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第一章 魔導学園入学編

47話 そういう大事なことは教えといて

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「ただいま戻りましたー」

「お前たち……保健室はどうした」

「いやぁ、この人が行きたくないって駄々こねるもんで」

「人を子供みたいに言うな!」

 教室に戻って来た、私とダルマ男。
 保健室に行ったはずの私たちが戻ってきて、先生は困惑の表情だ。

 まあ、半分はダルマ男がごねたからで、半分は保健室の場所が分からなかったからなんだけど。

「コホン。
 ご心配ありがとうございます。俺は大丈夫ですので」

「……本人がいいと言うなら、構わないが。
 なら二人とも、席につくように」

「はーい」

 言われた通りに、私たちは席へと座る。
 他のみんなは、当然揃っている。

 改めてクラスメイト全員が揃ったところで、先生は一つ咳払い。

「さて、先ほどの決闘……まずは、両者とも見事だったと言っておこう」

「えへへー、どもー」

「……」

「フィールドは、身体強化の魔法をああも極めていたとは。だからといって、授業は真面目に聞いてほしいが。
 ダルマスも、身体強化をかけつつ披露した剣技には驚かされた」

 先生からのねぎらいに、私は素直に照れる。
 まさか、そんな褒められるなんてー。

 ダルマ男の表情は見えないけど、まあ悪い気はしていないはずだ。
 私としても、魔導剣士とやらとの戦いは、いい経験になった。

 うーん、私も剣、使ってみるかなぁ。
 いや、そんな簡単に出来るものでもないし……

「さて、みな見ていた通りだ。
 魔導の基礎たる身体強化、それを疎かにせず、鍛え上げられた戦いを。
 しかも二人とも、我々に示すように、ほとんど身体強化の魔法しか使っていない」

 魔導の基礎が重要だという話、これはこの決闘を通じて、説得力が出てきただろう。
 他のみんなも、真面目に授業を聞いている。

 それに、先生は口にしないけど……身体強化の魔法を極めれば、上級貴族として名高い魔導剣士にも勝てると、証明されたことになるし。
 私も、どうせクラスのみんなで切磋琢磨するなら、みんな成長してもらった方がいい。

 クラスメイトとの決闘、摸擬戦ならわりと簡単にできるみたいだし。
 決闘なんて仰々しい言い方じゃなくても、いいんだよね

「みな知っていると思うが、身体強化は魔導の基礎ゆえに、ある程度以上鍛えようとする者はいない。
 が、見ていて痛感したはずだ。まずは基礎を極めれば、なにものにも代えがたい力が手に入る、と」

 先生も、私と……というより、師匠と同じ考えのようだ。
 基礎だからこそ魔力の使い方を覚えて終了、ではなく……

 その先を伸ばすことに、意味があるのだと。

「これからの授業では、魔力について、魔導士について、などを座学実技交えて教えていく。
 わからないことがあったら、なんでも私に聞け。
 ……まあ、私よりも年の近い者同士が、話しやすいこともあるだろうがな」

 そう言って、先生は私とダルマ男に視線を送る。

 あー、確か生徒の自主性に任せるんだっけ……
 自分たちで、高めあえってことか。

 それから、うんぬんかんぬんとお話があったあと、自習となった。
 ただ、自習とは言っても……先ほどの話と組み合わせれば、これはゆっくりできる時間にはならない。

「ねぇ、フィールドさん、魔力の使い方について、教えてほしいんだけど……」

「わ、私も知りたいです!」

「先ほどの決闘、感動しましたわ!」

「あんな大規模の魔法、いったいどうやって……」

「フィールド様、お付き合いしている方はいらっしゃるのかしら?」

 と、先生が教室を出ていくと、直後私の席の周りにクラスメイトたちが……
 というより女子たちが集まってくる。

 このクラスの人数は、およそ四十人。
 その約半数が女子だ。
 それだけの人数のほとんどが、席の周りに集まってくるのだ。

 ……暑苦しい。

「ダルマス様、私たちにも、魔力のご教授を……」

 ダルマ男の周りには、男子の集団。
 見事に二つに分かれたものだ。

 もしかして、男女で決闘にしたのは、こういう狙いが……
 ……いや、考え過ぎかな。

 暑苦しくはあるけど、実は満更でもない。
 私が、人に教えるだなんて。

 ダルマ男も、同じ気持ちだと思うんだけど……
 ただ、ここからじゃ顔が見えないな。

「エランちゃん?」

「え、あぁごめん」

 この集団の中には、当然クレアちゃんもいる。

「フィールド様、勉強不足でしたら申し訳ないのですが、なぜフィールド様ほどのお方が、無名なのです?」

「いやぁ、私の家名は、師匠にもらったものだから……
 正確に、フィールドって家の人間じゃあないんだ」

「そうでしたの」

「でも、フィールドって言ったら……」

「えぇ、この学園を首席で卒業なさったと言う方も、フィールドという名前でしたわ」

 ……そういえば、入学試験のときに、私の家名について周囲がざわついていた気がするなぁ。
 そんなすごい人が、おんなじ名前なのか。

 ……私の家名、だって。えへへ。

「私が魔導を習ったのも、魔導を極めようとここに来たのも、全部師匠の影響なんだ」

「まあ。ずいぶんとご立派な方なんですのね」

「そうなんだよ!
 師匠はすごいんだよ!」

 いやぁ、嬉しいなぁ。
 師匠について、こんな熱く語れるなんて、あんまりなかったもんな。

 これは、あれだ。私が名を上げれば上げるほど、師匠のすばらしい話も広まっていくんじゃないのか。

「フィールド様がそんなに熱く語るなんて。
 是非とも一度、会ってみたいですわ」

「エラン、でいいよー。
 でも師匠、旅に出ちゃってさぁ。私も今どこに居るのか、わからないんだよ」

「まあ。それは心配でしょう」

「まあ、師匠のことだから適当に元気にやってると思うけどね。
 ホント、今頃どこでなにしてるんだろ……

 グレイシア師匠は」

 …………その瞬間、うるさいほどに騒がしかった周囲が、急に静かになった。
 なんだろう、急に静かになられると、不気味なんだけど。

 みんなの顔を見てみると、そこに浮かんでいたのは驚愕……
 その表情だった。

「え、エランちゃん……
 エランちゃんの師匠って、グレイシア……
 グレイシア・フィールドなの?」

「うん、そうだよ。
 あ、ごめん言ったことなかったっけ」

 確認するように、クレアちゃんが聞く。
 そういえば、長く一緒に居るクレアちゃんやルリーちゃんには、師匠の話はしても師匠の名前は言ったことなかったな。

 私がうなずくと、周囲は静かなまま……
 だったのが、やがて悲鳴を上げ始める。

 悲鳴……だけどこれは、拒絶というよりどっちかって言うと、黄色いものが混じっているような……

「ま、まさか! あのグレイシア様が!?」

「そんな……こんなこと、ありえるんですの!?」

「なんって羨ましい……そして、その弟子であるエラン様と共のクラスになれた私たちの、なんと幸運なことか!」

「な、なになに?」

 なんだなんだ?
 さっきまで静かだったのが、嘘みたい。
 どうなってんの?

 助けを求めるように、私はクレアちゃんに視線を向ける。

「み、みんなどうしたの?」

「どうしたって、エランちゃん知らないの?
 グレイシア・フィールド……その人が、かつてこの学園を首席で卒業して、各地で様々な伝説を残している、最強の魔導士よ!」

 若干興奮したように、クレアちゃんは言う。
 その言葉を、私はぽかんと聞いていた。
 だって、初めて聞いたのだから。

 そんな……有名人、だったなんて……
 いや、本当に師匠! そういう大事なことは、教えといてよぉ!!!
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