上 下
11 / 769
第一章 魔導学園入学編

11話 同年代の女の子

しおりを挟む


「……案内、って」

 二階から姿を現した、女の子。
 今、肝っ玉母さんにクレアと呼ばれていたから……彼女の名前だろう。

 肝っ玉母さんの話では、ウチの子も魔導学園の試験を受ける、と言っていた。
 そして、この気安い感じ……お客相手とも違う、親しみを感じるやり取り。

 なにより、クレアちゃんには肝っ玉母さんの面影がある。うん、似てる。
 この子は、肝っ玉母さんの娘で、魔導学園入学を目指している、で間違いはないだろう。

「案内もなにも、二階上がってすぐ部屋があるんだから、何番目かの部屋か教えれば住む話じゃ……」

「まーったくこの子は。
 せっかくあんたと同い年のかわいらしいお客さんが来てくれたんだから、少しは愛想よくしたらどうだい。
 というか、なんで寝癖ついてんだいみっともない」

「同い年……」

 そこまで言われて、クレアちゃんの視線はようやく私を見る。
 な、なんだか同い年の子に見られるのって、緊張するな。

 私のことを頭の先からつま先まで見ている感じだ。

「こら、お客さんをジロジロ見ない」

「はいはーい」

 ふむ、クレアちゃんはかわいらしい外見をしているけど、中身は思いの外大雑把なのだろうか。
 言葉の節々や、表情からもそれが見て取れる。

 それがわかっているのか、肝っ玉母さんははぁ、とため息を漏らす。

「まったく、ズボラっていうか、誰に似たんだかねぇ」

 なんとなく、二人の根本は性格がそっくりな気がする。
 まだ短時間も短時間しか接していないけど、わかる。

「相変わらずだねクレアちゃん」

「たまには笑顔も見せてくれよ」

「気が向いたら~」

 お客さんたちも、クレアちゃんに対して好印象のようだ。
 そういえば、ギルドのおっぱいの受付さんも……看板娘がかわいい、って言ってたもんな。

 ただ、無愛想……とまではいかないけど、笑顔は見せないな。
 看板娘って言うからにはこう、もっとテンション高めの子をイメージしていたけど。

「まったく。
 エランちゃん、これが私の娘で、クレアってんだ。
 普段から愛想よくしろって言ってるんだけどねぇ」

「愛想とか言われて良くするもんじゃないし」

「あんたねぇ」

 これがいつもの光景なのか、お客さんも慣れた様子だ。
 仲が悪いわけじゃ、ないんだろうな。

 それからクレアちゃんは、再び私を見て。

「案内もいいけど、ちゃんとお金の話はしたのお母さん。
 あんまり物持ちがいいようには見えないけど……」

「こら、あんたって子は失礼だね」

 お金の心配……まあ、そりゃそうか。
 自分と同じくらいの女の子が、そんなに大金を持っているなんて思わないもんね。

 ま、私には師匠から貰ったお金と、盗賊退治の報酬がある!

「まあでも、確かに説明はしてなかったね。
 ごめんねエランちゃん」

「いえ、そんな」

「ウチは、三食食事付きの一泊銀貨二枚ってところだよ」

「銀貨二枚……」

 お金の種類……に関しては、師匠から教えてもらった。
 お金には基本、銅貨、銀貨、金貨、そして大金貨と種類があるらしい。

 それぞれの価値としては、確か……
 銅貨十枚で銀貨一枚。
 銀貨十枚で金貨一枚。
 金貨十枚で大金貨一枚……だったっけか。

「他の宿じゃ銀貨の四、五枚はするからな」

「それに、全部が全部食事が出るわけでもねえしな」

 他の客たちが、言う。
 その話が本当なら……まあ嘘をつく理由もないけど……この宿は、本当に良心的だということだ。

 と同時に、気になることも出てくるわけで。

「そんなに安くしておいて、大丈夫なの?」

「んん? あっははは。
 お客さんに心配されることじゃないさね!」

 あははは、と大笑いする肝っ玉母さん。
 どうやら、私が心配することでもないらしい。

 値段を聞いて、さてどうするか。
 といっても、宿の相場なんて知らないし、貰ったお金にも余裕はあるし……

「うん、ここに決めた」

「ありがとう」

 他に行く宛もないし、こんなによくしてくれる人だ。
 もう他に行く選択肢も、ないな。

「ってことだよ、クレア」

「はーい。
 じゃ、部屋に案内しますね、お客様」

「あ、うん」

 仕事と割り切ってか、丁寧な言葉遣いに。
 とはいえ、笑顔を見せてくれているわけでは、ないけれど。

 クレアちゃんは、肝っ玉母さんから鍵を受け取り、先に階段を登っていく。
 私は、それを追いかける形だ。

 階段を登った先には、長い廊下。
 左右に、いくつかの部屋が並んでいるようだった。

「えっと……エランさん、でしたっけ」

「さんなんて、そんな必要ないですよ」

「じゃあ……エランちゃん、で」

 コホン、とクレアちゃんは咳払い。

「この、一番奥がエランちゃんの部屋になります」

「おぉ、ここが……」

 部屋の中に案内される。
 そこは、一人で住むには充分の広さだった。
 それに、簡易的なベッドもある。

 これが、宿かぁ。
 部屋の具合はいい感じだし、これでご飯まで美味しかったら言うことはないな。

「ご飯は、一階で食べるでもいいし、部屋まで運ぶこともできます」

「へぇ。でも、せっかくならみんなと食べたいかな」

 みんながいるところで食べたほうが、美味しいもんね。
 師匠と暮らしているときは、よっぽどでない限りは一緒に食べていた。

 一人だと、寂しいしね。

「なにか、気になることとか……」


 くぅ……


「あ、はは」

 どうしよう、せっかくいろいろ説明してくれてるのに、お腹が鳴っちゃった。
 なんとかごまかせ……てないよね。

 クレアちゃんは、そんな私を見て……
 軽く、笑った……?

「では、夕食にしましょうか」

「うん!」

 荷物を置いて、私はクレアちゃんと、再び一階へと舞い戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...