ。
貴族にイコールお金持ちなら、貴族を目指す理由もわからなくはないし。
ただ……
平民が憧れている貴族になれたというのに、そう話すロリアちゃんの表情は、暗い。
「どうかしたの?」
「……貴族と結婚し、貴族となった平民は、その数は数れしれず。
しかし、一方でそれを快く思わない者もいます」
「快く思わない?」
「貴族至上主義、といった連中ですわね。
成り上がるために貴族にすり寄っただの、卑しい蛮族だの。
それに、ロリアのお母様の結婚相手には、ご子息もいらして……その件で、いろいろと……」
言葉を濁すカリーナちゃん……それが、ロリアちゃんを気遣っているものだと、すぐにわかった。
それに、すべて言われずとも、なにがあったかは想像がつく。
ロリアちゃんのお母さんの結婚相手に息子がいた……つまり、ロリアちゃんにとってはお義兄さんだ。
その人がいい人なら問題ない。でも、そうでなかったら?
貴族至上主義というに、平民を受け入れられない人種はいる。
ロリアちゃんのお義兄さんがそうでないとは限らないし、例え本人が気にしなくても……周りはそうはいかない。
そこには、私が想像する以上の光景が、広がっているのかもしれない。
貴族と平民……同じ人間なのに、どうしてこうも、嫌な思いをする子が出てくるのだろうか。
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