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やりきれない気持ち
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階段を下りて目にした光景。
それは輝きの小剣を片手に背を向けるメリィだった。彼女の周りでは裏側が四人倒れている。
「メリィ・・・。まさかお前・・・」
疑いたくはない。彼女がカクイを殺しに来たなんて。まさか暗黒に堕ちたのだろうか?
そして牢屋の奥でカクイ司祭が、縮こまるようにして震えている。
「ほう。貴様、樹族国を敵に回すのか?」
頭に鉢金を巻く覆面の忍びが、いつの間にか背後にいた。
俺を押しのけるようにして、背後から裏側の長ジュウゾが前に出る。
「・・・」
メリィは何も答えない。その彼女にジュウゾはノーモーションで苦無を投げた。
――――仲間を信じろ。
以前、キリマルに言われた言葉が突然頭を巡る。咄嗟に俺の体は動いていた。
加速を発動させて、メリィ目掛けて飛ぶ苦無に追いついて、叩き落とす。
「メリィ共々何を企む? バトルコック団のリーダー」
「何も企んじゃいねぇよ! ただ俺は、メリィがこれをやったとは思えないだけだ」
暗殺者特有の冷えた視線を俺に向けるジュウゾは、問答無用で逆手で持った短刀で攻撃を仕掛けてきた。
その短刀が背中に刺さる。いてぇ・・・。戦士の指輪を付けてなかったら、この痛みに耐えるのは無理だったろうな。
「心臓を貫くには、刃が短すぎたか。流石は巨体のオーガ。むっ?」
ジュウゾは何かに気がついたのか、部下に近づき覆面を剥がす。
「・・・。何者だ、此奴は」
四人の内、一人は見知らぬ顔だったのだろうか? ジュウゾは謎の樹族を見て、短刀を鞘にしまった。そして、一人納得する。
「なるほど・・・。我らは神聖国を少し甘く見ていたのかもしれん」
「どういう事です?」
ブジュブジュと音を立てて再生する俺の背中の傷を見て、怪訝な顔をするジュウゾは「フン」と鼻を鳴らした。
「貴様などに国家機密を漏らすと思うか? 馬鹿が。とはいえ、この状況では口を噤んでも仕方があるまい。いくら貴様が愚鈍なオーガだとしても、いずれ気づくだろうからな。失敗に次ぐ失敗。これで裏側の名声も地に落ちた。裏側に神聖国の者が紛れ込んでいた事に気づかなかったのだ、この私が」
ジュウゾは更に、スパイ以外の部下の傷口を見る。三人が同時にそれぞれの頸動脈を切り裂いている。
緑色の血が石畳の隙間に吸われて消えていくのを見て、ジュウゾは歯ぎしりをした。
「これは・・・。同士討ちか」
「となるとカクイの能力で・・・」
「そういう事だな。しかし我が部下は、鼻が効く。同士討ちはあり得ないのだが・・・」
裏側の長の視線は、牢屋の奥角で震えるカクイに向く。
「何があった?」
「・・・」
カクイは膝を抱えて親指を噛んだ。
「神聖国からの暗殺者が私を殺しに来ました」
「なぜ、自分を殺しに来たとわかった?」
「誰かの使い魔のネズミが、囁いたのです。すぐに来る。大人しく死を受け入れろと」
ネズミなら、地下牢にいても怪しまれない。壁に小さな穴もある。カクイは嘘を言ってはいないだろう。
「続けろ」
「恐怖に震えた瞬間、能力が発動して・・・。そうしたら、裏側の内の三人が同士討ちをして死んでしまいました。恐らく能力が進化したのだと思います。全てが完璧の幻へと・・・。私はその時、モティの横にある谷底の暗殺ギルドを想像していましたから、裏側の皆さんには互いに、モティの暗殺者が見えていたのだと思います」
「それで、同士討ちした部下は死に、モティの暗殺者だけが残ったと?」
「ええ。そして、彼は私を殺そうとしましたが、結界が邪魔をして上手くいきませんでした。そうこうしている内に階上から、修道騎士がやってきたのです」
「ほう? それで修道騎士がモティの暗殺者を倒したと?」
「はい。彼女にも能力が有効だったはずなのですが・・・。牢屋中の者が全て同一の顔をしていた事に激昂して・・・。襲いかかってきた暗殺者を一撃で切り倒しました」
俺は一点を見つめるメリィの肩を揺すった。
「カクイの話は本当か? メリィ」
「え?」
立ったまま気絶でもしていたかのような彼女だったが、意識が戻ってきて目に光が灯った。と同時に指輪から情報が頭に流れてくる。
まさか闇堕ちしてないだろうな?
大丈夫だ。まだ修道騎士のままだ。ん? 実力値30である彼女の情報に、新たな項目がある!
――――能力消し! 任意で能力者の力を消滅させる能力。
神の恩恵だ! バトルコック団で二人目の能力者が誕生した! とてつもない能力だな・・・。
「彼女は・・・。神の恩恵を授かりました!」
俺がそう言うと、ジュウゾの目が見開く。
「何の能力だ?」
「能力者の能力を消滅させる力です!」
メリィは神を運命の神から星のオーガに変えたからか? なんか能力がヒジリっぽいぞ。でもヒジリは能力まで無効化はできない。
「檻の前まで来い、カクイ。奴の能力を確かめろ、オビオ」
偉そうに命令するなよな。俺はあんたの部下じゃないんだぞ。と思いつつも、それが一番の確認方法だと理解し、檻の手前まで来たカクイの白ローブの肩を掴んだ。
無い! 能力が消えている!
「消えてます!」
そう伝えると、忍者は僅かに身震いした。
「なんという恐ろしい能力だ。いや、我が国にとって有利な能力と言うべきか。ところで修道騎士と貴様は何しに地下牢に来た?」
「俺はカクイにパンを食べさせにきました」
そう言って、俺は亜空間ポケットから、ドライフルーツが入ったパンを取り出してジュウゾに見せた。
「毒入りか?」
「まさか! 料理人の名誉にかけて、そんな事はしませんよ。皆、腹が減っているだろうと思って」
俺は犯罪者に与えられる料理を見て、ここに来たのだ。あんなお湯のようなスープだけじゃ可哀想だ。
「ハッ! 料理人の名誉か。まぁいいだろう。で・・・。修道騎士は?」
メリィはまた怒りの精霊に取り憑かれそうな程、顔を真赤にして喚いた。
「カクイを! 殺しに来た!!」
その途端、また苦無がメリィに飛んで来たので、彼女を抱きしめて庇うと、背中に激痛が走る。
「それは最早、修道騎士の持つ権限の外。できるのは、疑わしき聖職者に神の裁きを下すのみ。そしてその役目を貴様は果たしたのだ。カクイは今や重要な外交カード。殺させはせんぞ。剣を納めろ。そうすれば今の言葉は、聞かなかった事にしてやる」
背中に刺さった苦無が床に落ちる音がした。傷が癒えて、戻った肉が苦無を押し出したのだ。
「化け物め・・・。猛毒をものともしないとはな」
毒が塗ってあったのかよ! 苦無を受けたのが俺で良かった・・・。
「メリィ。ジュウゾさんの言う通りだ。俺たちに出来るのはここまでなんだよ。いくらS級の冒険者だろうが、国の方針には逆らえない。剣を仕舞えって! 後は仮面の修道騎士か、聖騎士に任せときゃいいんだ」
それでもメリィは剣を鞘に収めようとせず、柄をきつく握りしめてカクイを睨んでいる。
正直、メリィがここまで変わるとは思わなかった。できれば、今のところ順調に作動している感情制御チップを彼女に移植してやりたいぐらいだ。
俺はメリィがカクイに近づかないように、押さえながらドライフルーツパンを司祭の手に渡した。
「あんな薄いスープだけじゃ、腹が減るだろ? 食べなよ。いつかウィングから読み取った記憶を頼りにして、あんたが作ったパンに似せて作ったんだけど」
俺の言葉に暫く手の中のパンを見つめていたカクイは、やはりお腹が減っていたのか、凄い勢いでパンを食べ始めた。
「味はどうだい? 焼け具合とか」
「・・・」
しかし、司祭は無心になってパンに齧りついている。そして、ピタリと食べるのを止めた。
「私が焼いたパンよりも美味しいです。敢えて文句を付けさせてもらうとすれば、少ししょっぱいですね」
そうだろうな。あんた泣いているから、涙の塩味がするんだよ。
「私は・・・。私は・・・。あぁ、ウィング・・・」
まるで天にいるウィングに捧げるようにパンを掲げて蹲るカクイは、嗚咽を漏らしながら泣いている。言葉にならない後悔。例えそれが、内包する双子の弟がやった事とはいえ、自分の手で弟子を消したのは紛れもない事実。
「ウィングは絶対に俺が復活させる。だからあんたは自分の犯した罪を償ってくれ」
「は、はい。はひいぃ・・・」
感情が落ち着かないのか、そう返事するのがやっとな司祭を見て、メリィは俺に冷たく言う。
「ビャクヤの情報が確かな証拠なんてない。例え、話が本当だったとしても、しおりは他の冒険者が持ち去った後かもしれない。ウィングやお姉ちゃんの存在を取り戻す確証なんてどこにもないんだ!」
怒りと不安が綯い交ぜになった顔で、メリィはこちらを見ている。
そんな顔で俺を見るな。俺だってビャクヤやキリマルを信じる以外、何の手立てもないんだ。
「それでも! それでも、俺は行くぞ。可能性があるならどこにだって行く。諦めたりはしない! それに・・・」
「それに?」
「メリィには星のオーガがついてるんだろ? 裁判の時に、星のオーガはちゃんと奇跡を見せてくれたじゃないか。きっと神様が助けてくれるさ。現人神様を信じようぜ!」
――――カチン!
メリィが輝きの小剣を鞘にしまった。そして、踵を返すとジュウゾを押しのけて階段を上がっていった。
「きっと上手くいくさ。きっと・・・」
メリィを見送りながら、俺は根拠も何もないままに、そう言うしかなかった。そう言わないと物事が失敗するような気がしたからだ。
囚人全員に、パンを配り終えると、現場検証を続けているジュウゾの横を通り過ぎて、階段に向かった。するとバリトンボイスが背後から聞こえてきた。
「星のオーガの御加護を」
ん? 誰が言った? ジュウゾか? 彼も星のオーガの信者なのだろうか?
それは輝きの小剣を片手に背を向けるメリィだった。彼女の周りでは裏側が四人倒れている。
「メリィ・・・。まさかお前・・・」
疑いたくはない。彼女がカクイを殺しに来たなんて。まさか暗黒に堕ちたのだろうか?
そして牢屋の奥でカクイ司祭が、縮こまるようにして震えている。
「ほう。貴様、樹族国を敵に回すのか?」
頭に鉢金を巻く覆面の忍びが、いつの間にか背後にいた。
俺を押しのけるようにして、背後から裏側の長ジュウゾが前に出る。
「・・・」
メリィは何も答えない。その彼女にジュウゾはノーモーションで苦無を投げた。
――――仲間を信じろ。
以前、キリマルに言われた言葉が突然頭を巡る。咄嗟に俺の体は動いていた。
加速を発動させて、メリィ目掛けて飛ぶ苦無に追いついて、叩き落とす。
「メリィ共々何を企む? バトルコック団のリーダー」
「何も企んじゃいねぇよ! ただ俺は、メリィがこれをやったとは思えないだけだ」
暗殺者特有の冷えた視線を俺に向けるジュウゾは、問答無用で逆手で持った短刀で攻撃を仕掛けてきた。
その短刀が背中に刺さる。いてぇ・・・。戦士の指輪を付けてなかったら、この痛みに耐えるのは無理だったろうな。
「心臓を貫くには、刃が短すぎたか。流石は巨体のオーガ。むっ?」
ジュウゾは何かに気がついたのか、部下に近づき覆面を剥がす。
「・・・。何者だ、此奴は」
四人の内、一人は見知らぬ顔だったのだろうか? ジュウゾは謎の樹族を見て、短刀を鞘にしまった。そして、一人納得する。
「なるほど・・・。我らは神聖国を少し甘く見ていたのかもしれん」
「どういう事です?」
ブジュブジュと音を立てて再生する俺の背中の傷を見て、怪訝な顔をするジュウゾは「フン」と鼻を鳴らした。
「貴様などに国家機密を漏らすと思うか? 馬鹿が。とはいえ、この状況では口を噤んでも仕方があるまい。いくら貴様が愚鈍なオーガだとしても、いずれ気づくだろうからな。失敗に次ぐ失敗。これで裏側の名声も地に落ちた。裏側に神聖国の者が紛れ込んでいた事に気づかなかったのだ、この私が」
ジュウゾは更に、スパイ以外の部下の傷口を見る。三人が同時にそれぞれの頸動脈を切り裂いている。
緑色の血が石畳の隙間に吸われて消えていくのを見て、ジュウゾは歯ぎしりをした。
「これは・・・。同士討ちか」
「となるとカクイの能力で・・・」
「そういう事だな。しかし我が部下は、鼻が効く。同士討ちはあり得ないのだが・・・」
裏側の長の視線は、牢屋の奥角で震えるカクイに向く。
「何があった?」
「・・・」
カクイは膝を抱えて親指を噛んだ。
「神聖国からの暗殺者が私を殺しに来ました」
「なぜ、自分を殺しに来たとわかった?」
「誰かの使い魔のネズミが、囁いたのです。すぐに来る。大人しく死を受け入れろと」
ネズミなら、地下牢にいても怪しまれない。壁に小さな穴もある。カクイは嘘を言ってはいないだろう。
「続けろ」
「恐怖に震えた瞬間、能力が発動して・・・。そうしたら、裏側の内の三人が同士討ちをして死んでしまいました。恐らく能力が進化したのだと思います。全てが完璧の幻へと・・・。私はその時、モティの横にある谷底の暗殺ギルドを想像していましたから、裏側の皆さんには互いに、モティの暗殺者が見えていたのだと思います」
「それで、同士討ちした部下は死に、モティの暗殺者だけが残ったと?」
「ええ。そして、彼は私を殺そうとしましたが、結界が邪魔をして上手くいきませんでした。そうこうしている内に階上から、修道騎士がやってきたのです」
「ほう? それで修道騎士がモティの暗殺者を倒したと?」
「はい。彼女にも能力が有効だったはずなのですが・・・。牢屋中の者が全て同一の顔をしていた事に激昂して・・・。襲いかかってきた暗殺者を一撃で切り倒しました」
俺は一点を見つめるメリィの肩を揺すった。
「カクイの話は本当か? メリィ」
「え?」
立ったまま気絶でもしていたかのような彼女だったが、意識が戻ってきて目に光が灯った。と同時に指輪から情報が頭に流れてくる。
まさか闇堕ちしてないだろうな?
大丈夫だ。まだ修道騎士のままだ。ん? 実力値30である彼女の情報に、新たな項目がある!
――――能力消し! 任意で能力者の力を消滅させる能力。
神の恩恵だ! バトルコック団で二人目の能力者が誕生した! とてつもない能力だな・・・。
「彼女は・・・。神の恩恵を授かりました!」
俺がそう言うと、ジュウゾの目が見開く。
「何の能力だ?」
「能力者の能力を消滅させる力です!」
メリィは神を運命の神から星のオーガに変えたからか? なんか能力がヒジリっぽいぞ。でもヒジリは能力まで無効化はできない。
「檻の前まで来い、カクイ。奴の能力を確かめろ、オビオ」
偉そうに命令するなよな。俺はあんたの部下じゃないんだぞ。と思いつつも、それが一番の確認方法だと理解し、檻の手前まで来たカクイの白ローブの肩を掴んだ。
無い! 能力が消えている!
「消えてます!」
そう伝えると、忍者は僅かに身震いした。
「なんという恐ろしい能力だ。いや、我が国にとって有利な能力と言うべきか。ところで修道騎士と貴様は何しに地下牢に来た?」
「俺はカクイにパンを食べさせにきました」
そう言って、俺は亜空間ポケットから、ドライフルーツが入ったパンを取り出してジュウゾに見せた。
「毒入りか?」
「まさか! 料理人の名誉にかけて、そんな事はしませんよ。皆、腹が減っているだろうと思って」
俺は犯罪者に与えられる料理を見て、ここに来たのだ。あんなお湯のようなスープだけじゃ可哀想だ。
「ハッ! 料理人の名誉か。まぁいいだろう。で・・・。修道騎士は?」
メリィはまた怒りの精霊に取り憑かれそうな程、顔を真赤にして喚いた。
「カクイを! 殺しに来た!!」
その途端、また苦無がメリィに飛んで来たので、彼女を抱きしめて庇うと、背中に激痛が走る。
「それは最早、修道騎士の持つ権限の外。できるのは、疑わしき聖職者に神の裁きを下すのみ。そしてその役目を貴様は果たしたのだ。カクイは今や重要な外交カード。殺させはせんぞ。剣を納めろ。そうすれば今の言葉は、聞かなかった事にしてやる」
背中に刺さった苦無が床に落ちる音がした。傷が癒えて、戻った肉が苦無を押し出したのだ。
「化け物め・・・。猛毒をものともしないとはな」
毒が塗ってあったのかよ! 苦無を受けたのが俺で良かった・・・。
「メリィ。ジュウゾさんの言う通りだ。俺たちに出来るのはここまでなんだよ。いくらS級の冒険者だろうが、国の方針には逆らえない。剣を仕舞えって! 後は仮面の修道騎士か、聖騎士に任せときゃいいんだ」
それでもメリィは剣を鞘に収めようとせず、柄をきつく握りしめてカクイを睨んでいる。
正直、メリィがここまで変わるとは思わなかった。できれば、今のところ順調に作動している感情制御チップを彼女に移植してやりたいぐらいだ。
俺はメリィがカクイに近づかないように、押さえながらドライフルーツパンを司祭の手に渡した。
「あんな薄いスープだけじゃ、腹が減るだろ? 食べなよ。いつかウィングから読み取った記憶を頼りにして、あんたが作ったパンに似せて作ったんだけど」
俺の言葉に暫く手の中のパンを見つめていたカクイは、やはりお腹が減っていたのか、凄い勢いでパンを食べ始めた。
「味はどうだい? 焼け具合とか」
「・・・」
しかし、司祭は無心になってパンに齧りついている。そして、ピタリと食べるのを止めた。
「私が焼いたパンよりも美味しいです。敢えて文句を付けさせてもらうとすれば、少ししょっぱいですね」
そうだろうな。あんた泣いているから、涙の塩味がするんだよ。
「私は・・・。私は・・・。あぁ、ウィング・・・」
まるで天にいるウィングに捧げるようにパンを掲げて蹲るカクイは、嗚咽を漏らしながら泣いている。言葉にならない後悔。例えそれが、内包する双子の弟がやった事とはいえ、自分の手で弟子を消したのは紛れもない事実。
「ウィングは絶対に俺が復活させる。だからあんたは自分の犯した罪を償ってくれ」
「は、はい。はひいぃ・・・」
感情が落ち着かないのか、そう返事するのがやっとな司祭を見て、メリィは俺に冷たく言う。
「ビャクヤの情報が確かな証拠なんてない。例え、話が本当だったとしても、しおりは他の冒険者が持ち去った後かもしれない。ウィングやお姉ちゃんの存在を取り戻す確証なんてどこにもないんだ!」
怒りと不安が綯い交ぜになった顔で、メリィはこちらを見ている。
そんな顔で俺を見るな。俺だってビャクヤやキリマルを信じる以外、何の手立てもないんだ。
「それでも! それでも、俺は行くぞ。可能性があるならどこにだって行く。諦めたりはしない! それに・・・」
「それに?」
「メリィには星のオーガがついてるんだろ? 裁判の時に、星のオーガはちゃんと奇跡を見せてくれたじゃないか。きっと神様が助けてくれるさ。現人神様を信じようぜ!」
――――カチン!
メリィが輝きの小剣を鞘にしまった。そして、踵を返すとジュウゾを押しのけて階段を上がっていった。
「きっと上手くいくさ。きっと・・・」
メリィを見送りながら、俺は根拠も何もないままに、そう言うしかなかった。そう言わないと物事が失敗するような気がしたからだ。
囚人全員に、パンを配り終えると、現場検証を続けているジュウゾの横を通り過ぎて、階段に向かった。するとバリトンボイスが背後から聞こえてきた。
「星のオーガの御加護を」
ん? 誰が言った? ジュウゾか? 彼も星のオーガの信者なのだろうか?
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