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重い想い
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「は、離れろ! なんだ、この蝶は!」
ヤンスさんが何かを言う前に、青白く光る二匹の蝶が本物らしきカクイに纏わりついた。
司祭は蝶を振り払おうと躍起になりつつも、壁に向かって手を当てている。
「あの蝶は、星のオーガの象徴! 朧月蝶だ! メリィの願いを、星のオーガが聞き入れたのだ! 壁際のカクイは本物のカクイだ!」
サーカが蝶を指差して叫んだ。しかし、魔法を司祭に当てれば反射されるので、誰もが手をこまねいている。
「ええぃ、隠し扉からカクイが逃げるぞ。近くの近衛兵は何をしている! 取り押さえろ!」
リューロックさんが手を薙ぎ払って怒りを顕にすると、少し離れた場所から近衛兵(多分)が走ってきてメイスで殴りかかったが、カクイの闇魔法【麻痺の雲】の前に倒れる。
雲系の魔法は、【魔法障壁】も意味をなさない。ここで王の盾が動いても同じ結果になるし、ムダン侯爵が鉄球を投げたが、いつの間にか司祭が常駐させた【物理障壁】を崩しただけだった。鎖を引いてもう一度投げる前に、カクイは部屋を出るだろう。
それにしても、どいつもこいつもカクイだ。ややこしいな。
黄色い雲の中で、カクイは勝ち誇った声で笑う。
「ハッハッハ! 残念だったな。この部屋から出れば、私は少なくとも樹族国内では転移し放題。警備の手薄な所から越境して逃げるぞ。さぁどこに逃げようか。獣人国レオンなら亡命を受け入れてくれそうだ。小国連合を通って、帝国領の東の沼地に潜むのも良い。グランデモニウム王国の絶望平野も、選択肢に入れておこうか」
グランデモニウム王国は悪手だな。あそこにはヒジリとウメボシがいる。国際指名手配されれば、直ぐに捕まるだろう。
誰もがカクイの逃亡が確実だと思いかけたその時、「ヒヒヒ」と子供のような声が司祭の近くから聞こえてきた。
振り返ってドアから出ようとした彼の背中から、小剣以下、短剣以上の長さの刺突武器が顔を出している。
「あぁ~っと! ピーターがカクイの胸を刺した~! しかし致命傷を免れてはいる~!」
ヤンスさんの実況がなければ、カクイは死んでいたかもしれない。邪悪なるピーター君は躊躇なく、人を殺せるからな。
「盗賊が隠し扉に気づかないわけないでしょ、カクイのおっさん。この扉の後ろで待ってりゃ、あんたが来るっていう読みは当たっていたよ。俺たちに騙し討ちをした事や、・・・仲間のウィングを消した事、糞不味いオビオの肉を食わせた事を後悔してもらう。クキキッ!」
これまでの冒険で数々の難関をくぐり抜けてきたとはいえ、ピーターがここまで成長しているとは、思ってもいなかった。
「だが、心臓を突いて殺さなかったのは詰めが甘い」
痛みに耐え、カクイは魔法を発動させようとしたが、ピーターは【吸魔】の魔法を既に発動させていた。魔法が発動した手でカクイの手首を握りしめている。
「ぐあぁ。マナが! マナがぁぁ!」
バルスという呪文を投げかけられて目を押さえる、どっかの悪役のように、カクイは頭を抱えた。
「いいぞ~。ピーターの【吸魔】が、カクイの残った魔法点を全て吸い取る~!」
吸い取る魔法点はランダムなので、全て吸い取る可能性は残りの魔法点分の一。均等な確率のはずだが、ヤンスさんのマイクパフォーマンスによって、カクイの魔法点はピーターの【吸魔】によって全て吸い取られてしまった。
と同時に、相貌失認の能力効果が切れて、沢山のカクイは消える。サーカが鯰髭のオッサンから、美人さんに戻っているのは嬉しい事だ。
まだ刺突武器を刺したままのカクイをピーターが蹴り倒すと、倒れた司祭を近衛兵が取り押さえて、縄で縛り、更に口に何らかの魔封じアイテムを咥えさせた。
「カクイを捕まえたのは・・・。俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ!」
ピーターが親指で自分を指し、猛烈にアピールしだしたので、取り敢えず抱えて被告席の後ろ辺りに立つ。
「俺だ俺だ俺だ!」
まだ言ってるよ。わかった、わかったから。
「あぁい、あい、ああぁ~い↑ あぁ~い↑」
諭すようにそう声を掛けると、ピーターは段々と落ち着きを取り戻してきたので、床に下ろす。
場のざわめきが無くなり、誰もが王の第一声を待った。
「見事なり、バトルコック団のピーター!」
わぁぁと歓声と拍手が沸き起こり、地走り族の盗賊に視線が注がれる。こいつがかつて、ここまで人々に賛辞を送られた事があるだろうか? 否。
助平で自己中で欲望に忠実なピーターは、周りからの好意的な歓声に戸惑い、「エヘヘ」と頭を掻いている。
まぁ厳密には、ビャクヤやキリマル、メリィやヤンスさんがいなければ、ピーターは美味しいところを掻っ攫う事は出来なかったわけだが、まぁいいや。終わりよければ全て良し。
「ピーターには追って褒美を出す。さて、今回の件、我が国と神聖国モティに深刻な軋轢を生む結果となった。闇堕ち司祭から情報を得た後、その内容によっては、国交断絶もあり得る。そうならなくとも、我が国から修道騎士と、グランデモニウム王国の現人神様の盾でもある、聖騎士見習いのフラン・サヴェリフェをモティに派遣する事になろう」
傍聴席いた僧侶たちが煩い。侯爵達の後ろの席にいた高位の僧侶が、いつの間にかモティの使者の傷を癒やしていたので、今の内容は勿論、モティに伝わる。
俺は法廷の中央辺りで気絶したままのトウスさんを抱きかかえて、サーカに尋ねる。
「つまり、どういう事?」
「ヒジリ猊下とフラン・サヴェリフェ聖騎士見習い、あるいは修道騎士が、教皇を神前審問するって事」
「え?! フランちゃんって見習いだろ? そんな事できるの?」
「現人神の盾を名乗っているという事は、常に神を降臨させた状態で、その神を守っているという事だからな。見習いでも関係ない。そもそも、あの聖騎士見習いは、既に聖騎士となっていてもおかしくない程の実力がある。だから教皇を裁く権利があるのだと私は解釈する。それは、傍聴席の僧侶も同じだろう」
近くにいたステコさんも会話に入ってきた。
「それに樹族国は樹族生誕の地。世界でも最も歴史が古く、格式高い。いくらモティが神の代理国を名乗ろうが、こうなった以上、立場は逆転するのだ」
「なるほど。宗教団体を監視する騎士修道会が、樹族国にしかないのは、そういう事だったんだな」
突然、王様がゴホンと咳をしたので、皆黙る。
「ワシは疲れた。部屋で休むとしよう。これにて閉廷とする。後々関係各所に通達を送るので、見落としなどないように」
背もたれの無くなった椅子から、王が立ち上がると、全員が立ち上がった。
カクイがばらして意味を成さなくなった隠し扉から出ていくシュラス国王を、全員が見守る。
反対の大扉からは、衛兵に囲まれてカクイともティの使者が退出していった。
侯爵達はまだ広間に残っており、集まって何やら話をしている。見た感じ、王の盾が今回の件の失敗を咎められているように見える。
「終わったんだな・・・」
俺がポツリと呟くと、腕の中で意識を取り戻したトウスさんが、メリィを見ていた。
「終わってない奴もいる。メリィを見てみろ。あれはまだ後悔の渦の中にいるって顔だ」
「そうだった。ウィング・・・。ウィングは、何で俺なんかを庇ったんだ」
「お前もメリィみたいな顔になってるぞ。ハハハ・・・」
トウスさんはそう言って笑うも、力のない声だった。王の盾の一撃はそれだけ強力だったのだろう。
「ウィングは」
そこまで言って、言うべきか言わないべきか迷っている様子のメリィが、俯きながら近づいてきた。
「消え去る間際に、オビオを愛していると言っていたよ・・・」
「?!」
俺は意味がわからなかった。どういう意味での愛なのか、わからないからだ。
「それは聖職者として、博愛主義的な意味での愛か?」
「・・・そんな感じじゃなかったかな。純粋に愛の告白のようだった」
どういう顔をして聞けばいいんだ。サーカと視線を合わせたが、彼女も困惑しているようだった。
「う、うそだろ? あいつなら、オビオと見た月は綺麗だった、とか臭いセリフで遠回しに告白するはずだ。そんな直接的な・・・」
「でもウィングは、そう言ったから。私は部屋に戻るね」
バトルコック団にそれぞれ用意された部屋へとメリィは向かい、広間の大扉を出ていった。
「・・・」
俺は人へ愛を施す術は知っている。サーカへの愛。俺の食事を美味しいと言ってくれる人への愛。感性特化型として生まれたのだから、感情が希薄なヒジリとは違う。
でも愛を受ける事に対して、あまり覚悟がなかったのかもしれない。
サーカからの愛は歪んでいて、直球じゃなかったので、時間を掛けて理解できた。
でも消える魔球のような、それでいてストレートなウィングの愛は、どう受け取れば良いのかわからない。
「俺もやっぱり、地球人なんだな・・・」
感情が希薄な同胞を変に思っていた自分も、その中の一人だったと思い知る。
ウィングの想いが重く感じる。そう感じる自分が、とんでもないクズ人間のように思えた。
自分の存在を賭けて救う価値が俺にはあったのか? 愛しているってだけで、存在消しの短剣に身を差し出す事ができるか?
俺だって、存在が消えるとわかっていたら、サーカを庇う事に少し躊躇するかもしれねぇ。なのに、ウィングは・・・!
「あ、頭が痛い・・・」
どんどんと伸し掛かってくる重圧に、目眩を起こしそうになったその時、黒い革手袋をはめたビャクヤが俺の肩を叩いた。
「君の仲間がッ! 消えたのはッ! 君のせいでもあるッ!」
「――――?!」
くそっ! なんだよ! 追い打ちをかけるようなその言葉は! こういう時、普通は慰めてくれるはずだろ?
逆に腹が立って、目眩から立ち直った俺は、身長百八十センチメートル程のビャクヤを見下ろした。シルクハットを加えたら二メートルくらいはある。
「なんで俺が関係してんだ?」
「ここでは話せないンゴッ! メリィさんの部屋にてッ! 話しましょうか!」
ビャクヤにどういった意図があるのかわからないが、取り敢えず俺たちはメリィの部屋に行くことにした。
ヤンスさんが何かを言う前に、青白く光る二匹の蝶が本物らしきカクイに纏わりついた。
司祭は蝶を振り払おうと躍起になりつつも、壁に向かって手を当てている。
「あの蝶は、星のオーガの象徴! 朧月蝶だ! メリィの願いを、星のオーガが聞き入れたのだ! 壁際のカクイは本物のカクイだ!」
サーカが蝶を指差して叫んだ。しかし、魔法を司祭に当てれば反射されるので、誰もが手をこまねいている。
「ええぃ、隠し扉からカクイが逃げるぞ。近くの近衛兵は何をしている! 取り押さえろ!」
リューロックさんが手を薙ぎ払って怒りを顕にすると、少し離れた場所から近衛兵(多分)が走ってきてメイスで殴りかかったが、カクイの闇魔法【麻痺の雲】の前に倒れる。
雲系の魔法は、【魔法障壁】も意味をなさない。ここで王の盾が動いても同じ結果になるし、ムダン侯爵が鉄球を投げたが、いつの間にか司祭が常駐させた【物理障壁】を崩しただけだった。鎖を引いてもう一度投げる前に、カクイは部屋を出るだろう。
それにしても、どいつもこいつもカクイだ。ややこしいな。
黄色い雲の中で、カクイは勝ち誇った声で笑う。
「ハッハッハ! 残念だったな。この部屋から出れば、私は少なくとも樹族国内では転移し放題。警備の手薄な所から越境して逃げるぞ。さぁどこに逃げようか。獣人国レオンなら亡命を受け入れてくれそうだ。小国連合を通って、帝国領の東の沼地に潜むのも良い。グランデモニウム王国の絶望平野も、選択肢に入れておこうか」
グランデモニウム王国は悪手だな。あそこにはヒジリとウメボシがいる。国際指名手配されれば、直ぐに捕まるだろう。
誰もがカクイの逃亡が確実だと思いかけたその時、「ヒヒヒ」と子供のような声が司祭の近くから聞こえてきた。
振り返ってドアから出ようとした彼の背中から、小剣以下、短剣以上の長さの刺突武器が顔を出している。
「あぁ~っと! ピーターがカクイの胸を刺した~! しかし致命傷を免れてはいる~!」
ヤンスさんの実況がなければ、カクイは死んでいたかもしれない。邪悪なるピーター君は躊躇なく、人を殺せるからな。
「盗賊が隠し扉に気づかないわけないでしょ、カクイのおっさん。この扉の後ろで待ってりゃ、あんたが来るっていう読みは当たっていたよ。俺たちに騙し討ちをした事や、・・・仲間のウィングを消した事、糞不味いオビオの肉を食わせた事を後悔してもらう。クキキッ!」
これまでの冒険で数々の難関をくぐり抜けてきたとはいえ、ピーターがここまで成長しているとは、思ってもいなかった。
「だが、心臓を突いて殺さなかったのは詰めが甘い」
痛みに耐え、カクイは魔法を発動させようとしたが、ピーターは【吸魔】の魔法を既に発動させていた。魔法が発動した手でカクイの手首を握りしめている。
「ぐあぁ。マナが! マナがぁぁ!」
バルスという呪文を投げかけられて目を押さえる、どっかの悪役のように、カクイは頭を抱えた。
「いいぞ~。ピーターの【吸魔】が、カクイの残った魔法点を全て吸い取る~!」
吸い取る魔法点はランダムなので、全て吸い取る可能性は残りの魔法点分の一。均等な確率のはずだが、ヤンスさんのマイクパフォーマンスによって、カクイの魔法点はピーターの【吸魔】によって全て吸い取られてしまった。
と同時に、相貌失認の能力効果が切れて、沢山のカクイは消える。サーカが鯰髭のオッサンから、美人さんに戻っているのは嬉しい事だ。
まだ刺突武器を刺したままのカクイをピーターが蹴り倒すと、倒れた司祭を近衛兵が取り押さえて、縄で縛り、更に口に何らかの魔封じアイテムを咥えさせた。
「カクイを捕まえたのは・・・。俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ!」
ピーターが親指で自分を指し、猛烈にアピールしだしたので、取り敢えず抱えて被告席の後ろ辺りに立つ。
「俺だ俺だ俺だ!」
まだ言ってるよ。わかった、わかったから。
「あぁい、あい、ああぁ~い↑ あぁ~い↑」
諭すようにそう声を掛けると、ピーターは段々と落ち着きを取り戻してきたので、床に下ろす。
場のざわめきが無くなり、誰もが王の第一声を待った。
「見事なり、バトルコック団のピーター!」
わぁぁと歓声と拍手が沸き起こり、地走り族の盗賊に視線が注がれる。こいつがかつて、ここまで人々に賛辞を送られた事があるだろうか? 否。
助平で自己中で欲望に忠実なピーターは、周りからの好意的な歓声に戸惑い、「エヘヘ」と頭を掻いている。
まぁ厳密には、ビャクヤやキリマル、メリィやヤンスさんがいなければ、ピーターは美味しいところを掻っ攫う事は出来なかったわけだが、まぁいいや。終わりよければ全て良し。
「ピーターには追って褒美を出す。さて、今回の件、我が国と神聖国モティに深刻な軋轢を生む結果となった。闇堕ち司祭から情報を得た後、その内容によっては、国交断絶もあり得る。そうならなくとも、我が国から修道騎士と、グランデモニウム王国の現人神様の盾でもある、聖騎士見習いのフラン・サヴェリフェをモティに派遣する事になろう」
傍聴席いた僧侶たちが煩い。侯爵達の後ろの席にいた高位の僧侶が、いつの間にかモティの使者の傷を癒やしていたので、今の内容は勿論、モティに伝わる。
俺は法廷の中央辺りで気絶したままのトウスさんを抱きかかえて、サーカに尋ねる。
「つまり、どういう事?」
「ヒジリ猊下とフラン・サヴェリフェ聖騎士見習い、あるいは修道騎士が、教皇を神前審問するって事」
「え?! フランちゃんって見習いだろ? そんな事できるの?」
「現人神の盾を名乗っているという事は、常に神を降臨させた状態で、その神を守っているという事だからな。見習いでも関係ない。そもそも、あの聖騎士見習いは、既に聖騎士となっていてもおかしくない程の実力がある。だから教皇を裁く権利があるのだと私は解釈する。それは、傍聴席の僧侶も同じだろう」
近くにいたステコさんも会話に入ってきた。
「それに樹族国は樹族生誕の地。世界でも最も歴史が古く、格式高い。いくらモティが神の代理国を名乗ろうが、こうなった以上、立場は逆転するのだ」
「なるほど。宗教団体を監視する騎士修道会が、樹族国にしかないのは、そういう事だったんだな」
突然、王様がゴホンと咳をしたので、皆黙る。
「ワシは疲れた。部屋で休むとしよう。これにて閉廷とする。後々関係各所に通達を送るので、見落としなどないように」
背もたれの無くなった椅子から、王が立ち上がると、全員が立ち上がった。
カクイがばらして意味を成さなくなった隠し扉から出ていくシュラス国王を、全員が見守る。
反対の大扉からは、衛兵に囲まれてカクイともティの使者が退出していった。
侯爵達はまだ広間に残っており、集まって何やら話をしている。見た感じ、王の盾が今回の件の失敗を咎められているように見える。
「終わったんだな・・・」
俺がポツリと呟くと、腕の中で意識を取り戻したトウスさんが、メリィを見ていた。
「終わってない奴もいる。メリィを見てみろ。あれはまだ後悔の渦の中にいるって顔だ」
「そうだった。ウィング・・・。ウィングは、何で俺なんかを庇ったんだ」
「お前もメリィみたいな顔になってるぞ。ハハハ・・・」
トウスさんはそう言って笑うも、力のない声だった。王の盾の一撃はそれだけ強力だったのだろう。
「ウィングは」
そこまで言って、言うべきか言わないべきか迷っている様子のメリィが、俯きながら近づいてきた。
「消え去る間際に、オビオを愛していると言っていたよ・・・」
「?!」
俺は意味がわからなかった。どういう意味での愛なのか、わからないからだ。
「それは聖職者として、博愛主義的な意味での愛か?」
「・・・そんな感じじゃなかったかな。純粋に愛の告白のようだった」
どういう顔をして聞けばいいんだ。サーカと視線を合わせたが、彼女も困惑しているようだった。
「う、うそだろ? あいつなら、オビオと見た月は綺麗だった、とか臭いセリフで遠回しに告白するはずだ。そんな直接的な・・・」
「でもウィングは、そう言ったから。私は部屋に戻るね」
バトルコック団にそれぞれ用意された部屋へとメリィは向かい、広間の大扉を出ていった。
「・・・」
俺は人へ愛を施す術は知っている。サーカへの愛。俺の食事を美味しいと言ってくれる人への愛。感性特化型として生まれたのだから、感情が希薄なヒジリとは違う。
でも愛を受ける事に対して、あまり覚悟がなかったのかもしれない。
サーカからの愛は歪んでいて、直球じゃなかったので、時間を掛けて理解できた。
でも消える魔球のような、それでいてストレートなウィングの愛は、どう受け取れば良いのかわからない。
「俺もやっぱり、地球人なんだな・・・」
感情が希薄な同胞を変に思っていた自分も、その中の一人だったと思い知る。
ウィングの想いが重く感じる。そう感じる自分が、とんでもないクズ人間のように思えた。
自分の存在を賭けて救う価値が俺にはあったのか? 愛しているってだけで、存在消しの短剣に身を差し出す事ができるか?
俺だって、存在が消えるとわかっていたら、サーカを庇う事に少し躊躇するかもしれねぇ。なのに、ウィングは・・・!
「あ、頭が痛い・・・」
どんどんと伸し掛かってくる重圧に、目眩を起こしそうになったその時、黒い革手袋をはめたビャクヤが俺の肩を叩いた。
「君の仲間がッ! 消えたのはッ! 君のせいでもあるッ!」
「――――?!」
くそっ! なんだよ! 追い打ちをかけるようなその言葉は! こういう時、普通は慰めてくれるはずだろ?
逆に腹が立って、目眩から立ち直った俺は、身長百八十センチメートル程のビャクヤを見下ろした。シルクハットを加えたら二メートルくらいはある。
「なんで俺が関係してんだ?」
「ここでは話せないンゴッ! メリィさんの部屋にてッ! 話しましょうか!」
ビャクヤにどういった意図があるのかわからないが、取り敢えず俺たちはメリィの部屋に行くことにした。
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