上 下
44 / 739
第一章 魔導学園入学編

44話 エランvsイザリ

しおりを挟む


 授業の一環として、ダルマ男と決闘をすることになってしまった私。
 訓練場に姿を見せたダルマ男は、左側の腰に剣を差している。

 それを見て、クレアちゃんは言った。

「魔導剣士……」

 私も、師匠から聞いたことのあるような、その単語を。
 だけど、よく思い出せないや。
 多分、私剣とか使わないから、流して聞いていたんだろうな。

「さ、さすがダルマス家の長男……
 まさか、魔導剣士だなんて」

「知っているのかいクレアちゃん」

「え、えぇ。
 魔導剣士って言うのは、文字通り魔導を扱う、剣士のこと」

 多分これも、常識的なことなんだろうな。
 まあいいや、教えてクレアちゃん。

「魔導を扱うのは、それだけでも結構な集中力がいるわ」

「そうだね」

 集中力……私も、今でこそ慣れたけど、魔導を扱う際には結構集中力を必要とする。
 集中力がなければ具体的なイメージは生み出せず、イメージが生み出せなければ魔導を扱えないからだ。

 それに慣れるには、かなりの訓練が必要とされている。

「そして、剣士。
 私は剣士じゃないからよくわからないけど、剣を扱うのにもかなりの集中力を必要とするみたい」

「あー、なんか思い出してきたかも。
 師匠もそんなこと言ってたな」

 扱いの難しい魔導と、扱いの難しい剣技……それを、同時に使う。
 だから、魔導剣士ってことか。

「でも、そんな難しい状態で、決闘に挑むってことは……」

「ハッ、話は終わったか?」

 私に絶対負けたくないダルマ男……それが、この絶対負けられない場面で、剣を持ち出してきた。
 つまり、ただ魔導と剣技を同時に使うだけじゃない。

 使いこなす自信がある、と、そういうことだろう。

「わざわざ待っててくれたんだ」

「最低限の知識もないと、かわいそうだからな。
 だが、話が終わったなら失せろ。決闘の邪魔だ」

「は、はぃ!
 じゃあエランちゃん、頑張って!」

 ダルマ男に睨まれ、クレアちゃんはそそくさと観客席に去ってしまう。
 あの野郎、クレアちゃんまで怖がらせやがったな。

 私たちは、互いに距離を取り、指定の位置につく。
 その中心には、先生が立っている。

「魔導剣士、か」

 初めての同級生と決闘、それに剣を使うという相手。
 まったく、初めて尽くしだ。

 師匠は剣は使ってなかったし、目の前にいるのは未知の相手だ。
 それに、ぶっちゃけ聞いただけじゃ、魔導剣士ってのがどう強いのかわからない。

 まあ、魔導をある程度使えるようになるのが数年。剣をある程度使えるようになるのが数年と考えたら。
 その二つを組み合わせて、使いこなすとなれば単純に、片方を使いこなす倍の時間が掛かる。

「ほぉ、ダルマスは剣か。
 フィールドは、武器は使用しないのか」

「はい!
 ……念のため聞きますけど、魔導の杖って武器扱いなんですか?」

「そいつは魔導士に必須のものだ。
 武器扱いにはならんよ」

 このために。ルールには武器が一つとあったのか。
 ということは、魔導を組み合わせられる武器って、他にもあるのかな。

 私は杖を抜き構え、ダルマ男は剣を抜き構える。
 お互いの準備が完了したのを、先生は見届ける。

「それでは、これよりフィールドとダルマスの決闘を始める。
 死ぬことはないから、まあせいぜい存分にやれ」

 物騒なことを言うなぁ……

 ダルマ男の構えた剣は、銀色に輝く、鋭い剣だ。
 右手に持って、腰を落とし、構えている。

 ……油断、はしていない。
 私のことをバカにしてはいるけど、だからって油断を見せてはくれないか。

「始め!」

 パンッ、と先生が手を叩き、決闘開始の合図が開始される。
 その直後、すぐに景色は一変する。

 確かに距離を取り、離れた所に居たダルマ男。
 大股を開いても、十歩はないと埋められないだろう距離。

 それだけ離れていたのに、合図直後、ダルマ男の姿は目の前にあった。

「!」

 これは、消えた……
 ……いや、違う。

 消えたかと思えるほどの速度で、移動したんだ。

「はぁ!」

「よっ」

 そのまま、構えた剣を突き出すように、ダルマ男は剣技を繰り出す。
 鋭い切っ先が、私の腹部を狙って……それを、私は横に飛ぶことで、回避する。

「へぇ、よく避けたな」

「あっぶな……!
 躊躇なく女の子のお腹狙うとか、どんな神経してるのっ」

「安心しろ、結界内じゃ腹ァ斬られても死なねぇよ!」

「そういう問題じゃ……
 わっ、とっ」

 少しの言い合い、直後に再び剣技は繰り出される。
 避けた私に向かって軌道修正し、今度は剣を振るう。

 右に、左に、上に、下に。
 四方八方から振るわれる剣を、なんとか避けていく。

 速い……!
 これ、ダルマ男の技量ってだけじゃなくて……

「身体、強化……!」

「そうさ、避けるのが精一杯みたいだな!」

 今ダルマ男は、自分に身体強化の魔法をかけている。
 魔導の基礎は、身体強化から始まる……先ほど、先生が授業で話していたものだ。

 こんにゃろう、つまんねぇ顔をしていた私への、当てつけか?

「どんだけ魔力が大きかろうと、それを精密に操れるかは、別問題だ!」

 ……悔しいが、その通りだ。
 むしろ、魔力が大きければその分、魔力のコントロールは難しくなる。
 魔力のコントロールが難しければ、魔量をコントロールしようとそっちに意識が持っていかれて、他が疎かになる。

 魔力が大きいとコントロールは難しい……
 だからこそ、実技試験の時にみんな驚いていて……

 ……って、こいつもしかして、私の実技試験の結果知らないのか。

「よく避けやがる!
 だが、それに気を取られて、満足に魔力も使えないか!?」

 ただ……こいつの魔力の扱い方がうまいのも、また事実だ。

 先ほど私の視界から消えるほどの速度で移動したのは、自身の足のみに身体強化をして、爆発的に脚力を上げたから。
 今自在に剣を振るっているのは、腕や手のみを身体強化して、剣を握る握力や剣を振るう腕力を爆発的に上げているから。

 それぞれ、体の一部……今、自分になにが必要で、どの部位を強化すればうまく立ち回れるか。
 それを、この男はよくわかっている。

「っ」

「そろそろ、しめぇだ!」

 右頬に刃がかする。身体強化している相手に、素の状態じゃここまでが限界だ。
 ……なんだかんだ、この男を侮っていたのは、私かもしれない。

 ルリーちゃんをいじめていたり、いちいち癇に障る言い方ばかりだから、変な見方をしていたけど……
 魔力の扱いに関しては、自信があるだけある、か。
 ただ……

「これでぇええ!」

「……」

 後ろに下がり剣技を避けていた私の足がもつれ、バランスを崩す。
 その瞬間を見逃すことはなく、ダルマ男は大きく剣を振り上げる。
 勝機を見逃さない判断力も、ある。

 でもこれじゃあ、ダメだ。

「らぁ!
 …………なに?」

 ダルマ男は、剣を振り下ろす。その先にいた私は、本来なら頭から剣に斬られ、真っ二つだ。
 まあ、結界内ならそんなひどいことにはならないだろうけど。
 だけど、ダルマ男は驚いたはずだ……

 剣を振り下ろしたその先に、私の姿がなかったのだから。

「どこ見てるの?」

「!」

 瞬間、ダルマ男は背後を振り向く。
 そこに私は、いた。

 ダルマ男の背後に、一瞬で移動して、剣撃を回避した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...