料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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シオとデルフォイとメリィとライト(番外編・後編)

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 別に戦うわけじゃない。報告書を書く為の、ちょっとした挨拶と様子見を兼ねて来ただけだ。

 なのにシオはメリィから、目を離せなかったった。デルフォイを握りしめる手は汗で湿っている。

 冒険の最中―――、恐らく有名で危険なダンジョンの最奥で得たであろう武器や防具は、闇の蜃気楼を放っているようだ。

 そういえば、もう一人そんな女性がいたな、とシオは思う。闇魔女イグナだ。しかし、彼女は単に魔力が高く、覚えている魔法も多いから、樹族には赤黒いオーラが見ようとせずとも見えてしまうのだ。まぁ装備の影響もあるが。

 二人の違いといえば、イグナは寡黙だが素直で可愛らしい面がある。しかし、対面したメリィはどこか胡散臭さを感じる。何故、そう思うのかは自分でもわからないが。判るのは、彼女が強い事と闇色のオーラを発しているという事だ。魔法の力も侮れない。

「元領主のシオ殿だ、メリィ」

 竜騎士のライトがそう紹介すると、彼女の顔が急に険しくなったが、冷静さを保ち、大鎌を拾い上げて教会に向かった。

「元領主様を立ち話させるのも、失礼だし、中へどうぞ。お茶でも出しますよ~」

 その、のんびりとした声の中に棘を感じつつも、シオはメリィの後に続くと、教会の中は、外と違って綺麗だった。そんな教会の中にシオは異物を見つけてしまう。祭壇の後ろには奇妙で不気味な像が立っていたのだ。

「なんだ、あれ。邪神の類か?」

 デルフォイが失礼な言葉を遠慮なく発する。シオも彼女を邪教徒かと疑うほど、不気味な像だった。

「確か、君の信仰する神は、星のオーガだったよな?」

「そうだよぉ~」

 そう言って、彼女は最奥左側にある台所に向かう。邪神と言われた事に特に感想はないようだ。

 シオとデルフォイが訝しんでいると、ライトが後ろで、「クックック」と笑うので、何かの罠に嵌められたのかと思い、急いで振り向いた。

「貴公は、あの像が気になるのか?」

「ま、まぁな。そういえば、メリィ殿の属性は?」

「・・・混沌と悪だ」

 怪しく笑っていたライトは途端に気まずそうになって言う。この竜騎士とは真逆の属性だからだ。よく一緒にいられるな、とシオは思った。

 勿論、混沌と悪が信条だとしても悪人とは限らないので、仲を保つ第三者がいれば、問題なくパーティなども組める。しかし、冒険者ギルドの報告書では、いつも二人で行動しているようだ。

「星のオーガの信徒ならば、なぜ邪神像を奉っているんだい? 樹族国ではまぁ、その・・・。オーガの神は悪の神扱いだけど、俺は知ってるぜ? ハイヤット・ダイクタ・サカモト神は善人だったってな。な? デルフォイ」

 神話の時代、サカモト神の右手に常に握られていたデルフォイは「スケベだったけどな」と茶化した。

 すると、ライトは堪らなくなったのか、ブーッと噴き出して笑い出した。

「フハハッ! あの像は、現人神様を現しているのだ。メリィが作ったものだ。やはり、貴殿たちにも、そう見えるのか。であれば我の意見を通して、ヒジランドのドワーフに作らせるべきだった」

「あ、あれがヒジリだって? 昔に読んだ聖典に出てくる混沌の神にそっくりだ! ニャル・・・、ニャルラト・・・。なんだっけ? 名前は覚えてねぇけど」

 そんな話をしていると、メリィは森から現れた時から担いでいた、血の滲んだ麻袋を台所の隅に放り投げた。壁や仕切りがないせいで、何をやっているかは丸見えだ。

「なんだい? そりゃ」

 シオの質問に彼女は素っ気なく答える。

「ウサギの魔物だよ。晩御飯にしようと思ってね~」

「そうか」

 そうか、と言う杖の横で、シオにはそうとは思えなかった。明らかに、床に落ちた時の音が硬かったからだ。ヴォーパルバニーなら毛皮があるので、もう少し優しい落下音がするはずだ。察するに硬くて丸い何かが三つ。

(あの中身は人の頭だ。嬢ちゃん)

 デルフォイが念話でシオに話しかける。

 だろうな、とシオは美しい顔の眉間に、皺を寄せた。この暗黒騎士は間違いなく誰かを三人殺した。冒険者なのだから、依頼通りに、山賊を狩ったと言えば納得もできただろう。しかし、彼女は誤魔化した。何かしらの理由があるから嘘をついたのだ。

「お茶、入ったよ~」

 間延びした声の主は、お盆に奇妙な匂いのするお茶を持ってきた。

「紅茶はないのかい? 或いは、ヒジランド産のコーヒーとか」

 稼ぎの良い冒険者が、こんな得体の知れないお茶を飲むのはおかしい。

「ごめんね~。一応、清貧がモットーなので。お金があると、すぐに孤児院に寄付しに行くんだ~」

「あぁ、それで今日はメリアさんがいないんだね。どこに寄付しに行ったんだ?」

 シオがカップのお茶をフーフーと吹きながら、メリアの行き先を聞くと同時に、デルフォイが念話で「飲むな、飲むふりをしろ」と言ってきたので、それに従う。

「お姉ちゃんなら、アルケディアにあるシスター・マンドルの教会に行ってるよ~」

「王都か~。樹族国の北から南までは、ちょっとした旅だな。シスター・マンドルの孤児院っていやぁ、今や巡礼地の一つじゃねぇか。ヒジリが訪れたってだけで、大盛況だろうに、寄付する必要があるのか?」

 シオの向かいで、ライトがお茶を喉に流し込むように飲んでいる。熱くはないのか?

「あるよ~。巡礼地になった途端、捨て子が増えて、その子たちを養うのに大変なんだから。聖下がシスターや孤児に振舞った―――、ん~、今や巡礼地名物となった万年ヤマドリタケのバターソテーの売れ行きは凄いんだけど、それでもギリギリって感じなの」

「へぇ~。アルケディアの貴族たちも薄情だねぇ。商売女を囲うくせに、身ごもったら子供を捨てさせるのか。しかも聖地に。不敬じゃねぇか。斬首刑にしろ」

 デルフォイが物騒な事を言ったので、場が凍るかと思ったが、メリィは普通に笑っている。反対に竜騎士は笑っていない。それどころか、視点が定まっていないように見える。

「おい、竜騎士さんよ、どうした?」

 お茶の効果が出てきたんだろう、とシオは思った。

「いつもの事だよ~。人間族がこのお茶を飲むと、眠くなるみたいで・・・。体には良いのにねぇ~」

 嘘だな、とデルフォイが念話でそう呟いた。

(ライトの使っているティーカップは忘却の魔法がかかっている。しかも西の大陸だとツィガル帝国のゴブリン王と自由騎士しか使えない虚無魔法だ。滅茶苦茶貴重で価値の高いカップだぞ。どこで手に入れたんだ? 古代のダンジョンにでも行ったのか? 因みにシオのお茶には眠り薬が入っている)

(馬鹿だな。世界中を旅してきた俺に、眠り薬なんか効くわけないだろ。とっくに耐性ができてるっつーの。でもメリィは何を忘れさせようとしてんだ?)

(さぁな。異国の貴族に言い寄られて、断った時みたいに、上手に会話スキルを使って、聞き出してみたらどうだ?)

 シオは嫌な思い出を語るデルフォイの、ごつごつした頭を叩く。

「どうしたの? 杖さんを叩いたりして」

「な、なんでもない。こいつスケベだからさ、時々脚にすり寄ってくるんだ」

「そうなんだ~。シオさんは綺麗だもんね。お父さんはいつも、男爵の事を綺麗だ綺麗だと言って、お母さんを嫉妬させてたんだよ?」

「ああ、今は元男爵だから男爵って呼ぶのはやめ・・・って。へ? お父さん?」

 シオが驚くと同時に、ガタリと音を立てて、ライトが机に突っ伏して寝てしまった。忘却魔法の効果が出たのだろうか?

「あ、言ってなかったか~。私はメリィ・モーリー。男爵に仕えていた、たった一人の騎士の娘だよ。お姉ちゃんはメリア・メリアを名乗っているけど」

 気まずい空気が流れる。シオの騎士は、シオが旅立った後、嫌々ながらも屋敷に住む吸魔鬼に仕えていたのだ。しかし、諸々が解決した後に、シオは領地を没収され、タスネ・サヴェリフェ子爵の士官として身を落としている。

 それが、どういう事か。モーリー家はある日突然、主を失い浪人騎士となったのだ。当然、収入を失い、一家が路頭に迷う事となる。

「あ、あの時はすまなかった。で、でもさ。シルビィ隊長に拾ってもらえたんだろ? 結果オーライじゃないか」

 シオは後ろめたい気持ちで言い訳をして、メリィを見た。が、彼女は無表情だ。

「ええ、主の男爵様は何もしてくれなかったけどね」

 いつもの間延びした喋り方じゃない。メリィからは、威嚇や恐怖のオーラが滲み出ていた。勿論、シオはそのオーラで、たじろぐことはないが、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「本当に、ごめんなさ・・・・」

 真摯に謝ろうとするシオの言葉を、メリィは遮った。

「お父さんは、シルビィ隊長と共に行動して、危険な任務で功績をあげたわ。凋落したシオ男爵と違ってね」

 男爵と呼ぶのを止めないのは、皮肉を存分に込めているのだ。

「任務内容は何だったと思う? あの殺人鬼のマギン・シンベルシンを探して捕縛する事よ! 滅国を願う吸魔鬼とつるんでいたマギンの顔を知っていたのは、お父さんだけだったからね。でもシルビィ隊長は凄く強かった。あの殺人鬼マギンを簡単に捕縛したわ。でも・・・。もし隊長が負けていたらお父さんは、マギンに殺されていたんだ!」

 とはいえ、上手くいったなら、良かっただろと、シオは不貞腐れて腹を立てる。

「その、お前の父親は今、アルケディア城の門衛をしていると聞いたぞ。大出世じゃねぇか」

「死んだわ」

 素っ気なくそう言ったメリィの目は、まるで闇魔女のように暗い。

「え?」

「お父さんは病気で死んだの。何の病気かわからないまま、数日かけて、ゴボゴボと溺れるようにして・・・。その訃報を聞いたお母さんは、ショックを受けて自殺をしたわ。お姉ちゃんは、ロケート砦の戦いの時、消滅のダガーで存在を消されて・・・。残ったのは私一人だけだった。家族の中で、私、一人だけ! どれだけ辛かったか、貴方にわかる? 全ての不幸の切っ掛けは貴方なのよ!」

 シオはメリィに、白ローブの襟首を掴まれたが、その手を払いのける。

「謝っても謝りきれない事だとは分かっているけどよ! 全部が全部俺のせいじゃねぇだろ! そこまで俺を恨むのはお門違いってもんだ!」

 気の強いシオはとうとう我慢できなくなり、言ってしまった。

「俺が言うのもなんだが、お前、もっと前向きになれよ! それにさ、なんで、竜騎士に忘却の魔法具を使っているんだ?」

「一発殴らせてくれたら、教えてあげてもいいわよ。私の攻撃に耐えられたら、貴方の勝ち」

 禍々しい黒い小手を付けたメリィは、そのまま殴る気だ。どんな呪いが付与されているかわからない小手で殴られるというのは、常人にはとてつもない恐怖だろう。しかし、シオはあっさりとそれを受け入れる。

「いいぜ。どこを殴る?」

「そうね、その女みたいな顔が憎たらしいから、顔を殴らせてもらうわ。死んでも恨みっこなしねぇ?」

 人の気にしている部分を殴るなんて嫌な女だな、と思いつつも、シオは両頬を両手でバシバシ叩いた。

(いいのかい? 嬢ちゃん。命より大事な美顔が大変な事になっちまうぜ?)

 デルフォイの念話を無視して、シオは椅子から立ち上がり、「けじめは大事だ」と小さく呟いてから、メリィの前まで来た。

「来い!」

 見た目とは裏腹に、熱血漢のシオは、これで全てが収まるならと身構え、歯を食いしばる。

(うん? これは! 死をレジストしろ! 嬢ちゃん! 【死の手デスタッチ】だ!)

 殴りかかって来る暗黒騎士が薄ら笑いを浮かべる中、デルフォイは咄嗟に念話で叫ぶ。

「くそったれ! 神様ァ、頼むぜ!」

 ヒジリと近しい間柄のシオの崇める神は、勿論オーガの神だ。元々は樹族のの神を信仰していたが、彼と出会って改宗している。

 常に自信に満ちた顔をしている頼もしい友であり、神でもある彼の顔をシオは思い浮かべ、メリィの攻撃を待った。

 ―――ゴスッ!

 顔を横に背けたシオの頬に、小手を纏ったメリィの拳がめり込むも、横目で抗っているさまを見せつけた。

 が、殴られた瞬間に、死神の気配がシオを包んだ。少しでもレジスト率を下げるべく、死神は囁く。

 ―――女男、小貴族、地走り族(タスネ子爵)の下僕。吸魔鬼が先祖にいる汚れた一族。ふたなり。

「死神の囁きを無視しろ! 聞くな! 嬢ちゃん!」

 途端に、シオの目から光が無くなり、体が小刻みに震え出した。

「うふふふ」

 拳を下げ、勝負の行方を確信したメリィは片頬笑いをし、椅子に着席し、何故か優し気な表情でお腹を摩った。癖なのだろうか?

「全・・・」

 シオは最期の言葉でも言おうとしているのか、唇を震わせながら、杖を支えに立ち続ける。

「全部、悪口じゃねぇかーーー!!」

 顔と長い耳を真っ赤にして、シオは叫ぶ。その途端、死神は消えたので、メリィは驚きのあまり、ガタンと椅子から立ち上がる。

「うそぉ! 死の小手の効果に抗ったのぉ? 普通の闇メイジが使うそれよりも、魔法貫通力は高いのに!」

「ぶははは!」

 デルフォイが大笑いして、シオの頬の打撲傷を即座に癒す。

「残念だったな、暗黒騎士殿。いや、もはや死の騎士か? どこで修練した? そう簡単に、なれねぇジョブだぞ」

「それを教えたら、いよいよ樹族国にいられなくなるから、言わないわぁ」

「まぁ、大体は想像がつく。メイジがリッチになる為に、体を生贄に差し出すように、お前さんは悪魔に魂を売ったんだ。なんて名前の悪魔だ?」

 頭が呆けていな時のデルフォイは博識で、思考が鋭い。

「言わないわ」

「聖なる光の杖の力を、侮ってもらっては困るなぁ、メリィちゃんよぉ。ふむふむ、悪魔の名前はキリマル。変な名前の悪魔だな。どこかで聞いたような・・・。おっと? この悪魔はメリィちゃんの魂を奪っていないぞ。珍しい悪魔だ。代価はなんだったんだ?」

「心を読む魔法を備えているなら、最初から男爵様を危険な目に合わせる必要はなかったでしょうに」

 メリィの言葉に、シオはハッとなり、杖に齧りついた。

「てめぇ、この野郎! ガジガジ。いい加減にしろよ! そのボコボコした部分を齧り取ってやる!」

「いててて、待て待て、嬢ちゃん。物事には下準備ってものがあってな。最初から【読心】の魔法が使って、相手に気づかれてごらんなさいよ! レジストされちゃうでしょうが! 敵を騙すにはまず味方から~。それに聖なる光の杖様の加護があるから、即死魔法に対して、心配する必要はなかったんだよ。えぇい! 噛むのを止めろ! ・・・あっ! あれ? あはぁ~~~。だんだん気持ち良くなってきた!」

 痛みが快楽に変わった杖を見て、寒気がしたシオは噛むのを即座に止め、椅子に座った。メリィも椅子に座る。

「なんで貴方みたいな、英雄レベル以上の人が、ただの士官をやっているのか、わからないわ」

 メリィは呆れながら、ため息をついた。恐らく相性の悪さで、真剣に戦ってもシオには勝てないだろうと考える。冒険者ギルドで聞いたシオの評価は伊達ではなかった。伝説の杖を持つ、闇の者に強いメイジ。殊更、アンデッドに対しては、無駄に強い。火と光の属性を極めたこのメイジは、魔法強国の樹族国でもトップクラスだろう。

「で、竜騎士に忘却魔法を刷り込んでいるのは、なんでだ?」

 勝負に負けたメリィは、抗う素振りも見せず、少し空中を呆けて眺めるようにして素直に話した。

 悪魔キリマルや伝説に出てくる古の大魔法使いビャクヤに出会った事。そして、消滅した姉を復活させる術を教えてもらった事。

 それを実行すべく、パーティでヒジランドにあるマナの大穴に潜っていった事。最深部に魔本という、書いた内容を具現化する神のような存在の残滓がいた事。オビオがその残滓であるゴーレムを必死に説得している時に、次元断で邪魔をしてしまった事。

 魔本のしおりに復活させたい者の名前を書いてもらうには、過去の神の国へ行かなければならなかった事。色々とあったが、魔本と対になる存在である魔筆に出会えた事。

 復活させる事ができるのは、三人までだった事。その三人のうち、一人の枠は悪魔キリマルとビャクヤの為に、もう埋まってしまっている事。

 存在が消えたままなので、誰だかわからないが、ライトの話からして、彼の伴侶がその三人に含まれなかった事。

「なるほど、それで不憫に思って、あの竜騎士に忘却魔法を刷り込んでいたのか」

「ええ、そうよ」

 頷くメリィを見て、デルフォイは納得したように見せたが、念話では真逆の事を言っていた。

(そんなお涙頂戴話なんかじゃねぇぞ。こいつ、ライトに惚れてやがるぜ? 初めて出会った時からな。ライトの嫁の事を忘れさせて、奪おうと思っているんだわ。しかもなんと! こいつの腹の中には、もうライトとの子がいる)

 メリィが時折、にやけながらお腹を摩る行動には意味があったのだ。

(しっかりと誘惑して、やる事やったんだな。なんてビッチだ。元修道騎士なのに)

 果たして、修道女の姉はこの事を祝福するのか、非難するのか。まぁ個人的な事なのでどうでもいいか、とシオは思う。

「とんでもねぇ事に巻き込まれていたんだな。神に近い存在に出会ったとか、神の国行ったとか。正直、信用できねぇけど。それから、台所の袋に入っている生首はなんだ?」

 なんでもお見通しな元男爵に対して、嫌気がさし、鼻からため息をついたメリィは、台所まで行き、血の滴る麻袋を持ってきて開いて見せた。

「猿人よ」

 確かに死の恐怖に目と口を開いた猿人の頭が三つ。

「樹族国に猿人は殆どいないはずだが。なぜ、クロス地方の―――、しかも国境に近い森にいたのか尋問はしたのか?」

 シオの問いに、メリィは肩を竦めただけだった。

「いきなり襲い掛かって来たから、大鎌で首を斬り刎ねただけよ。盗賊の類でしょ。あとで冒険者ギルドに報告に行くつもりよ」

「じゃあ、なんで兎だって嘘をついたんだ?」

「手柄を横取りされたくないからよ。先に報告書に書かれて提出されたら、報酬がもらえなくなるでしょ」

「おかしいな、嬢ちゃん。こいつらは獣人国の暗殺者だ。南の国の者が、他国の北側にいるのはおかしい」

 デルフォイの言葉に、シオは反論する。

「なんでこいつらが、獣人国の者だってわかるんだ? それにメリィを殺しに来たのかもしれねぇだろ。何せ死の騎士なんだからな」

「猿人の脳の記憶のカスを読み取ったからよ。メリィは関係ねぇ。それよりも、こいつらは教会に用があるようだな。ターゲットは、獅子人の子供だ。下っ端は、上から情報をあまり与えられてねぇから、それ以上は読み取れねぇ。とにかく、手あたり次第に樹族国の教会を監視している。今回は運悪く、死の騎士メリィ卿に見つかってしまったってわけだな。ご愁傷様、猿人の暗殺者たち。南無~」

「お前、いつも覚醒してたら有能なのにな。耄碌じいさん」

「誰が爺だ! こちとら神の手に握られていた偉大なる杖だぞ。年寄扱いすんな!」

「ちょっと待って!」

 そう叫んだメリィの顔がみるみると青ざめていく。

「どうした?」

 シオの心配をよそに、メリィは鎧をガシャガシャと鳴らしながら、教会を出ると口笛を吹き、バイコーンを召喚して走り去ってしまった。

「なんだ? メリィは去り際に何を考えていたんだ? デルフォイ」

 デルフォイは、そろそろ元のポンコツ杖に戻りそうな自分と戦いながらこう呟いた。

「お姉ちゃんが、危ないだってさ」
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