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お前らの都合で

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「自分たちが得意とする戦い方をしてないとはいえ、強引に相手をねじ伏せるだけの実力があんたにはある、が・・・。」

 マギンはどういった力を使ったのか、飛んできたドラゴンランスを無にして、更に殴りかかってきたライトの拳に、毒の短剣を突き立てる。

「我が槍をどこにやった?」

「自惚れるな、と言っただろう?」

 竜騎士は毒の攻撃を受けて尚、退かずに今度は左拳でマギンに殴りかかったが、その拳にも毒の短剣が突き刺さる。

「即効性の猛毒なんだけどねぇ。あんたの先祖に暗殺者でもいたのかい?」

「いたやもしれぬ。もとより綺麗な身だと、言い張るつもりはない」

「そう長くはもたないよ。さぁ、さっさとそこを退きな」

「させぬ。幼子の目をくり抜くなど、死んでもさせぬ」

「まぁいいけどさ。あんたはあと一分ほどで死ぬ。最期の言葉でも聞いておこうかい?」

 体に力が入らないのか、ライトは霞む目でマギンに寄りかかった。

 耳元で囁く竜騎士の言葉を聞いて、マギンはニヤリと笑う。

「私の名前かい? マギン・シンベルシンだよ。シンベルシン家の最後の一人だ。全然気にしちゃいないけどね。さぁ、そのみっともない包容を解いてくれないかねぇ?」

「断る」

 ライトの抱きつく力が強くなった。怪力に抗えず、マギンは思わず悲鳴を上げる。

「グギギ! なんのつもりだい? この死にぞこない!」

「ホーリーー!!」

 ライトがそう叫んだと同時に、上空うから風切り音が聞こえ、ホーリーの持つ細身のドラゴンランスが、マギンの猫背を串焼きのように貫いた。

「ぎゃああああ!!」

 マギンを串刺しにしたまま、ホーリーは夫の口に解毒剤を含ませる。

「私は死なない! 私は死なない!」

 口から血を吹き出し、マギンは必死になって叫ぶ。

「何を言っている?」

 ホーリーがライトの肩を抱き、マギンを訝しんで見つめた。

「邪神様が言ったんだ! この世はそう思えば、そうなると! だからその男の槍を消せたんだ。なのに、なのにぃぃぃ! ごぼぉ!」

「邪神? 何のことか?」

 マギンは「まだ死なない、まだ死なない」と唱えつつ、串刺しとなった体から血を流す。

「聞いたことがある」

 夫の言葉に全幅の信頼を置くホーリーは、彼の知識を待った。

「誰しも強く願えば、マナが願いを叶えると。しかし、その思いは狂人並の強さでなければならない、とも言われている」

 しかし、坊主頭の魔人族は即座にそれを否定する。

「そんなチンケなものじゃないよ。邪神様曰く、この世は仮の世界。世界の理を信じなければ、抗うことができるのさ」

 そういうマギンの傷は少しばかり回復したように見えるが、ドラゴンランスで串刺しとなり、股間から飛び出る槍の先が、地面に突き刺さって彼女を固定し、未だ磔状態にしている。

「だが、そうはなっていない。その話が本当ならば、妻の槍は貴様の思い込みよりも、上だったという事である」




 俺が元貴族街のとある家の庭に到着した頃、魔人族が串刺しになったまま、喚き散らしていた。

「ちきしょぉぉぉ!! もう少し、を煮詰める時間さえあれば、私はなんだって出来たんだ! 神にだってなれた! なのに! こんなところで! あぁ、・・・邪神様! 私の声を聞いておくれよ! 邪神様ぁ~~!!」

 なんだ? 邪神様って。 キリマルの事か?

「こんな近くにいたのに、気づかなかったとは・・・。まだ、大丈夫だ。運命の歯車は狂っちゃいねぇ。マギンには悪いが、シンベルシン家には犠牲になってもらう。もう面倒は見きれん。あいつらの一族は、殺しの美学がなってねぇ」

 キリマルが何を言っているのかはわからんが、きっとあの魔人族の女が殺人鬼のマギン・シンベルシンなんだろう。槍で串刺しになって尚、まだ死に抗おうとしている姿は、見るに堪えない。

「なんだか、可哀想だな・・・」

 俺がポツリと呟くと、抱いているカーサが頬を抓ってきた。

「まさか助けるとか言うんじゃないだろうな? 馬鹿なことを言うなよ? あの女はシルビィ隊長が捕まえて、隊員がしっかりと監獄で監視していたのに逃げ出したんだ。脱獄犯は即刻死刑。余計なことはするな、オビオ」

 そう言ってサーカは記録用の魔法水晶を、腰袋から取り出した。

「記録しておくのか。シルビィも喜ぶだろうよ」

 キリマルはシルビィさんと知り合いっぽい。意外と世界は狭い。

「その証拠があれば、隊長さんのッ! 汚名返上となるでしょうッ! 我々もしかと目に焼き付けておきましょうかッ! 我が一族、分家の最期をッ!」

 え? マギンはビャクヤの子孫なのか? 以外だなぁ。善人から悪の塊みたいな奴が生まれてくるなんて。

「お前の敗因は、偏執狂なところだ。自分のコレクションに拘り過ぎた」

 白目が黒く、黒目が白い三白眼には何が見えているのか? キリマルはそう言って黒いコートのポケットに手を突っ込んだ。

「だ、誰だ。あんたら。シルビィの使いのものかい?」

 串刺し状態で風前の灯なのに、まだ敵の増援を気にしているのか? マギンから嫌な気配を感じる。

「そうだ。別にお前を追っていたわけではないが、シルビィ隊の一員としては放ってはおけない」

 サーカが答えるも、マギンの目はビャクヤやキリマルに向いたまま動かない。

 う~ん、な~んか嫌な予感がする・・・。

「おい、ビャクヤ。俺の勘が囁くんだ。嫌な予感がすると。キリマルもポケットに手を突っ込んでていいのか? そろそろ悪魔形態に戻っといた方がいいんじゃないのか?」

 しかし、いかにも正義の味方、といった声が、俺の忠告を遮る。

「ビャクヤ?! まさか! 姿が似ていたからもしやとは思っていましたが! 貴方様はニムゲインの始祖王、ビャクヤ・ウィン様ですか?」

 竜騎士二人が驚いて、その場で跪いた。

「いかにもッ! 時を超えッ! とある目的の為ッ! 吾輩は過去からやって来ましたッ!」

「おお!!」

 二人は顔を見合わせた後、また頭を下げた。

「伝説の魔法使いであり、我らが始祖王に出会えるとは恐悦至極!」

「おい、ビャクヤ・・・」

「ちょっと黙ってて下さいッ! オビオ君ッ! 今は子孫との感動的な出会いなのですからッ! しかしッ! マター家の者よッ! 遠い昔に袂を分かったとはいえ、互いに聖魔の血を引く者同士ッ! なぜ殺し合うのですッ!」

 いや、そりゃマギンが極悪人だからだろ。知ってるのになぜ訊くんだ? ってか聖魔って誰だ? 聖飢魔IIか?

「は・・・? この女が、我らと同じ血を持つ者ですと?!」

 まぁ驚くわな。一方は人間で善人、一方は魔人族で悪人。この二種族は結婚しても子孫を残せない。

 あれ? でもビャクヤの記憶で垣間見た奥さんは、清楚な見た目の人間だったはず・・・。ん?

「如何にも。貴方達は忘れてしまっているのですッ! 我が一族は多様な種族と交配できる事をッ!」

「な、なんと!」

 そりゃあ、なんと! と言いたくなるわな。まぁ、この魔法の星で不可能な事はない。

「しかしッ! いつしか、貴方達は一族の特性を忘れてッ! 同族と結婚するようになりましたッ! ・・・別にそれはそれで構いませんがッ!」

「それよりも、ビャクヤ・・・」

「ひゃはは!」

 くそ! 今度はマギンが俺の発言の邪魔をしやがる!

「そこの仮面のメイジの話が本当なら、私のご先祖様は! この竜騎士達に味方するってんだね?」

「そういう事になりますッ! それがなにかッ?」

「だったら!」

 ――――それはあっという間の出来事だった。

 キリマルですら反応できない速さで、竜騎士二人とマギンは霞のように散って消えてしまったのだ。

「なんですッ? 転移でもしましたかッ? マナの残滓を感じませんがッ!」

「くそがぁぁぁ!!」

 いきなりキリマルが俺に斬りかかってきた。サーカが慌てて肩から飛び降りる。

「おい! 俺に八つ当たりするのは止めろよ!」

 俺は真剣白刃取りで、魔刀の一撃を受け止めた。ヒジリとの修行は伊達じゃなかったって事だ。

「うるせぇ! また、一からやり直しじゃねぇか!」

「お前らの事情なんて知らねぇよ! あいつら、どこ行ったんだ?」

「死んだんだよ。あのクソアマが! 最後っ屁で嫌がらせしやがったんだ! 命を引き換えにするって覚悟で、思いを具現化しやがった! マター家の者を道連れにするという嫌がらせだ!」

「だから俺が、嫌な予感がするって言ったろ!」

「黙れ!」

 腹にキリマルの蹴りが入って、俺は吹っ飛ぶ。

「もうこの世界に用はなくなった! 壊すぜぇ? ビャクヤ!」

 キリマルは世界でも切り裂くような上段構えで突っ立って、主に許可を求めている。

「なにをするつもりだ?」

「この世界を消すんだわ! クハハ! お前らは役に立たなかったからな!」

 ひでぇ! お前らの都合で消される者の気持ちも考えろ! やっぱり、こいつは極悪非道な悪魔だ!

 キリマルの皮膚が裂けて、中から怒れる黒い悪魔が現れる。恐怖の塊が!

 俺は怯えながら、助けを求めるようにビャクヤを見たが、仮面のメイジは俯いて立ち尽くすだけだった・・・。
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