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第二章 青春謳歌編

52話 お茶会に誘われて

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「うーん、終わったぁ」

 魔導について知識を深めるため、座学の時間はずっと座っていたけど、授業が終わったことで私は、固まった体をほぐすように背を伸ばす。
 休憩時間もあったけど、やっぱり座りっぱなしは疲れるなぁ。

 知識としては、知っているものばかりだったけど……
 こうして、復習するのも大切だ。

「エランちゃん、これからどうする?」

「クレアちゃん」

 帰るための準備をしていたところに、クレアちゃんが話しかけてくる。
 すでに鞄を持っている。要領がいいな。

「これからって……」

「もー、聞いてなかったの?
 放課後は、それこそ生徒の自由時間。それぞれ親睦を深めるのもいいし、積極的に人を集めて魔導の知識を交換し合う場を設けてもいいって、先生言ってたじゃない」

「あー、そうだったね」

 いけないいけない、ちょっとぼーっとしていたよ。

 このまま帰るのもいいけど、他の生徒と親睦を深めるのもいい。
 なにより、それすごく学園生活、って感じがする!

 ……それに……

「フィールド様、よろしいですか?」

 エルフ族のことについて調べる時間が取れる。誰かに聞くよりまずは自分で調べてみよう……
 そう思っていたところへ、ふと声をかけられた。

 そこにいたのは、三人の女子。
 ……あ、右端に立っている子には、見覚えがあるぞ。
 筋肉男に、席を取られていた……

「サラメちゃんだ」

「あ、はい。
 ロリア・サラメと申します」

 私に名前を当てられた少女は、礼儀正しくお辞儀をする。
 クラスメートがこんなにいるのに、この子の名前だけ覚えてたのは……

「朝は災難だったね、席取られちゃって」

「あ、はは……
 ですが、助けてくださり、ありがとうございます」

「助けた、なんて大袈裟な」

 あの筋肉男とのやり取りの印象が強すぎて、この子の姿が印象深く覚えている……というのは、なんとも嫌な話だ。
 ちなみに、筋肉男はすでに教室にはいなかった。

 この子の席が取られた時、確かに私は口を出したけど……
 結局、助けにはならなかったもんな。

「この子、ずっとお礼を言いたくてソワソワしていましたのよ」

「か、カリーナさん!」

 真ん中に立つ子が、からかうようにロリアちゃんを見る。
 そのロリアちゃんは、顔を赤くしている。

 わざわざお礼なんて、いいのに。
 ただ、お礼だけを言いに来た感じでもない。
 他の二人も、その付き添いってわけでもなさそうだ。

「それで、私になにかご用?」

「これは失礼を。
 私、カリーナ・レンブランドと申します。
 こちらは、ロリアと……」

「ユージア・ワクニンと申します」

「ロリアちゃん、カリーナちゃん、ユージアちゃんだね」

 うぅん、名前を覚えるのは大変だけど……頑張ろう。
 まさか、今まで人と関わらずに師匠と暮らしてきた影響が、ここで出てくるなんて。

 ふと、三人はぽかんとした顔をしていた。
 ……あー……

「いきなり名前で呼ぶのは、なれなれしかった?」

「い、いえ、少し驚いただけです。
 なれなれしいどころか、むしろ光栄です」

 どうやら、嫌な思いはしていないようだ。
 よかったぁ。

 で、カリーナちゃんはこほん、と咳払い。

「私たち、これからクラスの方々と、お茶会をしようと思っていますの。
 ぜひ、フィールド様もご一緒にと」

「お茶会?」

「はい。お互いのことをもっと知れたらと、お茶を飲んだりしながら語り合うのです」

 お茶会、という単語をカリーナちゃんから聞き、それを補足するようにロリアちゃんが言う。
 若干興奮しているようだ。

 うーん、お茶会かぁ。

「まあ、クラスの方々と言っても、あと数名を交えてですが」

 苦笑いを浮かべながら、ユージアちゃんがさらに補足。
 さすがにいきなり、クラスのみんなでわいわいはできないか。

 聞いた感じだと、お互いの親睦を深めたり、情報交換といったことだろう。
 それは……うん、楽しそうだ。

「うん、いいよー」

「まあ、本当ですか」

「よかったです」

「こっちこそ、誘ってくれてありがとね」

 わざわざ私を誘ってくれたんだ、無下にすることもできないだろう。
 仮に、師匠のことを聞きたいからだとしても……まあ、そこから始まる友情もあるよ、うん。

 それに、三人とも喜んでいるし。

「そういうことだから、クレアちゃん……」

「ん、わかったわ。
 じゃあ、お茶会楽しんできてね」

「え? クレアちゃんも行くんでしょ?」

「え」

「え」

 一緒に行こう、とクレアちゃんに言葉をかけようとしたが、なぜか楽しんできて、と返された。
 あれ、てっきりクレアちゃんも一緒に行くものだと思っていたんだけど。

 ……そういえば、クレアちゃん誘われてない?

「ねえ、クレアちゃんも行っちゃダメ?」

「そんな、ダメだなんてことはありません。むしろこれから誘おうと……
 誤解させてしまい、申し訳ありません」

「え、あ、いや、こちらこそ……」

 慌てたように頭を下げるカリーナちゃんに、クレアちゃんはたじたじだ。
 どっちが誤解したという話だが、この場合カリーナちゃんがクレアちゃんを誘う前に話を割った、私が悪いのでは?

 ……黙っておこう。

「で、でも、いいの?
 私、下級貴族だし……」

「まあ、そのようなこと気にされる方は、いませんわ。
 貴族平民、関係なく声をかけておりますので。
 遠慮なさらずに」

 ……なるほどね。クラスの一部でのお茶会というのは、体裁を気にしている人もいるからだろう。
 クレアちゃんが心配するように、下級貴族だから、と見下す人もいるかもしれない。

 貴族の中には、自分より階級が下の人を見下す人も少なくはない。
 ダルマ男なんか、まさにそうだろう。

 だけど、今回のお茶会には、そういった隔たりはない。
 他人を見下すような人は、いないってことだ。

「そ、そういうことなら……」

 ほっとしたような、クレアちゃん。
 そういえば、前に『ペチュニア』常連さんの、ガルデさんが言ってたっけ。
 貴族の経営する宿だけど、平民とか関係なく接してくれるから気持ちのいい所なんだ、って。

 私が知らないだけで平民や貴族の隔たりは深いものがあるのかもしれない。

「では、参りましょう!」

「そうだね!」

 初めてのお茶会……初めての、クラスメイトとの親睦会。
 興奮してきたな……わくわくが止まらないよ!
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