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エイリアン、皆、エイリアン
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マスの塩焼きを焼いていると、カッパが焚き火を眺めながら自己紹介を始めた。
「私はレプタリアンのラケル。霧の向こう側から来ました」
そこまで言った彼女を見て、俺は驚いた。
「は? レプタリアンだって?!」
宇宙人じゃねぇか! 地球の地底にいるいると言われて、結局四十一世紀まで見つかっていない。カッパじゃなかったのかよ! こりゃヒジリに報告したら、狂喜乱舞されるぞ。
これで宇宙人は惑星ヒジリのヒューマノイドに、蛇星人、そしてレプタリアンがいる事になる。新たなる宇宙人が見つかったとなれば、地球は大騒ぎだ。外宇宙にまで探索に出掛けている、ドローンタイプのアンドロイド達が不憫でならない。なにせ、宇宙人は身近にいたのだから!
「人間にはカッパって呼ばれています」
でしょうな。そうでしょうとも。
「霧の向こう側の種族がする話に、人間族の事がちょくちょく出てくるよな」
ピーターがマスの焼け具合を見つめながら、人間族に興味を持つ。
「人間族なら、この世界にもいるだろう。ビャクヤが言っていたのを忘れたか? ニムゲイン王国を構成する種族の殆どが、人間とエルフだと言っていた。どこかのウィザードのレポートでも、人間族は異世界のメイン種族である事が多い、とな」
最近のサーカは意外と博識なんだよなぁ。情報収集と表だった取り締まりがメインの仕事である、シルビィ隊所属だからか。シルビィ隊は裏側と性質が似ている。
アルケディアに寄った際には、こまめに城に行って情報を集めているみたいだし。
「やっぱり人間に迫害されて、この星にやってきたのか? ラケル」
俺の質問にラケルはどこか寂しそうな顔をした。
「いいえ、人間とは良好な関係を保っていました。共生して人間と相撲をして遊んだり、きゅうりやイノシシ肉を分けてもらったりしてました」
やっぱ相撲するんだな。きゅうり以外にも肉を食うんだ?
「じゃあ、どうして?」
「段々と人間は自然と共生しなくなり、科学に頼るようになりました。森は減り川が汚れ、私達の居場所はどんどんと失われていったのです。それで私達は星の兄弟を頼りました」
「星の兄弟?」
「ええ、私達は大昔から地球に住むレプタリアンですが、星の兄弟は宇宙からやってきたレプタリアンです。この星にもいますね、主にリザードマンと呼ばれていますが」
「あ、あいつらも宇宙人だったのか・・・」
リザードマンはツィガル帝国の東の沼地を住処にする凶暴なトカゲ人間だ。常に帝国とイザコザを起こしている。
荒くれ者が多かった歴代の皇帝と違い、穏健派で知られる内政重視型の現皇帝チョールズ・ヴャーンズが、これ以上領土を拡大しないのは、リザードマンのゲリラ的なテロのせいだとも言われている。常に冒険者や騎士団に、リザードマン討伐任務を出しているらしいが、リザードマンの繁殖力は高い。討伐で数を減らしたと思っていても、数年後には、どこかで大繁殖をして領土を荒らして回る。
「ええ、でも彼ら星の兄弟は、優しくないというか・・・。優しさを弱さと捉えるのです」
「なんだ、オーガと一緒じゃん」
ピーターが、遠火で中々焼けないマスの塩焼きにイライラしながら俺を見た。まぁ俺はオーガじゃないんですけどね。
「穏やかな性格の私達は、大きな宇宙船の中で最下層民の地位を受け入れ生きていました。長い間、星の兄弟の横暴に、我慢をしていましたが、とうとう彼らの虐待に耐えきれなくなったのです。毎日泣きながら、緑あふれる森で静かに暮らしたいと、神様に祈るようになりました。すると突然、どこからともなく霧が現れて、私達を包み込んだかと思うと、ここにいました」
「そうか。大変だったな。やっぱり霧の魔物ってのは、元にいた世界で虐げられて、やって来るんだな。可哀想に・・・」
俺がそう言うと、サーカが露骨に嫌な顔をした。
「ラケルのように、共生してくれるならいいが・・・。価値観も大幅に違う――――、我々からすれば魔物と同様の者が現れて暴れられると、それはそれで困る」
そういった魔物の多くが、ブラッド辺境伯の領地に現れるのは何故だろうか?
「まぁ確かにな。共生できる者は、どこかでひっそり生きているんだろうさ。(まぁ、自守自衛できないと、街道脇や野原に屍を晒すことになるけども)」
「多分、焼けたと思うぅ」
これまでの話を無視して、マスの塩焼きに手を出そうとしたメリィの手を軽く叩いて止めたら、ピーターみたいな邪悪な顔で睨まれた。
いや、怖くないから。寧ろ可愛い。地走り族は、なんかズルい顔をしている。ピーター以外は愛らしい顔をしているからだ。
ってか、メリィの属性、変わってないだろうな? 邪悪とかになっていたら困るぞ。心配になってきた。後でさり気なく鑑定しておこう。
「まだだよ、メリィ。まだ半生だ。俺は匂いで分かる。トウスさんも匂いで分かるだろ?」
「あぁ。中々焼けねぇもんだな。腹減った」
トウスさんはずっと毛繕いをして、空腹を紛らわしている。
「なんで焚き火なんだ? いつもの調理器具はどうした?」
獅子人にそう言われ、俺は上唇だけを上げて変な顔をした。
「ゴキブリのォ、這い回ったァ、調理器具でェ、作られた料理をォォ、お前さんはァ、食べたいのかァ~」
ちょっとアナゴさんっぽく喋ってみたが、ウケるわけもなく。
「ゴォォ・・・」
呻くライオンのような声を出して、トウスさんの目が小さくなる。若干、毛も逆立っているな。これでトウスさんの苦手が二つに増えた。
それはキリマルとゴキブリだ。・・・ゴキブリと同列なキリマルは、なんだか笑えるが。
「一度、無限鞄から全てを出して、それらを丹念に洗わないと駄目だ。暫くは原始的な調理方法になるよ」
「江戸時代はこうやって子どもたちと一緒になって、川魚を捕まえて竹串に挿して焼いて食べていました」
困っている俺らをよそに、ラケルは懐かしそうに昔の情景を思い出しているようだ。
江戸時代と呼ぶって事は、科学が発展して公害が発生していた昭和時代まで、彼女は地球に居たって事になるな。かなりの長寿種族じゃないか。二千年以上は確実に生きている。
「ここには、他にどんな種族がいるのだ?」
サーカが興味あり気にラケルに訊く。恐らく、シルビィ隊長に報告するのだろう。
「ミノタウロスの他に、トレントやピクシー、ノッカーやレプラコーン、森の奥には九尾の狐や牛鬼がいます」
西洋や東洋の妖精や魔物が大集結しているな、と思っているとサーカが何故か興奮しだした。
「ミノタウロスや訳のわからん魔物はともかく、この世界でも消えつつあるトレントやピクシーがいるのは嬉しい事だ! 彼女らがいると、森が活性化すると言われているからな。リッチの実験で汚染された森なんかに住まわせると良い。緑を回復してくれるだろう」
リッチの住む森は確かに毒沼があったり、瘴気が発生していたりしていて厄介だ。
その代表的な土地が、グランデモニウム王国改め、ヒジランド神国にある絶望平野だな。あそこの森はリッチが多く住んでいて、広く魔法残滓物で汚染されているし、実験の犠牲者であるアンデッドが徘徊している。
「この森、今までよく冒険者に見つからなかったな。ピクシーを捕まえて売り飛ばそうと考える輩が、必ず現れるだろうから、気をつけなよ」
俺の忠告に、ラケルはクスっと笑った。
「あの隠し扉近辺は、タカリゴキブリの住処なんです。で、扉を挟んで森側がミノタウロスのテリトリーなのです」
なるほどね。あの凄い数のゴキブリを相手にしようと思う冒険者はまずいない。戦っても何のメリットもないからだ。普通はスルーして螺旋階段を降りていくだろう。それでも無理に留まっていると、隠し扉の向こう側からミノタウロスが出てくるわけだ。
ミノタウロス単体なら、並みの冒険者でも対処できるが、大量のゴキブリで混乱している最中に現れると、厄介なのは間違いない。
「サーカは、シルビィさんにこの森の事を口外しないよう言っといてくれよ。トレントやピクシーが必要な時は、独立部隊だけで動いて交渉してくれ。ピーターも喋るなよ?」
頷くサーカの横で、ピーターが当然のような顔をして手を出した。
「口止め料、金貨一枚だ」
「俺のマスの塩焼きがァ、それに相当するゥ」
「あっそ。お前、随分と偉くなったなぁ? オビオさんよぉ。マスの塩焼きごときに金貨一枚だと? まぁそれならそれで、いいんだけどさ。俺が喋らなくても、どの道ここを見つける人物が一人いるなぁ、そういえば」
「誰よ?」
「サヴェリフェ家の末妹のコロネちゃんだよ。スカウト兼レンジャーの彼女は冒険好きで有名だろ? まだ十歳になるかならないかってのに、隠し扉や罠を一目で発見しちゃうんだ。相棒の角有りオーガのドォスンは、砦の戦士の中でも、最強だって言われているしさ。なにせ黄竜殺しの二つ名がある。・・・そうそう、マナの大穴は一見構造が簡単だから、今のところ、彼女もさして興味を持っていない。でもさ、俺が冒険者ギルドに情報をちょっと流すだけで、どうなるかなぁ? きっと彼女は喜び勇んで、ここにやって来ると思うよ?」
急に立ち上がって後ろ手を組み、ピョコピョコ飛び跳ねながら、座る俺に顔近づけてくるピーターの目は白目だ。なんか気味が悪いし、むかつくぜ・・・。ナンベルさんの真似すんな!
「わかった、わかった。金貨はやるから、絶対喋るなよな?」
俺は金貨を腰袋から取り出して、親指で弾き、ピーターに投げた。くそう。なんだか腹立たしい。
「まいどありーー!」
そう言って、縦の効果線が背景に入りそうな狂喜の顔をした後、ピーターは金貨を腰袋にしまった。・・・顔芸が増えたな、ピーターさんよ。
「そんな事より、食料を集めてさっさと大穴の底まで行こうぜ」
マスが焼けた事を匂いで察知したトウスさんが、塩焼きの串を手に持って食べながら、リーダーである俺に要件を早く終わらせようと催促してくる。
トウスさんが食べ始めたのを見て、皆も塩焼きを手に取った。
勿論、ラケルもちゃっかり自分のマスを獲っていたので、彼女も生のまま嘴でつついて食べている。
「うんめぇーーー!!」
トウスさんがマスの塩焼きを咀嚼して飲み込むと、いきなり獅子咆哮が辺りに炸裂した。
スキル発動時の咆哮と違って、これは歓喜なる咆哮。料理アニメだったら、大げさな演出がなされていただろう。
「塩だけで、ここまで美味くなるなんてなー!」
ピーターも咆哮。彼の場合、口中の咀嚼物が見えて、ただただ汚い。それだけ。
「んまーい!! ボリュームがあるのに大味ではなく、脂が乗ってて、とてもジューシー!」
サーカも咆哮。服や鎧がバリバリと破けて、光り輝く全裸となり、そのまま宇宙に飛んでいってしまいそうだ。
「美味しぃ~」
メリィは咆哮していない。いつもどおりの間の抜けた声を出して、自分のほっぺをサスサスしている。
「これも、ラケルさんがマスを獲ってきてくれたお陰だな。フスゥ~、ハァ~、ンッ! 感謝、感謝!」
田中邦衛さんの物真似をしてみたが、当然、誰にも伝わらなかった。
寧ろサーカに変な目で見られてしまった事を後悔する。
やっぱり、この手のネタはキリマルやヒジリがいないと成り立たないな・・・。それにツッコミの俺が、気安くボケるもんじゃあない。ボケ時もダメダメだし。
今後の自分のキャラ設定をどうするか考えていると、焚き火の向かいに座るラケルが、俺に感謝されて照れ、頭の皿を撫でている。
「そんなぁ~。でも獲った甲斐がありましたよ。こうやって皆さんと仲良く、お話ができるんですもの!」
焚き火を囲んでワイワイと雑談しながらの食事は久々なのだろうか? ラケルさんの顔は、とても嬉しそうだった。
「私はレプタリアンのラケル。霧の向こう側から来ました」
そこまで言った彼女を見て、俺は驚いた。
「は? レプタリアンだって?!」
宇宙人じゃねぇか! 地球の地底にいるいると言われて、結局四十一世紀まで見つかっていない。カッパじゃなかったのかよ! こりゃヒジリに報告したら、狂喜乱舞されるぞ。
これで宇宙人は惑星ヒジリのヒューマノイドに、蛇星人、そしてレプタリアンがいる事になる。新たなる宇宙人が見つかったとなれば、地球は大騒ぎだ。外宇宙にまで探索に出掛けている、ドローンタイプのアンドロイド達が不憫でならない。なにせ、宇宙人は身近にいたのだから!
「人間にはカッパって呼ばれています」
でしょうな。そうでしょうとも。
「霧の向こう側の種族がする話に、人間族の事がちょくちょく出てくるよな」
ピーターがマスの焼け具合を見つめながら、人間族に興味を持つ。
「人間族なら、この世界にもいるだろう。ビャクヤが言っていたのを忘れたか? ニムゲイン王国を構成する種族の殆どが、人間とエルフだと言っていた。どこかのウィザードのレポートでも、人間族は異世界のメイン種族である事が多い、とな」
最近のサーカは意外と博識なんだよなぁ。情報収集と表だった取り締まりがメインの仕事である、シルビィ隊所属だからか。シルビィ隊は裏側と性質が似ている。
アルケディアに寄った際には、こまめに城に行って情報を集めているみたいだし。
「やっぱり人間に迫害されて、この星にやってきたのか? ラケル」
俺の質問にラケルはどこか寂しそうな顔をした。
「いいえ、人間とは良好な関係を保っていました。共生して人間と相撲をして遊んだり、きゅうりやイノシシ肉を分けてもらったりしてました」
やっぱ相撲するんだな。きゅうり以外にも肉を食うんだ?
「じゃあ、どうして?」
「段々と人間は自然と共生しなくなり、科学に頼るようになりました。森は減り川が汚れ、私達の居場所はどんどんと失われていったのです。それで私達は星の兄弟を頼りました」
「星の兄弟?」
「ええ、私達は大昔から地球に住むレプタリアンですが、星の兄弟は宇宙からやってきたレプタリアンです。この星にもいますね、主にリザードマンと呼ばれていますが」
「あ、あいつらも宇宙人だったのか・・・」
リザードマンはツィガル帝国の東の沼地を住処にする凶暴なトカゲ人間だ。常に帝国とイザコザを起こしている。
荒くれ者が多かった歴代の皇帝と違い、穏健派で知られる内政重視型の現皇帝チョールズ・ヴャーンズが、これ以上領土を拡大しないのは、リザードマンのゲリラ的なテロのせいだとも言われている。常に冒険者や騎士団に、リザードマン討伐任務を出しているらしいが、リザードマンの繁殖力は高い。討伐で数を減らしたと思っていても、数年後には、どこかで大繁殖をして領土を荒らして回る。
「ええ、でも彼ら星の兄弟は、優しくないというか・・・。優しさを弱さと捉えるのです」
「なんだ、オーガと一緒じゃん」
ピーターが、遠火で中々焼けないマスの塩焼きにイライラしながら俺を見た。まぁ俺はオーガじゃないんですけどね。
「穏やかな性格の私達は、大きな宇宙船の中で最下層民の地位を受け入れ生きていました。長い間、星の兄弟の横暴に、我慢をしていましたが、とうとう彼らの虐待に耐えきれなくなったのです。毎日泣きながら、緑あふれる森で静かに暮らしたいと、神様に祈るようになりました。すると突然、どこからともなく霧が現れて、私達を包み込んだかと思うと、ここにいました」
「そうか。大変だったな。やっぱり霧の魔物ってのは、元にいた世界で虐げられて、やって来るんだな。可哀想に・・・」
俺がそう言うと、サーカが露骨に嫌な顔をした。
「ラケルのように、共生してくれるならいいが・・・。価値観も大幅に違う――――、我々からすれば魔物と同様の者が現れて暴れられると、それはそれで困る」
そういった魔物の多くが、ブラッド辺境伯の領地に現れるのは何故だろうか?
「まぁ確かにな。共生できる者は、どこかでひっそり生きているんだろうさ。(まぁ、自守自衛できないと、街道脇や野原に屍を晒すことになるけども)」
「多分、焼けたと思うぅ」
これまでの話を無視して、マスの塩焼きに手を出そうとしたメリィの手を軽く叩いて止めたら、ピーターみたいな邪悪な顔で睨まれた。
いや、怖くないから。寧ろ可愛い。地走り族は、なんかズルい顔をしている。ピーター以外は愛らしい顔をしているからだ。
ってか、メリィの属性、変わってないだろうな? 邪悪とかになっていたら困るぞ。心配になってきた。後でさり気なく鑑定しておこう。
「まだだよ、メリィ。まだ半生だ。俺は匂いで分かる。トウスさんも匂いで分かるだろ?」
「あぁ。中々焼けねぇもんだな。腹減った」
トウスさんはずっと毛繕いをして、空腹を紛らわしている。
「なんで焚き火なんだ? いつもの調理器具はどうした?」
獅子人にそう言われ、俺は上唇だけを上げて変な顔をした。
「ゴキブリのォ、這い回ったァ、調理器具でェ、作られた料理をォォ、お前さんはァ、食べたいのかァ~」
ちょっとアナゴさんっぽく喋ってみたが、ウケるわけもなく。
「ゴォォ・・・」
呻くライオンのような声を出して、トウスさんの目が小さくなる。若干、毛も逆立っているな。これでトウスさんの苦手が二つに増えた。
それはキリマルとゴキブリだ。・・・ゴキブリと同列なキリマルは、なんだか笑えるが。
「一度、無限鞄から全てを出して、それらを丹念に洗わないと駄目だ。暫くは原始的な調理方法になるよ」
「江戸時代はこうやって子どもたちと一緒になって、川魚を捕まえて竹串に挿して焼いて食べていました」
困っている俺らをよそに、ラケルは懐かしそうに昔の情景を思い出しているようだ。
江戸時代と呼ぶって事は、科学が発展して公害が発生していた昭和時代まで、彼女は地球に居たって事になるな。かなりの長寿種族じゃないか。二千年以上は確実に生きている。
「ここには、他にどんな種族がいるのだ?」
サーカが興味あり気にラケルに訊く。恐らく、シルビィ隊長に報告するのだろう。
「ミノタウロスの他に、トレントやピクシー、ノッカーやレプラコーン、森の奥には九尾の狐や牛鬼がいます」
西洋や東洋の妖精や魔物が大集結しているな、と思っているとサーカが何故か興奮しだした。
「ミノタウロスや訳のわからん魔物はともかく、この世界でも消えつつあるトレントやピクシーがいるのは嬉しい事だ! 彼女らがいると、森が活性化すると言われているからな。リッチの実験で汚染された森なんかに住まわせると良い。緑を回復してくれるだろう」
リッチの住む森は確かに毒沼があったり、瘴気が発生していたりしていて厄介だ。
その代表的な土地が、グランデモニウム王国改め、ヒジランド神国にある絶望平野だな。あそこの森はリッチが多く住んでいて、広く魔法残滓物で汚染されているし、実験の犠牲者であるアンデッドが徘徊している。
「この森、今までよく冒険者に見つからなかったな。ピクシーを捕まえて売り飛ばそうと考える輩が、必ず現れるだろうから、気をつけなよ」
俺の忠告に、ラケルはクスっと笑った。
「あの隠し扉近辺は、タカリゴキブリの住処なんです。で、扉を挟んで森側がミノタウロスのテリトリーなのです」
なるほどね。あの凄い数のゴキブリを相手にしようと思う冒険者はまずいない。戦っても何のメリットもないからだ。普通はスルーして螺旋階段を降りていくだろう。それでも無理に留まっていると、隠し扉の向こう側からミノタウロスが出てくるわけだ。
ミノタウロス単体なら、並みの冒険者でも対処できるが、大量のゴキブリで混乱している最中に現れると、厄介なのは間違いない。
「サーカは、シルビィさんにこの森の事を口外しないよう言っといてくれよ。トレントやピクシーが必要な時は、独立部隊だけで動いて交渉してくれ。ピーターも喋るなよ?」
頷くサーカの横で、ピーターが当然のような顔をして手を出した。
「口止め料、金貨一枚だ」
「俺のマスの塩焼きがァ、それに相当するゥ」
「あっそ。お前、随分と偉くなったなぁ? オビオさんよぉ。マスの塩焼きごときに金貨一枚だと? まぁそれならそれで、いいんだけどさ。俺が喋らなくても、どの道ここを見つける人物が一人いるなぁ、そういえば」
「誰よ?」
「サヴェリフェ家の末妹のコロネちゃんだよ。スカウト兼レンジャーの彼女は冒険好きで有名だろ? まだ十歳になるかならないかってのに、隠し扉や罠を一目で発見しちゃうんだ。相棒の角有りオーガのドォスンは、砦の戦士の中でも、最強だって言われているしさ。なにせ黄竜殺しの二つ名がある。・・・そうそう、マナの大穴は一見構造が簡単だから、今のところ、彼女もさして興味を持っていない。でもさ、俺が冒険者ギルドに情報をちょっと流すだけで、どうなるかなぁ? きっと彼女は喜び勇んで、ここにやって来ると思うよ?」
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俺は金貨を腰袋から取り出して、親指で弾き、ピーターに投げた。くそう。なんだか腹立たしい。
「まいどありーー!」
そう言って、縦の効果線が背景に入りそうな狂喜の顔をした後、ピーターは金貨を腰袋にしまった。・・・顔芸が増えたな、ピーターさんよ。
「そんな事より、食料を集めてさっさと大穴の底まで行こうぜ」
マスが焼けた事を匂いで察知したトウスさんが、塩焼きの串を手に持って食べながら、リーダーである俺に要件を早く終わらせようと催促してくる。
トウスさんが食べ始めたのを見て、皆も塩焼きを手に取った。
勿論、ラケルもちゃっかり自分のマスを獲っていたので、彼女も生のまま嘴でつついて食べている。
「うんめぇーーー!!」
トウスさんがマスの塩焼きを咀嚼して飲み込むと、いきなり獅子咆哮が辺りに炸裂した。
スキル発動時の咆哮と違って、これは歓喜なる咆哮。料理アニメだったら、大げさな演出がなされていただろう。
「塩だけで、ここまで美味くなるなんてなー!」
ピーターも咆哮。彼の場合、口中の咀嚼物が見えて、ただただ汚い。それだけ。
「んまーい!! ボリュームがあるのに大味ではなく、脂が乗ってて、とてもジューシー!」
サーカも咆哮。服や鎧がバリバリと破けて、光り輝く全裸となり、そのまま宇宙に飛んでいってしまいそうだ。
「美味しぃ~」
メリィは咆哮していない。いつもどおりの間の抜けた声を出して、自分のほっぺをサスサスしている。
「これも、ラケルさんがマスを獲ってきてくれたお陰だな。フスゥ~、ハァ~、ンッ! 感謝、感謝!」
田中邦衛さんの物真似をしてみたが、当然、誰にも伝わらなかった。
寧ろサーカに変な目で見られてしまった事を後悔する。
やっぱり、この手のネタはキリマルやヒジリがいないと成り立たないな・・・。それにツッコミの俺が、気安くボケるもんじゃあない。ボケ時もダメダメだし。
今後の自分のキャラ設定をどうするか考えていると、焚き火の向かいに座るラケルが、俺に感謝されて照れ、頭の皿を撫でている。
「そんなぁ~。でも獲った甲斐がありましたよ。こうやって皆さんと仲良く、お話ができるんですもの!」
焚き火を囲んでワイワイと雑談しながらの食事は久々なのだろうか? ラケルさんの顔は、とても嬉しそうだった。
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