11 / 739
第一章 魔導学園入学編
11話 同年代の女の子
しおりを挟む「……案内、って」
二階から姿を現した、女の子。
今、肝っ玉母さんにクレアと呼ばれていたから……彼女の名前だろう。
肝っ玉母さんの話では、ウチの子も魔導学園の試験を受ける、と言っていた。
そして、この気安い感じ……お客相手とも違う、親しみを感じるやり取り。
なにより、クレアちゃんには肝っ玉母さんの面影がある。うん、似てる。
この子は、肝っ玉母さんの娘で、魔導学園入学を目指している、で間違いはないだろう。
「案内もなにも、二階上がってすぐ部屋があるんだから、何番目かの部屋か教えれば住む話じゃ……」
「まーったくこの子は。
せっかくあんたと同い年のかわいらしいお客さんが来てくれたんだから、少しは愛想よくしたらどうだい。
というか、なんで寝癖ついてんだいみっともない」
「同い年……」
そこまで言われて、クレアちゃんの視線はようやく私を見る。
な、なんだか同い年の子に見られるのって、緊張するな。
私のことを頭の先からつま先まで見ている感じだ。
「こら、お客さんをジロジロ見ない」
「はいはーい」
ふむ、クレアちゃんはかわいらしい外見をしているけど、中身は思いの外大雑把なのだろうか。
言葉の節々や、表情からもそれが見て取れる。
それがわかっているのか、肝っ玉母さんははぁ、とため息を漏らす。
「まったく、ズボラっていうか、誰に似たんだかねぇ」
なんとなく、二人の根本は性格がそっくりな気がする。
まだ短時間も短時間しか接していないけど、わかる。
「相変わらずだねクレアちゃん」
「たまには笑顔も見せてくれよ」
「気が向いたら~」
お客さんたちも、クレアちゃんに対して好印象のようだ。
そういえば、ギルドのおっぱいの受付さんも……看板娘がかわいい、って言ってたもんな。
ただ、無愛想……とまではいかないけど、笑顔は見せないな。
看板娘って言うからにはこう、もっとテンション高めの子をイメージしていたけど。
「まったく。
エランちゃん、これが私の娘で、クレアってんだ。
普段から愛想よくしろって言ってるんだけどねぇ」
「愛想とか言われて良くするもんじゃないし」
「あんたねぇ」
これがいつもの光景なのか、お客さんも慣れた様子だ。
仲が悪いわけじゃ、ないんだろうな。
それからクレアちゃんは、再び私を見て。
「案内もいいけど、ちゃんとお金の話はしたのお母さん。
あんまり物持ちがいいようには見えないけど……」
「こら、あんたって子は失礼だね」
お金の心配……まあ、そりゃそうか。
自分と同じくらいの女の子が、そんなに大金を持っているなんて思わないもんね。
ま、私には師匠から貰ったお金と、盗賊退治の報酬がある!
「まあでも、確かに説明はしてなかったね。
ごめんねエランちゃん」
「いえ、そんな」
「ウチは、三食食事付きの一泊銀貨二枚ってところだよ」
「銀貨二枚……」
お金の種類……に関しては、師匠から教えてもらった。
お金には基本、銅貨、銀貨、金貨、そして大金貨と種類があるらしい。
それぞれの価値としては、確か……
銅貨十枚で銀貨一枚。
銀貨十枚で金貨一枚。
金貨十枚で大金貨一枚……だったっけか。
「他の宿じゃ銀貨の四、五枚はするからな」
「それに、全部が全部食事が出るわけでもねえしな」
他の客たちが、言う。
その話が本当なら……まあ嘘をつく理由もないけど……この宿は、本当に良心的だということだ。
と同時に、気になることも出てくるわけで。
「そんなに安くしておいて、大丈夫なの?」
「んん? あっははは。
お客さんに心配されることじゃないさね!」
あははは、と大笑いする肝っ玉母さん。
どうやら、私が心配することでもないらしい。
値段を聞いて、さてどうするか。
といっても、宿の相場なんて知らないし、貰ったお金にも余裕はあるし……
「うん、ここに決めた」
「ありがとう」
他に行く宛もないし、こんなによくしてくれる人だ。
もう他に行く選択肢も、ないな。
「ってことだよ、クレア」
「はーい。
じゃ、部屋に案内しますね、お客様」
「あ、うん」
仕事と割り切ってか、丁寧な言葉遣いに。
とはいえ、笑顔を見せてくれているわけでは、ないけれど。
クレアちゃんは、肝っ玉母さんから鍵を受け取り、先に階段を登っていく。
私は、それを追いかける形だ。
階段を登った先には、長い廊下。
左右に、いくつかの部屋が並んでいるようだった。
「えっと……エランさん、でしたっけ」
「さんなんて、そんな必要ないですよ」
「じゃあ……エランちゃん、で」
コホン、とクレアちゃんは咳払い。
「この、一番奥がエランちゃんの部屋になります」
「おぉ、ここが……」
部屋の中に案内される。
そこは、一人で住むには充分の広さだった。
それに、簡易的なベッドもある。
これが、宿かぁ。
部屋の具合はいい感じだし、これでご飯まで美味しかったら言うことはないな。
「ご飯は、一階で食べるでもいいし、部屋まで運ぶこともできます」
「へぇ。でも、せっかくならみんなと食べたいかな」
みんながいるところで食べたほうが、美味しいもんね。
師匠と暮らしているときは、よっぽどでない限りは一緒に食べていた。
一人だと、寂しいしね。
「なにか、気になることとか……」
くぅ……
「あ、はは」
どうしよう、せっかくいろいろ説明してくれてるのに、お腹が鳴っちゃった。
なんとかごまかせ……てないよね。
クレアちゃんは、そんな私を見て……
軽く、笑った……?
「では、夕食にしましょうか」
「うん!」
荷物を置いて、私はクレアちゃんと、再び一階へと舞い戻った。
20
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。
SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。
そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。
国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。
ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。
お読みいただき、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる