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禁断の箱庭と融合する前の世界(159)

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「しけた街だなぁ、おい!寒いしジメジメしてるし、酒が飲める店が宿屋だけってよぉ・・・。稼いだ金の使い道がねぇじゃねぇか!」

 オーガのならず者は給仕に当たり散らして足をテーブルに乗せると、エールをグイグイと喉に流し込んだ。

「兄貴ィ。常駐兵がいやせんぜ、この街」

「そりゃあ、そうだろ。こんな辺境の街、誰が税金割いて守ろうとすんだよ」

「となれば、兄貴ィ!」

「ああ、ちょちょっと女犯して、頂くもん頂いてトンズラすっか!」


 看病をしていたハイダルネは一階が騒がしい事に気が付き、帝国の制服の上に毛皮のコートを羽織って下に降りた。

「ちょっとぉ!静かにしてくださる?上には病人がいますのよ?」
 
 一階に降りると、オーガがオークのウェイトレスにちょっかいをだしていた。

「や、止めて下さい!」

「いいではないか、いいではないか。宿屋の酒場で働くって事はこういうのも有りだって事だろ?」

「旦那!うちではそういうのやってないんでさ!健全な宿屋がモットーなんで!」

 宿屋の主人がグイっとウェイトレスとならず者の間に割って入った。

 しかし、直ぐに宿屋の主人の顔にパンチが飛ぶ。オーガのパンチでオークの自慢の牙が折れてしまった。

 オークにとって牙は命の次に大事な物で、喧嘩の時もオークの顔は狙って攻撃しないのが、帝国のならず者の間でも暗黙の了解だった。

「き、牙がぁ!服装からしてあんたら、帝国国民じゃねぇな?どこから来た!」

「俺達はよぉ!流れの盗賊団よ。故郷なんてねぇよ!」

 一階にいた者は全員、獲物を構えて宿屋を物色しだした。

「ちょっと!静かにしてって言ったでしょう!」

 おや~?と盗賊団の二番手らしき男はハイダルネに擦り寄る。

「おい、お前ら!こんなしけた宿屋に上品なお嬢様がいるぜ!クンクン!俺はわかるぜぇ~。こりゃ生娘だ!しかも発情してる!」

「はぁ?」

 下卑た笑いを顔に浮かべる同族に目玉をぐるりと回して、そのお嬢様はため息をついた。

「盗賊~?盗賊如きがこの私に・・・・」

 男はハイダルネの言葉を聞き終わる前に毛皮のコートを開き、制服も無理やり開いて胸を露わにさせる。

「きゃ!何をするの!」

 ゲヒヒと笑っていた盗賊団の二番手は、コートの下に帝国の制服が隠れていた事に驚く。

「げぇ!兄貴ぃ!こいつ帝国兵だ!」

「今更気がついたのかしら?貴方達、帝国に喧嘩を売ったのよ?命はないと思いなさい?」

 これで盗賊団は怖気づくと思ったハイダルネだったが、盗賊団のボスオーガの目は座ったままだ。ズカズカとハイダルネに近づくと、下着の上から胸を揉みしだいた。

「こうなった以上、お前を殺して口封じするしかねぇな。死体は沼にでも捨てておけば、魔物が綺麗に食い尽くしてくれるだろ」

 自分がしたことが逆効果と気付き、ハイダルネの額に冷や汗が滲む。

(槍さえあれば、こんな奴ら・・・)

 それでも格闘術をある程度習得している彼女は、ボスの手をねじって隙を作り距離を取った。

「カワー様!早く起きて下さいまし!」

 一階から叫ぶも、カワーは熟睡しているのか動く気配が二階の部屋からはしてこない。

「二階にも誰かいるのか?お前ら、様子見てこい。男だったら直ぐに殺せ!」

「させませんわ!」

 近くにあった箒を掴むと、横をすり抜けようとした盗賊の鼻を叩いた。
 
「てめぇ!」

 ワッ!と盗賊たちがハイダルネに飛びかかる。

 狭い場所で長い箒は不利で、あっという間に取り押さえられてしまった。

「それにしてもべっぴんさんだなぁ?白い肌。グリグリした金髪。プリッとしたケツ。おい、お前ら押さえとけよ!その黒絹のズボンを脱がせろ!」

「え?やだ!私を犯す気ですの?」

「当たり前だろうが!自分の可愛さを自覚しろ!」

「今この状況でそんな事を言われても、嬉しくありませんわ!」

 全身を押さえられて、身動きが全くできず悔しさで歯ぎしりをしながら何度か抵抗を試みる。

 ハイダルネのスパッツが剥かれようとしたその時、突然宿屋のドアが開いて小さな影が見えた。

「キュル!」

 ヤイバ達に子供を助けてもらったノームの父親が妙な筒を構えて立っていたのだ。

 タイミングよく現れたニヒルなヒーローのようにニヤリと笑うと、ノームは筒を盗賊たちに向けて威嚇する。

 ニャロウ!と下っ端がノームに飛びかかろうとしたところで、筒からは勢い良く煙が噴出した。

「うわぁ!なんだ?もしかして眠りか麻痺の雲じゃねぇか?」

 慌てて口と鼻を押さえる盗賊達からハイダルネは素早く離れる。

「おい!これ、ただの煙だ!何の効果もねぇ、ただの煙だ!」

 煙に慌てた盗賊たちの声で一層騒がしくなり、二階で誰かが怒鳴った。

「うるさいぞ!糞虫ども!」

 ズダダダダと降りてきたエリートオーガの顔は明らかに不機嫌で、手には名剣ナマクラが握られていた。

「貴様か~!僕の眠りを妨げるのは!」

 直ぐ近くにいた盗賊が、ナマクラで腹を殴られる。

 軽く殴られたように見えたが、オーガの盗賊は吹っ飛び他の盗賊を巻き添えにした。

 宿屋の狭い一階はあっという間に乱闘の場となり、埃が舞う。

 が、怒り狂ったカワーに盗賊たちはあっという間に沈められていき、盗賊全員が宿屋の床につっぷして乱闘は終了した。

「エリートを舐めるなよ!」

「素敵!」

 ハイダルネがカワーに抱きついた。

「ちょっ!君ィ!胸元が・・・・。制服を正したまえ」

 カワーにも唾を付けておこうと思ったハイダルネは、敢えて胸を押し付けて抱きつく。

「ノーム殿にも礼を言ったらどうだ?彼が盗賊を混乱させたのだろう?」

 そう言ってノームを見ると、ノームは人差し指と中指をこめかみに当て、こめかみとは反対側に振って立ち去っていった。

「何事・・・・あっ!ごめん!」

 騒ぎに目が覚め、二階からフラフラと降りてきたヤイバは抱き合う二人を見て直ぐに部屋へと戻っていった。

「わぁ!違うぞ!ヤイバ!これは違う!」

 急いでヤイバを追いかけ部屋の前でカワーは言い訳をする。

「と、盗賊がだな・・・あの、えーっと・・」

「二人がそんな仲だったなんて知らなかったよ。大丈夫、僕達親友だろう?君が喋ってもいいって言うまで誰にも言わないからさ」

「ちちちち、違いますわ!ヤイバ様!私達そういうのじゃ・・・・」

 いつの間にか隣に来ていたハイダルネもドアを爪で引っ掻いて必死に弁明する。

「気にしなくていいよ。隊員同士の恋愛はご法度だけど、僕はその辺のことには寛容なんだ。隊長には黙っておくから安心して」

「違うのに~!」

 今日は全て裏目に出る、とハイダルネはへたり込んで泣いた。

「ただいま~!わ!なんだこれ!」

 ワロティニスが扉を開けて即座に驚く。

 宿屋に帰ってくると、尻を高々と上げて伸びているオーガ達がおり、部屋は滅茶苦茶に荒れていたからだ。

 ワロティニスとマサヨシが宿屋の主のオークから説明を聞きながら二階に上がると、ヤイバの部屋の前で爪とぎをする猫のように扉を引っ掻くハイダルネとカワーがいたのだった。




 昨日マサヨシ達が通った沼地の魔女の塔への道を一同は歩く。

「沼地の塔の先に港町があるとはな~。俺、一回通った道をまた通るのって嫌なんだよ。見たことがある景色って退屈だろ?」

「じゃあマっさんだけ、沼の中を歩伏前進したらどないでっしゃろ?いつもと違う景色が見れまっせ」

「弱った豚がのたくってのかると思って、小さな魔物が集ってくるだろうが、アホ!ってか誰が豚だよ!」

「あはは!自分で豚って言ったぁ!」

 ワロティニスはマサヨシを指差して笑っている。

 無表情で歩くヤイバにカワーは心配して話しかけた。

「もう一日休んだほうが良かったんじゃないかね?」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから。本当なら一日で港町につく予定だったのに大幅な時間のロスをしてしまった。この先何があるか解ったもんじゃないのに・・・」

「二ヶ月も時間を頂いているのですから、そんなに心配する事ではないですわ、ヤイバ様」

 ハイダルネもヤイバの心配していると、街道の先から見覚えのあるノームの父親が我が子五人を連れて慌てて引き返してくるのが見える。

「キュル!」

「街道を歩いていたら変な鎧を着た男とピッチリしたローブを着る魔女がやって来たので怖くて戻ってきた、だそうでっせ」

「それってコッペルと左門じゃないのか?」

「そうみたいですな」

 クロスケが瞳を街道の先に向けると、コッペルの前を堂々と歩く侍が見えた。

「ノームのお父さん、あの二人は私達の知り合いだから大丈夫だよ。それから、目的地が一緒なんだから私達の近くにいればいいよ」

「キュル!」

「ありがとうございます。お言葉に甘えてそうさせて頂きます。子供を助けてもらった時に名乗り忘れていましたが、私の名前はハイホー。親戚を尋ねた帰りで心細かったので助かります、と」

「それがいいよ。旅の途中で危なくなったら隠れててね。お兄ちゃんは滅茶苦茶強いからきっと安全な旅になるよ」

 ノームと話している間に二人もやって来た。

 コッペルが嬉しそうに手を振る前で左門はいきなり攻撃態勢をとる。

「鬼の子!」

 左門はそう叫ぶと破魔丸を正面に構えてヤイバを警戒した。

「忘れたか?我が愛刀雷閃を曲げた鬼の子よ・・・」

「ちょっと!左門!何してるの!」

「主殿には話したことは無いでござるが、前の主に召喚された時に拙者はこの男と戦い・・・愛刀を・・・武士の魂を曲げられたのでござる!」

「戦ったの?ヤイバ」

「いいえ、こんな特徴のある鎧を着た人、一度見たら忘れる事はありません」

「だってさ、左門。人違いじゃないの?」

「し、しかし・・・。顔がよく似ている・・・」

 ポンとマサヨシが手を叩いた。

「それ、ヒジリの事じゃね?黒い変な服着てただろ?いつも自信満々な顔をしてて腹立たしい奴だったはず。戦闘スタイルは格闘」

「そうでござる!何故知っているでござるか?マサヨシ殿」

「だってなぁ、そりゃあヤイバの父ちゃんだからなぁ」

 それを聞いた左門はチンと刀をしまって頭を下げた。

「すまぬでござる、ヤイバ殿」

「いいんですよ、父さんだって貴方の大事な刀を曲げたんだ。父がすみませんでした」

 コッペルは腕を組んで左門に怒る。

「あのねぇ!今の貴方の主は私なんだから、私怨で動かないで頂戴!ごめんね、ヤイバ。彼の刀はオークの牙みたいなものでね。思い入れが強すぎて擬人化してしまうレベルなのよ」

「擬人化などせん。我が魂の分身でござる」

「それが擬人化のごっこ遊びみたいなもんだって言ってるの!」

 ヤイバは刀に興味を示してじっと見る。

「ちょっと鑑定してみていいですか?刀に手をかざすだけです」

 左門は疑り深い目でヤイバを見つつも、腰の刀をヤイバの光る手に近づけた。

「わぁ・・・これ!聖剣の類ですよ!刀身に聖なる力を帯びています。でも魔法の類じゃないんですよね・・・。祈りに近いというか・・・」

「符魔師による物じゃないってこと?」

「ええ、僧侶に祝福された武器に似ています。けど、あれは一定時間で効果が切れますが、これはずっと続く感じで・・・。言うなればシオさんの持つ聖なる光の杖と同じですね。国宝級です」

 ワーッハッハ!と左門は豪快に笑った。

「そうであろう!そうであろう!拙者は気分がいいでござるよ、主殿!」

「いつも仏頂面してるのに、刀を褒められるとこうなるのよ、左門は。でも彼が笑うと私もなんだか嬉しいわ。じゃあ私達は食料を買いに行ってくるわね。昨日貰ったタキコミゴハンはあっという間に無くなっちゃったからさ。貴方達はえーっと・・・港町に行くのね?気をつけてね」

「あ!【読心】使ったぞ!やめろよ~」

 マサヨシが咄嗟に肉のカーテンみたいなポーズを取る。

「貴方の心は読めないさ」

 フフフと笑って手を振るとコッペルと左門は街へと向かっていった。

「キュル!」

「昨日のならず者達はまだ街の牢屋にいるけど、脱走して暴れても二人がいれば直ぐに静かになるだろうと言っております」

「そうでしょうね、遺跡守りに選ばれた死霊使いと強力な武器を持つ異世界の戦士ですから」

 カワーが残念そうな顔で鞘に入った名剣ナマクラをじっと見つめる。見た目も普通の剣で魔法効果も斬撃が打撃に変わるだけである。威力こそ大きいもののそれ以外に効果はない。

「羨ましいな・・・。破魔丸・・・」

 そのナマクラをハイダルネがさっと奪った。

「名剣ナマクラだって名剣ですわよ?迷う剣と書いて迷剣ですけど!要らないなら私が頂きますわ!ホホホ!」

「む!返したまえ、ハイダルネ!」

 咄嗟に動こうとしたカワーだったが、足がもつれてハイダルネを押し倒す形になった。

「キャ!」

 ドサリという音と悲鳴にヤイバは振り返る。

 転がって抱き合う二人を暫く見つめ、光る眼鏡をクイっと上げて二人に忠告する。

「君達の仲を黙っておくとは言ったけど、昼の日中にそういう事をされると直ぐに噂になると思うんだ。少しは控えたほうがいいよ」

「ちょ!ちがっ!」

「違いますってヤイバ様ぁ~!」

 情けなく叫ぶカワーとハイダルネの声が冬の街道を駆け抜けていった。




 冬の荒れた天気のせいで港町は陰鬱に見えた。荒れ狂う波が白い泡を舞い上げる。

 見慣れない光景にマサヨシは口をへの字口にして不快感を露わにした。

「なんか洗剤の海みたいで嫌だな。何だこの泡」

「海の不純物が激しい波で撹拌されて泡状になりまんねや。シドニーのとある海岸ならもっと凄い量の泡が見れませ」

「こりゃ今日は船を出すのは無理だろ。宿探そ、宿」

 風が吹きすさぶ港から街へと戻る道で、子供が土産物を売っていた。猫人の子供の手には粗末な貝の首飾りが握られており、申し訳なさそうな素振りで買ってとヤイバに差し出す。

 首飾りを売っているが実質物乞いに近い。茶色と白と黒の毛皮は艶がなく、栄養状態が良くない事はひと目で解った。

「ごめん、要らないよ・・・」

 優しい兄らしからぬ言葉にワロティニスは驚く。

「え!いつもニッコリ笑って買ってあげてるじゃん!どうして?」

「ふん、こんな小汚い首飾りを何故欲しがる必要があるのかね?」

 カワーが横から口を出す。

「でも、いつもお兄ちゃんは買ってあげてるよ?」

「今は宿屋を探そうか・・・」

 そう言ってヤイバは先を歩きだした。ワロティニスは兄を見て肩をすくめ、子供に向き直る。

「それ、私が買うよ。いくら?」

「せ、千銅貨です」

 高い値段をふっかけられていると解ってはいるがワロティニスは気にせず、千銅貨一枚を子供に渡すと首飾りを受け取って兄たちを追いかけた。

 この時期に旅人は少ないのか、泊まれる宿屋は直ぐに見つかった。各自、部屋の鍵を貰うとそれぞれの部屋に入る。

 ヤイバは部屋に入り、腰の大きいポーチを外してテーブルに置くとベッドに寝転んだ。天井を見つめ先程の猫人の子供を思い出す。

(何でだろうか・・・。あの子に対して何も感情が沸き起こらなかった。いつもなら少しでも助けになれば良いと思って買うのだけど・・・。まだ病み上がりで疲れているのかな?)

 自分の感情は港の荒れ狂う波とは逆に凪いだ入江のように静かだった。

「これも僕の体内にいる虫のせいなのだろうか?虫は心まで操るのかな?まさかね・・・」

 ドアがコンコンとノックされる。

「おーい、ヤイバ。下でおやつでも食べようぜ。羊羹あるぜ?」

「羊羹って、黒っぽくて甘いやつですよね?今行きます」

 ヤイバはマサヨシの出すお菓子が大好きだった。異世界のお菓子を食べるとタカヒロの事や美味しかった向こうの世界の料理を思い出すからだ。

 宿屋の一階の食堂には他のメンバーも既にいて、退屈そうに窓から外を眺めていた。

 ヤイバがテーブルに座るとクロスケがコーヒーを人数分瞬時に用意する。それをカウンターの向こうで皿を拭きながら見ていた宿屋の主人であるホブゴブリンが驚きの声を上げる。

「ひゃあ!初めて【食料創造】の魔法をこの目で見たぜ!それってコーヒーってやつかい?帝都では普通に飲まれているらしいな」

「あんさんも、飲んで見るか?」

 ホブゴブリンが、いいんですかい?と手を擦り合わせながらクロスケに近づいた時、外から叫び声が聞こえた。

「まさか・・・。またクラーケンか!!」

 宿屋の主人はカウンターに立てかけてあった両手斧を掴むと外に飛び出していった。

「おい!ヤイバ行ってみようぜ!」

「はい」

 ノームの親子以外のメンバーが外に出ると、港の方で巨大なイカが暴れているのが見えた。

 冒険者や兵士が戦っているのか指示を出す声や怒号が丘の上の宿屋まで聞こえて来る。

 港に向かう中、カワーは何かに感心して満足な顔をした。

「ここに帝国騎士がいるというのに、誰も頼ろうとはしない・・・。自力でクラーケンを倒そうとするこの街の住人の気概が素晴らしいな。ここにはまだ”力こそ全て“が生きているのかもしれない」

 ヤイバの補助魔法のお陰で、移動速度の早くなった一同はホブゴブリンを追い越し、港へ到着すると巨大なイカを見上げた。

「で、でけぇ!」

 胴体だけで十メートルはある巨大なイカはクラーケンの中でも小さい方だ。

 海から伸びる触手が冒険者たちをなぎ払い叩き潰す。さっきまで出ていた本体は矢や魔法を警戒して海の下に隠れてしまった。

「ヤイバ、魔法でさっさと倒せよ」

「父さんと違って僕は雷魔法はあまり得意じゃないのです。一応使えますが・・・致命傷にはならないでしょう」

「じゃあクロスケ、ビームで瞬殺してくれや」

「まずはここの住民が努力すべきですわ。ワイは皆がどうしようも無くなったら手を貸します」

「ふん、ケチスケめ。いでよ!インプ達!」

 マサヨシが杖を掲げると五十体程のインプが空中に煙とともに現れた。小さな羽でパタパタと飛んでいる。

「クラーケンの注意を冒険者からそらせ!」

「アラホラサッサー!」

 甲高い声が一斉にそう言うと、インプ達はクラーケンの触手に群がってひっかき攻撃やら噛みつき攻撃をする。殆どダメージを与えていないが、マサヨシの狙い通りクラーケンの注意は大量のインプ達に向いた。

 複数の触手がインプ達を掴もうと躍起になっている。しかしインプ達は小さてすばしっこい蠅のようで捕まることはない。

「よし!」

「次はどうするんです?」

 ヤイバの問いかけにマサヨシは動きをピタリと止めた。

「・・・考えてなかった。取り敢えず戦闘不能になった冒険者たちを安全な場所へ移動させっか」

 十人ほどが大きな埠頭の端で倒れているのを確認し、一同はインプがクラーケンの注意をひいている間に冒険者たちを担いだり、畳ムカデに乗せて後方へ下がらせた。

「どっかにヒーラーいねぇかな。それにしても帝国の癒し手の少なさは異常だよな。シャーマンとかは瞬時に回復できないし・・・。ウメボシを召喚したら早いんだけど気軽に呼ぶなって言われてるからなぁ・・・。クロスケもあんまり協力的じゃないしー」

 マサヨシは致命傷を負った冒険者を抱きかかえてキョロキョロしていると、さっき出会った猫人の子供が地走り族の僧侶を連れてきた。

「おお!気が利くじゃないの!小僧!こんな辺境の港街にまで地走り族の僧侶がいるのか」

「布教活動で来たのですが、まさかこんな危険な場所とはイヤハヤ・・・」

 ふうふう言いながら汗をハンカチで拭く太った僧侶は、怪我人の状態を目で確かめている。

「回復を頼む!」

「勿論です」

 雲の隙間から光が伸び、僧侶の禿げた頭を照らした。

 祈りを開始すると、ヒールポーションでは回復しない冒険者達の致命傷を癒し、彼らの苦悶の表情が和らいでいく。

「よーし!これで冒険者を気にせず戦える!あの憎たらしいイカゲソを切っちまおうぜ!」

 マサヨシがそう言うとパーティは隊列を整えクラーケンの触手まで向かった。




 インプを叩き潰そうとする触手は空振りし、埠頭のブロックを勢い良く叩きつけた。自分の意思に反して吸盤は何にでも引っ付くためクラーケンは暫く身動きが取れなくなる。

「今だ!と言いたいところだけど、うちのメンバーって打撃系ばかりなんだよな・・・。出来ればああいうブヨブヨしたのは斬撃が向いているんだけど・・・。槍使いはいるけど斬るのは不向きだし・・・」

「ならば!」

 ヤイバは触手に向かって【氷の壁】を唱えた。冬の気候も相まって氷系魔法は最大の威力を発揮する。触手が瞬時に凍っていくのだ。

 その凍った触手を氷ごとカワーが名剣ナマクラで叩くと、触手は粉々に砕け散った。切れた触手の根本は皮膚を内側に巻くようにして縮んでいく。

「ナイス連携!相談もせずによくやるわ」

「彼は親友だから、これぐらいの事は当然ですよ」

 ヤイバの口から親友と聞いてカワーのラスボスのような悪人顔が綻ぶ。

「さぁ!ドンドンやれ!ヤイバ!この調子でいくぞ!」

 照れを隠すようにカワーはそう言うと、凍った触手を次々と破壊していった。

「キキキキ!」

 怒り狂ったクラーケンが埠頭に身を乗り出し、残りの触手で手当たり次第に滅多矢鱈と叩き出した。

 うちの一本が猫人の子供のいる場所まで届き、地面を叩いた衝撃で敷石が砕け散り子供を直撃する。

「あー、やっちまったな。子供に怪我させたりなんかするとヤイバは凄く怒るぞ!」

 怪我をしたこどもの所まで駆け寄るワロティニスを見ながらマサヨシは独りごちる。

 吹き飛ばされて意識を失った子供を抱きかかえると、ワロティニスは僧侶のいる場所まで急いで運んだ。

 僧侶が祈りをしている間、ワロティニスはちらりと兄を見たがヤイバは少しこちらを見ただけで、気にした風もなく本体を現したクラーケンに向き直ると【吹雪】の魔法を発動させた。

(なんでかな・・・お兄ちゃん・・・なんか冷たく感じる・・・。いつもなら小さな子がひどい目に遭ったら凄く怒るのに)

 本体が【吹雪】で凍り、動きが鈍くなったところでハイダルネが跳躍してクラーケンの眼と眼の間を槍で貫く。

「確か、イカの脳神経ってここに有りましたわよね?」

 グリグリと貫きながらハイダルネはヤイバに聞いた。

「ああ、そこにある。視神経も」

 暫く触手を動かしていたクラーケンだったが、徐々に動きが鈍くなり最後には皮膚を白くさせて動かなくなった。そして埠頭に張り付いたまま息絶えた。

「やったぜ!バンザイ!帝国の騎士!参ったか!くそったれクラーケンめ!」

 そう言って宿屋の主人はクラーケンの触手に両手斧を叩き込んだ。

「今夜は無料でイカ料理を振る舞うぜ~!」

 ガハハと笑ってホブゴブリンは触手を引きずって去っていった。

「美味しいのだろうか・・・。クラーケン・・・」

 カワーが不安そうな顔で言うと、クロスケが触手をスキャンした。

「大きいイカの身に有りがちなアンモニア成分は少ないですな。臭みやえぐ味も無くて美味しいと思いまっせ」

 意識を取り戻したゴブリンやドワーフの冒険者、オークの兵士がヤイバ達を囲んで口々に褒め称えた。

「流石は帝国の騎士だ!鎧も着てないのにクラーケンを倒してしまった!」

「勇猛果敢とは聞いていたけど、無茶しすぎだぜ、あんたら!」

「今度酒場で会ったら一杯奢らせてくれ!」

「あっ!討伐の手柄は帝国騎士の物になるのか?」

 冒険者たちは顔を見合わせ、がっかりして肩を落とした。

「いえ、全員で倒した事にしましょう。どうぞクラーケンの体の一部をギルドに持っていってください」

 ヤイバがそう言うと、冒険者達は彼の腰をバンバンと叩いて喜んだ。
 
「融通がきくじゃねぇか!もっと堅物かと思ってたけど!恩に着るぜ!」

 そう言って一斉に触手に群がると彼等は吸盤を切り取った。

「じゃあ俺らはギルドに行って金貰ってくるわ!ありがとよ!騎士様!」

 手を振る冒険者達にヤイバも手を上げて見送った。

 ワロティニスが少し遠慮がちに兄に近づいてきた。先程の兄の冷たい目が今も頭から離れないのだ。

「やったね・・・お兄ちゃん」

「うん。皆がいたから何とかなったけど・・・」

「そう言えばヒジリ聖下は、ミト湖の淡水クラーケンを投げ飛ばして電撃で倒したと聞きましたわ」

「あんな超人と比べるなよ、ハイダルネちゃん」

「あの猫人の子供は大丈夫だったかな?ワロ」

「えっ!うん・・・。僧侶さんが直ぐに治してくれたよ」

 兄が一応子供を気にかけた事にワロティニスは少し安心する。

「参ったなぁ・・・」

 僧侶が禿げ頭をポリポリと掻いて猫人の子供を見ている。

「どうしたの?」

 声をかけてきたワロティニスを見て僧侶は何かを期待するような目をした。

「我ら神学庁に属する僧侶は回復や治療をするとその度合いに応じた治療費を貰う事になっているのですが、この子はお金を持っていないのです。祈りを使ったという記録はこのペンダントに刻まれるからタダには出来ないので困っているのです」

 そう言えば、と顎に手をやってマサヨシは思い返した。

「冒険者達があんたに金払ってたな。そういう事だったのか。帝国領になってもなお樹族国の神学庁はがめついな。お前が払ってやれよ、坊さん」

「それが・・・私もお金がある方ではないので・・・。貰ったお金も一旦神学庁に納付しないと駄目なのです」

 クラーケンの触手を晩御飯のオカズにしようと集まってきたオークの主婦達が僧侶を庇う。

「この人はね、散々私達の治療代の肩代わりをしてきたんだよ!だからお金が無いんだよ!あんたらが払ってやったらどうだい?」

「坊さんが貧しいのは、お前らが原因じゃねぇか!」

「おぎゅ!」

 主婦たちはマサヨシの即答に言葉を詰まらせ反論できなくなると、ホホホと笑って誤魔化しクラーケンの肉をナイフで切り取って、その場をそそくさと立ち去っていった。

「いいよ、私が払うから。幾ら?」

「銀貨一枚か、帝国の鉄貨一枚です」

「高いな。ワロちゃんだって、砦の戦士ギルドに報酬の大半を収めてるんだからそんなに金持ってないだろ?いいよ。俺が出してやるよ(ハイダルネちゃんよ!俺の器の大きさをとくと思い知れ!)」

 ちらっとハイダルネを見るもハイダルネとカワーは宿屋に向かうべく上り坂の下まで進んでいた。

「見てねーし!くそが!」

「何のこと?」

「ほら!受け取れよ!禿げ!」

「マサヨシだって禿げてるよ!」

「禿げてねーし。こういう髪型だし」

 マサヨシはポケットから鉄貨を一枚を出すと僧侶に投げた。僧侶は宙を飛ぶコインをキャッチすると頭を下げてお礼を言った。

「慈悲深き貴方達に星のオーガの祝福を!」

 そう言ってペンダントを掲げると僧侶は立ち去っていった。

「星のオーガの祝福って・・・。ヒジリにナデナデしてもらうのか?お断りだな。それにしても樹族国は帝国の属国になったのに、まだ神学庁は解体されてないんだな」

「帝国としても貴重な癒やし手は喉から手が出るほど欲しいですからね。彼等の反感を買うようなことはしないはずです」

「おい!猫っ子!俺様に感謝してくれよ!父ちゃん母ちゃんはどこだ?家まで送ってやるよ。クロスケ、スキャンして親族の場所を探ってくれ」

「えー、そんなん子供に聞いたらいいですやん」

「いいからやれよ」

「へいへい」

 クロスケの目から出る平たい光が猫人の子供を照らすと、クロスケは驚いた。

「えっ!!わぁ!なにこの子、ネコキャットさんの子供ですわ!」

「なにーー!」

「すっかり忘れていましたが帝国で獣人を見るのは珍しいですね。最近は増えてきましたが・・・」

「この街の住人もあまりこの子の事知らないみたいだし、ここに来て日が浅いのかな?」

 しかし猫人の子供は何もわからないといった様子で不安そうに皆の顔を見るだけだった。
 
「名前は何ていうのかな?」

 不安がるネコキャットの子供にワロティニスは優しく尋ねた。

「ノーラ」

「お母さんはどこにいるの?」

 自分の治療代を肩代わりしてくれたマサヨシや優しく話しかけてくるワロティニスを信用したのか、ノーラはタタタと歩いて道案内をしだした。

「こっち」

 ノーラは砂浜に降りると、時々振り返って足早に海岸沿いにある洞窟へと向かう。

 帰りかけていたカワーとハイダルネも中々やって来ないヤイバ達に業を煮やして後を追ってきた。

「どこへ行くんだ!ヤイバ!」

「この子を家まで送るんだよ」

 洞窟の中は生活臭があり、中には小さな入江がある。

 鍾乳洞から垂れる水滴が静かな入江にピチョンと音を立て波紋を広げた。それぐらい中は静かだった。

「お母さん!」

 ノーラが叫ぶと声が洞窟内を反響する。入江からヌーっと顔が出てきた。一見すると上半身裸の茶髪のオーガのようだったが、水面の下に揺らぐ下半身の影は魚のものだった。
 
「セイレーンだ!」

 カワーが警戒してナマクラを握り、ハイダルネも槍を構えた。

 歌声で人を狂わし海に引きずり込むという危険な魔物なのでカワー達の対応は至極当たり前なのだ。

「お母さんなの!」

 ノーラはセイレーンの前に飛び出して大の字になって庇う。
 
「セイレーンは猫人なんか産まないぞ!」

 カワーが冷たくそう言い放つが、普通のセイレーンのように狂気の歌を歌ったり、襲ってこようとしないので警戒を解いて武器をしまった。

「初めまして、セイレーンさん!」

 洞窟内にワロティニスの明るい鼻声が響いた。

「・・・。私の子を奪いに来たのかい?」

「いいえ、この子を家まで送りに来ただけですよー」

 ワロティニスはニコニコしてそう答えた。

 どこか焦点の定まらないセイレーンの鳶色の目は、少し安心したように見えた。

「そうかい・・・。すまないねぇ、私の子供が手間をかけさせちゃったようで。今、魚を捕まえて来るからお土産に持っていっておくれ。ヒヒヒヒ」

 そう言うとセイレーンは暗い入江の底に潜っていった。

「あのセイレーン、多分、気が触れ・・・」

 ハイダルネの言葉をマサヨシは視線と手を上げて遮る。

「言うなよ、一応あれを母ちゃんだと思っている子供が目の前にいるんだぜ?ハイダルネちゃんよ・・・」

 ハイダルネだけに聞こえるようヒソヒソと注意する。

「ごめんなさい、マサヨシ様」

 小さく謝罪するハイダルネの横でヤイバは洞窟内に気になる物がないと解ると帰りを催促した。

「魚を貰ったら帰りましょうか、マサヨシさん・・・」

「そうだな。どの道、クラーケンに港町の船を壊されてノーム島まで行けないし。一旦宿屋に戻って別の渡航手段を考えないと。ネコキャットの子供も気になるけど、俺らに出来るのは使い魔をネコキャットの元に飛ばして子供の事を教えてやるくらいだ」

「マサヨシさん、いつの間に使い魔と契約をしたのですか?」

「ああ、サキュバスでも呼んで使い魔にしようかと思ってさ、ちょっと前にヴャーンズに意見を聞きに行ったら、それは絶対止めとけと力説されちゃってよ。実用性を優先してハヤハヤブサっていう高速で空を飛ぶ鳥を使い魔にしたんよ」

「賢い選択ですね」

「ヤイバは使い魔と契約しないのか?」

「僕の使い魔になるといつも危険な目に遭うでしょうから、一生契約しないことにしています」

「お前は行く先々でトラブルや戦闘ばかりだもんな。それがいいわ」

 水の中から大きな平たい魚が一匹飛び出てきた。その直後に水面からはセイレーンが顔を出す。

 地面の上でピチピチ跳ねる魚をノーラが両手で捕まえて抱えると、ワロティニスに差し出した。

「はい!お土産!」

 ニコリと笑う少女の顔は可愛らしかったが、父親の面影はどこにもない。

 ワロティニスは魚を受け取るとお礼を言った。

「(ノーラはお母さん似なんだね)ありがとう!ノーラ!私達、暫くこの港町に滞在するから何かあったら宿屋まで来てね!」

「うん!さよなら、お姉ちゃん!治療代、肩代わりしてくれてありがとう!」

 一同はノーラとセイレーンに手を振ると洞窟を後にした。

 一同は不安定な岩場を抜けて砂浜に着く宿屋を目指した。

「食べ物に困っているわけでも無さそうなのに、何でノーラは毛艶が悪いのかな・・・」

 ワロティニスがそう呟くとクロスケが魚をスキャンする。

「この魚、身も多くて食いでがありますけど、栄養価は低いんですわ」

「じゃああの子は、セイレーンの取ってきたこの魚ばかりを食べてるの?」

「多分、そうでしょうなぁ」

「チッ!」

 マサヨシは二人の会話を聞いて舌打ちをすると、岩を登って来た道を戻り洞窟に入ると直ぐに帰ってきた。

「何してたの?」

「別に」

 マサヨシが常に背負っている、お菓子でパンパンだったバックパックが萎びている事にワロティニスは気がついた。

「あの子に貴重な異世界のお菓子を全部あげたんだ?えらーい!マサヨシー!」

 そう言ってワロティニスはマサヨシに抱きつく。

「なに?!バレちゃったか!言うな言うな!恥ずかしいだろ、バカタレがー!オヒヒヒ!」

 遠くになった洞窟からノーラが嬉しそうに飛び跳ねて手を振っているのが見える。

「喜んでるね!」

「あそこまで喜んでくれるなら、貴重なお菓子をあげた甲斐があったってもんよ。さぁ行こうか」

 もう照れくさいからこの話は終わり、という感じでマサヨシは足早に先を歩く。

 カワーはそんな事をして何の得があるのだという顔をマサヨシに向けた後、ヤイバの横に並んで歩きだした。

 兄はマサヨシの善行を見ても特に何か言う事はなかった。いつもならマサヨシを抱き上げて喜ぶはずである。

(やっぱりお兄ちゃん、何か冷たいな・・・。いつもならあの子を心配して食料を置いていったり、マサヨシのした事を一緒に喜んでくれたりするのに・・・)

 以前危惧したように、兄は優しすぎて心が壊れるのではないかという考えが段々と薄れ始める。

 今の兄はその真逆のベクトルに進んでいるように見えたからだ。感情の動きが鈍くなり弱者に対して無関心になってしまい、普通のオーガのように見える。

(お兄ちゃん、いつからあんな風になったんだろ・・・。そう言えばタスネさんが死んだ時、あまり悲しくなかったって言ってた!よく考えたらそんなはずないのに!幾ら大きくなってからあまり会ってないと言っても、桃色城じゃ結構な頻度で話題に上がっていたし、何よりも命の恩人なんだよ!?今までのお兄ちゃんなら、タスネさんを救えなかった自分が悔しいとか言って涙ぐらい流すはず!やっぱりおかしいよ!)

 兄の変化にワロティニスは寂しいような、悲しいような気分になり、どうしてそうなったのかを色々と自分なりに考えてみた。

(アンドラスが死んでなかったとかかな?お兄ちゃんもお父さんみたいに乗っ取られているのかも!でもそれもどうかな・・・。お父さんは自分を乗っ取ったアンドラスが弱かった理由を前に話してた・・・。どんなに強力な体を乗っ取っても体を有効に動かす知識がなければ宝の持ち腐れだって。考えただけで自動的に発動するものはアンドラスにも使えるけど、合言葉や知識が必要な動作は他人には真似出来ないって。じゃあお兄ちゃんの無詠唱で触媒を必要としない魔法なんかは特別な知識や動作、技術がないと無理だから魔具士のアンドラスには使えないはず。でもさっきバンバン魔法使っていたし、アンドラスの線は無いかな・・・。それに心が冷たい以外はいつものお兄ちゃんだし・・・)

「う~ん・・・やっぱりわかんないよ!」

 突然叫んだワロティニスに驚いたマサヨシがビクッとする。

「な、なんだよ急に。何が判らないのかしらないけんど、そういう時は焦らず解決の糸口が見つかるまで忍耐強く待てって、中学校の時の担任が言ってたぞ?まぁ俺は何事も我慢が出来なくて人生失敗してばかりだったけどね。オフフ」

「そうだよね・・・。もう少し様子を見ることにする・・・」

「お、おう。頑張れ」

 悩むワロティニスの横でクロスケは何も言わず浮いていた。その視線はずっとヤイバの背中に向けられていたが、敵意などはなくどこか心配するような目つきだった。
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