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興奮するサーカ

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 ベッドの上でコメツキムシのような動きでもがいていた俺の―――、下腹部に走る猛烈な痛みが引いていく。

 し、死ぬかと思ったわ・・・。

 ふぅと一息ついて、俺は目を開けた。

 暗い部屋を明るく照らす下腹部の光は、目を細めるサーカの視線をくぎ付けにしている。

「そ、その紋章は、インキュバスの淫紋! オビオはイイイイ、インキュバスと交わったの?」

 えっ? そうなの? これってインキュバスと交わらないと付かない紋章なの? ってか、何でそんなに淫魔に詳しいの? じゃあ、俺は知らず知らずに男の娘である魔王と交わっていたのか?

(誰が男の娘ですか! 我・・・、私はれっきとした女ですよ!)

 フェルがそう脳内に語り掛けてくる。

(じゃあ、何でインキュバスの淫紋を付与できたんだよ! お前、俺と寝てるときに、えっちな事したのか!)

(す、するわけないでしょうが! 私は倒した相手の能力を時々手に入れられるのですよ! インキュバスもその内の一人だったって事です!)

(なんだ、そうだったのか)

(そうですよっ! つーん!)

 フェルは拗ねたのか、黙って語り掛けてこなくなった。

「こ、これはな、サーカ。魔王フェルの能力だ。あいつは、倒した相手の能力を吸収するらしい。サーカと結婚したら子供が欲しいな~なんて考えていたら、心の内を盗み聞きしたフェルが淫紋を付与したんだ」

「えっ! 結婚! 子供!」

 淫紋の光が無くなった今、魔法の灯りの下のサーカの顔が真っ赤になった。

「じゃじゃじゃ、じゃあ。今すぐ、えええええ、えっちする?」

 直球すぎるだろ。もっと前置きとかないのかっ!

 口からはハーハー、鼻からはフーフー息を出すサーカは、瞳の中がグルグルしている。
 
 そんなサーカに俺は肩を押さえつけられて、抗えない。精神的にも物理的にも。

 だが、断る! 嫌だ! 魔王の潜むベッドの上でえっちはしたくない。絶対に後でニヤニヤされて馬鹿にされるに決まっている。

 だが、淫紋の効果は凄まじく、劣情の荒波がザッパンザッパンと押し寄せてくる。

(ユー、やっちゃいなYO)

 フェルが正に悪魔の囁きで、そうけしかけてきた。

(下半身の大魔王を解き放って、楽になっちゃいなYO)

 うるせー! 地球人の理性を舐めるなよ! 二十一世紀の漫画でこういう時の対処法を知ってんだからな!

 確か、冷静になれるものを思い浮かべればいいんだっけ・・・。

 俺は今、サーカの形の良い尻ばかり見ている。そう、俺は尻フェチ。

 頭を下げ、腰を高々と上げる猫のようなサーカの顔越しに見える―――、立体感のある尻をじっと見ていた。これでは劣情が治まるわけがない。

 だったら逆を想像すればいい。薄べったい尻。

 ・・・なんかいたな、そういう奴。ビキニアーマー着ている割に全然エロくない女。

(ひ、ひどい! 主様は私を想像して、性欲を抑えようとしている!)

(悪いかよ! 悪魔の言いなりになんかならねぇからな! バーカバーカ!)

(あ、言ったな! 淫紋の効果よ、高まれ!)

(わっ! 余計な事すんな! うぎゃああ!!)

 フェルのせいで俺の性欲は更に増す。

(くそっ! 都合良く感情制御装置が直ったりしないかな。このままでは・・・)

 そう、俺は間違いなくサーカを滅茶苦茶にするだろう。それは身動きのできなくなった雌鹿を屠るライオンの如く。まぁ、身動きできないのは俺なんですがね。ハハッ!

(そ、そうだ。何か清くて可愛いものを想像すればいいんだ! えーっと、子猫ちゃんがいいな。甘えて毛布を踏み踏みする姿なんか最高に萌えるじゃないか)

 猫・・・。

 猫目といえばウィング。ウィングはどうしているかな? さっさと迎えに行こうと思ったけど、サーカの御家騒動でゴタゴタしてるたからなぁ。迎えに行けなかった。命の恩人なのに俺は薄情者だな・・・。

 早くお礼を言いにいかないと・・・。ひゃあ!!

 サーカが俺の首筋右側を舐めている! 気持ちよさに抗えず、顔を左に向けると部屋のドアが見えた。

 ん? ドアが開いたままだ! なんだ? 誰かいるぞ!

 魔法の光が照らすそれは、小さな生尻!

 ピーターだ!

 尻を向けて微動だにしない奴は、一体何がしたいのだろうか?

 そうか! 嫌がらせだ!

 今日は皆、サーカ家に泊まっているからな。 五感の鋭い者だらけのうちのパーティなら、全員がこの状況に感づいていてもおかしくない!

 ほの明るく照らされるピーターの尻は、ブツブツだらけで汚い。前までは綺麗な尻だったのに、何があったのだろうか? 成長期で、ニキビが背中や尻に出るタイプかな?

 あぁ! それにしても! 萎えるっ! なんて汚い尻なんだ! おえっ! 見た目がノニの実のよう!

 だが、邪悪なるどんぐり族に助けられるとは思わなかったぜ。性欲のメーターがどんどん下がっていく。ありがとう、ピーター。

「サーカ・・・」

 俺は真面目な顔でそっとサーカを引き離す。俺のただなら雰囲気に、サーカが身を引いたというべきか。

「なぁに?」

 折角良い雰囲気だったのに、と怪訝そうな目で見つめてくる彼女に、申し訳ないと思いつつも、俺は目線をドア側にやった。

 その視線の先を追ったサーカが、開いた扉を見てドキリとする。

「あれ? 閉めたはずなのに・・・」

 そこにピーターの姿は無かった。あんの野郎~! さっさと陰に沈みやがったな!

「いいかい、サーカ。俺たちは前にも約束したよね? えっちは結婚してからって」

「でも、オビオは私の事が好きだし、私もオビオの事が好き。それに子作りもできるようになった。結婚したも同然じゃない」

 まだ上気する彼女の顔を見て、劣情がむくりと起き上がりそうになるが、ピーターの尻を思い出して踏みとどまった。

「結婚するにあたって、俺は君の母親に認めてもらいたいんだ」

「でも・・・。オビオも知っているでしょ・・・」

「ああ、ガノダさんが面倒を見るとは言ってくれたけど、お母さんが治るのなんて、いつになるかわからない」

「何かあてがあるの?」

「ほら、俺はドルイドや錬金術師の真似事ができるっていっただろ? だから、狂気の精霊を追い払う薬か、症状を和らげる料理でも作れないかなと思って」

「精霊って天使の次くらいに強いんだよ? そんなのが、そう簡単に離れるとは思わないんだけど」

「そうなんだ? かといって、ガノダさんばかりに頼るのも申し訳ないし、俺には上位鑑定の指輪があるから、なんとかなるんじゃないかな?」

「うん、治すチャンスはいっぱいあった方がいいもんね・・・。オビオは以前、オトナシソウでトロールに憑依した精霊をなんとかしたし」

「そう思って、昼間にガノダさんに薬草を渡したんだけど、今のところ効果はないってさ」

「あのトロールは二つの精霊に支配されていて、薬草の効果がすぐに表れたのに、たった一つの精霊に効果がないなんて、おかしいわ」

 暫く沈黙が続く。

 うん、確かに何かがおかしい。

(お前の仕業じゃないだろうな?)

 俺はベッド下のフェルに念話を飛ばす。

(あたしゃ、知らないよ!)

 某ジブリ映画の荒れ地の魔女か!

(まぁ、最近来たフェル達は関係ないか。疑ってごめん)

(わかりゃあ、いいんだよ)

 こいつ段々と馴れ馴れしくなってきたな。

(なぁフェル。原因とかわからないかな? デビルズアイで見抜いてくれよ。上位鑑定の指輪でも見れるものと見れないものがあるしさぁ)

(はて? デビルズアイ? そんな力は聞いた事がありませんが・・・。ただ・・・)

(ただ?)

(この家は呪われている匂いがします)

(えっ? そうなの? 何に? どんな呪い?)

(うーん、そこまでは解りかねます。呪術系の呪いではないのは確かです。怨念といいましょうか。そうですね・・・。餅は餅屋。エクソシストか司祭に頼んでください。相当、力のある者でなければなりませんが)

 力のある僧侶・・・、かぁー! 不動聖山はもう旅立ってしまった。なんてタイミングの悪い。この辺境の村にまともな僧侶や司祭もいるはずもなく・・・。どうしたものか。

 ん? 司祭? いるぞ! 迎えに行こうと思っていた我らが仲間!

 ウィングだ!
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