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特別な日

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 カズン領に唯一ある村、カズン。

 領主ムダン・ムダンの騎士で、カズン家の当主であった祖父母の老衰による突然の訃報は、この領地を嫌っていたサーカを呼び戻すのに十分な理由となっていた。

「ご苦労さん、オビオ」

 俺の背中から降りながら、労いの言葉をかけるトウスさんは、まず初めての土地の匂いを嗅ぐ。

 そんなトウスさんに、俺は尻尾の先を小さく振って返す。

「越境してから、ここまでの距離は大した事ないし、疲れていないよ」

「今やオビオは、俺たちの重要な移動手段だな」

 ピーターがニヤニヤしながら、俺の背中から飛び下りる。尻尾の一撃でも浴びせてやろうか等と思ったが、即死するので止めた。

「ドラゴンだー!」

 案の定、村人が集まってくる。

 ここでも俺は興味の対象だ。そんな野次馬を掻き分けて、やってくる兵士が一人。

「赤竜を操る魔物使い殿は、どこか?」

 この田舎村に一人しかいないだろう衛兵が、念のためといった感じで、俺の主を探している。

「私だよー!」

 予めそういう取決めにしておいたので、ムクが手を上げて衛兵に応じる。

 え? こんな子供が? という表情を一瞬見せた衛兵だったが、腰のバッグから羊皮紙を取り出した。

「では、この書類にサインを」

 田舎村なのに、こういった手続きはしっかりしてんだな。羊皮紙に書かれている内容は、魔物使いの使役するモンスターが村に損害を与えた時の取り決めなどが書いてある。

 ムクは内容を確認せず、適当にサインを書くと、衛兵は「ようこそ、カズンへ」と言って、小さな詰め所に入ったきり出てこなくなった。

「チッ!」

 サーカは嫌そうな顔で舌打ちをして、俺の背中から飛び降り、自分の村を見ている。

「懐かしいか?」

「いいや。この村には何の思い入れもない。それに、良い子ちゃんを演じるつもりもないぞ。祖父母が死んで私は清々しているのだからな」

「どうして?」

「ジブリット家に認めてもらえなかった私は、一族の中の異端、そして名誉なき私生児のようなものだったからな」

「でもそれは、お前のせいじゃないだろ」

「ふん。が、どんな生き方をしてきたかは知らんが、この樹族国では、そういった理不尽がまかり通るのだ」

 あぁ、久しぶりにサーカの皮肉を聞いた気がする。

「とはいえ、そんなコンプレックスに悩まされる事は、もうないんじゃないのか?」

「祖父母が死んだからか?」

「違う。サーカは既に名誉を得ている、って俺は言いたかったんだ。だってそうだろ? あの名門ウォール家のシルビィさんや、ムダン侯爵の後ろ盾があるし、バトルコック団の名声も鰻登りだからな。俺がドラゴンの姿をしてなけりゃ、今頃、料理をご馳走してくれって村人に言われているはずだよ。それにガズン家はサーカのものになったんだし、気にする事なんて何もないって」

「カズン家が私のもの・・・」

 そう言ったきり、黙ったサーカをよそに、俺はキョロキョロとした。そして村から少し離れた丘の上に立つ、素朴な屋敷を見つけ指をさす。

「あれがサーカの家か? 結構大きいな。ぱっと見はシンプルだけど、上品な感じがする良いデザインだ」

 屋根は緑色で、壁は漆喰を塗ってあるのか、真っ白だ。

「褒めてもらってもな・・・。本当にここには良い思い出がないのだ」

 サーカは顔を横に向けて、屋敷を見ないようにしていると、地走り族の吟遊詩人(女)が駆け寄ってきた。

「貴方がたはもしかして、バトルコック団では?」

「そうだが」

 不機嫌なサーカの返事は冷たい。

「あぁ! なんたる幸運! 運命の神、カオジフ様に感謝を! 私・・・」

「名乗らなくていい、どうせ直ぐに忘れる」

 酷いなサーカ。名前ぐらい名乗らせてやれよ。

「――――!!!」

 何か知らんが、サーカが突然、眉間にシワを寄せた。

「おい! 貴様ぁ! 一言の断りもなく! この!」

 我らが騎士様は、吟遊詩人の首を絞めて揺さぶっている。

「馬鹿だなぁ」

 いつもサーカに同じ事をされているピーターが、「クキキッ!」とほくそ笑んだ。

「これは仕方ないな・・・」

 トウスさんも、欠伸をしながらそう言って、ムクの手を引いて、村の簡易バーまで歩いて行った。何か飲み物を飲むのだろう。

「あ~、なるほど」

 俺もサーカが怒った理由がわかった。吟遊詩人はよりによって、魔法に鋭敏なサーカに【読心】の魔法をかけたのだ。

「断りもなく使うから、意味のある魔法でして・・・、そんなに怒らないでくださいよぉ!」

 泣きそうな表情で誰かに助けを求め、顔をあちこちに向ける詩人は、皆から無視されて余計悲壮感漂う顔になった。

「吟遊詩人ってのは、情報を歌にしてナンボの商売なんだし、許してやれよ」

 俺がそう言うと、吟遊詩人は目をキラキラさせてこっちを向いた。

「あぁ! なんと心優しきドラゴン様か! あれ? えっ! えっ! ・・・貴方、もしかして! オビオ様?」

 俺の心を、魔法がざらりと撫でた。こいつ、読みやがったな? レジストを突破して【読心】してくるなんて、中々やるじゃないか。まぁたまたまだろうけど。

 サーカは首絞めを止めて、吟遊詩人を解放すると、トウスさんやムクがいるバーまで歩いていき、飲み物を頼んでカウンターに寄りかかった。

「言っとくがオビオ、そうなった詩人はしつこいぞ!」

 トウスさんが、意味不明な事を俺に伝える。

「何がしつこいんだ?」

 不思議に思っていると、地走り族にしては、あまり可愛くない(というか小汚い)吟遊詩人が、俺の顔近くまでよじ登ってきた。うわぁ! く、くせぇ。まぁ、旅している冒険者ってのは、基本的に皆臭いんだけどもさぁ。

「オビオ様ぁ! どどどどうして、竜に変身しているのですか? そうそう! 現人神ヒジリ猊下に稽古をつけてもらったって話は本当ですか? あと、神国ヒジランドの宮廷料理人になったって噂は?」

 うわぁ!! 怒涛の質問攻め! しかも意味もなく小さなハープをかき鳴らして、うるさい! そして興奮しているせいか、息が荒くて、臭い!

「おえっぷ! ヒジランドの宮廷料理人にはなってないよ。だって、俺が神国を出る時に、ヒジリ聖下はいなかったからね。そんな話はないよ」

 クソ真面目に答えたが、これがいけなかった。

「では、竜になった経緯は?」

「竜の血が俺に混ざっているからだよ。地球・・・、幸せの野に行った時に変身したら、この状態で安定しちゃったんだ」

 結構厄介なんです、この姿。惑星ヒジリを包む、危険な霞の影響を受けやすくなっている状態ですから。

「ええ!! 星の国に行ったのですか? あぁ! なんてこと! この話、私以外の吟遊詩人は絶対に知らないはずですよね?! 大スクープですわ!」

「もういいだろ。ちょっと喉が乾いてきた。水が飲みたいから首から降りてくれ」

「もう少しいいじゃないですか! で、星の国にはなんの目的で?」

 情報一番乗りの名誉に恍惚とする詩人を見た――――、ムク以外の仲間たちが俺を見てゲラゲラと笑っている。そういうことか。確かに詩人の質問はしつこい!

「仲間を生き返らせる為に、行く必要があったんだ」

「仲間、仲間・・・。あれ? そういえば、ウィング・ライトフット様とメリィ修道騎士様は?」

 ん、ウィングの事を、この吟遊詩人が知っているということは、どこかでウィングの存在が復活しているって事だな! 良し!

「これで終わりにしてくれよな。ウィングを生き返らせる為に行ったんだよ。メリィはパーティを抜けた」

「それは奇妙ですね。現人神様なら容易に、助司祭様を復活する事が出来たはずですよ?」

 くっそ~、まだ質問は続くのか。皆、バーでワイン飲んで腸詰め食ってやがる。いいな~。

「ウィングは存在を消されていたんだよ。だから聖下でも復活は無理だったんだ」

「ああ、存在消しの短剣で刺されたのですね? でもウィング様は風属性の司祭ですよね? そんな簡単に刺されるはずがないと思うのですが!」

 風属性の人は、回避率が高いからね。

「俺を庇って刺されたんだよ! もういいだろ! 水!」

「水ならありますよ! これをどうぞ!」

 吟遊詩人は腰にあった水袋の水を、俺の口に流し込んだ。

 ――――ゴクッゴクッ!

「うわぁっぷ! くっさ! この水、腐ってる!」

「喜んでもらえて、恐縮です!」

「喜んでねぇよっ!」

 また向こうで仲間が笑ってる。くそ~。

 ――――ん?

「あががが! は、腹がいてぇ!」

 ありえねぇ。なんで腹が痛いんだ? 俺の体に不利益をもたらす物はなんだって排除されるはずだぞ! ナノマシンよ、どうして働かない?

 そうだ! 今日は月に一度ある脱糞デーだった!

「やばい、やばい! 漏れる漏れる!」

 いつもは楽しみな脱糞デー。排泄物を出すという喜びを知る特別な日なのに!

 それが、今はどうだ! 冷や汗ダラダラ出るわ、お腹がソワソワするわで・・・。

 ん? 冷や汗? 冷や汗は直ぐにナノマシンに吸収されるはずだぞ? やっぱ俺のナノマシンが働いていねぇ!

 そう思った瞬間、首にしがみついていた詩人が俺の首肉ごとズルリと落ちる。

「ひえっ!」

 驚く詩人の手の中にある首肉は、サラサラと光の粉となって消えていった。

「だめだ! もう我慢できねぇ!」

 、ドラゴンの体を突き破って、外に飛び出す。当然、素っ裸で恥ずかしいが、今はそれどころじゃねぇ!

「簡易トイレボックス~!」

 亜空間ポケットから取り出した、大きな簡易トイレに俺は素早く入って、便座に腰を下ろす。

 ――――メリメリメリメリ~~~! メリオダス!

 肛門を押し分けて、排出される排泄物は若干の開放感と快楽を俺に与えてくれる。

「ふぅ~、あぶなかった」

 ギリギリセーフだったと安堵していると、外からハープの音が聞こえてきた。さっきの吟遊詩人だ。

「張り詰めた~尻の~♪ 震える肛門~♪ ガマの穂に~よく似た~♪ お前のう~んこ~♪」

 ――――ゲラゲラゲラ!

 仲間が歌を聴いて笑っている。

 あんの詩人め~~~!! 俺の記憶の中の歌を聞いたな? 変な替え歌しやがって!

 スタジオジ○リと米良○一に怒られろ!
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