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歴史を書き記す者
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どういう事か、突然現れた白光がどす黒く変わる。
俺は当然、運命の神が現れると思っていたが、そうではなかったようだ。
「グゲゲゲ! そんなネガティブな感情で、神が呼び出せるものかーっ!」
現れた者が何なのかわからなかったが、とにかく良くない何かだ。
脳内の感情制御チップがまた作動し始めた。ウィングを失った悲しみを何とか抑え、震える脚で立ち上がって、正体不明の何かに指を差す。
「なんだ、お前は!」
「なんだ、お前はってか! グギャー! 俺はこの世界に受肉しせし怒りの精霊、アグニだ! 一つ言っておく。精霊が具現化すると、厄介な事しか起きないぜぇ?」
インド神話に出てくる二面の火神と同じ名前を持つ精霊は、それとは似ても似つかない姿をしていた。共通しているのは、怒りの炎に身を焦がしている、というところだけだろうか?
「怒りの精霊とは、人に取り憑くだけの存在かと思っていたが」
王の盾の後ろで、興味深そうにアグニを覗く王はそう言って、精霊を試すように【酸の水】を唱えて放った。
魔法は精霊に命中したが、酸の水は蒸発して消える。
「ほう、いきなり魔法で攻撃とは、素敵な挨拶じゃねぇか。まぁ、攻撃的になるのも、俺の影響なんだけどな」
そう言ってアグニは手を握りしめる。
「ぎゃああ!!」
シュラス国王の体の内側から、炎が発生して、彼をあっという間に灰塵と化してしまった。それは突然、自然発生したプラズマに、体を焼かれた人のように・・・。
「陛下ーーーっ!」
王の盾が驚き叫ぶと、つい今しがたまで王の形をしていた灰が、ドサッと椅子に落ちる。
「召喚した本人を殺せば、もしや!」
目と鼻と口から血を流し歯を食いしばって、震え立つメリィに、ブライトリーフ卿がワンドを向けた。
「させるかよ!」
俺は急いで、メリィを庇って背中に【火球】の魔法を受ける。
「あっちぃ! これ以上仲間を失ってたまるか!」
背中に魔法を受けて、服が燃えている。それは俺の肉をある程度焼いてから消えた。
そしてナノマシンが直様、傷を治す。
「オビオ! もうメリィは駄目だ。怒りの精霊に支配されてしまっている。このままでは、我々は反逆者扱いされてしまうぞ! 王がその精霊に殺されたのだ! 見ただろう?」
サーカが、焦った声でそう言うも、俺はメリィを抱きしめたまま守る。
「嫌だ! もう仲間を失うのは嫌なんだ! 嫌なんだよぉ・・・!」
俺は泣きながら、メリィの肩を揺さぶった。
「戻ってこいよ、メリィ! こんな事になるなら、いっそ、お前は暗黒騎士にでもなってしまったほうがマシだった!」
「無駄無駄無駄ァ!」
メリィの頭の上で、炎に身を焦がす死体のような精霊は、俺に顔を近づけてきた。あちぃ!
「現実はな、子供が胸を膨らませながら読む、夢や希望の詰まった絵草紙のような事にはならない。絶望の前にあるのは、やはり絶望なんだ。さぁ、次に誰を灰にするか、お前に決めさせてやろう。グケケ」
――――ザンッ!
ビャクヤの影から、いきなり斬撃が飛び出て、なぜか王の盾リューロックさんと王の座っていた椅子が横に、真っ二つになった。
「ひえぇぇ!!」
王だった灰が舞い散る中、ソラスが情けない声を上げて、へたりこむ。
「あーー! うざってぇーーー!!」
キリマルがビャクヤの影から飛び跳ねるように出てきて、カコッと音を立てて床に着地した。
「週刊少年ジャン○の漫画じゃねぇんだからよ、いつまでも展開を引き伸ばすな!」
「なんだ、お、お前は!」
急に出てきた悪魔に、アグニは驚いている。
「なんだお前はってか。そうでぃす、キリマルでぃす。死ねぇ!」
キリマルの爪の一薙ぎで、アグニの首が刎ねられ、体が消失する。
「こんなクソ雑魚に手間取るな、アホどもが」
言っとくが、怒りの精霊は断じてクソ雑魚ではない。四大精霊ではないが、怒りの精霊や狂気の精霊ってのは稀に、狂ったメイジを生み出して都市を破滅させたりしてんだぞ!
――――ドサッ!
怒りの精霊が消えて、メリィの体がその場に崩れ落ちた。俺は直様、彼女の胸に耳を当て、心音を確かめる。
念の為にと確かめた心音だったが、全く聞こえない。鎧が邪魔師をしているからだと自分に言い聞かせ、頸動脈に指を置いてみたが、よくよく考えてみりゃ、俺は医者じゃないのでわからなかった。
「そいつぁはもうダメだ。死んでしまっている。アグニが具現化する時の触媒にされたんだろうよ。怒りに身を任せるからそうなったんだ、アホが。クハハハ! だが・・・。修道騎士の祈りは届いたようだな」
「し、死んでるだって?」
自分の命を使って召喚したのが、神ではなく怒りの精霊だなんて、メリィが浮かばれねぇよ。いや、成仏させてたまるか!
「キリマル! 頼む!」
俺は背後に立つキリマルに両手を合わせてメリィの蘇生を頼むと、悪魔はしわがれた声でもう一度「クハハハ!」と笑い、魔刀天の邪鬼の柄をゆっくりと握って構えた。
キリマルが素直に蘇生に応じてくれたのは、ありがてぇ。
が――――。
「だったらよぉ。メリィ共々、お前も死ね!」
――――理不尽ッ! 圧倒的ッ! 理不尽!
天の邪鬼を使うなら、メリィだけでいいだろ。なんで俺まで・・・。
「ずぎゃぁぁぁ!」
俺は断末魔の叫びを上げて、体が縦に真っ二つになる感覚を味わった。
意識が戻ると、俺はサーカの膝枕の上に頭を置いていた。
「大丈夫? オビオ」
俺を心配してくれているその顔、くそ可愛い。
「あ! そうだ! キリマル! あの野郎~~!」
直ぐに上半身を起こして、周囲を見るが、理不尽なる悪魔キリマルは影に潜ったのかいない。まぁ、いたところで仕返しなんてできないんだけども・・・。
「メリィは?」
「大丈夫だ。生き返ってる。それから王の盾と王様もな」
トウスさんの腕に抱かれて眠るメリィを見て、俺は一安心した。
安心していると、今度は誰かが転移して現れる。忙しい法廷だな。悪魔が出てきたり、精霊が出てきたり、転移が封じられている城に強引に転移してくる誰かがいたりと。
ステコさんが肩を竦めて呆れながら、何者かに声を掛ける。
「もうゴブリン如きでは驚かんぞ。転移結界を突破してきたということは、それなりの力を持ったゴブリンなのだろうが・・・。名を名乗れ」
「名乗る機会を与えてくれて、ありがとうでヤンス」
しっかりと見るまでもない。甲高く濁った声。吟遊詩人のヤンスさんだ。樹族国の通行許可書である羊皮紙を縦に開いて、周囲に見せている。
「あっしは吟遊詩人のヤンスでヤーンス」
「物見遊山で、転移してきたわけではあるまい?」
「あっしは歴史的物語がある場所になら、どこにでも現れるでヤンスよ」
ビャクヤの影の中で、キリマルが「ハッ!」と一声だけ笑って黙った。
「ほう。歴史を書き記す者か」
ステコさんが当然のようにそう言って頷く。
なんだ? 歴史を書き記す者って・・・。そう思って俺はサーカにこっそり訊く。
「歴史を書き記す者って?」
これまでのサーカなら、「カエルの脳みそほどもないオビオだから、こんな事も知らないのは仕方ないか」とか言って教えてくれたけど、恋人同士となった今、サーカはそういう事を言わなくなった。
「そのまんまの意味だ。どこからともなく現れて魔法水晶で記録する者、記憶にとどめて後で書物にする者と、あらゆる手段で歴史的出来事を記録する。まさかヤンスがそうだったとはな。ということは、共に旅をしていた時も記録されていたという事だ」
皆の前では騎士の喋り方をするサーカの説明に納得し、魚肉ソーセージ事件も記録されたのかと思うと恥ずかしくなってきた。
「それで?」
怪訝な顔をする侯爵達を見渡した後、ステコさんは相変わらず陰気だが、よく通る声でヤンスさんに尋ねた。
「運命の神の啓示を受けたでヤンス。この場に神と歴史を欺こうとする者がいると」
歴史を書き記す者ヤンスさんの言葉に、キリマルが影の中からまた笑って黙った。
「ほう? それは誰だ」
まぁ、誰のことかは大体分かる。ヤンスさんは、ビシっとカクイを指差した。
「あの司祭にはもう一つの顔があるでヤンスよ」
俺は当然、運命の神が現れると思っていたが、そうではなかったようだ。
「グゲゲゲ! そんなネガティブな感情で、神が呼び出せるものかーっ!」
現れた者が何なのかわからなかったが、とにかく良くない何かだ。
脳内の感情制御チップがまた作動し始めた。ウィングを失った悲しみを何とか抑え、震える脚で立ち上がって、正体不明の何かに指を差す。
「なんだ、お前は!」
「なんだ、お前はってか! グギャー! 俺はこの世界に受肉しせし怒りの精霊、アグニだ! 一つ言っておく。精霊が具現化すると、厄介な事しか起きないぜぇ?」
インド神話に出てくる二面の火神と同じ名前を持つ精霊は、それとは似ても似つかない姿をしていた。共通しているのは、怒りの炎に身を焦がしている、というところだけだろうか?
「怒りの精霊とは、人に取り憑くだけの存在かと思っていたが」
王の盾の後ろで、興味深そうにアグニを覗く王はそう言って、精霊を試すように【酸の水】を唱えて放った。
魔法は精霊に命中したが、酸の水は蒸発して消える。
「ほう、いきなり魔法で攻撃とは、素敵な挨拶じゃねぇか。まぁ、攻撃的になるのも、俺の影響なんだけどな」
そう言ってアグニは手を握りしめる。
「ぎゃああ!!」
シュラス国王の体の内側から、炎が発生して、彼をあっという間に灰塵と化してしまった。それは突然、自然発生したプラズマに、体を焼かれた人のように・・・。
「陛下ーーーっ!」
王の盾が驚き叫ぶと、つい今しがたまで王の形をしていた灰が、ドサッと椅子に落ちる。
「召喚した本人を殺せば、もしや!」
目と鼻と口から血を流し歯を食いしばって、震え立つメリィに、ブライトリーフ卿がワンドを向けた。
「させるかよ!」
俺は急いで、メリィを庇って背中に【火球】の魔法を受ける。
「あっちぃ! これ以上仲間を失ってたまるか!」
背中に魔法を受けて、服が燃えている。それは俺の肉をある程度焼いてから消えた。
そしてナノマシンが直様、傷を治す。
「オビオ! もうメリィは駄目だ。怒りの精霊に支配されてしまっている。このままでは、我々は反逆者扱いされてしまうぞ! 王がその精霊に殺されたのだ! 見ただろう?」
サーカが、焦った声でそう言うも、俺はメリィを抱きしめたまま守る。
「嫌だ! もう仲間を失うのは嫌なんだ! 嫌なんだよぉ・・・!」
俺は泣きながら、メリィの肩を揺さぶった。
「戻ってこいよ、メリィ! こんな事になるなら、いっそ、お前は暗黒騎士にでもなってしまったほうがマシだった!」
「無駄無駄無駄ァ!」
メリィの頭の上で、炎に身を焦がす死体のような精霊は、俺に顔を近づけてきた。あちぃ!
「現実はな、子供が胸を膨らませながら読む、夢や希望の詰まった絵草紙のような事にはならない。絶望の前にあるのは、やはり絶望なんだ。さぁ、次に誰を灰にするか、お前に決めさせてやろう。グケケ」
――――ザンッ!
ビャクヤの影から、いきなり斬撃が飛び出て、なぜか王の盾リューロックさんと王の座っていた椅子が横に、真っ二つになった。
「ひえぇぇ!!」
王だった灰が舞い散る中、ソラスが情けない声を上げて、へたりこむ。
「あーー! うざってぇーーー!!」
キリマルがビャクヤの影から飛び跳ねるように出てきて、カコッと音を立てて床に着地した。
「週刊少年ジャン○の漫画じゃねぇんだからよ、いつまでも展開を引き伸ばすな!」
「なんだ、お、お前は!」
急に出てきた悪魔に、アグニは驚いている。
「なんだお前はってか。そうでぃす、キリマルでぃす。死ねぇ!」
キリマルの爪の一薙ぎで、アグニの首が刎ねられ、体が消失する。
「こんなクソ雑魚に手間取るな、アホどもが」
言っとくが、怒りの精霊は断じてクソ雑魚ではない。四大精霊ではないが、怒りの精霊や狂気の精霊ってのは稀に、狂ったメイジを生み出して都市を破滅させたりしてんだぞ!
――――ドサッ!
怒りの精霊が消えて、メリィの体がその場に崩れ落ちた。俺は直様、彼女の胸に耳を当て、心音を確かめる。
念の為にと確かめた心音だったが、全く聞こえない。鎧が邪魔師をしているからだと自分に言い聞かせ、頸動脈に指を置いてみたが、よくよく考えてみりゃ、俺は医者じゃないのでわからなかった。
「そいつぁはもうダメだ。死んでしまっている。アグニが具現化する時の触媒にされたんだろうよ。怒りに身を任せるからそうなったんだ、アホが。クハハハ! だが・・・。修道騎士の祈りは届いたようだな」
「し、死んでるだって?」
自分の命を使って召喚したのが、神ではなく怒りの精霊だなんて、メリィが浮かばれねぇよ。いや、成仏させてたまるか!
「キリマル! 頼む!」
俺は背後に立つキリマルに両手を合わせてメリィの蘇生を頼むと、悪魔はしわがれた声でもう一度「クハハハ!」と笑い、魔刀天の邪鬼の柄をゆっくりと握って構えた。
キリマルが素直に蘇生に応じてくれたのは、ありがてぇ。
が――――。
「だったらよぉ。メリィ共々、お前も死ね!」
――――理不尽ッ! 圧倒的ッ! 理不尽!
天の邪鬼を使うなら、メリィだけでいいだろ。なんで俺まで・・・。
「ずぎゃぁぁぁ!」
俺は断末魔の叫びを上げて、体が縦に真っ二つになる感覚を味わった。
意識が戻ると、俺はサーカの膝枕の上に頭を置いていた。
「大丈夫? オビオ」
俺を心配してくれているその顔、くそ可愛い。
「あ! そうだ! キリマル! あの野郎~~!」
直ぐに上半身を起こして、周囲を見るが、理不尽なる悪魔キリマルは影に潜ったのかいない。まぁ、いたところで仕返しなんてできないんだけども・・・。
「メリィは?」
「大丈夫だ。生き返ってる。それから王の盾と王様もな」
トウスさんの腕に抱かれて眠るメリィを見て、俺は一安心した。
安心していると、今度は誰かが転移して現れる。忙しい法廷だな。悪魔が出てきたり、精霊が出てきたり、転移が封じられている城に強引に転移してくる誰かがいたりと。
ステコさんが肩を竦めて呆れながら、何者かに声を掛ける。
「もうゴブリン如きでは驚かんぞ。転移結界を突破してきたということは、それなりの力を持ったゴブリンなのだろうが・・・。名を名乗れ」
「名乗る機会を与えてくれて、ありがとうでヤンス」
しっかりと見るまでもない。甲高く濁った声。吟遊詩人のヤンスさんだ。樹族国の通行許可書である羊皮紙を縦に開いて、周囲に見せている。
「あっしは吟遊詩人のヤンスでヤーンス」
「物見遊山で、転移してきたわけではあるまい?」
「あっしは歴史的物語がある場所になら、どこにでも現れるでヤンスよ」
ビャクヤの影の中で、キリマルが「ハッ!」と一声だけ笑って黙った。
「ほう。歴史を書き記す者か」
ステコさんが当然のようにそう言って頷く。
なんだ? 歴史を書き記す者って・・・。そう思って俺はサーカにこっそり訊く。
「歴史を書き記す者って?」
これまでのサーカなら、「カエルの脳みそほどもないオビオだから、こんな事も知らないのは仕方ないか」とか言って教えてくれたけど、恋人同士となった今、サーカはそういう事を言わなくなった。
「そのまんまの意味だ。どこからともなく現れて魔法水晶で記録する者、記憶にとどめて後で書物にする者と、あらゆる手段で歴史的出来事を記録する。まさかヤンスがそうだったとはな。ということは、共に旅をしていた時も記録されていたという事だ」
皆の前では騎士の喋り方をするサーカの説明に納得し、魚肉ソーセージ事件も記録されたのかと思うと恥ずかしくなってきた。
「それで?」
怪訝な顔をする侯爵達を見渡した後、ステコさんは相変わらず陰気だが、よく通る声でヤンスさんに尋ねた。
「運命の神の啓示を受けたでヤンス。この場に神と歴史を欺こうとする者がいると」
歴史を書き記す者ヤンスさんの言葉に、キリマルが影の中からまた笑って黙った。
「ほう? それは誰だ」
まぁ、誰のことかは大体分かる。ヤンスさんは、ビシっとカクイを指差した。
「あの司祭にはもう一つの顔があるでヤンスよ」
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