上 下
9 / 769
第一章 魔導学園入学編

9話 冒険者ギルドへ

しおりを挟む


「おぉお……!」

 門の向こう側へと、足を踏み入れる。
 そこに広がっていた景色……私は思わず、声を上げた。

 これまでにも、師匠と何度もこの場所には足を運んでいる。だから、見たことないものがあるわけではないけれど……
 私一人で、足を踏み入れるのは、初めてだ。

 だからだろうか。いろんなものが新鮮に見えて。

「わ、わぁ!」

 右を見ても、左を見ても……人、人、人。
 それに、おっきな建物が、たくさん並んでいる。
 今まで暮らしていた場所には、決してなかった光景。

 人がいっぱい、歩いている。
 人だけじゃない。獣人、亜人と呼ばれる種族も。
 それに、飼われているのかモンスターもちらほら。

「っとと、いけないいけない」

 見とれている場合ではない。観光は後でもできる。
 ただでさえ、盗賊と門のところで時間を取られているんだ。

 まずは、この盗賊を売って……あ、引き渡して。
 それから、宿探し。
 それに、時間があればちゃんとした通行証の発行。

 そのすべてをやってくれるのが、ギルドという場所だ。

「国の中心部、って言ってたっけ。
 なんでも屋さんみたいなところだよね」

 とりあえず、歩こう。わからなければ人に聞けばいいんだし。
 いつも師匠の後ろを歩いていたし、少し緊張するな。

 師匠は、ギルドってところに行ったことがあったっけ……
 どのみち、覚えてないや。

 ……それにしても。

「視線を、感じる」

 先ほどの、門のところと同じだ。視線を感じる。
 周りから、じろじろとはいかなくてもちらちら視線は感じる。

 ただ、その理由はわかっている。同じだ。
 多分、この盗賊のせいだろう。

 か弱い女の子である私が、こんなイカツイ盗賊三人を運んでいる光景。
 目立つなという方が無理だろう。

「この人たちも、チームワークはそれなりだったんだけどな」

 思い出すのは、盗賊に襲われたとき……思いの外、その連携が良かったこと。
 相手を撹乱し、三人で囲み倒す……その戦法は、見事だった。

 どうしてその力を、盗賊なんかに使ってしまったのだろうと、不思議でならない。

「えっと……あ、あそこかな」

 それからも視線をちくちく受けながら、しばらく歩き……ある建物の前で、止まる。
 他の建物に比べて、一回りも大きな建物。

 看板には『冒険者ギルド本部』と書かれている。
 門番のおじさんの話だと、本部だけでなく支部とやらが、あちこちにあるらしい。

 冒険者、と名前が付いているのは、主な業務が冒険者に関するものだから。
 今の私には、まあ関係のないことだ。

 ま、そんなこんなで……突入~。

「こんにちはー! あ、こんばんはかな?」

 私は、スイングドアを開いて建物の中に足を踏み入れる。
 つい昼間の挨拶をしてしまったが、もう日が傾いている。

 とりあえず挨拶は大事だ。
 声を張り上げると、中にいた人たちの視線が一斉にこっちに向く。

「わ」

 たくさんの人から向けられる視線。
 さっきみたいに、ちらちら見られるのとはまた違った感覚だ。

 だ、大丈夫大丈夫。別に私、悪いことしにきたんじゃないんだから。
 私は、歩みを進める。

「子供……? なんでこんなところに」

「てか、後ろの男たちなんだよ。ボロボロだぞ」

「ひゅー、こわ」

 なんかぶつぶつ聞こえるなぁ。
 落ち着け、落ち着くんだ私。

 様々な視線を受けながら、私は受付へ。
 幸いにも、今は空いているようですぐに順番が来た。

「お疲れ様です。どのような要件でしょう?」

 受付のお姉さんは、私を見てにっこりと微笑む。
 たくさんの人を相手にするからだろうか、人当たりの良さそうな人だ。

 私を不審がっているのかわからないけど態度には出さない。
 ストレートの茶髪サラサラだなぁ、いい匂いしそう。制服も似合ってるし。
 それに美人だし、おっぱいも大きい。

「えっと……
 この盗賊たちを、売りたいんですけど」

「売り……?」

「あ、引き渡し、です。
 盗賊……えっと、賞金首、かもしれないので」

 危ない危ない、売るだなんて人聞きの悪い。
 これは正式に、平穏のためにやったことなんだから。

 拙い私の説明を、しかし受付のお姉さんは嫌な顔ひとつせずに聞いてくれる。

「まあ、盗賊を三人も捕まえたんですか?
 すごい!」

「あ、わ、えへへ……」

 うわ、なんだろこれ……
 こんな風に誰かに褒められるのは、なんだかいい気分だ。
 もちろん、師匠からも褒められるときはあったけど……

 知らない人に、っていうのが、なんか違って感じる。

「ちなみに、あなたは冒険者ですか?」

「いえ、私魔導学園に入学するために、ここに来たので……」

「ということは、冒険者どころか学園の生徒でもない?
 なのに、盗賊を……その年で、相当の実力者なんですね」

「い、いやぁ」

 このまま褒め続けられるのも悪くはないけど、ひとまず話を先に進めよう。
 盗賊を引き渡したところ、最近近隣の旅人などを襲う盗賊として、手配されていた三人だった。

 特徴的な髪型ということで、すぐに照会してくれて……
 盗賊退治のお礼を、貰うことができた。

「おぉ……!」

 これが、労働の対価……!
 まあ、労働じゃないけど。

 これでまた、お金が増えた。
 そして、お金といえば忘れてはいけないものがある。

「あと、この近くに安い宿はないですか?」

「宿、ですか」

 そう、宿だ。魔導学園の入学試験を受け、そして合否が出るまでの期間を泊まる宿。
 どれほどの期間になるかわからないから、できるだけ節約はしておきたい。

 ただ、もしその間にお金が尽きるようなことがあったときのために、お金を稼ぐ方法も聞いておいたほうがいいだろうか。

「そうですねぇ……
 お嬢さんなら……この辺りで評判が高いのは、ここですね」

 お姉さんは、この国の地図を取り出し、広げて見せてくれる。
 現在地、そして目的の宿屋を、それぞれ指さしてくれる。

 地図だからおおよそでしかわからないけど、ここからそう遠くないな。

「ここ、安い?」

「手持ちの金額にもよりますが、この宿屋は食事付きで良心的な値段だと、よく耳にしますね」

「食事付き……」

 食事付き……その単語を聞いて、くぅ、とお腹の音が鳴る。
 考えてみれば、師匠の家を出てから、なにも食べていない。
 私の腹の音が聞こえたのか、お姉さんはクスッと、笑う。

「料理も美味しいと評判ですよ。
 それに、看板娘が元気でこっちも元気を貰える、と」

「へぇ」

 そこまでオススメするなら、その宿屋に行ってみようかな。
 お金も、師匠から貰った分と盗賊退治の分で、結構あるし……

 行ってみるか!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...