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言うわけない

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 領土境ごとに見せる必要のある手形を詰め所で提示し、書類にサインをして俺達は外に出た。

 そう、ようやくカクイ司祭のいるモティの田舎までやって来たのだ。

 崖の上に立つ首都モティに比べて、ここは実に長閑で空気も美味い。伸びをしながら俺は何気なく思っていた事を口に出した。

「あの話の流れからして、バガー兄弟に襲われると思ったんだけどなぁ」

「噂をしただけで、フラグが立ってたまるか!」

 サーカに怒鳴られたが、反論はしない。確かにフラグが立たれては困る。

 第一、バガー兄弟が相手にしそうなのは、ヒジリや、いつぞやの自由騎士のような気がする。

「けど興味あるなぁ。バガー兄弟って、どんな見た目なんだ? ピーター」

「兄は細長い顔をしていて、ちょっとしゃくれ顎のオカッパ。弟は四角い顔をしていて眼鏡のオカッパ。どちらもオークだから、下顎から長い牙が見えているよ」

「私と同じだね! オカッパ!」

 そこは喜ぶとこじゃないだろ、ムク。でも可愛いからツッコまない。

「そうだね~。良かったね~」

「うん! あの人達と同じだね!」

 えっ?

 ムクが指差した先に、バガー兄弟がいた。う、嘘だろ・・・。一瞬にしてパーティに緊張が走る。

 またバトルになるのか?

「兄者、こんな田舎にオーガがいるぞ」

 背が低く、顔の四角いオークが俺を指差している。

「弟者、ここは偏屈者の国、樹族国ではない。オーガはさして珍しくはない」

 下唇が飛び出たオークがそう答える。こちらへの敵意は、無さそうだな・・・。

「兄者、あれはバトルディック団ではないか?」

「弟者、正しくはバトルコック団だ」

「兄者は何でも知っているな」

「あんちゃん、偉いだろ?」

「兄者は偉い」

 なんだよ、そのしょうもない会話!

 そもそも暗殺者が真っ昼間に、堂々と街道を歩いてていいのかよ!

「あの~」

 ピーターが腰を折りつつ、ハエのように手を高速で擦りつけて、バガー兄弟に近づく。摩擦熱で手を火傷するぞ。

「もしかして、バトルコック団が標的になっていたりしませんよね?」

 こいつ、もしバトルコック団が標的になってたら、速攻影に潜んで逃げるつもりだな。現に踵が影に沈んでいる。

「我らが標的は、自由騎士」

 言って良いのかよ! そういうのって秘密事項でしょうが!

 ピーターの踵が、自分の影から浮き上がった。

「でしょうとも! あいつは良い子ちゃんぶってて、いけ好かない奴なんですよー」

 揉み手が凄い。塩でも揉み込んでいるのか? 良い味のおにぎりが作れそうだ。

「会ったことがあるのか? 地走り族」

 兄者の目が険しくなった。アホだなー、ピーターは。地雷踏んでやがんの。

「へ? ええ! じゅじゅじゅ、樹族国で会いました。そんでコテンパンにされました! な? オビオ!」

 俺に振るんじゃねぇよ! 巻き込むな!

「顔はどんなだった?」

「顔ですか? えぇっと。髪型は俺ぐらい短くて、頭の両端に短いアホ毛が二つありました!」

「髪色は?」

「青黒いです」

 おもっくそ情報与えてんじゃねぇかよ! ・・・まぁ自由騎士ヤイバなら何とかするだろ。

「ふむ。それはまごうことなき自由騎士だ。しかし、おかしい。樹族国には何度も足を運んだのだが・・・。そうだった。彼奴は神出鬼没。今一度、樹族国に向かうぞ、弟者」

「了解した、兄者」

 二人は顔を見合わせて頷くと、瞬時に消えた。

「おごぉ・・・。寿命が一年は縮んだ」

 ピーターは吐き気を抑えながら、そう呟いた。余程緊張していたのだろう。

「サーカの大好きな自由騎士様は、バガー兄弟に狙われているのか。こりゃ大変だな」

 トウスさんが少し茶化すような感じでサーカをからかう。

「ふん。自由騎士様は、ツィガル帝国の鉄騎士であり、強力なメイジでもある。防御術は西の大陸随一。接近戦を挑めば、バトルハンマーで即死。離れれば氷魔法が襲う。あんな暗殺者ごときにヤイバ様が負けるものか」

 くそ、なんか腹が立つ。サーカはヤイバ・フーリーに憧れを抱いている。それにあいつはイケメンだからなぁ。俺が奴に勝てるものといえば、料理の腕前だけだ・・・。

「それにしても、あの二人が撒き散らす恐怖のオーラは凄かったね。脚がすくんだよ」

 ウィングが脚を叩いて緊張を解している。

「格下が即死するオーラもあるらしいよ」

 ピーターが怖いことを言った。

「それは使い分けられるのか?」

「うん。キリマルだったら余裕で出せるだろうね。でもあの戦いのときは、恐怖のオーラで手加減してたみたいだけど」

 ブルブル。あいつの話をするなよ。ピーターも自分で言っておいて、一口ゲロ吐きそうになってんじゃねぇか。

「バガー兄弟か。戦ってみたかったな。あれらなら、俺とオビオとメリィだけで、何とかなったかもよ」

「冗談はよしてよ、トウスさん。あいつら、真っ先にメリィを狙うだろうし、そうそう上手くいかないって」

 ヒーラーを真っ先に潰すのは戦いの常套手段。

「メリィはオビオに守らせる。暗殺者は基本的に影から現れるからな。オビオは影を見張ってりゃいい。奴らが正面切って戦う時は、毒の遠距離武器を使う。それもオビオが受ける。おまえさんには毒が効かねぇしよ。後は俺があの二人を倒す。暗殺者は戦士に弱いからな」

 三すくみの法則か。戦士は盗賊に強く、盗賊はメイジに強く、メイジは戦士に強い。なんでこんな法則があるんだろうな。

「でもナンベルさんみたいに、戦士と真正面から戦える暗殺者もいるよ?」

「バガー兄弟はどう見ても、道化師じゃなかったろ。暗殺者だ。俺ならやれる」

「あっ!」

 急にメリィが声を上げた。どうした?

「あの人達に、依頼主の名前を聞いておけばよかったぁ!」

 そっか。暗殺の依頼主がモティの司祭だったら、確実に証拠を掴んだことになる。

 って、アホ! いくらバガー兄弟の頭が良くないとは言ってもさぁ・・・。

「依頼主の名前を言うわけないだろ!」

 とムク以外の全員から、メリィはツッコまれていた。
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