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”裏側“の敗北
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元々小さい種族がエリートオーガ並みの力を発揮できるよう作られた対邪神兼霧の魔物用人型兵器はヒジリの前に来ると胸とお腹のハッチを開いた。
「久しぶりだねぇ、ヒジリの旦那ぁ。おっと、今は神様だったっけ?ヒジリ様と呼んだ方がいいかい?」
今や樹族国鉄傀儡団の隊長であるクローネはどこかやつれた顔をしていた。
「いや、以前通りでいい。ところで疲れているように見えるが大丈夫かね?」
「そりゃあ、ね。五つ子を産んだら誰だって疲れるさ」
「ほう?それはおめでたい。後で祝いの品を送ろう」
フランはクローネの子が誰の子か解っていた。
「その子供ってネコキャットの子でしょ?ネコキャットはその事を知っているのぉ?」
「知らないわよ。教えていないし」
「いいの?ネコキャットは自分に子供がいる事を知ったら喜ぶんじゃないの?」
「あんたねぇ、子煩悩なネコキャットを想像できるかい?それにあたしはもう公務を担う身分になっちまったんだよ?あいつを見つけたら捕まえなきゃならないの」
「そんなぁ~。じゃあネコキャットは一生子供と一緒に居れないの?」
「そういう事になるね。まぁほら、親はなくとも子は育つっていうじゃない。サヴェリフェ姉妹も親はいないんだろ?それなのに立派に育っているじゃないか」
「私たちにはヒジリがいたからぁ・・・」
フランはヒジリの腕に顔を擦りつけてから笑顔を見せる。
「(むっ!父性をくすぐられるこの顔・・・)産後なのに悪いな」
「いいんだよ、旦那のお蔭で私達ロケート団がまともに暮らせていけるのだし。砦の医療施設も金持ちが毎日やって来て治療していくから国の財源に大いに貢献してて、たまに視察に来る役人も良い顔してくれんだよ」
「それは良かった」
「あんたは良くないじゃないか」
クローネはハッチから飛び降りてヒジリの前に立った。
子供を産んだにしてはスタイルは前のままだ。体の線をくっきりと表す黒のレザースーツが淫猥さを際立たせる。
「樹族国に残ってりゃ、今頃ヒジランドで貧乏王なんて呼ばれてなかったのに。あの義体の作れる砦だってあんたが権利を主張しても良かったんだよ?なんせ砦の施設を作動させたのはウメボシなんだからね」
「ハハハ、確かに。幾らか貰えば良かったな。が、私は樹族国を離れた事を後悔はしていない。ヒジランドを支配する事で帝国と樹族国の戦争も防げたと自負している。それに発展していく我が国を見るのは気持ちのいいものだよ」
「ほんと、お人好しだね」
クローネは飄々としたヒジランドの王に肩を竦めて再び鉄傀儡に乗った。鉄傀儡のスピーカーから少しリバーブの効いた声が聞こえてくる。
「じゃあ、あたしは神殿の中の偽神を引っ張りだせばいいんだね?樹族国のウィザードに教えてもらったんだけど、あたしの能力は擬似的に時間を遅らせているようにしてるだけだから、本物の時間停止者には敵わないかもしれないよ」
「ああ、奴の標的になって時間を遅らせてくれるだけでいい」
「本当に大丈夫なんだろうね?二度と子供の顔を見れないなんてのはなしだよ」
「ああ、問題ない。奴は恐らく魔法は使えないし、私の考えが正しければ君が鉄傀儡の中にいる限りは大丈夫だ。ハッチを開閉する外部スイッチはしっかりと隠してあるな?」
「鉄板で隠してある」
ハッチのすぐ横にある四角いボタンは鉄板で隠されネジで止められていた。
「よし!では行ってくれたまえ。ジュウゾが既に戦っているかもしれないから、援護も頼む」
「了解!」
「お前の使い魔は実に残念な使い魔だったな。グハハハ!」
神の座に座るズーイを狙って四方八方から苦無が飛ぶ。
「小賢しい裏側め」
無名の神から得た能力で時間を止め、ズーイは神の座から離れる。そして能力を解除した。
キンキンと音を立て大理石で出来た豪華な装飾の椅子に苦無が当たって弾き飛ばされる。
「ほう、その能力、やはり本物であったか」
バリトンの響く声が神殿内に残響音を残す。
「裏側が私の情報を得ていないという事はないだろう?白々しいな、裏側の長よ」
「で、お前は何者だ」
「神だ」
「笑止。神殺しではないかな?まぁあれも神だったかどうかは怪しいが」
「流石は裏側。そこまで知っていたのか。シュラスには教えたのか?」
「ああ、ヒジランドの王に映像を見せてもらったのでな。お前が神ではないのなら必ずどこかに弱点があるはずだ。どうだ?一度その能力を私に試してくれんかね?」
「構わんが、死ぬぞ?それに隠れているのなら殺すことも出来ん。出てこい」
返事の代わりにズーイの影からジュウゾが現れて苦無を喉に突き立てようとした。
「おっと!」
すかさず時間停止能力を発動させ、止まったジュウゾを動かす。
「いつもより多く動かしてやろう。チェックメイトだ」
ズーイは耐火グローブを付けるとジュウゾを背中ら押し始めた。宣言通りいつもより長い時間押す。
「ふん、アサッシンにしては重いな。ああ、なるほど体中に暗器を持っているからか」
ズーイが後ろから押すと空気抵抗の大きい前面が燃え始める。耐火性能の高いジュウゾの紺色の装束は見る間に燃えていき、顔や体を炭にしていった。
「あっけないものだ」
そう言い捨ててズーイは時間を戻す。
その時間を戻したズーイに向けてまた苦無が乱れ飛んだ。しかし苦無は【弓矢そらし】の魔法で弾かれる。
「お前たちの長は死んだ。さっさと引き返せ」
「ほう、魔法を使えるのか。ヒジリ王の情報では魔法は使えないとあったが・・・」
死んだはずのジュウゾの声がどこからか聞こえる。
「なに?貴様は死んだはず!」
「月並みな驚き方をどうも。これは異世界のシノビと呼ばれる暗殺者の技の一つでな。身代わりの術というのだ。まぁ簡単に言うと幻術を用いた分身だ」
ズーイがジュウゾの死体を見ると焼け焦げて炭になった木が転がっているだけであった。
「早く時間停止をして逃げたらどうだ?」
ジュウゾは挑発するように言うと、ズーイは突然杖を地面に落として膝をついた。
「私の能力は次に使うまで三分はかかるのだ・・・。もう駄目だ・・・。それだけの時間があればお前たちは情け容赦なく私を殺すだろう・・。投降する」
悔し涙を流し、ズーイは床を叩いた。
暫く沈黙が流れ床を拳で叩く音が響く。
「いいのか?私が悔しがっている間に三分が立つぞ?」
「構わんが?貴様の演技は下手糞過ぎて乗ってやる気にもならん」
ズーイは立ち上がると白いローブの汚れを振り払い、笑いだした。
「クハハハ!そうか、私の演技は下手か。実にやりずらい相手だ、裏側は・・・」
上を向いて肩を揺らして笑っていたかと思うとズーイは急に怒鳴りだす。
「舐めるのもいい加減にしろ!」
闇魔法使いは本来の姿に戻る。凡人が能力を欲して悪魔と契約し、その引き換えに失った姿がそこにあった。
「いつまでも隠れていられると思うなよ?【闇】!」
樹族が禁忌とする闇魔法を唱えてズーイは神殿内を暗闇に変えた。途端に影の中にいたジュウゾ達は術が解除される。
「光あっての影。闇の中に陰は出来ない。さぁどうする?お前たちの姿は【暗視】で丸見えだぞ?まずはそこ」
ズーイは時間停止をして神の座の近くにいた裏側の一人を動かす。恐怖を植え付ける為、殺しはしないが大火傷を負う程度には動かす。そして時間を戻した。
「ぐぅ・・・!」
苦痛への耐性もあり、滅多に声を出さない裏側だが紺色の装束が燃えて体中に火傷を負って倒れた。
それを見たジュウゾはすぐさま指示を出す。
「全員散開。大広間から出ろ!」
「逃がすか!ハハハ!気が変わった。お前らは殺しはしない。見せしめとなってもらおうか」
紫陽花騎士団がボロボロになりながらヒジリのいる野営地まで戻ってきた。傷を負った者は気力だけで歩いて戻ってきたのか、野営地につくと気絶して倒れてしまった。
「よくやった、諸君。フラン、彼らの傷を癒してやってくれ」
「はぁ~い」
緊張感のない間延びした声がそう答えると両手を合わせてヒジリに向かって祈りだした。
「なんだか、変な感じだな。一体どういう理屈なんだこれは。なぜ私に祈る」
「だってぇ、私の信仰する神は星のオーガなのよ?目の前に星のオーガがいるのにそっぽ向いて祈るのもおかしいじゃない」
「むぅ・・・」
ヒジリはその辺に生えていた猫じゃらしに似た植物を抜くと目を閉じて祈るフランの鼻をくすぐる。
「ちょっと!邪魔しないでぇ!」
「修業がたりーん!ばかもーん!」
「もう!祈りの邪魔をする神様なんて聞いた事ないわよぉ!」
ヒジリに妨害されつつもフランは広範囲の癒しの祈りを終えた。
「よし。エリムス、モティのメイジ達の抵抗はどうだ?」
妻と共に傷を癒してもらったエリムスは立ち上がった。
「はい、シルビィ隊の各騎士が一騎当千の働きをしております。後方から王国近衛兵騎士団も追い詰めるように進軍を始めましたので押し切れるかと」
「うむ、これも君たちの下地作りがあったからこそ。よくやった」
「光栄です」
エリムスは軽くお辞儀をする。メイの出鱈目に見える魔法もそれに貢献していた。
ヒジリは遠視と暗視が出来るカチューシャ型スコープを頭から降ろして神殿を見た。
「マスターはその玩具が気に入っているのですね。パワードスーツのヘルメットを被れば色んな機能がありますのに」
ウメボシはヘルメット嫌いの主にそう言うも、神殿が気になるのか彼はその話題には乗ってこなかった。
「モティのメイジ達もだいぶ疲弊しているようだな。練度は高いが士気が低いのか、攻撃に勢いや覇気がないな。まぁ彼らは司祭や僧侶ではなくメイジだからな。そこまで信仰心は高くないのだろう。神の為に戦うと言ってもモチベーションは維持できないだろうさ」
「クローネの鉄傀儡もあと少しで神殿入り口に到着します」
「流石に鉄傀儡相手ではメイジも手出しできんか。魔法を殆ど通さないからな。ここは光側だし、雲系の闇魔法を使うものはいない。まぁ一人いるがきっと魔法は使えないだろう」
「マスター!大変です!神殿の入り口から大怪我を負った裏側の部隊が放り出されています!」
「なんだと?ジュウゾはいるのか?」
「はい、残念ながら大火傷を負って意識不明です」
「偽神は見えるか?私の玩具では見えない」
「入り口から笑いながら出てきました」
「よし・・・。あとはクローネ次第だな。カプリコン、神殿入り口の裏側達をここまで転送してくれ!」
「畏まりました」
すぐに光の粒子がヒジリの周辺に集まると怪我をしたジュウゾ達が現れた。
「大やけどだな・・・。ウメボシに頼んだ方がよさそうだな。健康体に戻してくれウメボシ」
火傷はフランや僧侶が祈りで回復してもケロイド状態が残る。なのでスキャニングしていた者をその時の状態にまで戻すウメボシの回復の方が有効なのだ。
「ミラクル、今すぐ、元気になーれ!」
ウメボシがホログラムで魔法少女のような衣装を着た体を出してクルクルと回りながらステッキを振った。顔はウメボシのままなので少し不気味だ。しかし、奇妙なウメボシの舞いはしっかりとジュウゾ達を火傷から回復する。
「なんだ、その掛け声は・・・」
眉根を寄せるヒジリの近くでメイがウメボシに反応した。
「まぁ!それは魔法国スィーツの回復魔法の詠唱!」
「え?そうなんですか?(適当に思い付きでやったのですが)」
メイは祖国を思い出して嬉しそうにして、戸惑うウメボシとハイタッチをする。
メイのキャーキャーいう声で目を覚ましたジュウゾが頭を振りながら起き上がる。覆面は焼けてなくなり、装束もボロボロで殆ど裸に近い。
「くっ!不覚・・・」
「なんだ、樹族にしては老け顔なんじゃないかね?ジュウゾ。君の顔は初めて見る。君の父上の方が若く見えるな」
「ヒジリ・・・王」
自分と部下がヒジリに助けられた事を知ってジュウゾは立ち上がり、お辞儀をした。
「助けて頂き感謝する」
「なに、構わんよ。君もここで偽神の終わりを見ているがいい」
そう言うとヒジリは何もない空間の穴からスナイパーライフルを取り出したが、ジュウゾにはそれが何かは判らなかった。
「ウメボシ、クローネの様子はどうだ?」
「はい、何やら偽神と話をしています。恐らく挑発をしているのかと」
ヒジリがスナイパーライフルのスコープを覗くと、神殿の入り口でクローネが乗る鉄傀儡が偽神を挑発するようなポーズをとっているのが見えた。
「久しぶりだねぇ、ヒジリの旦那ぁ。おっと、今は神様だったっけ?ヒジリ様と呼んだ方がいいかい?」
今や樹族国鉄傀儡団の隊長であるクローネはどこかやつれた顔をしていた。
「いや、以前通りでいい。ところで疲れているように見えるが大丈夫かね?」
「そりゃあ、ね。五つ子を産んだら誰だって疲れるさ」
「ほう?それはおめでたい。後で祝いの品を送ろう」
フランはクローネの子が誰の子か解っていた。
「その子供ってネコキャットの子でしょ?ネコキャットはその事を知っているのぉ?」
「知らないわよ。教えていないし」
「いいの?ネコキャットは自分に子供がいる事を知ったら喜ぶんじゃないの?」
「あんたねぇ、子煩悩なネコキャットを想像できるかい?それにあたしはもう公務を担う身分になっちまったんだよ?あいつを見つけたら捕まえなきゃならないの」
「そんなぁ~。じゃあネコキャットは一生子供と一緒に居れないの?」
「そういう事になるね。まぁほら、親はなくとも子は育つっていうじゃない。サヴェリフェ姉妹も親はいないんだろ?それなのに立派に育っているじゃないか」
「私たちにはヒジリがいたからぁ・・・」
フランはヒジリの腕に顔を擦りつけてから笑顔を見せる。
「(むっ!父性をくすぐられるこの顔・・・)産後なのに悪いな」
「いいんだよ、旦那のお蔭で私達ロケート団がまともに暮らせていけるのだし。砦の医療施設も金持ちが毎日やって来て治療していくから国の財源に大いに貢献してて、たまに視察に来る役人も良い顔してくれんだよ」
「それは良かった」
「あんたは良くないじゃないか」
クローネはハッチから飛び降りてヒジリの前に立った。
子供を産んだにしてはスタイルは前のままだ。体の線をくっきりと表す黒のレザースーツが淫猥さを際立たせる。
「樹族国に残ってりゃ、今頃ヒジランドで貧乏王なんて呼ばれてなかったのに。あの義体の作れる砦だってあんたが権利を主張しても良かったんだよ?なんせ砦の施設を作動させたのはウメボシなんだからね」
「ハハハ、確かに。幾らか貰えば良かったな。が、私は樹族国を離れた事を後悔はしていない。ヒジランドを支配する事で帝国と樹族国の戦争も防げたと自負している。それに発展していく我が国を見るのは気持ちのいいものだよ」
「ほんと、お人好しだね」
クローネは飄々としたヒジランドの王に肩を竦めて再び鉄傀儡に乗った。鉄傀儡のスピーカーから少しリバーブの効いた声が聞こえてくる。
「じゃあ、あたしは神殿の中の偽神を引っ張りだせばいいんだね?樹族国のウィザードに教えてもらったんだけど、あたしの能力は擬似的に時間を遅らせているようにしてるだけだから、本物の時間停止者には敵わないかもしれないよ」
「ああ、奴の標的になって時間を遅らせてくれるだけでいい」
「本当に大丈夫なんだろうね?二度と子供の顔を見れないなんてのはなしだよ」
「ああ、問題ない。奴は恐らく魔法は使えないし、私の考えが正しければ君が鉄傀儡の中にいる限りは大丈夫だ。ハッチを開閉する外部スイッチはしっかりと隠してあるな?」
「鉄板で隠してある」
ハッチのすぐ横にある四角いボタンは鉄板で隠されネジで止められていた。
「よし!では行ってくれたまえ。ジュウゾが既に戦っているかもしれないから、援護も頼む」
「了解!」
「お前の使い魔は実に残念な使い魔だったな。グハハハ!」
神の座に座るズーイを狙って四方八方から苦無が飛ぶ。
「小賢しい裏側め」
無名の神から得た能力で時間を止め、ズーイは神の座から離れる。そして能力を解除した。
キンキンと音を立て大理石で出来た豪華な装飾の椅子に苦無が当たって弾き飛ばされる。
「ほう、その能力、やはり本物であったか」
バリトンの響く声が神殿内に残響音を残す。
「裏側が私の情報を得ていないという事はないだろう?白々しいな、裏側の長よ」
「で、お前は何者だ」
「神だ」
「笑止。神殺しではないかな?まぁあれも神だったかどうかは怪しいが」
「流石は裏側。そこまで知っていたのか。シュラスには教えたのか?」
「ああ、ヒジランドの王に映像を見せてもらったのでな。お前が神ではないのなら必ずどこかに弱点があるはずだ。どうだ?一度その能力を私に試してくれんかね?」
「構わんが、死ぬぞ?それに隠れているのなら殺すことも出来ん。出てこい」
返事の代わりにズーイの影からジュウゾが現れて苦無を喉に突き立てようとした。
「おっと!」
すかさず時間停止能力を発動させ、止まったジュウゾを動かす。
「いつもより多く動かしてやろう。チェックメイトだ」
ズーイは耐火グローブを付けるとジュウゾを背中ら押し始めた。宣言通りいつもより長い時間押す。
「ふん、アサッシンにしては重いな。ああ、なるほど体中に暗器を持っているからか」
ズーイが後ろから押すと空気抵抗の大きい前面が燃え始める。耐火性能の高いジュウゾの紺色の装束は見る間に燃えていき、顔や体を炭にしていった。
「あっけないものだ」
そう言い捨ててズーイは時間を戻す。
その時間を戻したズーイに向けてまた苦無が乱れ飛んだ。しかし苦無は【弓矢そらし】の魔法で弾かれる。
「お前たちの長は死んだ。さっさと引き返せ」
「ほう、魔法を使えるのか。ヒジリ王の情報では魔法は使えないとあったが・・・」
死んだはずのジュウゾの声がどこからか聞こえる。
「なに?貴様は死んだはず!」
「月並みな驚き方をどうも。これは異世界のシノビと呼ばれる暗殺者の技の一つでな。身代わりの術というのだ。まぁ簡単に言うと幻術を用いた分身だ」
ズーイがジュウゾの死体を見ると焼け焦げて炭になった木が転がっているだけであった。
「早く時間停止をして逃げたらどうだ?」
ジュウゾは挑発するように言うと、ズーイは突然杖を地面に落として膝をついた。
「私の能力は次に使うまで三分はかかるのだ・・・。もう駄目だ・・・。それだけの時間があればお前たちは情け容赦なく私を殺すだろう・・。投降する」
悔し涙を流し、ズーイは床を叩いた。
暫く沈黙が流れ床を拳で叩く音が響く。
「いいのか?私が悔しがっている間に三分が立つぞ?」
「構わんが?貴様の演技は下手糞過ぎて乗ってやる気にもならん」
ズーイは立ち上がると白いローブの汚れを振り払い、笑いだした。
「クハハハ!そうか、私の演技は下手か。実にやりずらい相手だ、裏側は・・・」
上を向いて肩を揺らして笑っていたかと思うとズーイは急に怒鳴りだす。
「舐めるのもいい加減にしろ!」
闇魔法使いは本来の姿に戻る。凡人が能力を欲して悪魔と契約し、その引き換えに失った姿がそこにあった。
「いつまでも隠れていられると思うなよ?【闇】!」
樹族が禁忌とする闇魔法を唱えてズーイは神殿内を暗闇に変えた。途端に影の中にいたジュウゾ達は術が解除される。
「光あっての影。闇の中に陰は出来ない。さぁどうする?お前たちの姿は【暗視】で丸見えだぞ?まずはそこ」
ズーイは時間停止をして神の座の近くにいた裏側の一人を動かす。恐怖を植え付ける為、殺しはしないが大火傷を負う程度には動かす。そして時間を戻した。
「ぐぅ・・・!」
苦痛への耐性もあり、滅多に声を出さない裏側だが紺色の装束が燃えて体中に火傷を負って倒れた。
それを見たジュウゾはすぐさま指示を出す。
「全員散開。大広間から出ろ!」
「逃がすか!ハハハ!気が変わった。お前らは殺しはしない。見せしめとなってもらおうか」
紫陽花騎士団がボロボロになりながらヒジリのいる野営地まで戻ってきた。傷を負った者は気力だけで歩いて戻ってきたのか、野営地につくと気絶して倒れてしまった。
「よくやった、諸君。フラン、彼らの傷を癒してやってくれ」
「はぁ~い」
緊張感のない間延びした声がそう答えると両手を合わせてヒジリに向かって祈りだした。
「なんだか、変な感じだな。一体どういう理屈なんだこれは。なぜ私に祈る」
「だってぇ、私の信仰する神は星のオーガなのよ?目の前に星のオーガがいるのにそっぽ向いて祈るのもおかしいじゃない」
「むぅ・・・」
ヒジリはその辺に生えていた猫じゃらしに似た植物を抜くと目を閉じて祈るフランの鼻をくすぐる。
「ちょっと!邪魔しないでぇ!」
「修業がたりーん!ばかもーん!」
「もう!祈りの邪魔をする神様なんて聞いた事ないわよぉ!」
ヒジリに妨害されつつもフランは広範囲の癒しの祈りを終えた。
「よし。エリムス、モティのメイジ達の抵抗はどうだ?」
妻と共に傷を癒してもらったエリムスは立ち上がった。
「はい、シルビィ隊の各騎士が一騎当千の働きをしております。後方から王国近衛兵騎士団も追い詰めるように進軍を始めましたので押し切れるかと」
「うむ、これも君たちの下地作りがあったからこそ。よくやった」
「光栄です」
エリムスは軽くお辞儀をする。メイの出鱈目に見える魔法もそれに貢献していた。
ヒジリは遠視と暗視が出来るカチューシャ型スコープを頭から降ろして神殿を見た。
「マスターはその玩具が気に入っているのですね。パワードスーツのヘルメットを被れば色んな機能がありますのに」
ウメボシはヘルメット嫌いの主にそう言うも、神殿が気になるのか彼はその話題には乗ってこなかった。
「モティのメイジ達もだいぶ疲弊しているようだな。練度は高いが士気が低いのか、攻撃に勢いや覇気がないな。まぁ彼らは司祭や僧侶ではなくメイジだからな。そこまで信仰心は高くないのだろう。神の為に戦うと言ってもモチベーションは維持できないだろうさ」
「クローネの鉄傀儡もあと少しで神殿入り口に到着します」
「流石に鉄傀儡相手ではメイジも手出しできんか。魔法を殆ど通さないからな。ここは光側だし、雲系の闇魔法を使うものはいない。まぁ一人いるがきっと魔法は使えないだろう」
「マスター!大変です!神殿の入り口から大怪我を負った裏側の部隊が放り出されています!」
「なんだと?ジュウゾはいるのか?」
「はい、残念ながら大火傷を負って意識不明です」
「偽神は見えるか?私の玩具では見えない」
「入り口から笑いながら出てきました」
「よし・・・。あとはクローネ次第だな。カプリコン、神殿入り口の裏側達をここまで転送してくれ!」
「畏まりました」
すぐに光の粒子がヒジリの周辺に集まると怪我をしたジュウゾ達が現れた。
「大やけどだな・・・。ウメボシに頼んだ方がよさそうだな。健康体に戻してくれウメボシ」
火傷はフランや僧侶が祈りで回復してもケロイド状態が残る。なのでスキャニングしていた者をその時の状態にまで戻すウメボシの回復の方が有効なのだ。
「ミラクル、今すぐ、元気になーれ!」
ウメボシがホログラムで魔法少女のような衣装を着た体を出してクルクルと回りながらステッキを振った。顔はウメボシのままなので少し不気味だ。しかし、奇妙なウメボシの舞いはしっかりとジュウゾ達を火傷から回復する。
「なんだ、その掛け声は・・・」
眉根を寄せるヒジリの近くでメイがウメボシに反応した。
「まぁ!それは魔法国スィーツの回復魔法の詠唱!」
「え?そうなんですか?(適当に思い付きでやったのですが)」
メイは祖国を思い出して嬉しそうにして、戸惑うウメボシとハイタッチをする。
メイのキャーキャーいう声で目を覚ましたジュウゾが頭を振りながら起き上がる。覆面は焼けてなくなり、装束もボロボロで殆ど裸に近い。
「くっ!不覚・・・」
「なんだ、樹族にしては老け顔なんじゃないかね?ジュウゾ。君の顔は初めて見る。君の父上の方が若く見えるな」
「ヒジリ・・・王」
自分と部下がヒジリに助けられた事を知ってジュウゾは立ち上がり、お辞儀をした。
「助けて頂き感謝する」
「なに、構わんよ。君もここで偽神の終わりを見ているがいい」
そう言うとヒジリは何もない空間の穴からスナイパーライフルを取り出したが、ジュウゾにはそれが何かは判らなかった。
「ウメボシ、クローネの様子はどうだ?」
「はい、何やら偽神と話をしています。恐らく挑発をしているのかと」
ヒジリがスナイパーライフルのスコープを覗くと、神殿の入り口でクローネが乗る鉄傀儡が偽神を挑発するようなポーズをとっているのが見えた。
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しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
異世界辺境村スモーレルでスローライフ
滝川 海老郎
ファンタジー
ブランダン10歳。やっぱり石につまずいて異世界転生を思い出す。エルフと猫耳族の美少女二人と一緒に裏街道にある峠村の〈スモーレル〉地区でスローライフ!ユニークスキル「器用貧乏」に目覚めて蜂蜜ジャムを作ったり、カタバミやタンポポを食べる。ニワトリを飼ったり、地球知識の遊び「三並べ」「竹馬」などを販売したり、そんなのんびり生活。
#2024/9/28 0時 男性向けHOTランキング 1位 ありがとうございます!!
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