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禁断の箱庭と融合する前の世界(84)
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獣人戦役で現人神ヒジリを守り、アルケディア城で老衰でこの世を去った英雄ドワーフ、ドワイトの息子は錆色の髭を興奮して引っ張りながら驚いている。
「暗殺稼業で何とか収入を得ていた帝国の最貧国が、こうも発展するとはのう」
当時の皇帝であったゴブリンの大魔法使いチョールズ・ヴャーンズの家族を暗殺し、怒りを買った一族が住むこのバートラは、かつて暗殺業で成り立つ帝国の最貧国であった。
良質な木材が採れ優秀な職人も多いが知名度が低く、それに目をつけたヒジリが彼らを支援しブランド化に成功して現在の繁栄がある。
ゴデの街のピンクのお城の横にあるヒジリの書斎は、慣れない日本の建築技法に四苦八苦しながらバートラの職人が建てた純和風の小さな平屋だ。
「帰りにバートラの木工職人の仕事ぶりでも見学していくかの」
質素で軽く機能的な革鎧を着るドワームは胸のポケットから紙を取り出すと、仕事の依頼主であるムロという名のゴブリンの家を垂れた眉毛の奥から探した。そして何もない丘陵地帯まで歩いてきて立ち尽くす。
「ここいらのはずなんじゃが・・・」
突如空間が歪み、ゴブリンの老人が現れて半円形の目がドワームを探るように見据えた。
「よく来たな、ドワーム・ステインフォージ」
「あ、貴方は、ヴャーンズ様!」
跪こうとするドワームを手で制し、年老いたゴブリンは杖に寄りかかると鼻を鳴らした。
「様は要らん。今は城から退き、ただのヴャーンズじゃ。ムロに呼ばれて来たのであろう?案内してやろう」
そう言って何か言おうとしたドワームの胸に元皇帝は杖を当てると詠唱を始め、二人は転移して消えた。
ドワームはいきなり目の前に鉄傀儡が現れて驚く。
実際はドワームが鉄傀儡の前に瞬間移動したのだが、いきなりのことで彼は頭が混乱している。しかしなんとか状況を飲み込み、目の前の鉄傀儡を観察し始めた。
「この鉄傀儡は他のとは違うな・・・」
そう言ってドワームは驚いた顔を直ぐに取り繕い、髭を撫でて誤魔化す。
確かに依頼主の機工士の鉄傀儡は他の物に比べ尖ったデザインをしており、若干貧弱に見える。機体のあちこちに打痕が見え、装甲が劣化しているのが一目で解った。
「一応聞くが、これをどうして欲しいのじゃね?ムロ殿」
ゴブリンの機工士ムロは如何にも困ったという顔をして腕を組み、鉄傀儡を見ながら返事した。
「装甲の補修と強化をお願いしたいのです。以前は放っておけば直ったんですが・・・」
ドワームは父親と同じ錆び色の髭をしごいてウームと唸る。
「はぁ?放っておけば直ったじゃと?トロールじゃあるまいし。馬鹿な話じゃ。それに帝国にはワシ以上の腕前の鍛冶屋は沢山おる。何故他の鍛冶屋に頼まないんじゃ?」
「それが・・・、実は既にお願いをしたのですが、鉄傀儡に関わるのを嫌がる人が多くて・・・」
中年のドワーフは髭から手を離し今度は、ウェーブのかかった広がる錆色の長髪に手を入れて忙しそうに頭を掻いた。
「何故じゃ?ワシは下手の横好きで鍛冶仕事にばかり従事しておったから世間には疎い。笑わんでくれよ」
「笑うなんてとんでもない。でも・・・だからこそ、お願いしたのです。それに貴方は英雄ドワイト様の息子です。なので豪胆な方に違いないと思いまして」
「親父は親父じゃ。じゃが覚悟を決めたドワーフは皆、豪胆なものじゃぞ?グッハッハ!」
笑ってから爪の中に入ったフケをふうと吹き飛ばして、「それで鍛冶師が鉄傀儡を嫌う理由は?」と訳を聞いた。
「鉄傀儡は呪われているから、だそうです」
「なんじゃと?鑑定はしてもらったのか?」
「勿論、ゴデの街の高名な占い師に鑑定はしてもらいました。結果は白です。呪われてなんかいませんよ。大体呪われていたら操縦する僕は既に死んでいるはずなんですから」
ゴブリンの男性にしては鼻が長く尖っておらず、女性のような顔立ちをしたムロは何度か仲間に馬鹿にされたであろう低い鼻を掻いて答えた。
「じゃあ何故じゃ?呪いはかかってないのに何故鍛冶師共は逃げたんじゃ?」
「聞いたこと無いですか?鉄傀儡に乗ったり関わったりする者は悲惨な最期を迎えるって話」
「だから言っとろう。ワシは世間に疎いと。それにそれは迷信の類じゃ。実際は呪われてはおらんのなら問題は無いわ。仕事の依頼は受けてやってもいいぞ。ところであの金属は何じゃ・・・」
ドワームは格納庫の中をキョロキョロと見渡して、隅においてあった金属の端材を手にとって見つめた。軽くて柔軟性がある。腰のハンマーで強く叩いても大して凹まない上に直ぐに凹みが無くなった。
「これを加工するのは至難の業じゃな。恐らく鉄傀儡と同じ金属じゃろう?鉄傀儡のスペアパーツが何処かにあるはずじゃが、どこじゃ?」
「それが、この格納庫に十何年も居ながら未だにどこに何があるかが判らないのです」
ドワームは巨人が何人も住めそうな広い格納庫を見て早々に探索を諦め、目をぐるりと回した。
それから杖に寄りかかってじっとこちらを見つめるヴャーンズに聞く。
「貴方にこれを聞くのは愚かだと思いますが、陛・・・ヴャーンズ殿はここで【秘密探し】を試されましたかな?」
視線を全く動かさない元皇帝は、老いに対して意地を張っているのか近くの椅子に座ろうとしない。
「無論だ。だがこの建物の壁は先代のヒジリ皇帝の如く魔法を通さん。やるだけ無駄だった。ここへ転送が出来たのも入り口が開いておるからだ」
「なんと・・・。魔法を完全に遮断する素材があるとはの・・・」
錆色の髭を興奮しながらグイグイと引っ張ってドワームは物欲しそうに壁を触った。
「となると、優秀なレンジャーかスカウトを連れてくるしかないの。しかし、最近のレンジャーは二刀流で前衛に躍り出てくるわ、探索もマジックアイテムに頼るわであまり好かん。地味な作業を嫌う今の彼奴等はこの格納庫では役に立ちそうにないのう。昔ながらの実のある技術を使うレンジャーでも呼んで・・・」
知り合いの昔気質のレンジャーやスカウトをドワームは思い浮かべたが、誰もが老齢で能力も衰えている。
「う~む、レンジャーやスカウトの心当たりがない・・・。いや!待てよ?親父が孫のように可愛がっていた地走り族のレンジャーがいたはずじゃわい!感の鋭い子じゃと何度も聞かされたのを覚えているぞ」
「ヘーークショイィ!」
コロネは横を向いて色気も何もない大きなクシャミをするとハンカチで鼻をかんだ。
妹のクシャミに迷惑そうな顔をするフランは食べようとしていた自分のケーキが皿から無くなっている事に気がつく。
「ちょっとぉ!何であっちの大皿から取らないのよぉ。もういい大人なんだから、そういうイタズラは止めなさい!」
口いっぱいにブルーベリーケーキを頬張るコロネはニヤニヤしている。ゴクリと飲み込むと、テーブルに近づいてくる見知らぬ地走り族の女性をクリームの付いた指で差した。
「ほら!また祝福してくれって来てるよ!聖騎士様は大変だな!」
「もう!」
フランは女性が抱える子供の額に手をかざして「母と子に最高神の祝福がありますように」と言うと、微かに輝く光が母子を包んだように見える。
「フランさんは有名人だから仕方無いですよね。たまにアルケディアに出掛けますが、フランさんのグッズが普通に売ってますし。いいなぁ。僕も有名になりたい」
夕食を同席すると約束していたヤイバはフランの人気っぷりを少し羨む。
「そうなのよ、一人で外歩くのも大変なのよぉ?ヤイバが近くに居てくれれば少しは皆も遠慮して近づいて来ないかもぉ。今度お供してねぇ?」
タスネが鉄騎士入団祝いに選んだ酒場は上品な店ではなく、昔は飲んだくれが屯していた竜の歯ぎしり亭という名の庶民的な店であった。
なので樹族国から聖地巡礼にやって来た樹族や地走り族、ヒジリを神と崇める帝国のオーガ達は、星のオーガの盾であるフランを見るとこぞって祝福をせがむ。
「タスネさんが、この店を選んだのって父上繋がりでですか?」
「そうよ。だって看板にデカデカと書いてあるじゃない。最高神が帝国で立ち寄った唯一の店!って」
「引退する前のヴャーンズさんの使い魔に聞きましたが、ここにはほんの数分しか居なかったそうですよ」
「えーー?そうなの?この店の店主が大げさにヒジリとの出会いを語るから信じちゃったよ」
話の途中で扉からヴャーンズの使い魔であるサキュバスのウェイロニーが入ってきた。ウェイロニーはヤイバに気が付くと手を振ってから手招きした。
ヤイバは何だろうとウェイロニーに挨拶をして話を聞くと、彼女は主が魔法に使う触媒を買いにツィガル城下町にやってきたという。どこの触媒屋の物が一番品質がいいのか、メイジでもあるヤイバに聞いたのだ。
これまでニコニコしていたワロティニスの顔が急に曇る。
戻って来た兄に鋭い視線を向ける。
「お兄ちゃん!あのサキュバスとお話したの?いやらしい!」
「なんでだよ!話すぐらい普通だろう!(ピャッ!ヤキモチを焼くワロ、可愛い過ぎ)」
「どうせ後で変な事してもらうんでしょ!馬鹿!」
「変な事ってなんだよ・・・(あぁ、もっとだ、もっと嫉妬してくれ!)」
ワロティニスは怒った勢いで立ち上がり、店から出ていった。
直ぐにヤイバは追いかけようとしたが、ヘカティニスに止められる。
「どうせ、すぐ戻ってくる。気にするなヤイバ。あいつは昔っからヤキモチが酷いんだど」
「あら?ヤキモチならヘカも相当でしたけど。あの時のパンチは防御の上からでも響いてきましたわよ?」
リツが太い眉の片方を上げてニヤニヤしている。
「あの時ってどの時だ?」
リツはズルっと転けてゴニョゴニョと、昔、魔法人形をヒジリだと思い込んで寝床を共にした時の事を告げる。
ヘカティニスもリツも、ヒジリと同じ生体機能を持つ人形と交わって子を宿した。
ヘカティニスはその事でリツとハッキリとした三角関係になり、取っ組み合いの喧嘩をしたのを思い出す。
「ば、バカッ!」
ヘカティニスは顔を真っ赤にして、もうその話はいいといった感じでステーキを頬張った。
ワロティニスは兄が追いかけてこない事に落胆して、広場の噴水のヘリに座り込んでいる。
「何よ、お兄ちゃん。私の事、何とも思っていないの?ちょっと戻って様子見てこようかな?」
しかし頭を振って自分を制する。
「駄目だよ。お兄ちゃんが来てくれないと!私が行ったら負けだよ!」
ううと呻いて意地を張るワロティニスの背後に大きな影が差す。
兄が追いかけてきたと期待を込めて振り向くと、そこには白髪のオーガの夫婦が目に涙を溜めながら、ワロティニスを見つめていた。
「何度も映像で見てはいるが、今一度確認する。この子で間違いないな?カプリコン」
(はい、マサムネ様。ヤイバ様も近くの酒場におります)
白髪でダンゴヘアーの女オーガは泣きながらワロティニスを抱きしめた。
「ちょっと!何ですか?急に!」
困惑しつつもワロティニスは女オーガの肩越しに男を見た。白髪のオールバック以外、顔のパーツは見覚えがある。
(お父さんにそっくり!え?え?)
「ハルコ、私にも孫を抱かせてくれ」
ハルコと呼ばれた女性はワロティニスを離すと、今度はヒジリの父親であるマサムネはそっと孫を抱きしめる。
「君はお母さん似なのかな?それでも仕草や癖は何処と無くヒジリに似ている。君が生まれてきてくれて私は嬉しいよ」
どう見ても彼らは自分の親族であり、自分を孫と呼ぶ男にワロティニスは照れながらも素直に身を委ねた。
「お爺ちゃん・・・なの?」
「そうだ。ヒジリの父親と母親だ。私はマサムネ」
「私はハルコよ、宜しくね。ワロティニスちゃん」
優しく囁くような声と活発そうな声が自己紹介をする。
ワロティニスは嬉しくなって無邪気に飛び跳ねた。
「なんで私の名前を知ってるの?」
「そりゃあ、遥か遠くから貴方達を時々見ていましたもの」
「そうなんだ?わーい!お爺ちゃんとお婆ちゃんが来てくれた!お兄ちゃんに教えてあげないと!来て!早く早く!」
ワロティニスは二人の手を掴むと興奮しながら強引に酒場まで引っ張っていった。
酒場ではヤイバがドアを何度もそわそわしながら見つめている。
「やはり何かあったのでは?戻って来ないですよ、ワロティニス!」
ヘカティニスは眉間に皺を寄せてヤイバを見る。
「まだ十分も経ってないど。心配し過ぎだ」
ヤイバが堪らなくなって席を立とうとしたその時、酒場のドアが開いた。
「ヒジリ!」
「あなた!」
ワロティニスに手を引かれて入ってきたオーガを見て、ヘカティニスとリツが驚いて勢い良く席を立った。
「ヒジリのお父さん!」
イグナだけは彼がヒジリではない事をすぐに見抜き、扉の近くまで駆け寄る。
獣人が樹族国の城に攻めて来た時に、人知れず獣人と戦って静かに星の国へ帰ったと言われているヒジリの父親がそこにいた。
「やぁイグナ君。よく私の事を覚えていたね」
「だって顔がヒジリと同じだから」
「おっと!間抜けな質問をしてしまったか?ハハハ!」
年老いて昔よりも声に張りが無くなったマサムネの笑い声はどこか弱々しかった。
笑いながらもマサムネは初めて会った時から見た目の変わらないイグナの頭を優しく撫でて微笑む。
その様子を見ていた周りの客達が大きく騒ぎだす。
「現人神様じゃねぇのか?あれ・・・?復活なされたのか?」
タスネは騒ぐ客を見て、大騒ぎになる前に店の外に出ようと皆に言おうとしたが、コロネが機転を利かせてどら声で皆に言った。
「残念でしたー!彼はそっくりさんだぞー!」
客達は「だよなー」と言って着席すると急速にマサムネに興味を失っていった。
世界のどこにでも現れるヒジリの偽者に一々怒る者はいない。オーガは皆ヒジリに憧れを抱いて真似をしたがるからだ。
コロネの頭の速さにヤイバは感心して彼女を褒めた。
「流石、これまで機転で苦難を乗り越えてきたレンジャーだけはありますね」
「だろ?皆もっと私の事を褒めるべきなんだよ」
確かに過去の冒険でタスネ達はコロネに何度も助けられている。
素早い罠の察知や、敵に囲まれた時にその場を切り抜ける言葉、遠距攻撃での援護。しかし人望が無いせいか彼女の扱いは軽い。
タスネは自分を褒め称えるよう両手を広げて煽るコロネを小突いて言う。
「ほら、ヒジリのご両親に椅子を用意しなさい」
それを聞いたヤイバが慌ててコロネの代わりに空いた椅子を掴むと、立ったままのマサムネとハルコの後ろに置いた。
「まぁ・・・!ヤイバはほんとヒジリにそっくり!ねぇ、あなた」
「本当にな・・。それどころかヒジリよりも随分と背が高いし体格もいい」
ハルコは涙を堪えてヤイバに抱きついた。
「ヒジリよりも人当たりの良い顔をしているわ。誰にでも好かれそうな優しい顔。お婆ちゃんにもっと顔を見せてご覧なさい」
頭の回転の早そうな祖母の顔がヤイバの顔を両手で押さえまじまじと見つめてくる。
ヤイバは祖母が顔を見やすいように跪くと、見つめてくるハルコの視線にどう反応したものかと目をキョロキョロとさせた。
(なんだろう、凄く照れくさい)
顔を赤くして祖母の視線に耐えていると、マサムネが割り込んでくる。
「私にもハグをさせてくれ」
そう言って自分より頭二個ほど背の低い祖父はハグをしてきた。
(もし父上が生きていて抱きしめてくれたなら、こんな感じだったのだろうか?)
小さな祖父にハグされながらもヤイバは自分のこれまでを振り返った。
厳格なエリートオーガの生活の中で、自分は誰かに甘えた記憶は果たしてどれくらいあっただろうか。
母上は時々抱きしめてくれたり撫でたりしてくれたけど、父親の役目をしてくれる人は身近にはいなかったように思う。
母方の祖父はヤイバが生まれる少し前に病で他界している。
物心付いた頃に母親に連れられて謁見室で会った皇帝は「小生は、君の父上の友人なのだ。だから父のように慕ってくれていいんだヨ」と言ってくれたが、やはり皇帝という身分に怖気づいて馴れ馴れしくはできなかった。
「父上・・・」
孫の小さな呟きを聞いてマサムネは胸が締め付けられる。
「すまない・・・。君の父親を助けられなくて・・・。私は息子の為に地球の法・・・星の国の法を破ってでもこの地に留まるべきだったのだ。言い訳するようで恥ずかしいが、ここに来れなかったのも渡航許可が下りなくてね。十何年もしつこく政府に申請してようやくマザーコンピューターが認めてくれたのだ。息子にも君達にも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。すまない」
頭を下げる祖父を見てヤイバは慌てる。
「どうか謝らないでください、お祖父様。お祖父様があまりに父上に似ていたものですから、つい・・・。僕は嬉しいのですよ、父親に抱かれてるような気がして」
マサムネもハルコも声を噛み殺すように泣きながらヤイバを抱き締める。この場にヒジリがいたら孫はどれだけ喜んだだろうか。出来る事ならヒジリを再構成蘇生したかったが、行方不明扱いの者を再構成する事は人口管理の厳しい地球では重罪だ。
「場が湿っぽくなるな。これ以上泣くのはよそう。ハルコ」
「そうね」
二人は涙を拭くとニコッと微笑んだ。
リツがマサムネとハルコのゴブレットにぶどう酒を注ぐ。
「今日はヤイバが鉄騎士団に入団したお祝いの日なんです、どうぞ一緒に祝ってやってください、マサムネお父様にハルコお母様」
「それは本当かね?なんて素晴らしいタイミングだ!おめでとう!ヤイバ!」
ワロティニスがマサムネの横に座って嬉しそうに祖父や祖母に報告する。
「お兄ちゃんって凄いんだよ!入団試験は全部トップだったんだって!そうでしょ?リツ母さん!」
リツはチラチラとマサムネを見てヒジリを思い出したのか、頬を赤く染め眼鏡をスチャッと上げて自慢気に言う。
「まぁ当然ですわね。我々はエリートオーガの中でもエリート中のエリート。それにヤイバの父は神なのですから。でも私、ゴデの街で占い師にヤイバの能力を調べさせた時はとても落胆したんですのよ?能力値が超弩級なのに素性が魔法使いでしたから」
「ムッ」
イグナが不愉快な顔をする。
「お陰で彼は回復以外何でも一人でこなせる。歩く魔法要塞」
「あら、勿論貴方の指導には感謝してますことよ?ただオーガメイジはオーガ達の間ではあまり良い顔されませんの。オーガは接近戦で力を見せつけてこそオーガなのですから。ヤイバは純粋な接近戦でこれと言った攻撃力がないのが玉に瑕ですわね。魔法に頼り過ぎています。対策された時に一気に対抗手段が減るのが心配ね」
リツの話を聞き、彼女をじっと観察して、ハルコは物思いに耽りだした。
「地球人とオーガの子供はどうも強くなるみたいね・・・。きっとサカモト博士が作った初期のオーガはヤイバ並に強かったんじゃないかしら。放置されベースとなった類人猿寄りになった所為で本来の能力が劣化し・・・」
「おい、心の声が漏れているぞ。ハルコ」
マサムネの指摘で我に返りハルコが黙ったのを見てタスネが笑う。
「ウフフ」
ヒジリがすぐに学者染みた事を言うのは母親に似たからなんだと、ハルコを見て納得した。
誤魔化すように咳払いをしてマサムネはヤイバを褒め始めた。
「ヒジリにこんな有能な息子がいて私は鼻が高い。ワロティニスちゃんもヒジリの能力を引き継いでいそうだね」
ワロティニスは微妙な顔で微笑んでいる。
「お兄ちゃんと比べたら私なんて全然・・・」
謙遜するワロティニスをフランがフォローする。
「それでも砦の戦士たちについていけているんだから凄いじゃない。私達なんてねぇ?お姉ちゃん。若い頃はヒジリに頼りっぱなしで、ぐうたらだったわよねぇ?」
フランがタスネに同意を求めると姉は口をへの字に曲げて語る。
「私はね、あの頃は成るべくヒジリに頼らないようにしていたから、ぐうたらしている暇なんて無かったわよ?」
姉の苦労話が始まりそうだと察したフランはサッと話題を変える。
「そういえば・・・ほら、ワロちゃんは格闘家にバッチリ向いてるじゃない?それはそれで方向性が決まってて良い事よ。それにヒジリだって格闘家だったし、中身は絶対お父さん似よぉ?」
フランの言葉にワロティニスの顔がパァァと明るくなる。
「私、似てるのかな?お父さんに」
ヘカティニスが答える。
「ああ、似ているど。特に考え事している時に顎を擦る癖は父ちゃんにそっくりだ」
ヒジリの癖を知っているハルコもフフフと笑う。
「でも貴方のお父さんは、格闘家の貴方のようにハッキリと進むべき道が決まってはいなかったわ。いつも”何でも出来るけど何も出来ない“と嘆いていたの。彼を器用貧乏だったからね。それはヒジリをそのようにデザインした私達の所為だったから、いつもその事で彼に負い目を感じていたわ。だから貴方はお父さんの代わりに一つの道をつき進んでみるのも良いかもしれないわね」
タスネは目を丸くして驚いた。
「へ~、ヒジリも色々と悩んでいたんだね。器用貧乏と言っても上振れしてるから万能って言った方がいいんじゃないかしら?涼しい顔で何でもやっちゃうから悩みなんて無いのかと思ってたわ」
「あの子は誰かの隙間を一時的に埋める存在に満足してなかったみたいね。私たちは幅広く多くの人を助けることが出来る事は素敵だと思っていたのだけど、あの子には苦痛だったみたいで・・・」
ハルコの話の途中に天井から今しがた寿命を終えたクモがぽとりと落ちてきて、タスネがギャッ!と悲鳴を上げた。
それを見たハルコは何かを思い出したようにまた話しだした。
「それにヒジリは身近な人や動物の死に対して物凄く怯える子でね。飼っていたペットが死んだ時は失神しちゃったのよ。再び蘇る事を知っているはずなのにショックを受けていたわね」
ワロティニスは祖母の話の前半で父親が万能だったと理解できたが、死の身近なこの世界では、話の後半を理解することは出来なかった。
「お父さんって割りと繊細だったのね・・・」
オーガにしてみれば、仲間の死に一々失神していたら戦場では生きていけない。父親の弱い一面にワロティニスはなんとも言えない気持ちになった。
父の弱さに対して、軽い嫌悪が顔に浮かんでいた妹に気がついた兄は諭すように言う。
「ワロティニスは僕が死んでも平気なのかい?」
「イヤだ!お兄ちゃんが死んだら私も死ぬ!」
「ほら、ワロティニスだって父上と一緒じゃないか。父上はそれがちょっと極端だっただけさ。オーガだって悲しい時は悲しい。ただそれを表に出すと馬鹿にされるから皆隠しているだけで、実際は誰にでもある感情なんだよ」
兄に叱られたと思ったのか、ワロティニスはしょんぼりとして頷いた。
(フォォォォォ!フォアッ!フォアッ!可愛いぃぃ!しょんぼりするワロちゃん可愛いぃぃぃ!)
内心狂ったように喜ぶヤイバをイグナがジト目で見つめていた。
(し、しまったぁぁぁ!イグナ母さんは【読心】を使っていたのか?【魔法探知】!)
ヤイバの瞳が青白く光った、【魔法感知】のかかった瞳で物を見るとマナを帯びた物は青白く光る。
その瞳でイグナを見るも青白く光っているのは装備だけで本人から光は出ていない。
(ホッ!【読心】していなかったか。そう言えば、イグナ母さんはいつもあんなジト目だったな。久しぶりに会ったから忘れていたよ・・・)
安心したヤイバは、慰めようと妹の手をテーブルの下で握りニコッと笑う。
「怒ってないから。しょんぼりしなくていいぞ」
ワロティニスも直ぐに笑顔になりニコニコして腕に抱きつこうとした時、コロネの近くにサキュバスのウェイロニーがドロンと現れた。
ヤイバを見つけて声をかける。
「ヤイバ!さっきは良いお店紹介してくれてありがとうね。ところでもう童貞は捨てた?まだだったらお姉さんに一番搾り頂戴ね?お姉さん頑張って特別にピーーーーしてぇ・・・ピーーーーもしてあげ・・・・」
突然サキュバスから音が消えた。眉根に皺を寄せるイグナがワンドを一振りして【沈黙】を唱えたのだ。
ウェイロニーは肩をすくめて溜息を付き、丸めた羊皮紙をコロネに渡すとコウモリに姿を変えて酒場の窓から飛んでいってしまった。
「なんだ?私に手紙?」
コロネは羊皮紙の紐を解いて読み出した。
「お!おっちゃんの息子からの依頼だ!」
「なんて書いてあるの?おっちゃんって誰?」
タスネが聞くとどら声が返す。
「おっちゃんつったら、ドワイトのおっちゃんしかいないだろ」
「知らないわよ、そんなの」
「えーっと、鉄傀儡の格納庫の調査を依頼する。依頼料金貨三枚。バートラにて待つ、だって」
羊皮紙に簡単な地図と住所が書かれていた。
「安いな~。金貨三枚って・・・」
タスネがコロネの頭を軽く小突く。
「何言ってんのよ。貧乏な昔だったら大金だったしょうが!あの頃を思い出してどんな依頼も受けなさい!それに普通は地道に依頼をこなして名声なり二つ名なりが付いて来るのよ?貴方が有名なのって変なガラクタを欲しがるマニアの間だけでしょうが!何なの?マニアックハンターって二つ名!もっと頑張って良い二つ名を貰いなさい」
「ヒジリのお陰で名を上げたタスネお姉ちゃんがそれを言うと何か微妙な気分になるな」
「あのね、アタシだってね!あの時はあんた達に食べさせるためにとても苦労してたんだよ!」
何かあるとすぐに姉の苦労話は始まる。コロネは意識を宇宙空間に飛ばして白目で話を受け流す。
「・・・~でガサツだから彼氏も出来ないんだよ、コロネ!聞いてるの?」
苦労話がいつの間にかコロネの素行の話や行き遅れの話になっており、それは関係ないだろ!と心の中で思っているとヤイバがコロネに救いの手を差し伸べてくれた。
「で、コロネさんはその依頼受けるんですか?バートラでしたら、僕も初任務で赴きますし一緒にどうですか?」
コロネは裏返っていた碧眼をグリンと元に戻し、ヤイバの腕に飛びつく。
「良いのか?道中一人は寂しいと思ってたんだ。ヒジリん時みたいに抱っこして【高速移動】で送ってくれよ!」
(か、顔が近い・・・)
フランの顔から派手さを無くして胸を小さくしたようなコロネのスレンダーで露出の多い体から自分の左腕に体温が伝わってくる。と同時に、右膝に痛みが走った。
「お兄ちゃん!!」
ふくれっ面をしたワロティニスがにこちらを睨みつけている。
(はわぁ~!その膨れたほっぺをハプハプしたいぃ~!)
が、勿論ヤイバはそれを表情に出さない。
「仕事のついでにコロネさんを送るぐらいいいだろ。バートラには強力な鉄傀儡がいるんだ。ちゃんと管理されているか、不穏な空気はないか視察に行くんだよ」
「私が心配しているのはコロネさんじゃないの!バートラに行った時にヴャーンズさんに会うでしょ?となると、さっきのサキュバスに会うってことだよ?あの悪魔、お兄ちゃんにエッチな事言ってた!」
「馬鹿だなぁ・・。そんな変な事するわけないだろ。(お兄ちゃんが好きなのは可愛い妹だけだよ)」
ヤイバはこっそりとワロティニスの耳元でそう囁くと、彼女は金色の瞳を丸くしてネコのようにニャッ!と叫んで喜び、ヤイバの右腕に頬や頭をスリスリしだした。
「匂い付けしたからね!」
嬉しそうにそう言うとぶどうジュースを一気に飲んで満足そうにゴブレットを掲げた。
「お兄ちゃん万歳!鉄騎士団万歳!ツィガル帝国万歳!」
コロコロと表情が変わるワロティニスにマサムネやハルコは幸せそうな微笑みを向ける。
人で賑わい盛り上がる週末の竜の歯ぎしり亭でヤイバの入団祝いは夜遅くまで続いた。
「暗殺稼業で何とか収入を得ていた帝国の最貧国が、こうも発展するとはのう」
当時の皇帝であったゴブリンの大魔法使いチョールズ・ヴャーンズの家族を暗殺し、怒りを買った一族が住むこのバートラは、かつて暗殺業で成り立つ帝国の最貧国であった。
良質な木材が採れ優秀な職人も多いが知名度が低く、それに目をつけたヒジリが彼らを支援しブランド化に成功して現在の繁栄がある。
ゴデの街のピンクのお城の横にあるヒジリの書斎は、慣れない日本の建築技法に四苦八苦しながらバートラの職人が建てた純和風の小さな平屋だ。
「帰りにバートラの木工職人の仕事ぶりでも見学していくかの」
質素で軽く機能的な革鎧を着るドワームは胸のポケットから紙を取り出すと、仕事の依頼主であるムロという名のゴブリンの家を垂れた眉毛の奥から探した。そして何もない丘陵地帯まで歩いてきて立ち尽くす。
「ここいらのはずなんじゃが・・・」
突如空間が歪み、ゴブリンの老人が現れて半円形の目がドワームを探るように見据えた。
「よく来たな、ドワーム・ステインフォージ」
「あ、貴方は、ヴャーンズ様!」
跪こうとするドワームを手で制し、年老いたゴブリンは杖に寄りかかると鼻を鳴らした。
「様は要らん。今は城から退き、ただのヴャーンズじゃ。ムロに呼ばれて来たのであろう?案内してやろう」
そう言って何か言おうとしたドワームの胸に元皇帝は杖を当てると詠唱を始め、二人は転移して消えた。
ドワームはいきなり目の前に鉄傀儡が現れて驚く。
実際はドワームが鉄傀儡の前に瞬間移動したのだが、いきなりのことで彼は頭が混乱している。しかしなんとか状況を飲み込み、目の前の鉄傀儡を観察し始めた。
「この鉄傀儡は他のとは違うな・・・」
そう言ってドワームは驚いた顔を直ぐに取り繕い、髭を撫でて誤魔化す。
確かに依頼主の機工士の鉄傀儡は他の物に比べ尖ったデザインをしており、若干貧弱に見える。機体のあちこちに打痕が見え、装甲が劣化しているのが一目で解った。
「一応聞くが、これをどうして欲しいのじゃね?ムロ殿」
ゴブリンの機工士ムロは如何にも困ったという顔をして腕を組み、鉄傀儡を見ながら返事した。
「装甲の補修と強化をお願いしたいのです。以前は放っておけば直ったんですが・・・」
ドワームは父親と同じ錆び色の髭をしごいてウームと唸る。
「はぁ?放っておけば直ったじゃと?トロールじゃあるまいし。馬鹿な話じゃ。それに帝国にはワシ以上の腕前の鍛冶屋は沢山おる。何故他の鍛冶屋に頼まないんじゃ?」
「それが・・・、実は既にお願いをしたのですが、鉄傀儡に関わるのを嫌がる人が多くて・・・」
中年のドワーフは髭から手を離し今度は、ウェーブのかかった広がる錆色の長髪に手を入れて忙しそうに頭を掻いた。
「何故じゃ?ワシは下手の横好きで鍛冶仕事にばかり従事しておったから世間には疎い。笑わんでくれよ」
「笑うなんてとんでもない。でも・・・だからこそ、お願いしたのです。それに貴方は英雄ドワイト様の息子です。なので豪胆な方に違いないと思いまして」
「親父は親父じゃ。じゃが覚悟を決めたドワーフは皆、豪胆なものじゃぞ?グッハッハ!」
笑ってから爪の中に入ったフケをふうと吹き飛ばして、「それで鍛冶師が鉄傀儡を嫌う理由は?」と訳を聞いた。
「鉄傀儡は呪われているから、だそうです」
「なんじゃと?鑑定はしてもらったのか?」
「勿論、ゴデの街の高名な占い師に鑑定はしてもらいました。結果は白です。呪われてなんかいませんよ。大体呪われていたら操縦する僕は既に死んでいるはずなんですから」
ゴブリンの男性にしては鼻が長く尖っておらず、女性のような顔立ちをしたムロは何度か仲間に馬鹿にされたであろう低い鼻を掻いて答えた。
「じゃあ何故じゃ?呪いはかかってないのに何故鍛冶師共は逃げたんじゃ?」
「聞いたこと無いですか?鉄傀儡に乗ったり関わったりする者は悲惨な最期を迎えるって話」
「だから言っとろう。ワシは世間に疎いと。それにそれは迷信の類じゃ。実際は呪われてはおらんのなら問題は無いわ。仕事の依頼は受けてやってもいいぞ。ところであの金属は何じゃ・・・」
ドワームは格納庫の中をキョロキョロと見渡して、隅においてあった金属の端材を手にとって見つめた。軽くて柔軟性がある。腰のハンマーで強く叩いても大して凹まない上に直ぐに凹みが無くなった。
「これを加工するのは至難の業じゃな。恐らく鉄傀儡と同じ金属じゃろう?鉄傀儡のスペアパーツが何処かにあるはずじゃが、どこじゃ?」
「それが、この格納庫に十何年も居ながら未だにどこに何があるかが判らないのです」
ドワームは巨人が何人も住めそうな広い格納庫を見て早々に探索を諦め、目をぐるりと回した。
それから杖に寄りかかってじっとこちらを見つめるヴャーンズに聞く。
「貴方にこれを聞くのは愚かだと思いますが、陛・・・ヴャーンズ殿はここで【秘密探し】を試されましたかな?」
視線を全く動かさない元皇帝は、老いに対して意地を張っているのか近くの椅子に座ろうとしない。
「無論だ。だがこの建物の壁は先代のヒジリ皇帝の如く魔法を通さん。やるだけ無駄だった。ここへ転送が出来たのも入り口が開いておるからだ」
「なんと・・・。魔法を完全に遮断する素材があるとはの・・・」
錆色の髭を興奮しながらグイグイと引っ張ってドワームは物欲しそうに壁を触った。
「となると、優秀なレンジャーかスカウトを連れてくるしかないの。しかし、最近のレンジャーは二刀流で前衛に躍り出てくるわ、探索もマジックアイテムに頼るわであまり好かん。地味な作業を嫌う今の彼奴等はこの格納庫では役に立ちそうにないのう。昔ながらの実のある技術を使うレンジャーでも呼んで・・・」
知り合いの昔気質のレンジャーやスカウトをドワームは思い浮かべたが、誰もが老齢で能力も衰えている。
「う~む、レンジャーやスカウトの心当たりがない・・・。いや!待てよ?親父が孫のように可愛がっていた地走り族のレンジャーがいたはずじゃわい!感の鋭い子じゃと何度も聞かされたのを覚えているぞ」
「ヘーークショイィ!」
コロネは横を向いて色気も何もない大きなクシャミをするとハンカチで鼻をかんだ。
妹のクシャミに迷惑そうな顔をするフランは食べようとしていた自分のケーキが皿から無くなっている事に気がつく。
「ちょっとぉ!何であっちの大皿から取らないのよぉ。もういい大人なんだから、そういうイタズラは止めなさい!」
口いっぱいにブルーベリーケーキを頬張るコロネはニヤニヤしている。ゴクリと飲み込むと、テーブルに近づいてくる見知らぬ地走り族の女性をクリームの付いた指で差した。
「ほら!また祝福してくれって来てるよ!聖騎士様は大変だな!」
「もう!」
フランは女性が抱える子供の額に手をかざして「母と子に最高神の祝福がありますように」と言うと、微かに輝く光が母子を包んだように見える。
「フランさんは有名人だから仕方無いですよね。たまにアルケディアに出掛けますが、フランさんのグッズが普通に売ってますし。いいなぁ。僕も有名になりたい」
夕食を同席すると約束していたヤイバはフランの人気っぷりを少し羨む。
「そうなのよ、一人で外歩くのも大変なのよぉ?ヤイバが近くに居てくれれば少しは皆も遠慮して近づいて来ないかもぉ。今度お供してねぇ?」
タスネが鉄騎士入団祝いに選んだ酒場は上品な店ではなく、昔は飲んだくれが屯していた竜の歯ぎしり亭という名の庶民的な店であった。
なので樹族国から聖地巡礼にやって来た樹族や地走り族、ヒジリを神と崇める帝国のオーガ達は、星のオーガの盾であるフランを見るとこぞって祝福をせがむ。
「タスネさんが、この店を選んだのって父上繋がりでですか?」
「そうよ。だって看板にデカデカと書いてあるじゃない。最高神が帝国で立ち寄った唯一の店!って」
「引退する前のヴャーンズさんの使い魔に聞きましたが、ここにはほんの数分しか居なかったそうですよ」
「えーー?そうなの?この店の店主が大げさにヒジリとの出会いを語るから信じちゃったよ」
話の途中で扉からヴャーンズの使い魔であるサキュバスのウェイロニーが入ってきた。ウェイロニーはヤイバに気が付くと手を振ってから手招きした。
ヤイバは何だろうとウェイロニーに挨拶をして話を聞くと、彼女は主が魔法に使う触媒を買いにツィガル城下町にやってきたという。どこの触媒屋の物が一番品質がいいのか、メイジでもあるヤイバに聞いたのだ。
これまでニコニコしていたワロティニスの顔が急に曇る。
戻って来た兄に鋭い視線を向ける。
「お兄ちゃん!あのサキュバスとお話したの?いやらしい!」
「なんでだよ!話すぐらい普通だろう!(ピャッ!ヤキモチを焼くワロ、可愛い過ぎ)」
「どうせ後で変な事してもらうんでしょ!馬鹿!」
「変な事ってなんだよ・・・(あぁ、もっとだ、もっと嫉妬してくれ!)」
ワロティニスは怒った勢いで立ち上がり、店から出ていった。
直ぐにヤイバは追いかけようとしたが、ヘカティニスに止められる。
「どうせ、すぐ戻ってくる。気にするなヤイバ。あいつは昔っからヤキモチが酷いんだど」
「あら?ヤキモチならヘカも相当でしたけど。あの時のパンチは防御の上からでも響いてきましたわよ?」
リツが太い眉の片方を上げてニヤニヤしている。
「あの時ってどの時だ?」
リツはズルっと転けてゴニョゴニョと、昔、魔法人形をヒジリだと思い込んで寝床を共にした時の事を告げる。
ヘカティニスもリツも、ヒジリと同じ生体機能を持つ人形と交わって子を宿した。
ヘカティニスはその事でリツとハッキリとした三角関係になり、取っ組み合いの喧嘩をしたのを思い出す。
「ば、バカッ!」
ヘカティニスは顔を真っ赤にして、もうその話はいいといった感じでステーキを頬張った。
ワロティニスは兄が追いかけてこない事に落胆して、広場の噴水のヘリに座り込んでいる。
「何よ、お兄ちゃん。私の事、何とも思っていないの?ちょっと戻って様子見てこようかな?」
しかし頭を振って自分を制する。
「駄目だよ。お兄ちゃんが来てくれないと!私が行ったら負けだよ!」
ううと呻いて意地を張るワロティニスの背後に大きな影が差す。
兄が追いかけてきたと期待を込めて振り向くと、そこには白髪のオーガの夫婦が目に涙を溜めながら、ワロティニスを見つめていた。
「何度も映像で見てはいるが、今一度確認する。この子で間違いないな?カプリコン」
(はい、マサムネ様。ヤイバ様も近くの酒場におります)
白髪でダンゴヘアーの女オーガは泣きながらワロティニスを抱きしめた。
「ちょっと!何ですか?急に!」
困惑しつつもワロティニスは女オーガの肩越しに男を見た。白髪のオールバック以外、顔のパーツは見覚えがある。
(お父さんにそっくり!え?え?)
「ハルコ、私にも孫を抱かせてくれ」
ハルコと呼ばれた女性はワロティニスを離すと、今度はヒジリの父親であるマサムネはそっと孫を抱きしめる。
「君はお母さん似なのかな?それでも仕草や癖は何処と無くヒジリに似ている。君が生まれてきてくれて私は嬉しいよ」
どう見ても彼らは自分の親族であり、自分を孫と呼ぶ男にワロティニスは照れながらも素直に身を委ねた。
「お爺ちゃん・・・なの?」
「そうだ。ヒジリの父親と母親だ。私はマサムネ」
「私はハルコよ、宜しくね。ワロティニスちゃん」
優しく囁くような声と活発そうな声が自己紹介をする。
ワロティニスは嬉しくなって無邪気に飛び跳ねた。
「なんで私の名前を知ってるの?」
「そりゃあ、遥か遠くから貴方達を時々見ていましたもの」
「そうなんだ?わーい!お爺ちゃんとお婆ちゃんが来てくれた!お兄ちゃんに教えてあげないと!来て!早く早く!」
ワロティニスは二人の手を掴むと興奮しながら強引に酒場まで引っ張っていった。
酒場ではヤイバがドアを何度もそわそわしながら見つめている。
「やはり何かあったのでは?戻って来ないですよ、ワロティニス!」
ヘカティニスは眉間に皺を寄せてヤイバを見る。
「まだ十分も経ってないど。心配し過ぎだ」
ヤイバが堪らなくなって席を立とうとしたその時、酒場のドアが開いた。
「ヒジリ!」
「あなた!」
ワロティニスに手を引かれて入ってきたオーガを見て、ヘカティニスとリツが驚いて勢い良く席を立った。
「ヒジリのお父さん!」
イグナだけは彼がヒジリではない事をすぐに見抜き、扉の近くまで駆け寄る。
獣人が樹族国の城に攻めて来た時に、人知れず獣人と戦って静かに星の国へ帰ったと言われているヒジリの父親がそこにいた。
「やぁイグナ君。よく私の事を覚えていたね」
「だって顔がヒジリと同じだから」
「おっと!間抜けな質問をしてしまったか?ハハハ!」
年老いて昔よりも声に張りが無くなったマサムネの笑い声はどこか弱々しかった。
笑いながらもマサムネは初めて会った時から見た目の変わらないイグナの頭を優しく撫でて微笑む。
その様子を見ていた周りの客達が大きく騒ぎだす。
「現人神様じゃねぇのか?あれ・・・?復活なされたのか?」
タスネは騒ぐ客を見て、大騒ぎになる前に店の外に出ようと皆に言おうとしたが、コロネが機転を利かせてどら声で皆に言った。
「残念でしたー!彼はそっくりさんだぞー!」
客達は「だよなー」と言って着席すると急速にマサムネに興味を失っていった。
世界のどこにでも現れるヒジリの偽者に一々怒る者はいない。オーガは皆ヒジリに憧れを抱いて真似をしたがるからだ。
コロネの頭の速さにヤイバは感心して彼女を褒めた。
「流石、これまで機転で苦難を乗り越えてきたレンジャーだけはありますね」
「だろ?皆もっと私の事を褒めるべきなんだよ」
確かに過去の冒険でタスネ達はコロネに何度も助けられている。
素早い罠の察知や、敵に囲まれた時にその場を切り抜ける言葉、遠距攻撃での援護。しかし人望が無いせいか彼女の扱いは軽い。
タスネは自分を褒め称えるよう両手を広げて煽るコロネを小突いて言う。
「ほら、ヒジリのご両親に椅子を用意しなさい」
それを聞いたヤイバが慌ててコロネの代わりに空いた椅子を掴むと、立ったままのマサムネとハルコの後ろに置いた。
「まぁ・・・!ヤイバはほんとヒジリにそっくり!ねぇ、あなた」
「本当にな・・。それどころかヒジリよりも随分と背が高いし体格もいい」
ハルコは涙を堪えてヤイバに抱きついた。
「ヒジリよりも人当たりの良い顔をしているわ。誰にでも好かれそうな優しい顔。お婆ちゃんにもっと顔を見せてご覧なさい」
頭の回転の早そうな祖母の顔がヤイバの顔を両手で押さえまじまじと見つめてくる。
ヤイバは祖母が顔を見やすいように跪くと、見つめてくるハルコの視線にどう反応したものかと目をキョロキョロとさせた。
(なんだろう、凄く照れくさい)
顔を赤くして祖母の視線に耐えていると、マサムネが割り込んでくる。
「私にもハグをさせてくれ」
そう言って自分より頭二個ほど背の低い祖父はハグをしてきた。
(もし父上が生きていて抱きしめてくれたなら、こんな感じだったのだろうか?)
小さな祖父にハグされながらもヤイバは自分のこれまでを振り返った。
厳格なエリートオーガの生活の中で、自分は誰かに甘えた記憶は果たしてどれくらいあっただろうか。
母上は時々抱きしめてくれたり撫でたりしてくれたけど、父親の役目をしてくれる人は身近にはいなかったように思う。
母方の祖父はヤイバが生まれる少し前に病で他界している。
物心付いた頃に母親に連れられて謁見室で会った皇帝は「小生は、君の父上の友人なのだ。だから父のように慕ってくれていいんだヨ」と言ってくれたが、やはり皇帝という身分に怖気づいて馴れ馴れしくはできなかった。
「父上・・・」
孫の小さな呟きを聞いてマサムネは胸が締め付けられる。
「すまない・・・。君の父親を助けられなくて・・・。私は息子の為に地球の法・・・星の国の法を破ってでもこの地に留まるべきだったのだ。言い訳するようで恥ずかしいが、ここに来れなかったのも渡航許可が下りなくてね。十何年もしつこく政府に申請してようやくマザーコンピューターが認めてくれたのだ。息子にも君達にも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。すまない」
頭を下げる祖父を見てヤイバは慌てる。
「どうか謝らないでください、お祖父様。お祖父様があまりに父上に似ていたものですから、つい・・・。僕は嬉しいのですよ、父親に抱かれてるような気がして」
マサムネもハルコも声を噛み殺すように泣きながらヤイバを抱き締める。この場にヒジリがいたら孫はどれだけ喜んだだろうか。出来る事ならヒジリを再構成蘇生したかったが、行方不明扱いの者を再構成する事は人口管理の厳しい地球では重罪だ。
「場が湿っぽくなるな。これ以上泣くのはよそう。ハルコ」
「そうね」
二人は涙を拭くとニコッと微笑んだ。
リツがマサムネとハルコのゴブレットにぶどう酒を注ぐ。
「今日はヤイバが鉄騎士団に入団したお祝いの日なんです、どうぞ一緒に祝ってやってください、マサムネお父様にハルコお母様」
「それは本当かね?なんて素晴らしいタイミングだ!おめでとう!ヤイバ!」
ワロティニスがマサムネの横に座って嬉しそうに祖父や祖母に報告する。
「お兄ちゃんって凄いんだよ!入団試験は全部トップだったんだって!そうでしょ?リツ母さん!」
リツはチラチラとマサムネを見てヒジリを思い出したのか、頬を赤く染め眼鏡をスチャッと上げて自慢気に言う。
「まぁ当然ですわね。我々はエリートオーガの中でもエリート中のエリート。それにヤイバの父は神なのですから。でも私、ゴデの街で占い師にヤイバの能力を調べさせた時はとても落胆したんですのよ?能力値が超弩級なのに素性が魔法使いでしたから」
「ムッ」
イグナが不愉快な顔をする。
「お陰で彼は回復以外何でも一人でこなせる。歩く魔法要塞」
「あら、勿論貴方の指導には感謝してますことよ?ただオーガメイジはオーガ達の間ではあまり良い顔されませんの。オーガは接近戦で力を見せつけてこそオーガなのですから。ヤイバは純粋な接近戦でこれと言った攻撃力がないのが玉に瑕ですわね。魔法に頼り過ぎています。対策された時に一気に対抗手段が減るのが心配ね」
リツの話を聞き、彼女をじっと観察して、ハルコは物思いに耽りだした。
「地球人とオーガの子供はどうも強くなるみたいね・・・。きっとサカモト博士が作った初期のオーガはヤイバ並に強かったんじゃないかしら。放置されベースとなった類人猿寄りになった所為で本来の能力が劣化し・・・」
「おい、心の声が漏れているぞ。ハルコ」
マサムネの指摘で我に返りハルコが黙ったのを見てタスネが笑う。
「ウフフ」
ヒジリがすぐに学者染みた事を言うのは母親に似たからなんだと、ハルコを見て納得した。
誤魔化すように咳払いをしてマサムネはヤイバを褒め始めた。
「ヒジリにこんな有能な息子がいて私は鼻が高い。ワロティニスちゃんもヒジリの能力を引き継いでいそうだね」
ワロティニスは微妙な顔で微笑んでいる。
「お兄ちゃんと比べたら私なんて全然・・・」
謙遜するワロティニスをフランがフォローする。
「それでも砦の戦士たちについていけているんだから凄いじゃない。私達なんてねぇ?お姉ちゃん。若い頃はヒジリに頼りっぱなしで、ぐうたらだったわよねぇ?」
フランがタスネに同意を求めると姉は口をへの字に曲げて語る。
「私はね、あの頃は成るべくヒジリに頼らないようにしていたから、ぐうたらしている暇なんて無かったわよ?」
姉の苦労話が始まりそうだと察したフランはサッと話題を変える。
「そういえば・・・ほら、ワロちゃんは格闘家にバッチリ向いてるじゃない?それはそれで方向性が決まってて良い事よ。それにヒジリだって格闘家だったし、中身は絶対お父さん似よぉ?」
フランの言葉にワロティニスの顔がパァァと明るくなる。
「私、似てるのかな?お父さんに」
ヘカティニスが答える。
「ああ、似ているど。特に考え事している時に顎を擦る癖は父ちゃんにそっくりだ」
ヒジリの癖を知っているハルコもフフフと笑う。
「でも貴方のお父さんは、格闘家の貴方のようにハッキリと進むべき道が決まってはいなかったわ。いつも”何でも出来るけど何も出来ない“と嘆いていたの。彼を器用貧乏だったからね。それはヒジリをそのようにデザインした私達の所為だったから、いつもその事で彼に負い目を感じていたわ。だから貴方はお父さんの代わりに一つの道をつき進んでみるのも良いかもしれないわね」
タスネは目を丸くして驚いた。
「へ~、ヒジリも色々と悩んでいたんだね。器用貧乏と言っても上振れしてるから万能って言った方がいいんじゃないかしら?涼しい顔で何でもやっちゃうから悩みなんて無いのかと思ってたわ」
「あの子は誰かの隙間を一時的に埋める存在に満足してなかったみたいね。私たちは幅広く多くの人を助けることが出来る事は素敵だと思っていたのだけど、あの子には苦痛だったみたいで・・・」
ハルコの話の途中に天井から今しがた寿命を終えたクモがぽとりと落ちてきて、タスネがギャッ!と悲鳴を上げた。
それを見たハルコは何かを思い出したようにまた話しだした。
「それにヒジリは身近な人や動物の死に対して物凄く怯える子でね。飼っていたペットが死んだ時は失神しちゃったのよ。再び蘇る事を知っているはずなのにショックを受けていたわね」
ワロティニスは祖母の話の前半で父親が万能だったと理解できたが、死の身近なこの世界では、話の後半を理解することは出来なかった。
「お父さんって割りと繊細だったのね・・・」
オーガにしてみれば、仲間の死に一々失神していたら戦場では生きていけない。父親の弱い一面にワロティニスはなんとも言えない気持ちになった。
父の弱さに対して、軽い嫌悪が顔に浮かんでいた妹に気がついた兄は諭すように言う。
「ワロティニスは僕が死んでも平気なのかい?」
「イヤだ!お兄ちゃんが死んだら私も死ぬ!」
「ほら、ワロティニスだって父上と一緒じゃないか。父上はそれがちょっと極端だっただけさ。オーガだって悲しい時は悲しい。ただそれを表に出すと馬鹿にされるから皆隠しているだけで、実際は誰にでもある感情なんだよ」
兄に叱られたと思ったのか、ワロティニスはしょんぼりとして頷いた。
(フォォォォォ!フォアッ!フォアッ!可愛いぃぃ!しょんぼりするワロちゃん可愛いぃぃぃ!)
内心狂ったように喜ぶヤイバをイグナがジト目で見つめていた。
(し、しまったぁぁぁ!イグナ母さんは【読心】を使っていたのか?【魔法探知】!)
ヤイバの瞳が青白く光った、【魔法感知】のかかった瞳で物を見るとマナを帯びた物は青白く光る。
その瞳でイグナを見るも青白く光っているのは装備だけで本人から光は出ていない。
(ホッ!【読心】していなかったか。そう言えば、イグナ母さんはいつもあんなジト目だったな。久しぶりに会ったから忘れていたよ・・・)
安心したヤイバは、慰めようと妹の手をテーブルの下で握りニコッと笑う。
「怒ってないから。しょんぼりしなくていいぞ」
ワロティニスも直ぐに笑顔になりニコニコして腕に抱きつこうとした時、コロネの近くにサキュバスのウェイロニーがドロンと現れた。
ヤイバを見つけて声をかける。
「ヤイバ!さっきは良いお店紹介してくれてありがとうね。ところでもう童貞は捨てた?まだだったらお姉さんに一番搾り頂戴ね?お姉さん頑張って特別にピーーーーしてぇ・・・ピーーーーもしてあげ・・・・」
突然サキュバスから音が消えた。眉根に皺を寄せるイグナがワンドを一振りして【沈黙】を唱えたのだ。
ウェイロニーは肩をすくめて溜息を付き、丸めた羊皮紙をコロネに渡すとコウモリに姿を変えて酒場の窓から飛んでいってしまった。
「なんだ?私に手紙?」
コロネは羊皮紙の紐を解いて読み出した。
「お!おっちゃんの息子からの依頼だ!」
「なんて書いてあるの?おっちゃんって誰?」
タスネが聞くとどら声が返す。
「おっちゃんつったら、ドワイトのおっちゃんしかいないだろ」
「知らないわよ、そんなの」
「えーっと、鉄傀儡の格納庫の調査を依頼する。依頼料金貨三枚。バートラにて待つ、だって」
羊皮紙に簡単な地図と住所が書かれていた。
「安いな~。金貨三枚って・・・」
タスネがコロネの頭を軽く小突く。
「何言ってんのよ。貧乏な昔だったら大金だったしょうが!あの頃を思い出してどんな依頼も受けなさい!それに普通は地道に依頼をこなして名声なり二つ名なりが付いて来るのよ?貴方が有名なのって変なガラクタを欲しがるマニアの間だけでしょうが!何なの?マニアックハンターって二つ名!もっと頑張って良い二つ名を貰いなさい」
「ヒジリのお陰で名を上げたタスネお姉ちゃんがそれを言うと何か微妙な気分になるな」
「あのね、アタシだってね!あの時はあんた達に食べさせるためにとても苦労してたんだよ!」
何かあるとすぐに姉の苦労話は始まる。コロネは意識を宇宙空間に飛ばして白目で話を受け流す。
「・・・~でガサツだから彼氏も出来ないんだよ、コロネ!聞いてるの?」
苦労話がいつの間にかコロネの素行の話や行き遅れの話になっており、それは関係ないだろ!と心の中で思っているとヤイバがコロネに救いの手を差し伸べてくれた。
「で、コロネさんはその依頼受けるんですか?バートラでしたら、僕も初任務で赴きますし一緒にどうですか?」
コロネは裏返っていた碧眼をグリンと元に戻し、ヤイバの腕に飛びつく。
「良いのか?道中一人は寂しいと思ってたんだ。ヒジリん時みたいに抱っこして【高速移動】で送ってくれよ!」
(か、顔が近い・・・)
フランの顔から派手さを無くして胸を小さくしたようなコロネのスレンダーで露出の多い体から自分の左腕に体温が伝わってくる。と同時に、右膝に痛みが走った。
「お兄ちゃん!!」
ふくれっ面をしたワロティニスがにこちらを睨みつけている。
(はわぁ~!その膨れたほっぺをハプハプしたいぃ~!)
が、勿論ヤイバはそれを表情に出さない。
「仕事のついでにコロネさんを送るぐらいいいだろ。バートラには強力な鉄傀儡がいるんだ。ちゃんと管理されているか、不穏な空気はないか視察に行くんだよ」
「私が心配しているのはコロネさんじゃないの!バートラに行った時にヴャーンズさんに会うでしょ?となると、さっきのサキュバスに会うってことだよ?あの悪魔、お兄ちゃんにエッチな事言ってた!」
「馬鹿だなぁ・・。そんな変な事するわけないだろ。(お兄ちゃんが好きなのは可愛い妹だけだよ)」
ヤイバはこっそりとワロティニスの耳元でそう囁くと、彼女は金色の瞳を丸くしてネコのようにニャッ!と叫んで喜び、ヤイバの右腕に頬や頭をスリスリしだした。
「匂い付けしたからね!」
嬉しそうにそう言うとぶどうジュースを一気に飲んで満足そうにゴブレットを掲げた。
「お兄ちゃん万歳!鉄騎士団万歳!ツィガル帝国万歳!」
コロコロと表情が変わるワロティニスにマサムネやハルコは幸せそうな微笑みを向ける。
人で賑わい盛り上がる週末の竜の歯ぎしり亭でヤイバの入団祝いは夜遅くまで続いた。
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フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
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元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
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フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
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400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
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