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決戦!黒ビコノカミ
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「ヒジリは帰ってきてからフランお姉ちゃんだけに優しい」
買い物から帰ってきたイグナは闇色のフードの中からむくれてこちらを見ている。
ヒジリは膝の上のフランと目を合わす。
「そ、そうかね?そんなつもりはなかったのだが・・・」
「確かに言われてみれば、帰ってきてからずっと一緒にいてくれているわねぇ。嬉しいけど」
イグナと同じようなジト目でこちらを見るウメボシも頷く。
「イグナの言う通りですよ。大体マスターのお膝の上はウメボシの特等席じゃないですか。何故フランが座っているのですか?」
「違う。私の席」
イグナがジリジリとヒジリに近づく。
ヒジリは膝の上に座りたくて近づいて来たイグナに腕を伸ばして捕まえると抱き上げた。
「向こうの世界でのフランは可哀想だったのでつい。私は急いで帰ろうとしていたので、彼女を慰める時間がなかったのだ。その罪悪感がこうさせているのかもしれない」
「無限の可能性の中の一人に一々同情していたら限りがありません事よ?」
向かいのソファで紅茶を飲んでいたリツが何かの計画書を険しい顔で見つめていた。
「どうしたね?お稲荷さんみたいな顔をして」
「この戦略計画書には無駄が多いのです。マサヨシの計画したものではないと思いまして・・・お稲荷さん?」
「そういえばマサヨシはどうしている?」
「普通に仕事に励んでいると思いますわ。あの人は自由行動権限があるにもかかわらず、最近はずっと登城しています。何故か女性団員やメイドにも手出しをしなくなって評判は上がっていますわね」
「そうかね・・・。(やはりオンブルの事が響いているのだな・・・。よし、びっくりさせてやるか)」
ヒジリは抱いていたイグナをソファに置き、フランの頭にキスをすると彼女もソファに座らせ、立ち上がる。
そのうち頃合いを見てマサヨシと一緒にモリ森に向かう予定だったが、自分が先に行ってオンブルを元気にして驚かせようと思ったのだ。
ヒジリがフランだけにキスをしたのでフラン以外がムッとする。
「また・・・」
イグナが座ったまま床を踏み鳴らし、ウメボシが目にエネルギーを充填しだした。ウメボシとイグナは特に嫉妬深い。
「すまなかった。平等に愛するべきだったな。解った、皆にキスをしよう。どこがいい?」
「く、口・・・」
イグナは体をねじって恥ずかしがる。皆に本当の自分がどんな感じなのかがバレて以降、イグナは感情を表に出す機会が増えた。
「くちびるぅ~」
フランは先程頭にキスをしてもらったのに更にキスして欲しいのか、ぽってりとした唇に指を当ててヒジリを見る。
「唇に決まっていますわッ!フガッ!」
リツは鼻息荒く、眼鏡を光らせている。
「じゃあウメボシはディープキスで」
「こらー!ウメボシ!!」
その場にいた皆がウメボシの要求にツッコんだ。
そもそも彼女には口が無い。表情を解りやすくするためにホログラムの口を自分の顔に投影しているだけなのでディープキスはできないのだ。
ヒジリは分厚くなった唇を摩りながらスレイプニル車の中から夏の近い新緑の森を眺めていた。
「唇がヒリヒリするのですか?マスター。ナノマシンの働きが悪いようですね」
「うむ。・・・それにしても皆注文が細かすぎる。自分より一秒キスが長かったなどとイチャモンをつけて何度もキスをさせるから唇がこれこの通りだ。しまいにはヘカが傭兵の仕事から帰ってきて自分だけ仲間外れだといって大騒ぎして・・・」
「妻を沢山持つという事はこういう事なのです。大変ですよね?なのでマスターは皆と離婚してウメボシだけを娶るべきなのです」
(何気にとんでもない事を言っている・・・)
客車に同席するムロはウメボシを見て苦笑いをする。
ヒジリは窓の外の上の方を見て、ビコノカミが飛行しながらついて来ている事を確認した。全体的に尖った城のような形のビコノカミは良く目立つ。時折顔をこちらに向けて異常はないか確認しているようだ。
「ふむ、しっかりと主を自動追尾しているな。ビコノカミは一応男性型AIが搭載されているから気は楽か。嫉妬されることもないだろうからな」
「はは・・・。それにしても、ツィガルでヒジリさんに会えるとは思いませんでした。ロロム父さんに会いに来て正解でしたよ。ロロム父さんは結局格納庫の責任者から皇帝顧問に戻されましたから、僕はたまにこうやって会いに来ているのです」
「ツィガル帝国は地理的にロシアに似ている。モンゴルがヒジランド、その上辺りにツィガル城があるとしたらバートラはムルマンスクあたりだからな。そんな距離をよくビコノカミだけで来れたものだ。鉄傀儡は気密性に優れないから地域によっては寒かっただろう?」
「ロシアとかモンゴルという国は知りませんが、遠いのは確かです。寒さはサラマンダー石の懐炉があるから大丈夫ですよ」
話の途中だったが、ウメボシががげ人の村が近い事を告げた。
「マスター、そろそろ影人の村です。近くにビコノカミタイプの鉄傀儡の残骸がありますね」
「村人に撤去されて無くて良かったな、ムロ」
「ええ、興味ありますからね。ビコノカミと同タイプの鉄傀儡は。ついて来て正解でした」
「マサヨシ曰く、自力で影人村を探し当てないと彼らは歓迎してくれないと言っていたが、大丈夫だろうか。私は既に別世界の影人村に行っている」
「多分大丈夫だと思います。どういう情報経路であれ自力で発見したのは間違いない事なのですから」
「そうだといいがね」
ヒジリはスレイプニル車から降りると、御者のゴブリンに金貨を投げ、一日ほど待機するよう頼むと街道から森の中へと入った。
「確かこっちだったはず」
別世界の成長したコロネが辿った道を思い出しながらヒジリは進む。
微妙に場所は違っていたが、霧の中に村の建物の影が見える。
「あ!鉄傀儡だ!」
ムロは袈裟斬りにされて操縦席が見えている鉄傀儡の近くまで走って行った。
「マスター、一応警戒をしてください」
ビコノカミが心配して地上に降りてきた。
「大丈夫だよ。操縦者はいないし」
「操縦者は村人が埋葬したのだろうな」
ヒジリもコクピットの中を覗く。
「ビコノカミそっくりだけど、色が違うし、何だか性能が良さそう」
主であるムロの言葉にビコノカミはピピッ!と不満げな電子音を出した。
「確かにその同タイプは振動装甲、ビット、レインミサイルを装備しておりますが、運動性能は私の方が上です」
「ふふっ。張り合わなくてもいいよ、ビコノカミ。君は君さ」
ウメボシが鉄傀儡の残骸をスキャニングしてから首を傾げた。
「なんでしょうか?装甲に熱で溶けた部分があります。マサヨシ様の話では鉄騎士のカワ―・バンガーは剣での斬撃でとどめを刺したとありましたが、これは明らかにそれとは違うものですね。時間的にはとどめを刺される一時間前でしょうか。第一次遭遇から第二次遭遇の間にダメージを受けています。最初の戦いで冒険者達がこのビコノカミタイプにダメージを与えたとは思えません。ウメボシが思いますに、ビコノカミタイプにダメージを与えられる者はマスターの他には有能なエリートオーガしかおりません。この鉄傀儡は村を襲撃する前にエリートオーガ級の強さを持つ何者かと戦っていた可能性があります」
「そのお蔭でカワーは勝てた可能性もあるな」
ヒジリが顎を摩ってあれこれと考えていると背後で人の気配がする。
「ようこそ旅人たち」
影人村の村長らしき影が村の入り口から現れて声を掛けてきた。
過去の世界に来たマサヨシは吠える。
「いでよ!イフリート!」
怒りに顔を歪ませるマサヨシは杖を掲げると地面の魔法陣からイフリートが現れた。
供物の石炭をイフリートに投げると彼はそれを掴んで美味しそうに食べる。
「あの鉄傀儡を倒せ!イフリート!消し炭にしろ!」
雄牛の角を生やした炎の悪魔のように見えるイフリートはウォォォと雄たけびを上げると黒いビコノカミと手四つになった。
「お前さえいなければ、オンブルは死ななかったんだ!」
マサヨシは手を水平に薙ぎ払って怒りつつも、次の一手を考える。
イフリートが負けるとは思っていないが念には念を、だ。次に誰を召喚するか・・・。天使クソビッチは対悪魔や対アンデッドに有効だが、鉄傀儡には無力に等しい。
他にはロックゴーレムが召喚出来るがまだ使いこなせていない。下手をすれば制御不能となって自分に襲い掛かってくるだろう。
「残るは異世界の戦士だが・・・。異世界の戦士は何故かランダムで召喚されるから強さがまちまちなんだよなぁ・・・くそ!やっぱり準備をしてくるべきだった」
親指の爪を噛んでマサヨシはイフリートが勝つよう祈る。
しかし祈る必要がない様にも見える。
イフリートは熱を放出させて黒ビコノカミを焼きながら、跪かせているからだ。力でも勝っているのだ。
「いいぞ!そのまま焼いてしまえ!イフリート!」
炎に装甲を焼かれながら黒ビコノカミは肩の尖った部分を射出して浮かす。漏斗の様なビットがレーザービームでイフリートを攻撃しだした。
イフリートはビームを撃たれるたびに熱を吸収して体が大きくなっていった。
「馬鹿な奴め!イフリートは熱をドンドンと吸収するぞ!そんな攻撃が効くか!」
それでも黒ビコノカミは背中のランドセルからミサイルを発射し、イフリートの頭上から雨あられのように降らせる。ミサイルの攻撃もイフリートには効かない。
空から急降下してくるミサイルは黒ビコノカミにも直撃し、ダメージを受けている。
「はは!苦し紛れの攻撃だな!自分も被弾しているじゃないか!いける!これはいけるぞ!」
黒ビコノカミが逃げようとバーニアを噴射したが、イフリートは手を離さない。そのまま地面に叩きつける。
イフリートはまるで洗濯物を振って水を切るように黒ビコノカミを地面に叩きつけている。その度に鉄傀儡の装甲が壊れていった。
「あと少し!あと少しだ!いけ・・・?!」
―――ピシュッ―――
倒れるマサヨシの背後にビットが浮いていた。
ビットがマサヨシの心臓を撃ち抜くと、イフリートは突然地面に現れた魔法陣の中へと沈んでいく。契約が解除されたのだ。
即死。黒ビコノカミに呪いの言葉すら吐く時間もない突然の死。
黒ビコノカミは召喚者を殺せば全てに決着がつくことを知っていた。イフリートにこそ敵わなかったが、そのお蔭でマサヨシの警戒が薄れ視線を釘付けにする事が出来たのだ。そうなればビットを彼の背後に回す事など容易である。
何もかもが甘かった。準備を怠り、戦いの場で警戒を怠り。
消えゆく意識の中でマサヨシは声にならない咆哮をあげ、闇の沼地へと沈んでいった。
買い物から帰ってきたイグナは闇色のフードの中からむくれてこちらを見ている。
ヒジリは膝の上のフランと目を合わす。
「そ、そうかね?そんなつもりはなかったのだが・・・」
「確かに言われてみれば、帰ってきてからずっと一緒にいてくれているわねぇ。嬉しいけど」
イグナと同じようなジト目でこちらを見るウメボシも頷く。
「イグナの言う通りですよ。大体マスターのお膝の上はウメボシの特等席じゃないですか。何故フランが座っているのですか?」
「違う。私の席」
イグナがジリジリとヒジリに近づく。
ヒジリは膝の上に座りたくて近づいて来たイグナに腕を伸ばして捕まえると抱き上げた。
「向こうの世界でのフランは可哀想だったのでつい。私は急いで帰ろうとしていたので、彼女を慰める時間がなかったのだ。その罪悪感がこうさせているのかもしれない」
「無限の可能性の中の一人に一々同情していたら限りがありません事よ?」
向かいのソファで紅茶を飲んでいたリツが何かの計画書を険しい顔で見つめていた。
「どうしたね?お稲荷さんみたいな顔をして」
「この戦略計画書には無駄が多いのです。マサヨシの計画したものではないと思いまして・・・お稲荷さん?」
「そういえばマサヨシはどうしている?」
「普通に仕事に励んでいると思いますわ。あの人は自由行動権限があるにもかかわらず、最近はずっと登城しています。何故か女性団員やメイドにも手出しをしなくなって評判は上がっていますわね」
「そうかね・・・。(やはりオンブルの事が響いているのだな・・・。よし、びっくりさせてやるか)」
ヒジリは抱いていたイグナをソファに置き、フランの頭にキスをすると彼女もソファに座らせ、立ち上がる。
そのうち頃合いを見てマサヨシと一緒にモリ森に向かう予定だったが、自分が先に行ってオンブルを元気にして驚かせようと思ったのだ。
ヒジリがフランだけにキスをしたのでフラン以外がムッとする。
「また・・・」
イグナが座ったまま床を踏み鳴らし、ウメボシが目にエネルギーを充填しだした。ウメボシとイグナは特に嫉妬深い。
「すまなかった。平等に愛するべきだったな。解った、皆にキスをしよう。どこがいい?」
「く、口・・・」
イグナは体をねじって恥ずかしがる。皆に本当の自分がどんな感じなのかがバレて以降、イグナは感情を表に出す機会が増えた。
「くちびるぅ~」
フランは先程頭にキスをしてもらったのに更にキスして欲しいのか、ぽってりとした唇に指を当ててヒジリを見る。
「唇に決まっていますわッ!フガッ!」
リツは鼻息荒く、眼鏡を光らせている。
「じゃあウメボシはディープキスで」
「こらー!ウメボシ!!」
その場にいた皆がウメボシの要求にツッコんだ。
そもそも彼女には口が無い。表情を解りやすくするためにホログラムの口を自分の顔に投影しているだけなのでディープキスはできないのだ。
ヒジリは分厚くなった唇を摩りながらスレイプニル車の中から夏の近い新緑の森を眺めていた。
「唇がヒリヒリするのですか?マスター。ナノマシンの働きが悪いようですね」
「うむ。・・・それにしても皆注文が細かすぎる。自分より一秒キスが長かったなどとイチャモンをつけて何度もキスをさせるから唇がこれこの通りだ。しまいにはヘカが傭兵の仕事から帰ってきて自分だけ仲間外れだといって大騒ぎして・・・」
「妻を沢山持つという事はこういう事なのです。大変ですよね?なのでマスターは皆と離婚してウメボシだけを娶るべきなのです」
(何気にとんでもない事を言っている・・・)
客車に同席するムロはウメボシを見て苦笑いをする。
ヒジリは窓の外の上の方を見て、ビコノカミが飛行しながらついて来ている事を確認した。全体的に尖った城のような形のビコノカミは良く目立つ。時折顔をこちらに向けて異常はないか確認しているようだ。
「ふむ、しっかりと主を自動追尾しているな。ビコノカミは一応男性型AIが搭載されているから気は楽か。嫉妬されることもないだろうからな」
「はは・・・。それにしても、ツィガルでヒジリさんに会えるとは思いませんでした。ロロム父さんに会いに来て正解でしたよ。ロロム父さんは結局格納庫の責任者から皇帝顧問に戻されましたから、僕はたまにこうやって会いに来ているのです」
「ツィガル帝国は地理的にロシアに似ている。モンゴルがヒジランド、その上辺りにツィガル城があるとしたらバートラはムルマンスクあたりだからな。そんな距離をよくビコノカミだけで来れたものだ。鉄傀儡は気密性に優れないから地域によっては寒かっただろう?」
「ロシアとかモンゴルという国は知りませんが、遠いのは確かです。寒さはサラマンダー石の懐炉があるから大丈夫ですよ」
話の途中だったが、ウメボシががげ人の村が近い事を告げた。
「マスター、そろそろ影人の村です。近くにビコノカミタイプの鉄傀儡の残骸がありますね」
「村人に撤去されて無くて良かったな、ムロ」
「ええ、興味ありますからね。ビコノカミと同タイプの鉄傀儡は。ついて来て正解でした」
「マサヨシ曰く、自力で影人村を探し当てないと彼らは歓迎してくれないと言っていたが、大丈夫だろうか。私は既に別世界の影人村に行っている」
「多分大丈夫だと思います。どういう情報経路であれ自力で発見したのは間違いない事なのですから」
「そうだといいがね」
ヒジリはスレイプニル車から降りると、御者のゴブリンに金貨を投げ、一日ほど待機するよう頼むと街道から森の中へと入った。
「確かこっちだったはず」
別世界の成長したコロネが辿った道を思い出しながらヒジリは進む。
微妙に場所は違っていたが、霧の中に村の建物の影が見える。
「あ!鉄傀儡だ!」
ムロは袈裟斬りにされて操縦席が見えている鉄傀儡の近くまで走って行った。
「マスター、一応警戒をしてください」
ビコノカミが心配して地上に降りてきた。
「大丈夫だよ。操縦者はいないし」
「操縦者は村人が埋葬したのだろうな」
ヒジリもコクピットの中を覗く。
「ビコノカミそっくりだけど、色が違うし、何だか性能が良さそう」
主であるムロの言葉にビコノカミはピピッ!と不満げな電子音を出した。
「確かにその同タイプは振動装甲、ビット、レインミサイルを装備しておりますが、運動性能は私の方が上です」
「ふふっ。張り合わなくてもいいよ、ビコノカミ。君は君さ」
ウメボシが鉄傀儡の残骸をスキャニングしてから首を傾げた。
「なんでしょうか?装甲に熱で溶けた部分があります。マサヨシ様の話では鉄騎士のカワ―・バンガーは剣での斬撃でとどめを刺したとありましたが、これは明らかにそれとは違うものですね。時間的にはとどめを刺される一時間前でしょうか。第一次遭遇から第二次遭遇の間にダメージを受けています。最初の戦いで冒険者達がこのビコノカミタイプにダメージを与えたとは思えません。ウメボシが思いますに、ビコノカミタイプにダメージを与えられる者はマスターの他には有能なエリートオーガしかおりません。この鉄傀儡は村を襲撃する前にエリートオーガ級の強さを持つ何者かと戦っていた可能性があります」
「そのお蔭でカワーは勝てた可能性もあるな」
ヒジリが顎を摩ってあれこれと考えていると背後で人の気配がする。
「ようこそ旅人たち」
影人村の村長らしき影が村の入り口から現れて声を掛けてきた。
過去の世界に来たマサヨシは吠える。
「いでよ!イフリート!」
怒りに顔を歪ませるマサヨシは杖を掲げると地面の魔法陣からイフリートが現れた。
供物の石炭をイフリートに投げると彼はそれを掴んで美味しそうに食べる。
「あの鉄傀儡を倒せ!イフリート!消し炭にしろ!」
雄牛の角を生やした炎の悪魔のように見えるイフリートはウォォォと雄たけびを上げると黒いビコノカミと手四つになった。
「お前さえいなければ、オンブルは死ななかったんだ!」
マサヨシは手を水平に薙ぎ払って怒りつつも、次の一手を考える。
イフリートが負けるとは思っていないが念には念を、だ。次に誰を召喚するか・・・。天使クソビッチは対悪魔や対アンデッドに有効だが、鉄傀儡には無力に等しい。
他にはロックゴーレムが召喚出来るがまだ使いこなせていない。下手をすれば制御不能となって自分に襲い掛かってくるだろう。
「残るは異世界の戦士だが・・・。異世界の戦士は何故かランダムで召喚されるから強さがまちまちなんだよなぁ・・・くそ!やっぱり準備をしてくるべきだった」
親指の爪を噛んでマサヨシはイフリートが勝つよう祈る。
しかし祈る必要がない様にも見える。
イフリートは熱を放出させて黒ビコノカミを焼きながら、跪かせているからだ。力でも勝っているのだ。
「いいぞ!そのまま焼いてしまえ!イフリート!」
炎に装甲を焼かれながら黒ビコノカミは肩の尖った部分を射出して浮かす。漏斗の様なビットがレーザービームでイフリートを攻撃しだした。
イフリートはビームを撃たれるたびに熱を吸収して体が大きくなっていった。
「馬鹿な奴め!イフリートは熱をドンドンと吸収するぞ!そんな攻撃が効くか!」
それでも黒ビコノカミは背中のランドセルからミサイルを発射し、イフリートの頭上から雨あられのように降らせる。ミサイルの攻撃もイフリートには効かない。
空から急降下してくるミサイルは黒ビコノカミにも直撃し、ダメージを受けている。
「はは!苦し紛れの攻撃だな!自分も被弾しているじゃないか!いける!これはいけるぞ!」
黒ビコノカミが逃げようとバーニアを噴射したが、イフリートは手を離さない。そのまま地面に叩きつける。
イフリートはまるで洗濯物を振って水を切るように黒ビコノカミを地面に叩きつけている。その度に鉄傀儡の装甲が壊れていった。
「あと少し!あと少しだ!いけ・・・?!」
―――ピシュッ―――
倒れるマサヨシの背後にビットが浮いていた。
ビットがマサヨシの心臓を撃ち抜くと、イフリートは突然地面に現れた魔法陣の中へと沈んでいく。契約が解除されたのだ。
即死。黒ビコノカミに呪いの言葉すら吐く時間もない突然の死。
黒ビコノカミは召喚者を殺せば全てに決着がつくことを知っていた。イフリートにこそ敵わなかったが、そのお蔭でマサヨシの警戒が薄れ視線を釘付けにする事が出来たのだ。そうなればビットを彼の背後に回す事など容易である。
何もかもが甘かった。準備を怠り、戦いの場で警戒を怠り。
消えゆく意識の中でマサヨシは声にならない咆哮をあげ、闇の沼地へと沈んでいった。
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