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姉妹の援護

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 魔力と信仰心以外の能力値が18もあり、実力値は50以上あると噂される――――、ヒジリという絶対に超えられない壁の前に為すすべもなく、俺はスカーに首を絞め上げられたまま、脱力していると、雲系の闇魔法が辺りを包んだ。

「ビャクヤか・・・?」

 例の魔人族の姿を探している間に、砦の戦士達は次々と麻痺して倒れていった。スカーのネックハンギングから逃れた俺は、跪いて喉を押さえゴホゴホと咳をして、空気を吸い込む。対象者以外には雲の効果が作用しないのが有り難い。

「ビチビチをいじめちゃ駄目」

 この抑揚のない声はイグナちゃん!

 声のする方を見ると、装備の魔法効果なのか、闇色の靄が尾を引くローブ姿のイグナちゃんが、ロングスタッフを掲げて歩いてきた。

 拳を鳴らしていたヒジリだったが、イグナちゃんを見るといつものように腕を組んで怒りを収める。

「星の国から来た重罪人をどうしようが、私の自由だ」

 魔刀が人化した時のアマリ程ではないけど、同じくトランジスターグラマーで可愛いイグナちゃんを前にしても、ヒジリは頑として自分の意見を曲げようとしない。サヴェリフェ姉妹には弱いと聞いた事があるが、この件に関してヒジリは強気だ。

「ビチビチは私の客人。お菓子を作ってもらう約束をした」

「だが・・・」

「おーい!」

 買い物から帰ってきたのか、他のサヴェリフェ姉妹が野菜などを抱えてこちらに向かってくる。

「どうしたの? ヒジリ。あ! オビオ!」

 流石タスネ子爵。俺をビチビチと呼ばない。

「久しぶりじゃない、オビオぉ。試練の塔以来ねぇ。大丈夫?」

 ほぼ聖騎士と言っても過言ではない聖騎士見習いのフランちゃんが、俺の背中を擦りながら俺の顔を覗き込んだ。ぐあぁ、魅力値19のその美貌は破壊的過ぎる。

 緩んだ顔をしていると、離れた場所でサーカが口を∞にして嫉妬していたので、顔を引き締める。ごめんて。

「ビチビチ!」

 末妹のコロネちゃんは、相変わらずスタジオジブリに出てきそうな顔をしている。自分を抱っこしていたオーガから下りて、コロネちゃんは俺によじ登ってきた。

 俺、さっきまで全身骨折で死にそうだったんですけど。ってか、誰か失神しているヘカちゃんの治療をしてあげて。

「ヒジリ! まさか、オビオを虐めていたんじゃないでしょうね? 縄張りを荒らされたぐらいで大人気ないよ!」

 タスネ子爵が腰に手を当てて、ヒジリにピシャリと言った。

「ほう、私とオビオの関係を知っていたのかね?」

「まぁね。駐在大使の仕事以外にも、樹族国で色んな人と任務をこなすから、オビオと出会っててもおかしくないでしょ?」

「悪いがこれは、星の国の法に関わる話、口出ししないでもらおうか、主殿」

 ヒジリはタスネ子爵の事を未だに主殿と呼んでいるのか。だったら子爵の説得は上手くいくかもしれねぇ。

「ここは星の国じゃないけど?」

 正論。地球の法なんて、この星の住人の知った事か!

「だが、我らの庇護下になければ、君たちは破滅に向かっていただろう。私は闘技場で災厄のエルダーリッチを説得し、元の世界に帰した。暴走した吸魔鬼を虚無の渦に追いやったのも私だ。人食い黒竜の脳の異常を見つけて、人食いじゃなくしたのもな。これらの問題を君たちで解決できたと思うかね?」

「ぐぬぬ・・・」

 ぐぬぬじゃねぇよ、子爵! 何とか説得してくれよ! 俺の力じゃヒジリには勝てねぇんだ!

 ――――力が欲しいか?

 ん? 誰だ?

 ――――貴様は、力を欲するのか?

 どこから声がする?

 俺は咄嗟に後ろを振り向いた。そこには小さなゴブリンが、一人佇んでこっちを見ていた。深い眼窩の下で瞳が煌々としている。

「勿論、力をくれるなら欲しい! あ、あんた、何者だ?」

 俺は期待を込めた目で、その何の変哲もないゴブリンに触れた。

 名前はクリボウ。実力値3。種族ゴブリン。神の恩恵は・・・。無し。

 何者だ? このゴブリンは。 俺の知らないスーパーパワーでも持っているのか?

 クリボウはニコリと笑った。

「ひひひ。ちょっと言ってみたかっただけだキャ!」

「なんだよっ! この野郎っ! あっち行けよっ!」

 ゴブリンは「ヒャハー! すんましぇん!」と言って慌てて逃げていった。くそが。一体何しに出てきたんだよ!

「ビチビチは私の客人」

 お、イグナちゃんが俺に寄り添ってくれている!

「そうよぉ。星の国に帰したら、オビオの美味しい料理が食べれなくなっちゃうじゃな~い!」

 跪く俺の頭を豊満な胸に押し付けるフランちゃんは、まだ15歳だ。

「そうだぞ! ビチビチのお菓子は美味しいんだぞ!」

 俺の肩の上で飛び跳ねるコロネちゃん、バランス感覚が良いな。まだ骨折が完治してないから痛いんだが。

「こんなに可愛いイケメン料理人を追いやるなんて、ヒジリも心が狭いわね!」

 えっ! 俺は地走り族に可愛い系だと思われてんの? それにという二つ名を持つ子爵に、心が狭いとか言われちゃったら、お終いだぞ、ヒジリ! プギャー!

「バトルコック団は、一騎当千のヘカティニス様を倒しました。倒し方は下品でしたが、冒険者とは手段を選ばず生き残る事を良しとします。最初の約束通り、話を聞いてあげてはどうでしょうか? マスター」

 ウ、ウメボシまで! まぁ彼女は、俺とサーカの恋仲の行方が気になるだけなんだろうけども。

「・・・。うぉぉぉぉ!!」

 えっ! 何怖い! ヒジリがいきなり放電した。怒りの行き場をなくしての八つ当たり放電か? 感情制御チップはどうした? 壊れているのか?

 平静を取り戻したヒジリは黙って歩き、失神しているヘカティニスのもとへ行き、お尻の傷の具合を確認した。

「肛門裂傷。これは失神しても仕方がないな。かなりの激痛だっただろう。可哀想に。ウメボシ、彼女の治療を」

「はい」

 ウメボシの目から、柔らかな光がヘカティニスの尻を包み込むと、血まみれの革のパンツの穴が塞がり、血も綺麗に消え去った。何もかも元通りの状態に戻ったのだ。
 
 便利だなぁ、ウメボシって。このアンドロイドがいれば、ヒーラーなんて必要ないじゃん。

 ヒジリがヘカちゃんを抱き上げると、不本意だが、という顔で彼は俺に言った。

「城の客間で話を聞こうか、オビオ」
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