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禁断の箱庭と融合する前の世界(137)
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老婆は何故、顔見知りでもないオーガがビコノカミの事を知っているのか不思議に思った。
「何でビコちゃんの名前を知っているんだい?わたしゃいつも可愛い鉄傀儡としか呼ばないよ。ビコノカミって名前は私と親しい者しか知らないはずなんだがねぇ」
「僕たちは未来でビコノカミと一緒に戦いましたから。バートラで霧の魔物と」
未来の話をするヤイバは自信なさ気だ。この老婆が自分たちの話を信じる道理はない。
そんなヤイバを後押しするようにカワーも話に加わる。
「まぁでも、その鉄傀儡は森の巨人の股の間でペシャンコにされていたがね」
「ドワームさんが格納庫にあった装甲の型を取って新たな装甲を開発していたから、今はそう簡単に潰れないと思うよ」
「でもステインフォージの作る装甲だろ?怪しいものだ」
戦う気満々の老婆は二人が自分の知らないビコノカミの話をするので苛立つ。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃないよ。本当に未来から来たのなら、この子の実力は知ってるね?じゃあ勝負しようじゃないか。勝てば神の船の埋まってる場所まで案内してあげるよ」
う、とヤイバ達は言葉に詰まる。
ビコノカミは装甲こそ貧弱だが、回避能力が高く、上空に逃げられると対応が取り辛い。
僅かに攻撃魔法の効く他の鉄傀儡と違ってビコノカミには魔法も効かない。更にハンマーの柄の先から出る防御不能の光る武器で攻撃されると致命傷を負うだろう。
「実力を知ってるからこそ、戦いたくないのですが・・・」
「オーガのくせに泣き言を言うのかい?未来のオーガは弱いんだねぇ」
そう言うと老婆はビコノカミに乗り込んだ。
「とは言え弱点が無いわけでもない。やるぞ、カワー。君は挑発スキルで注意をひきつけてくれ。出来れば十秒程拘束してくれるとありがたい」
「無茶を言う。ビコノカミから十秒を奪うのは至難の業だぞ。だが、エリートである僕ならやれないことはない。見ていたまえ」
小屋の近くの草原を戦いの場と決め、オーガの二人とてゴブリンが乗り込む鉄傀儡は対峙した。
「じゃあ、いくよ!それ!」
ビュッと空気が動いて、高速で移動するビコノカミが柄の長いハンマーを両手持ちで振り下ろしてきた。
「まずは小手調べというわけかね?ゴブリンの癖に生意気だ」
カワーが名剣ナマクラでビコノカミの攻撃を防ぐ。
「おほ!やるじゃないか!でも両刃剣の刃の部分を持って防御なんてしてたら、いつか手が切れるよ!」
「心配無用だ(切れるわけがない。この剣は鈍器なのだからね)」
お互いの武器で力比べをしていたかと思うと、ビコノカミのハンマーの柄の先がピンク色に光った。
(む!光の穂先!)
下から斬り上げるようにしてビームの刃がカワーの股間に迫ってくる。
カワーは直ぐに後方に退いて距離を取った。
「危ない!危うく股から半分にされるところだった。そんな死に方は遠慮したいものだ」
「じゃあこんな死に方はどうだい?」
ビコノカミの脚のミサイルポッドから小さなミサイルが飛んできた。
「エリートを舐めないで頂こう。超回避!」
カワーはスキルを発動してミサイルを回避するとビコノカミに接近して、後方にまわり抱きついた。
「今だ!ヤイバ!」
「よし!【眠りの雲】!」
「馬鹿だねぇ!鉄傀儡にゃ魔法は効かないよ!」
「鉄傀儡にはね」
雲がビコノカミを包むと気密性の低い機体の隙間から雲が入り込んでくる。機体に触れた雲は霧散して消えるが幾らかは触れずに老婆の元へと届いた。
「残念!並の【眠りの雲】なら私にも抵抗出来る!それにビコノカミが空気を循環させてくれるから雲もじきに消されるはずだよ!」
ビコノカミの尖った肩のパーツが外れ、宙に浮く。
それはハチドリのように動き、尖った先の部分から細いレーザービームを撃ちだしてカワーの腕を貫いた。
「むぅ!」
「これは威力が低いからあまり使った事がないんだけどねぇ。効果あったようだね。まずは一人目!」
痛みに呻き蹲るカワーにハンマーが振り下ろされようとした刹那、空気が揺れてヤイバが姿を現した。
「【姿隠し】かい?急に現れるんじゃないよ!」
カワーを庇うように現れたヤイバ共々、ビコノカミは叩きつけるようにしてハンマーを振り下ろしたが、攻撃は何故か外れて地面を叩いていた。
「ありゃ?」
老婆の視界がぐにゃりと揺れる。
「やっと魔法が効いてきたようだな。僕の【眠りの雲】を食らってここまで抵抗できる人はそうそういませんよ」
光る眼鏡をクイッ!と人差し指で上げてヤイバはそう言うも、内心ではドキドキしている。効果がいつ現れるかは判らなかったからだ。
ビコノカミはプシューと排気音を出して膝をつくと、意識の亡くなった老婆をコックピットから出した。
「操縦者が戦闘不能。マナの供給及びメイン思考システムの喪失。模擬戦闘を終了します」
「今の戦いのどこが模擬なんだよ!カワーを殺す気満々だったでそ!」
マサヨシが人差し指を上げて、ビコノカミに突っ込んだが反応はない。
ヤイバはビコノカミの手の上でぐっすりと眠るゴブリンを見て汗を拭い、カワーの怪我を見る。
「大丈夫か?カワー。フランさん、回復をお願いします」
「は~い」
フランの【癒し】の祈りでカワーの傷はみるみる塞がっていく。
癒やしてもらいながらカワーは友人に聞いた。
「ヤイバ・・・君は眠りの効果が現れるまでの時間を知っていたのかね?」
「いや、知らなかったよ。【眠りの雲】は吸い込んだ時点で数分間は継続的に効果を発動するからね。数分間の間ずっとレジストされていたら危なかった」
「だったら、何故なにも確信が無いような状態で僕を庇った?」
「友達なんだから当然だろ」
「フン!馬鹿かね!君もハンマーで叩き潰されるところだったんだぞ!」
「だからって君が黙って叩き潰されるのを見ていられるものか!」
「ヤイバ・・・・」
男同士の間に怪しい空気を感じたワロティニスが焼きもちを焼きながら割り込んでくる。
「変な空気になってる!二人の周りにバラの花が咲いていたよ!お兄ちゃんを取らないでよね、カワー!」
「ば、馬鹿者!気持ちの悪いことを言うな!僕は男より女が好きなのだ!フランさんのようなね!」
「まぁ・・・」
「わ~、愛の告白をした~!」
「ぐわ、しまった!」
戦いの終わった草原の草を夏の風が揺らし、皆の笑い声が流れていった。
ビコノカミは開けた場所にある、さほど大きくもなく深くもないクレーターの中心地を指差した。
「ここだよ」
唯一無二の特別な鉄傀儡の操縦者―――恐らくはムロの先祖であろうドーラの声が響く。
「しかし・・・わたしゃあんたらを本気で殺す気だったんだけどねぇ・・・」
「だったらどうして、あの光線を吐くジョウロでカワーの頭を撃ち抜かなかったんですか?」
「ああ、あれかい?あれは威力が弱いからオーガの分厚い頭蓋骨を穿けないんだよ。そんな事よりも、あんたらこそ手加減をしていただろう?まるで樹族のお嬢ちゃんを相手にするように、優しく殺さないように気を使っていたのを感じたね。力こそ全ての闇側で二度とあんな真似をするんじゃないよ!殺れる時は殺る!私達の生き方はそんなもんだろう?」
「今の時代はそうかもしれませんが、僕達の時代は力だけが全てじゃない。それ以外の手段も在る。それを教えてくれた星のオーガが闇側を導いてくれているのです」
「ハッ!なんとも甘ちゃんな神様だね!サカモト神は力がなかったから邪神共々世界から消えた。神が体現して力を持てと教えてくれたんじゃないか!まぁいい。私はこれで失礼するよ。孫達が待っているからね」
「案内ありがとうございます、ドーラさん!」
「ああ、あのひゃっこい木苺は美味しかったよ!また食べさせておくれ!」
素っ気なくそう言うとドーラはビコノカミを操縦して飛び去っていった。
「どの道、長期戦になれば僕らが不利だったんだ。ビコノカミが上空から攻撃してくれば装備のない僕たちには為す術がない。それなのにドーラさんは地上での接近戦を選んだ。口は悪いけど本当は優しい方なんだ」
「で、こっからどうすんだ?宇宙船目指して掘るのか?」
一人ごちるヤイバの横でマサヨシはキョロキョロしながら掘る道具になりそうな枝か何かを探した。
すると何処からか優しそうな男性の声が聞こえてくる。
「有効なナノマシンを確認。ナノマシンタイプ、万能型亜種。船の修復が可能と認識しました。修復の為に船へ転移して頂けますか?」
「はい!」
ヤイバは神の船と思しき声に咄嗟に返事をした。この機会を逃せば二度と入れないかもしれないからだ。
「では船内へどうぞ」
船はヤイバ以外も協力者と認めたのか全員を船へと転移させた。
円形の部屋は広く、囲むように扉がいくつもあった。
「これが・・・神の船かね・・・。僕はとても感動している・・。我らの神が乗ってきた船だぞ!歴史的発見だ!」
「すごーい!お父さんの隠れ家もこんな感じなのかな?」
カワーは震えながら銀色の壁を触り、ワロティニスは興味深そうに光るパネルを見ている。
よく見るとパネル横の壁に丸い穴が開いてあり、奥には黒いドローン型アンドロイドが入っていた。
「わぁ!クロスケがいる!」
驚くワロティニスは穴の奥を更に注意深く覗き込んだが、クロスケにそっくりなイービルアイは目を閉じたままピクリとも動かない。
クロスケが閉じ込められていたの樹族の遺跡なので、このイービルアイは別の個体だろうなとヤイバは思う。
「では早速ですが、少しばかりナノマシンを頂きます」
船の中には誰もおらず、語りかけてくるのは船自身だった。
そう言われたもののヤイバの体に何も変わった様子はない。じっとしていると船は語りだした。
「万能型亜種・・・自己成長をするナノマシン・・・アリエスは初めてこのタイプを見ました。どういった経緯かは判りませんが精子の役目を果たしたナノマシンが母体を媒介して貴方という存在をこの世に生み出したのです。そしてこのナノマシンは貴方の体の中で日々成長し、貴方を助けています」
「え?ちょっと待って。精子の役目を果たしたナノマシンって事は・・・つまりヤイバはヒジリの子供じゃないって事じゃん。ナノマシンで擬似的に作られた精子で生まれた子って事になり、正確にはヒジリの子ではないよな?」
細い目を少し見開いてマサヨシは驚くと、宇宙船は答えた。
「はい、ヤイバ様は厳密には生物同士の自然交配では生まれておりません。ナノマシンの塊と母親が交配して出来た子といえます。しかしながら、ナノマシンがそのヒジリ様という方を模していたのであれば、ほぼヒジリ様の子と言ってもよろしいかと」
ヤイバは愕然とし、膝をつく。今まで神の子だと信じて生きてきた自分が、厳密にはそうではなかった事に。
己の存在が砕け散るような、得も言えぬ不安が全身を襲う。
(一体なのましんとは何だ?僕が父さんの子ではない?)
思いの外、脆く繊細なヤイバを見てフランは慌てて慰めた。
「でもほぼヒジリの子だって言ってるし問題ないんじゃないのぉ?」
「そうだよ!お兄ちゃん!私なんて、肉体的には全く血が繋がってないんだよ!見てよ、これ!マサヨだよ!マサヨ!」
「聖下が君を自分の子と認めているのだから何も気にすることはない」
すこし目を潤ませるヤイバは皆の慰めに気を持ち直したのか、三人を抱きしめてありがとうと感謝を述べあ。カワーだけは抱きしめられて耳が真っ赤だった。
それを離れた所で見るマサヨシはぼっちな気分になり思う。
(しまったっー!いらん事言わなければ良かったぁ!俺のあのハグに加わりてぇ!)
居心地が悪くなり、話題を変えようとマサヨシはアリエスに話しかけた。
「何でサカモト博士はお前を捨てていったんだ?」
「失礼な!博士はアリエスの事を捨ててなどいません。宇宙船”星座”シリーズの第一世代であるアリエスには色々な事情により自己修復機能が無いのです。アンドロイドにもアリエスを修復する権限はありません。なのでここで博士がアリエスを直せる機会を待っていたのですが、博士はこの星への興味を優先して旅立ってしまいました。それ以来、数千年前に博士の反応が消えてから放置されたままなのです」
「ふーん。そう言えば何でドーラとかいうゴブリンのババァはお前の事を知っていたんだ?」
「広域センサーも壊れてしまいましたので、近くを通るナノマシン保持者へ声をかけていたのです。殆どの方は幽霊か何かだと思って逃げてしまいましたが、ドーラ様だけはしっかりと話を聞いてくれました。残念ながらドーラ様のナノマシンは修復に役に立ちませんでしたが・・・」
「あのババァ、体内にナノマシン飼ってやがったのか!道理でヤイバの魔法にしぶとく抵抗したはずだわ。オフフッ!」
「サカモト様に近しい者は皆ナノマシンを注入されております。なのでその子孫であるドーラ様のような方は怪我や病気の治りが早かったり、魔法に対する抵抗を持っていたりします。代を重ねていくごとにナノマシンは減っていきますのでヤイバ様のような方は非常に珍しい存在でしょう。お陰様で一ヶ月もすれば機能を完全回復出来ます」
「でもサカモト博士がいないんじゃ動きようがないな・・・。復活するまでのあと十世紀、じっと待ってるしか無いぜ?」
「何故そのような未来予測をするのでしょうか?博士が復活、とはどういう事でしょうか?」
「俺らは未来から来てるからよ。博士は・・・どうやって復活したんだっけ?」
「イグナ母さん曰く、特殊な召喚術で時の止まった空間から召喚されたと言っていました」
「別宇宙の亜空間から博士を召喚したと・・・?常々思っておりましたが、この世界の魔法というものは我々の常識を超えていますね。ところで貴方がたは自由に時間を移動出来るのですか?」
「それを聞くか~・・・。答えはノーでつ。俺たちもいきなりこの時間に飛ばされたんよ。だから帰る手段を模索してるところだ。宇宙船がそれを聞いてくるって事は、この船に未来に帰る手段を見つけるのは無駄だな。まぁ手段があればサカモト博士はとっくの昔に未来に帰っていたか。さて次の目的は異世界を映す三面鏡だな」
マサヨシの話に優し気な男性の声は元気なく答える。
「そうですか・・・。未来のサカモト博士は元気そうでしたか?」
「知らねぇよ。会ったことねぇし。でも地球には帰ったぜ?そん時はお前も一緒だったんじゃないかな?」
「それは良かった!」
あのー、とイッチがおずおずと手を上げた。
「そろそろ本題を切り出してもよろしいでしょうか?」
今更ながら人知を超えた存在である神の船や、未来から来て尚且つサカモト神を語るマサヨシ達に怖気づいたのか、小さな樹族の少年は畏まっているように見えた。
イッチは説明を終えると神の船の反応を待った。
「残念ながら、貴方の願いを聞くわけにはいきません」
返ってきた返事にそのような予感がしていた少年は、それでもと諦めなかった。
「お願いします、この子の父親の命がかかっているんです。キャンデの父親を死なす事無く解決する方法はこれしかないのです!都合の良い話だとは思いますし、神の船である貴方にはそんな願いを聞く義理もないのは承知ですが、どうかお願いします」
キャンデもイッチの横で頭を下げている。ギュッとスカートを握り、目には涙が溜まっていた。
「アリエスとしては貴方がたを助けてあげたいのですが、システム上絶対に無理なのです。何か一つ博士の許可になるような切っ掛けがあれば、それを貴方がやった事だとしてもアリエスを縛るシステムが許可を出してくれます。声紋、生体認証、パスワード・・・。原住民への遺伝子改造自体は認証が緩いので何か一つでもいいのです」
「って言ってもな~」
マサヨシは禿頭をボリボリと掻いてキノコの胞子のようにフケを撒き散らした。
飛び散ったフケはアリエスが瞬時に消し去る。
「博士と親しければパスワードぐらいなら何とか思いつくかもしれないけど、残念ながらこの中で博士と親しい奴なんていねぇし。生体認証、声紋は言わずもがな・・・。サカモト博士ってどんな人だっけ?見た目に何かヒントがあるかもしれないぞ?」
「では生前のホログラムを見せましょう」
部屋の真ん中に音もなくサイドだけがアフロヘアーになった老人が寝そべった姿で現れた。
「なぁ~頼むよ、ウィスプ~。綺麗なお姉ちゃんを出してくれ~」
「だ、ダメですよ!またエッチな事するんでしょ!ホログラムにも人権はあるんですよ!」
「ハー!ウィスプのケチンボ!もうお前には頼まん!アリエス!綺麗なお姉ちゃんを出してくれ!」
「ホログラム機能は現在使用出来ません。どうしたんです?急にお盛んになられましたね」
「よくわからんが、ワシにも春が来たんじゃ~。ん?おい、モニターをよく見せてくれ!」
モニターには粗末な麻の服を着た少女が映っていた。
山菜を積みに来たようで船をしきりに気にはしているが、何もしてこないと知ると忙しそうに場所を移動して山菜を摘んでいる。
「か、可愛い・・・。こないだ様子を見に来た男どもと違ってこの子は可愛い・・・。濃い緑の肌が気味悪いが顔自体はべっぴんさんじゃ!」
「まさか博士・・・ナンパしに行くんじゃ・・・」
「ハッハッハ、馬鹿なことを言うでない、ウィスプ。ワシはもう歳じゃぞ。それに感情を制御できる誇り高き地球人でもあるのじゃ。・・・・やっぱたまんねぇ!ワシの青春はこれからじゃぁぁああ!」
「博士~~~!」
一同はポカンとして口が開いたままだった。
「こ・・・これが我らが闇側の始祖神・・・」
「ただのスケベェな老人ではないか・・・」
「そうねぇ・・・。お姉ちゃんの獣使いの師匠みたい・・・」
「何がワシの青春はこれからじゃあぁ!だよ、禿げ爺。連載を途中で打ち切られた漫画みたいな終わり方しやがって・・・」
「そんなに酷く言わないで下さい。当時、何らかの理由で博士は劣情に関する制御が難しくなっていたのですから。ところで何かヒントになるようなものは?」
「あるわけないだろうが!」
マサヨシが勢い良く突っ込んだ後ろで、サカモト博士の声がした。
「イッチのお願いを・・きょ・・・許可します」
拙くぎこちないサカモト博士の声はキャンデが魔法で声真似したものだった。
「声紋が一致しました。実験ルームへどうぞ」
部屋を囲む扉の一つがシャッと開く。
信じられない展開に、マサヨシはブバッと鼻水を噴射して驚いた。鼻水は床に落ちる前に光って消え去る。
「んーな、アホな~!録画の声を真似した所でそれは録画の声でしょうに~!」
「アリエスも驚きました。普通はそうなるはずなのですが、彼女は完璧に博士の声を再現していたのです」
「恐るべし【声真似】の魔法。何の魔法がどこで役に立つかはわからないものだね。僕も直ぐに習得しなくては!」
皆と一緒に実験ルームに来たキャンデは神の船に命令したことにまだ緊張しているのか息が荒かった。
「そもそも科学が進んだ時代に声紋認証ってのもおかしな話でつね」
「ええ、かなり古い認証システムですが何故か組み込まれておりました」
「まぁそのお陰で一つ目の目的は達成できそうだから良かったけど~」
いくつか並ぶ縦型カプセルの内、二つが開いた。
「そちらの樹族のお二方でよろしいのですよね?」
アリエスが聞くと二人は驚いた。イッチは恐る恐る神の船に聞く。
「薬を貰えるとか、方法を教えてくれるとかじゃないのですか?」
「いいえ、そのカプセルに入って下さい。直に遺伝子改造を行います。稀に適合が上手くいかず死んでしまう方がいますがご容赦下さい。因みに再構成蘇生は博士本人の許可が必要ですので出来ません」
一同に衝撃が走る。ここまでリスクが高いとは思っていなかったからだ。
「し、死んでしまうだって・・・?」
「はい、稀によくあることです」
「稀なのか、よくあることなのかどっちだよ!」
静まり返る実験ルームで、樹族の二人が生唾を飲み込む音だけが響いた。
「何でビコちゃんの名前を知っているんだい?わたしゃいつも可愛い鉄傀儡としか呼ばないよ。ビコノカミって名前は私と親しい者しか知らないはずなんだがねぇ」
「僕たちは未来でビコノカミと一緒に戦いましたから。バートラで霧の魔物と」
未来の話をするヤイバは自信なさ気だ。この老婆が自分たちの話を信じる道理はない。
そんなヤイバを後押しするようにカワーも話に加わる。
「まぁでも、その鉄傀儡は森の巨人の股の間でペシャンコにされていたがね」
「ドワームさんが格納庫にあった装甲の型を取って新たな装甲を開発していたから、今はそう簡単に潰れないと思うよ」
「でもステインフォージの作る装甲だろ?怪しいものだ」
戦う気満々の老婆は二人が自分の知らないビコノカミの話をするので苛立つ。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃないよ。本当に未来から来たのなら、この子の実力は知ってるね?じゃあ勝負しようじゃないか。勝てば神の船の埋まってる場所まで案内してあげるよ」
う、とヤイバ達は言葉に詰まる。
ビコノカミは装甲こそ貧弱だが、回避能力が高く、上空に逃げられると対応が取り辛い。
僅かに攻撃魔法の効く他の鉄傀儡と違ってビコノカミには魔法も効かない。更にハンマーの柄の先から出る防御不能の光る武器で攻撃されると致命傷を負うだろう。
「実力を知ってるからこそ、戦いたくないのですが・・・」
「オーガのくせに泣き言を言うのかい?未来のオーガは弱いんだねぇ」
そう言うと老婆はビコノカミに乗り込んだ。
「とは言え弱点が無いわけでもない。やるぞ、カワー。君は挑発スキルで注意をひきつけてくれ。出来れば十秒程拘束してくれるとありがたい」
「無茶を言う。ビコノカミから十秒を奪うのは至難の業だぞ。だが、エリートである僕ならやれないことはない。見ていたまえ」
小屋の近くの草原を戦いの場と決め、オーガの二人とてゴブリンが乗り込む鉄傀儡は対峙した。
「じゃあ、いくよ!それ!」
ビュッと空気が動いて、高速で移動するビコノカミが柄の長いハンマーを両手持ちで振り下ろしてきた。
「まずは小手調べというわけかね?ゴブリンの癖に生意気だ」
カワーが名剣ナマクラでビコノカミの攻撃を防ぐ。
「おほ!やるじゃないか!でも両刃剣の刃の部分を持って防御なんてしてたら、いつか手が切れるよ!」
「心配無用だ(切れるわけがない。この剣は鈍器なのだからね)」
お互いの武器で力比べをしていたかと思うと、ビコノカミのハンマーの柄の先がピンク色に光った。
(む!光の穂先!)
下から斬り上げるようにしてビームの刃がカワーの股間に迫ってくる。
カワーは直ぐに後方に退いて距離を取った。
「危ない!危うく股から半分にされるところだった。そんな死に方は遠慮したいものだ」
「じゃあこんな死に方はどうだい?」
ビコノカミの脚のミサイルポッドから小さなミサイルが飛んできた。
「エリートを舐めないで頂こう。超回避!」
カワーはスキルを発動してミサイルを回避するとビコノカミに接近して、後方にまわり抱きついた。
「今だ!ヤイバ!」
「よし!【眠りの雲】!」
「馬鹿だねぇ!鉄傀儡にゃ魔法は効かないよ!」
「鉄傀儡にはね」
雲がビコノカミを包むと気密性の低い機体の隙間から雲が入り込んでくる。機体に触れた雲は霧散して消えるが幾らかは触れずに老婆の元へと届いた。
「残念!並の【眠りの雲】なら私にも抵抗出来る!それにビコノカミが空気を循環させてくれるから雲もじきに消されるはずだよ!」
ビコノカミの尖った肩のパーツが外れ、宙に浮く。
それはハチドリのように動き、尖った先の部分から細いレーザービームを撃ちだしてカワーの腕を貫いた。
「むぅ!」
「これは威力が低いからあまり使った事がないんだけどねぇ。効果あったようだね。まずは一人目!」
痛みに呻き蹲るカワーにハンマーが振り下ろされようとした刹那、空気が揺れてヤイバが姿を現した。
「【姿隠し】かい?急に現れるんじゃないよ!」
カワーを庇うように現れたヤイバ共々、ビコノカミは叩きつけるようにしてハンマーを振り下ろしたが、攻撃は何故か外れて地面を叩いていた。
「ありゃ?」
老婆の視界がぐにゃりと揺れる。
「やっと魔法が効いてきたようだな。僕の【眠りの雲】を食らってここまで抵抗できる人はそうそういませんよ」
光る眼鏡をクイッ!と人差し指で上げてヤイバはそう言うも、内心ではドキドキしている。効果がいつ現れるかは判らなかったからだ。
ビコノカミはプシューと排気音を出して膝をつくと、意識の亡くなった老婆をコックピットから出した。
「操縦者が戦闘不能。マナの供給及びメイン思考システムの喪失。模擬戦闘を終了します」
「今の戦いのどこが模擬なんだよ!カワーを殺す気満々だったでそ!」
マサヨシが人差し指を上げて、ビコノカミに突っ込んだが反応はない。
ヤイバはビコノカミの手の上でぐっすりと眠るゴブリンを見て汗を拭い、カワーの怪我を見る。
「大丈夫か?カワー。フランさん、回復をお願いします」
「は~い」
フランの【癒し】の祈りでカワーの傷はみるみる塞がっていく。
癒やしてもらいながらカワーは友人に聞いた。
「ヤイバ・・・君は眠りの効果が現れるまでの時間を知っていたのかね?」
「いや、知らなかったよ。【眠りの雲】は吸い込んだ時点で数分間は継続的に効果を発動するからね。数分間の間ずっとレジストされていたら危なかった」
「だったら、何故なにも確信が無いような状態で僕を庇った?」
「友達なんだから当然だろ」
「フン!馬鹿かね!君もハンマーで叩き潰されるところだったんだぞ!」
「だからって君が黙って叩き潰されるのを見ていられるものか!」
「ヤイバ・・・・」
男同士の間に怪しい空気を感じたワロティニスが焼きもちを焼きながら割り込んでくる。
「変な空気になってる!二人の周りにバラの花が咲いていたよ!お兄ちゃんを取らないでよね、カワー!」
「ば、馬鹿者!気持ちの悪いことを言うな!僕は男より女が好きなのだ!フランさんのようなね!」
「まぁ・・・」
「わ~、愛の告白をした~!」
「ぐわ、しまった!」
戦いの終わった草原の草を夏の風が揺らし、皆の笑い声が流れていった。
ビコノカミは開けた場所にある、さほど大きくもなく深くもないクレーターの中心地を指差した。
「ここだよ」
唯一無二の特別な鉄傀儡の操縦者―――恐らくはムロの先祖であろうドーラの声が響く。
「しかし・・・わたしゃあんたらを本気で殺す気だったんだけどねぇ・・・」
「だったらどうして、あの光線を吐くジョウロでカワーの頭を撃ち抜かなかったんですか?」
「ああ、あれかい?あれは威力が弱いからオーガの分厚い頭蓋骨を穿けないんだよ。そんな事よりも、あんたらこそ手加減をしていただろう?まるで樹族のお嬢ちゃんを相手にするように、優しく殺さないように気を使っていたのを感じたね。力こそ全ての闇側で二度とあんな真似をするんじゃないよ!殺れる時は殺る!私達の生き方はそんなもんだろう?」
「今の時代はそうかもしれませんが、僕達の時代は力だけが全てじゃない。それ以外の手段も在る。それを教えてくれた星のオーガが闇側を導いてくれているのです」
「ハッ!なんとも甘ちゃんな神様だね!サカモト神は力がなかったから邪神共々世界から消えた。神が体現して力を持てと教えてくれたんじゃないか!まぁいい。私はこれで失礼するよ。孫達が待っているからね」
「案内ありがとうございます、ドーラさん!」
「ああ、あのひゃっこい木苺は美味しかったよ!また食べさせておくれ!」
素っ気なくそう言うとドーラはビコノカミを操縦して飛び去っていった。
「どの道、長期戦になれば僕らが不利だったんだ。ビコノカミが上空から攻撃してくれば装備のない僕たちには為す術がない。それなのにドーラさんは地上での接近戦を選んだ。口は悪いけど本当は優しい方なんだ」
「で、こっからどうすんだ?宇宙船目指して掘るのか?」
一人ごちるヤイバの横でマサヨシはキョロキョロしながら掘る道具になりそうな枝か何かを探した。
すると何処からか優しそうな男性の声が聞こえてくる。
「有効なナノマシンを確認。ナノマシンタイプ、万能型亜種。船の修復が可能と認識しました。修復の為に船へ転移して頂けますか?」
「はい!」
ヤイバは神の船と思しき声に咄嗟に返事をした。この機会を逃せば二度と入れないかもしれないからだ。
「では船内へどうぞ」
船はヤイバ以外も協力者と認めたのか全員を船へと転移させた。
円形の部屋は広く、囲むように扉がいくつもあった。
「これが・・・神の船かね・・・。僕はとても感動している・・。我らの神が乗ってきた船だぞ!歴史的発見だ!」
「すごーい!お父さんの隠れ家もこんな感じなのかな?」
カワーは震えながら銀色の壁を触り、ワロティニスは興味深そうに光るパネルを見ている。
よく見るとパネル横の壁に丸い穴が開いてあり、奥には黒いドローン型アンドロイドが入っていた。
「わぁ!クロスケがいる!」
驚くワロティニスは穴の奥を更に注意深く覗き込んだが、クロスケにそっくりなイービルアイは目を閉じたままピクリとも動かない。
クロスケが閉じ込められていたの樹族の遺跡なので、このイービルアイは別の個体だろうなとヤイバは思う。
「では早速ですが、少しばかりナノマシンを頂きます」
船の中には誰もおらず、語りかけてくるのは船自身だった。
そう言われたもののヤイバの体に何も変わった様子はない。じっとしていると船は語りだした。
「万能型亜種・・・自己成長をするナノマシン・・・アリエスは初めてこのタイプを見ました。どういった経緯かは判りませんが精子の役目を果たしたナノマシンが母体を媒介して貴方という存在をこの世に生み出したのです。そしてこのナノマシンは貴方の体の中で日々成長し、貴方を助けています」
「え?ちょっと待って。精子の役目を果たしたナノマシンって事は・・・つまりヤイバはヒジリの子供じゃないって事じゃん。ナノマシンで擬似的に作られた精子で生まれた子って事になり、正確にはヒジリの子ではないよな?」
細い目を少し見開いてマサヨシは驚くと、宇宙船は答えた。
「はい、ヤイバ様は厳密には生物同士の自然交配では生まれておりません。ナノマシンの塊と母親が交配して出来た子といえます。しかしながら、ナノマシンがそのヒジリ様という方を模していたのであれば、ほぼヒジリ様の子と言ってもよろしいかと」
ヤイバは愕然とし、膝をつく。今まで神の子だと信じて生きてきた自分が、厳密にはそうではなかった事に。
己の存在が砕け散るような、得も言えぬ不安が全身を襲う。
(一体なのましんとは何だ?僕が父さんの子ではない?)
思いの外、脆く繊細なヤイバを見てフランは慌てて慰めた。
「でもほぼヒジリの子だって言ってるし問題ないんじゃないのぉ?」
「そうだよ!お兄ちゃん!私なんて、肉体的には全く血が繋がってないんだよ!見てよ、これ!マサヨだよ!マサヨ!」
「聖下が君を自分の子と認めているのだから何も気にすることはない」
すこし目を潤ませるヤイバは皆の慰めに気を持ち直したのか、三人を抱きしめてありがとうと感謝を述べあ。カワーだけは抱きしめられて耳が真っ赤だった。
それを離れた所で見るマサヨシはぼっちな気分になり思う。
(しまったっー!いらん事言わなければ良かったぁ!俺のあのハグに加わりてぇ!)
居心地が悪くなり、話題を変えようとマサヨシはアリエスに話しかけた。
「何でサカモト博士はお前を捨てていったんだ?」
「失礼な!博士はアリエスの事を捨ててなどいません。宇宙船”星座”シリーズの第一世代であるアリエスには色々な事情により自己修復機能が無いのです。アンドロイドにもアリエスを修復する権限はありません。なのでここで博士がアリエスを直せる機会を待っていたのですが、博士はこの星への興味を優先して旅立ってしまいました。それ以来、数千年前に博士の反応が消えてから放置されたままなのです」
「ふーん。そう言えば何でドーラとかいうゴブリンのババァはお前の事を知っていたんだ?」
「広域センサーも壊れてしまいましたので、近くを通るナノマシン保持者へ声をかけていたのです。殆どの方は幽霊か何かだと思って逃げてしまいましたが、ドーラ様だけはしっかりと話を聞いてくれました。残念ながらドーラ様のナノマシンは修復に役に立ちませんでしたが・・・」
「あのババァ、体内にナノマシン飼ってやがったのか!道理でヤイバの魔法にしぶとく抵抗したはずだわ。オフフッ!」
「サカモト様に近しい者は皆ナノマシンを注入されております。なのでその子孫であるドーラ様のような方は怪我や病気の治りが早かったり、魔法に対する抵抗を持っていたりします。代を重ねていくごとにナノマシンは減っていきますのでヤイバ様のような方は非常に珍しい存在でしょう。お陰様で一ヶ月もすれば機能を完全回復出来ます」
「でもサカモト博士がいないんじゃ動きようがないな・・・。復活するまでのあと十世紀、じっと待ってるしか無いぜ?」
「何故そのような未来予測をするのでしょうか?博士が復活、とはどういう事でしょうか?」
「俺らは未来から来てるからよ。博士は・・・どうやって復活したんだっけ?」
「イグナ母さん曰く、特殊な召喚術で時の止まった空間から召喚されたと言っていました」
「別宇宙の亜空間から博士を召喚したと・・・?常々思っておりましたが、この世界の魔法というものは我々の常識を超えていますね。ところで貴方がたは自由に時間を移動出来るのですか?」
「それを聞くか~・・・。答えはノーでつ。俺たちもいきなりこの時間に飛ばされたんよ。だから帰る手段を模索してるところだ。宇宙船がそれを聞いてくるって事は、この船に未来に帰る手段を見つけるのは無駄だな。まぁ手段があればサカモト博士はとっくの昔に未来に帰っていたか。さて次の目的は異世界を映す三面鏡だな」
マサヨシの話に優し気な男性の声は元気なく答える。
「そうですか・・・。未来のサカモト博士は元気そうでしたか?」
「知らねぇよ。会ったことねぇし。でも地球には帰ったぜ?そん時はお前も一緒だったんじゃないかな?」
「それは良かった!」
あのー、とイッチがおずおずと手を上げた。
「そろそろ本題を切り出してもよろしいでしょうか?」
今更ながら人知を超えた存在である神の船や、未来から来て尚且つサカモト神を語るマサヨシ達に怖気づいたのか、小さな樹族の少年は畏まっているように見えた。
イッチは説明を終えると神の船の反応を待った。
「残念ながら、貴方の願いを聞くわけにはいきません」
返ってきた返事にそのような予感がしていた少年は、それでもと諦めなかった。
「お願いします、この子の父親の命がかかっているんです。キャンデの父親を死なす事無く解決する方法はこれしかないのです!都合の良い話だとは思いますし、神の船である貴方にはそんな願いを聞く義理もないのは承知ですが、どうかお願いします」
キャンデもイッチの横で頭を下げている。ギュッとスカートを握り、目には涙が溜まっていた。
「アリエスとしては貴方がたを助けてあげたいのですが、システム上絶対に無理なのです。何か一つ博士の許可になるような切っ掛けがあれば、それを貴方がやった事だとしてもアリエスを縛るシステムが許可を出してくれます。声紋、生体認証、パスワード・・・。原住民への遺伝子改造自体は認証が緩いので何か一つでもいいのです」
「って言ってもな~」
マサヨシは禿頭をボリボリと掻いてキノコの胞子のようにフケを撒き散らした。
飛び散ったフケはアリエスが瞬時に消し去る。
「博士と親しければパスワードぐらいなら何とか思いつくかもしれないけど、残念ながらこの中で博士と親しい奴なんていねぇし。生体認証、声紋は言わずもがな・・・。サカモト博士ってどんな人だっけ?見た目に何かヒントがあるかもしれないぞ?」
「では生前のホログラムを見せましょう」
部屋の真ん中に音もなくサイドだけがアフロヘアーになった老人が寝そべった姿で現れた。
「なぁ~頼むよ、ウィスプ~。綺麗なお姉ちゃんを出してくれ~」
「だ、ダメですよ!またエッチな事するんでしょ!ホログラムにも人権はあるんですよ!」
「ハー!ウィスプのケチンボ!もうお前には頼まん!アリエス!綺麗なお姉ちゃんを出してくれ!」
「ホログラム機能は現在使用出来ません。どうしたんです?急にお盛んになられましたね」
「よくわからんが、ワシにも春が来たんじゃ~。ん?おい、モニターをよく見せてくれ!」
モニターには粗末な麻の服を着た少女が映っていた。
山菜を積みに来たようで船をしきりに気にはしているが、何もしてこないと知ると忙しそうに場所を移動して山菜を摘んでいる。
「か、可愛い・・・。こないだ様子を見に来た男どもと違ってこの子は可愛い・・・。濃い緑の肌が気味悪いが顔自体はべっぴんさんじゃ!」
「まさか博士・・・ナンパしに行くんじゃ・・・」
「ハッハッハ、馬鹿なことを言うでない、ウィスプ。ワシはもう歳じゃぞ。それに感情を制御できる誇り高き地球人でもあるのじゃ。・・・・やっぱたまんねぇ!ワシの青春はこれからじゃぁぁああ!」
「博士~~~!」
一同はポカンとして口が開いたままだった。
「こ・・・これが我らが闇側の始祖神・・・」
「ただのスケベェな老人ではないか・・・」
「そうねぇ・・・。お姉ちゃんの獣使いの師匠みたい・・・」
「何がワシの青春はこれからじゃあぁ!だよ、禿げ爺。連載を途中で打ち切られた漫画みたいな終わり方しやがって・・・」
「そんなに酷く言わないで下さい。当時、何らかの理由で博士は劣情に関する制御が難しくなっていたのですから。ところで何かヒントになるようなものは?」
「あるわけないだろうが!」
マサヨシが勢い良く突っ込んだ後ろで、サカモト博士の声がした。
「イッチのお願いを・・きょ・・・許可します」
拙くぎこちないサカモト博士の声はキャンデが魔法で声真似したものだった。
「声紋が一致しました。実験ルームへどうぞ」
部屋を囲む扉の一つがシャッと開く。
信じられない展開に、マサヨシはブバッと鼻水を噴射して驚いた。鼻水は床に落ちる前に光って消え去る。
「んーな、アホな~!録画の声を真似した所でそれは録画の声でしょうに~!」
「アリエスも驚きました。普通はそうなるはずなのですが、彼女は完璧に博士の声を再現していたのです」
「恐るべし【声真似】の魔法。何の魔法がどこで役に立つかはわからないものだね。僕も直ぐに習得しなくては!」
皆と一緒に実験ルームに来たキャンデは神の船に命令したことにまだ緊張しているのか息が荒かった。
「そもそも科学が進んだ時代に声紋認証ってのもおかしな話でつね」
「ええ、かなり古い認証システムですが何故か組み込まれておりました」
「まぁそのお陰で一つ目の目的は達成できそうだから良かったけど~」
いくつか並ぶ縦型カプセルの内、二つが開いた。
「そちらの樹族のお二方でよろしいのですよね?」
アリエスが聞くと二人は驚いた。イッチは恐る恐る神の船に聞く。
「薬を貰えるとか、方法を教えてくれるとかじゃないのですか?」
「いいえ、そのカプセルに入って下さい。直に遺伝子改造を行います。稀に適合が上手くいかず死んでしまう方がいますがご容赦下さい。因みに再構成蘇生は博士本人の許可が必要ですので出来ません」
一同に衝撃が走る。ここまでリスクが高いとは思っていなかったからだ。
「し、死んでしまうだって・・・?」
「はい、稀によくあることです」
「稀なのか、よくあることなのかどっちだよ!」
静まり返る実験ルームで、樹族の二人が生唾を飲み込む音だけが響いた。
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