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禁断の箱庭と融合する前の世界(10)

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 ベッドに腰を下ろしたヒジリの膝の上に目玉があった。

 イービルアイの殻の様な物が横二つに割れて脇に置いてある。

 実際はウメボシのコアなのだがヘカティニスには薄っすらと光る目玉に見えたのだ。その目玉をヒジリが絹のような布で拭いている様を見た彼女は驚いて立ち尽くしていた。

「ん?お茶を持って来てくれたのか。部屋をタダにしてもらった上にお茶まですまないな。テーブルに置いておいてくれ」

 球体の中を縦横無尽に動き回る瞳を見てヘカティニスは指さす。

「そで・・・ウメコシか?」

「ウメボシです」

 ウメボシは即座に訂正する。

「ウメコリの体を拭いてやってるのか?ヒジリ」

「ああ、そうだ。たまに装甲が緩んで僅かな隙間から埃や小さな羽虫が入り込む事がある。いつもならナノマシンが吸収してしまうはずなのだがね・・・。だからこうやってたまにコアを拭いてやらないと装甲裏についているコンピューターへの様々な命令伝達やエネルギー供給が鈍るのだ」

「なるほど、よくわがらんど」

 ヘカティニスはお茶をテーブルの上に置くと不思議そうにウメボシのコアを見ながらヒジリの横に座った。

 垢塗れだった以前と違って石鹸の香りがヒジリの鼻をくすぐる。香りに誘われてヘカティニスの横顔を見ると、彼女は長い睫毛と丸くて大きな垂れ目をぱちくりとさせて興味深げにウメボシを見ている。

 出会った頃は埃塗れだった銀髪も今は艶やかでサラサラだ。

 視線に気が付いたヘカティニスの金色の瞳とヒジリの黒い瞳が合い、その瞬間お互いの心臓が高鳴る。

(これがそうなのか。認めたくものだな。自分自身の若さゆえの劣情を。主殿以外の成熟した女性を見ると見境なく胸がドキドキする。これでは野獣に等しい・・・)

 装甲の裏側にセンサー等が付いているウメボシには今のヒジリの状態を把握できない。
 
 生まれてからずっと人口管理局に生物としての本能を無理やり抑え込まれていた反動だろうか?ヘカティニスを押し倒して無茶苦茶にしたいという気持ちが沸々と湧き上がるも、何とか抑制し視線を落としてウメボシを拭く作業に戻る。

 ヘカティニスもヒジリが見せた強烈なオスの顔にたじろいでしまい、そそくさと立ち上がってお茶を入れると何も言わずに出て行ってしまった。

 ヒジリは男の顔を剥き出しにしてしまった事を恥ずかしく思い、カティニスにそれを察知されたかもしれないと考えて溜息をつく。

「どうなされたのですか?マスター。溜息は幸運を逃すと大昔では言われていたそうですよ」

「そうか。じゃあ今の溜息を吸い戻すか」

 そう言って吐いた溜息を吸うでもなく話をはぐらかした主を追求せず、ウメボシは布越しに伝わる主の体温と擦られる気持ちよさに身を委ねた。

(大昔の地球人は凄かったのだな。自力で劣情を制御していたのか。漫画やアニメを見る限りではそのようには見えなかったが)

 ヒジリはコアを拭き終えるとウメボシに装甲を装着し、ベッドに寝転んだ。あれこれ考えているうちに段々と瞼が重くなり、ヒジリはそのまま眠ってしまった。

 ウメボシも寝てしまった主に寄り添ってスリープ状態に入った。



 翌朝、ウメボシの知的だが可愛らしくもある声に起こされる。

「マスター、おはようございます。昨日は戦いの後でしたのでぐっすりお休みになられていましたね。ウメボシは今日、お休みを貰ってよろしいでしょうか?プログラムにエラーを発見しましたので修正に時間がかかりそうなのです」

 ヒジリは心配そうにウメボシを撫でる。

「重大なエラーかね?」

「いえ、小さなエラーが数多くあって動作自体には左程影響を与えません」

 撫でられて目を細めるウメボシから手を離し、何かを閃いたようにヒジリは天井を指した。

「カプリコンで見てもらったらどうだ?」

「確かに今は遮蔽フィールドの穴は安定していますから、それもいいですね。しかし、いつまでもそうとは限りません。イグナに預けている装置をもう少し調べて、確実に宇宙船との行き来が出来るようにしたほうが良いと思います」

「そうか。では今日はここでゆっくりしているといい。私は街の様子でも見てくるとしよう」

 ヒジリは外に出ようと扉を開けると、ヘカティニスが立っており目が合う。

 昨日母親が着ていたメイド服と同じものを着ており、手には朝食の乗ったお盆があった。

 黙ってヒジリにお盆を押し付けると顔を赤くして走り去る姿は明らかにヒジリを一人の男性として意識している。しかしヒジリはそれに気が付かなかった。

(やれやれ、私は嫌われたのかな?それにしても物流が滞っている今、食事を出す余裕なんて無いだろうに)

 部屋に戻りテーブルの上にお盆を置くと、塩の効いた丸パンとベーコンの入ったサラダ、珈琲で食事を始めた。

 ベッドの上ではウメボシが早速エラーの修正を始めており、目を閉じてじっとしている。

 食べ終わるとお盆を一階の誰もいないカウンターに置き、外に出た。

 曇り空だった昨日と打って変わって、秋の高い空が空気を透き通らせていた。

(清々しい朝だ。昨日のゾンビとの戦いが嘘のようだな)

 通りは静かでたまにゴブリンが淋しげに歩いているくらいだ。

 シオ男爵が街の被害状況を調べて確認し紙に色々と書いているのが見えた。遠くの通りを見るとシオと同じように調査をしている役人が何人もいる。

 シオは此方に気がついて手を降って走り寄って来た。

「おはよう!ヒジリ!」

「おはよう、シオ。被害状況を調べているのだな?」

「うん。神の御柱に消されていなくなった人達も調べてんだ。誰も住んでいない家なら政府が引き取ってゲートのゴブリン達を街に住まわせようと思ってさ。後、デイストリン地方の他の生き残り達も街に呼び寄せて人口を増やさないと街が衰退してしまう」

 いきなり背中の聖なる杖が喋り出す。

「聞いてくれよヒジリ。昨日オバップがシオ男爵のところに出たんだ」

「オバップ?なんだそれは」

 素っ頓狂な声をあげ、驚いた様子で杖は応える。

「へ?陽気な幽霊オバップを知らないのか?古今東西、大人から子供まで知ってるメジャーな幽霊だと思ったけどよ?白い布を被って大きな目玉をギョロリとさせて、二本の足で静かに近づいて手足を甘噛みしてくるんだ」

「甘噛み?気味が悪いな」

 シオは恥ずかしそうに杖に抗議する。

「今その話するのかよ糞杖!」

「でもお嬢ちゃん、うつ伏せの尻をグリグリと足で押されて最後にスパーンと蹴られてただろ?ありゃあ普通のオバップじゃねぇぞ。ヒジリに一緒に泊まってもらって退治したらどうだ?」

「次も出るとは限らねぇだろ。大体お前、役立たず過ぎるんだよ。ゴリゴリの対アンデッド用杖なのにオバップを成仏させるどころか逃げられてたじゃん。いよいよ肥溜めのかき混ぜ棒に降格だな?え?」

「うぐ・・・・。今回は負けにしといてやるぜ・・・相棒」

 杖を言い負かして気分が良くなったシオは仕事があるからと言って満面の笑みで立ち去った。

 ゴブリン谷の方からゴブリン達の騒ぎ声が聞こえてくる。ヒジリは何事かと南門を出て暫く歩くと、ゲート組合のゴブリン達が樹族の騎士達に抗議している。

「ゲートギルドは解散だぁ?横暴過ぎる!俺たちはどうやって金を稼げばいいんだ?いい加減にしろ糞樹族!」

 ゴブリンの樹族嫌いはドワーフよりも酷い。

 今まで感情的になる騎士達を宥め、静かに対応していたシルビィがとうとう爆発する。

「知った事か!道を塞ぎ理不尽に金をせしめる事が仕事だと?山賊や追い剥ぎと変わらん行為だ!金が欲しければ街にでも行って土木作業に従事して稼ぐか、グランデモニウム城の様子を探るクエストを特設冒険者ギルドで受けてこい」

「ブーブーブー!」

 不満顔のゴブリン達を見てヒジリは溜息をついた後、どすどすと走りだし両手を広げて凶暴なオーガを演じゴブリンたちに吠えた。

「ゴォアァァァ!」

「ヒ、ヒィ!ヘキャティニス様をねじ伏せたオーガだぁ!」

 蜘蛛の子散らすように逃げ去るゴブリン達を見て騎士達は笑い、指笛を吹いてヒジリを賞賛する。信心深い騎士は木を象ったペンダントを手に持ち祈っている。

「助かったぞ、ダー・・ヒジリ殿。これで彼らも街に行ってくれると良いのだが。・・・ところでヒジリ殿。昨日の夜、何かに遭遇しなかったかな?実は私はオバップに襲われたのだ」

「君もかね。シオ男爵も襲われたそうな。害はあまりなかったみたいだが」

「普通のオバップと違って、どこかいやらしさを感じたな。眠っていると体に変な感覚があったので目を覚まして何事かと見ると・・恥ずかしい話、脱がされて真っ裸だった・・・。そして、あろうことかオバップが私の体を舐め回していたのだ。それはもう丹念に。流石の私もゾゾゾゾっとしてな、魔法をぶっ放したら逃げていった。今夜もあのイヤらしいオバップが来たらどうしようかな・・・。貞操の危機かもしれん。どこかの強い殿方が守ってくれないかな~チラッチラッ」

「考えておこう」

 シルビィは少しふっくらしてきた顔を明るくして喜んだ。

「待ってるいるからな。全裸で!」

 手を振るシルビィにヒジリは苦笑いして手を振ると街に戻っていった。

(全裸か・・・。本当だったら・・・ゴクリ)

 頭を振って邪念を振り払う。

(むぅ・・・劣情というものは本当に厄介だな。執拗に何度も刺しに来る蚊のようにうっとおしい!)

 南門に差し掛かると、先程までは無かった急ごしらえの屋根だけのテントが出来ており、そこに並ぶ樹族や地走り族の商人が差し出す書類にタスネは真剣な顔でサインを書いている。

 その横でイグナが書類を受け取ると何かのチケットと共に書類を渡した。

「やぁ主殿、大変そうだな」

 列に並ぶ信心深い何人かはオーガを見てペンダントを取り出し祈りだした。ヒジリは気にせず、タスネの書類を覗きこむ。

「ふむ、樹族国からの補給物資や資材の搬入確認書か。チケットは後で商人達がアルケディアで換金する為のものだな。国民の殆どが消えた今、グランデモニウムの通貨は価値がなくなったからか・・・(この国の国民をカプリコンに再構成させるべきだったか。しかしそこまでの義理は無い)」

「もうね、サインのし過ぎで指が痺れていますよヒジリ聖下」

 忙しくて機嫌の悪いタスネはヒジリを聖下と呼んで皮肉り八つ当たりをする。

 ヒジリは皮肉を無視して自分に対して祈る樹族や地走り族を見て疑問に思う。

「星のオーガが何者かは知らんが、聞いた感じではオーガの神ではないのかね?何故樹族が私を崇めるのだ?」

「そりゃ神様という括りだからでしょ。誰がどの神を信仰しても自由だからね。それにこの世で現人神とされているのはヒジリだけだから」

「まぁ勝手に私を神だと思い込むのは構わんが、何だかな・・・」

 話しながらも次々と書類にサインをしていき、行列を捌いていくタスネは一区切りつくと何か思い出してヒジリに声をかけた。

「そういえば昨日の夜・・・」

「オバップかね?」

 何となくそうではないかと勘が働き、ヒジリは話に被せて答えを返す。

「なんで解ったの?」

「シオやシルビィ殿の所にも現れたのだ。変態じみたオバップだという話だったがね。まさか主殿の所にも?」

 タスネはイグナを見て”話していい?“と視線を送ると、イグナは少し怒ったような顔でコクリと頷いた。

「実はね・・・イグナの所に現れたの。オバップにずっと胸を揉まれて恐怖で固まっている所を隣で寝てたアタシが気がついて箒で追い払ったってわけ」

「十歳にしては豊満だからなイグナの胸は・・・。しかし子供にまで手を出すとは許せないな。ん?何故、主殿の胸は揉んでいかなかったのだろうか?イグナより揉み応えがありそうだが・・・」

 服を着ているにも関わらず、タスネとイグナは胸を押さえて隠しヒジリをジトっとした目で睨む。

「ヒジリがそんな事言うなんて珍しいわね。あまりそういう事に興味のないオーガかと思っていたけど・・・。まぁ男だし仕方ないよね」

(やってしまった・・・。ヘカティニスといいタスネとイグナといい、私はどんどんと信用を失っているような気がする)

 なんとか名誉挽回しようとヒジリはアタフタしながら約束した。

「今夜、二人の寝る天幕の前を見張りに行こう。ついでにシオやシルビィ殿のところも見に行く」

 タスネとイグナはホッとした表情で胸を撫で下ろすと、じゃあお願いねと言って仕事に戻った。

 ヒジリは何とか信用の失墜を免れたと一呼吸すると、何となくナンベルと話したくなり孤児院へと向かった。

 孤児院につくと、普段とは雰囲気の違うナンベルが花壇の花をばんやりと見つめてしゃがんでいた。

 いつものボロボロのローブは着ておらず、鶯(うぐいす)色のアンダースーツも着ていない。

 ありふれた白い長袖のシャツに黒いベストを着て黒いズボンを履いている。黒い髪がふんわりとオールバックにしてあり、顔は普段通り歌舞伎の隈取のような、或いは蝶々を模した赤いメイクがしてある。

「どうしたのかね?こんなところでぼんやりとして」

「ゾンビから命からがら逃げてきましてね。弟のいるこの孤児院に身を寄せているのです」

「弟?ということは貴方はホクベル殿かね?」

「ええ、弟の知り合いですか?」

「まぁ・・・。しかし、ナンベル殿と同じ顔で真面目に喋られると調子が狂うな・・・」

「え?確かに私は弟とは同じ顔ですが、弟はメイクで素顔がわからないはずです」

「ホクベル殿にも弟殿と同じメイクが顔に描かれていますよ」

 ホクベルはえ?え?と顔を触ると手にベッタリと白と赤の顔料が手につく。

「んん~、だめですよォ。教えちゃあ。ヒジリ君の告げ口んぼ!キュッキュー!」

 孤児院の獅子の玄関から、ナンベルをパパと呼ぶ男の子を抱えて狂気の道化師は現れる。

「さっき私が寝ている時に描いたのか。悪戯好きな性格は小さい頃から変わっていないな、ナンベルは」

 近くにあった井戸から水を汲み、顔を洗いながらホクベルはそう言うとハンカチで顔を拭いた。

 そこには細い目をした魔人族の青い顔があった。ナンベルがメイクをしていなければこういう顔をしているのだろうとヒジリは想像しナンベルを見た。

「やだぁ!恥ずかしいじゃないのぉ!変な想像しないでエッチスケベ!ほら、兄さん。この子がそうですよ」

 ナンベルはオネエのよう恥ずかしがりながら、小指を立てた手でヒジリの肩を叩いた後、抱いていた男のをホクベルの前に差し出した。

 ホクベルは子供をじっと見つめ、突然ナンベルから奪うと喜びと後悔が混ざった顔で抱きしめた。

「私は君の存在をついさっき知ったのだ。許してくれ我が息子よ。私が本当のパパだよ。あの時、君の母さんを・・・ハナを引き止めて結婚するべきだったんだ!」

 魔人族の子は抱きしめられてキョトンとしていたがナンベルを指差してオトータンと言って泣き出したので、ホクベルは寂しそうな顔をして再びナンベルに戻す。

「どういうことかね?」

 ナンベルは細い目を見開いてベロベロバァをして子供をあやしている。泣き止むとヒジリに振り向き、事の詳細を語りだした。

「この子の母親・・・ハナという名前なんですが・・・彼女はですねぇ、我々とは幼馴染みなのです。若いころは彼女の気を引こうと、兄とよく競い合ったものですヨ。結局彼女は我々の元を離れて傭兵となり、数年前のある日ひょっこりと兄の元に現れたのです。昔話に花が咲いて、その後は自然の成り行きで二人は一週間ほど毎日チョメチョメタイムに突入して、彼女はまた傭兵の仕事に戻っていったわけです」

「チョメチョメタイムの下りはいいだろ、恥ずかしいから言うな!」

 兄は鋭い目を弟に向け抗議する。ナンベルはお構い無しで話を続ける。

「で、そのチョメチョメタイムの時に出来た子がこの子というわけです。ハナは暫く自分で育てていたのでしょうが、男勝りな性格だったせいか育児は長続きはせず、小生が孤児院をやっていると聞きつけて数カ月前に預けに来たのでス。その後一向に彼女から連絡はありませんので、もしかしたら戦場で散ってしまったのかもしれませんネ」

「私が弟を頼ってここに来なければ我が子の存在を一生知らないまま朽ち果てていたかもしれない。これも運命の巡り合わせか。神の慈悲に感謝せねば」

 ホクベルはもう一度、我が子を抱きたいが泣かれては困るのでヤキモキしている。

「神様といえば、ヒジリ君。ゾンビを消し去る姿はとても神々しくて素晴らしかったヨ。神の御柱は神とその眷属のみが使えると聞きます。イグナちゃんの予想通り、君は星のオーガだったのだネ」

 その話を聞いたホクベルは暫く疑いの眼差しで弟を見つめたが、嘘ではないという態度で首を横に振るナンベルを見て驚く。そして慌てて胸からペンダントを取りだしヒジリを見ながらそれにキスをした。

 それからホクベルは震えながらヒジリの手を取りキスをする。

「ああ、神或いはその眷属に出会えるなんて!ゾンビの脅威が去ったのも貴方のお陰だったのですね!この子の母親の無事を祈らせてください」

 ヒジリはこっそりとナンベルの耳元で言う。

「止めさせてくれ。私は神なんかではない」

「兄は信心深いのです。好きなようにさせてあげて下さい。キュキュ」

 いつまでも自分に向かって祈るホクベルに痺れを切らしたヒジリはいつもの演技をして言う。

「さぁお顔を上げなさい。信心深き同胞よ。私は正体を隠して現世に使命を持って現れました。私の事が広く世に知れ渡る事は本位ではありません。気を使わず普段通りにしてください」

「はい、失礼しました。ヒジリ聖下」

 ナンベルは子供を地面に置くと砂場で遊ぶように言い、兄に近くにいてやって欲しいと頼んだ。少しでもホクベルと子供の親子の距離を縮めようとするナンベルの計らいだ。
 
 子供は砂場に元気よく走って行くとホクベルは嬉しそうに我が子の後を追いかけていった。

「ところでナンベル殿、オバップの事を何かしらないかね?最近見たものがいてね」

 ナンベルはそれを聞くと、腹を押さえて体をくの字に折りューッキュッキュと笑った。

「ヒジリ君はオバップを信じているのですかナ?そんなゴーストはいないヨ。モンスター学の権威がその名前を聞いたら笑うか怒るかするだろうネ。光側では広く信じられているみたいだけど、闇側では誰も信じちゃいませんヨ。まぁ躾の道具として光側の親が作り出したモンスターだと思います。話の中だけの存在ですヨ」

「しかし見たものがいるぞ」

「それは普通に幽霊の一種じゃないのかナ。ゾンビの件で大量の死人が出ましたよね?霊魂がマナを依代にして現れたのでしょう。ん~・・・でもここいらにマナスポットなんてあったかナぁ?幽霊が自然発生するほどの強力なマナスポットは霊山オゴソの頂上にありますが。誰かが意図的にマナを提供したのかもネ。小生も今夜の見回りを協力してあげマスよ。二手に分かれて巡回しましょう」

「助かる。では夜の十一時にオーガの酒場前に集合だ」

「りょぉかい。楽しみですねぇ。キュキュ」

 ヒジリは、子供の周りでヤキモキしているホクベルを見て微笑むと、道化師に手を降って孤児院を後にした。

 純粋な探究心からオバップを捕まえて正体を知りたいという気持ちとタスネやイグナの信用を取り戻すという気持ちがヒジリの心にやる気を生む。

 歩幅は大きくなり、やる気に満ちた様子でウメボシの待つオーガの酒場に向かった。
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