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とっておきの料理

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 俺はサーカやウィングのマナを回復する為に、アイスクリームを作りながら魂の開放を見ている。

 メリィが祈るたびに、多くの霊達が喜びながら昇天していく。

「すげぇなぁ。メリィは」

 俺が感心していると、母親に抱かれた赤ちゃんが「アァ!」と声を上げた。

「母ちゃんに、会えたんだ! 良かったな! それから、ありがとうな! 皆のお陰で、倒せないはずの異次元の魔物を倒せたよ!」

 赤ちゃんは、小さな手を上下に振りながら、お礼をしているように見えた。可愛い。もう逝くのかな?

「そうだ! アイスクリーム食べる?」

 俺は赤ちゃんに出来たてのアイスクリームを差し出した。微かに物質化している今なら、食べられるのではないかと思ったからだ。

 アイスクリームをスプーンで掬い、赤ちゃんの小さな口に運ぶと――――。食べた!

「マンマンマァー!」

 赤ちゃんが雄叫びを上げて、喜んでる!

 そんなに美味かったか! 嬉しいぜ! 生まれ変わっても、その味を覚えておいてくれよな!

 隣でお母さんが目を拭い、一礼をすると赤ちゃんを抱いたまま、メリィの方へと向かった。

 赤ちゃんは俺の手のアイスクリームに手を伸ばしている。大丈夫! きっとまた食べられるさ! そんな気がする!

 とはいえ。はぁ・・・。

「いつも別れはあっけない・・・」

 俺がそう独り言ちていると、魂葬の光が赤ちゃんと母親を包み込む。

「可愛い赤ちゃんだったな。なんていうか、パワフルだった。あれならきっと、直ぐに生まれ変わるだろうよ」

 トウスさんが背中を擦って慰めてくれている。

「うん。あの赤ちゃんは、真っ先にアンコウに突撃したしな。元気な赤ちゃんだったよ」

 誰も彼もが、短い時間の仲で、俺の心に何かしらの深い記憶を刻み込んで、去っていく。その度にどこか淋しい気持ちになった。俺はこの星に来てから、凄い駆け足で生きているような気がするんだ。

 ふと顔を上げると、赤ちゃんと母親が天に昇っていくところだった。

「直ぐにでも! この世に戻ってこいよ!」

「マンマーーー!」

 ダンジョンに、その元気な声が残響して消えた。魂葬の光が消えると、霊のざわめきも消え、後には暗闇が残るだけだ。

「今回の奇跡は、なんだったんだろうか? 異次元の魔物に厚みを持たせる奇跡なんて、聞いたことねぇぞ・・・」

 正直、奇跡と呼ぶ以外、なんと呼べばいいのか。

「神の思し召しさ」

 ウィングは当然のごとく言う。

「お前の信仰する神様って、星のオーガだろ? 俺の知る現人神様は、絶対にそんな事言わないと思うけどなぁ。きっとマナ粒子が作用して、ウンタラカンタラ言うと思うぜ?」

 なにせ奴は科学者だからな。

「君を助けたいと思った霊たちの気持ちを、神様が汲んで奇跡を起こしてくれたのさ」

 司祭らしい事言いやがって。

「そういや、お前。メリィと一緒に魂葬の祈りをしなかったな。なんでだ?」

「祈り代・・・。ゴホン。お布施は、誰が払ってくれるのだい? 回復の祈りと違って。かなり高いよ?」

「かぁー! 何かといえば、金金金!」

 お前が言うな、ピーター。

「お金は大事だよ。下手な奇跡より、融通が利く」

「助司祭様がそんな事、言ってもいいのかなぁ~?」

 メリィがウィングに絡み始めた。この二人は仲が悪い。西の大陸において、修道騎士は孤高の審判者。司祭や僧侶の悪行を捌く存在。当然、助司祭であるウィングとの仲はこうなる。

「メリィの言う通りだ、この金の亡者め!」

 だからお前が言うなって、ピーター。

 ぎゃいぎゃい煩い仲間をよそに、俺は幼児化したサーカにアイスクリームを渡そうとした。

「くまちゃんが、食べさせて!」

 ――――なん・・・、だと?! 食べさせろだって? 食べさせます。

「やった!」

 くっ! なんだよ、甘えて膝の上に乗って! クソ可愛い。

「はい、あ~ん」

「お兄ちゃん、私にも!」

 ムクまで膝に乗ってきた。

「あ! 私も!」

 メリィが鼻息荒く突進してくる。

「落ち着けって、ちゃんと皆の分あるって!」

 しかし、メリィはもうアイスクリームしか見ていない。食いしん坊さんめ!

 俺は瞬時に加速を使って、残像を作りながら、メリィにアイスクリームの乗った皿とスプーンを渡した。

 メリィはそれを受け取ると、正座のまま滑って行き、アイスを平らげている。その滑った先に出口があるから、新道の通行人達は、急に出てきた修道騎士に驚くだろうな。

 暫く皆で無心になってアイスクリームを食べた。奇妙な魔物との戦いがあった事は忘れてな。

 っていうか平面アンコウの亡骸は、いつの間にか消えていた。昔から居着いていたみたいだけど、なんだったんだ?

「は、はなせ!」

 我に返ったサーカが、頬を赤くして俺の腕から逃げた。アイスがマナ回復の役に立って何より。

「さて、一方通行扉を誰かが閉じないうちに、さっさと洞窟から抜けようぜ」

 なんとなく俺がフラグを立てたような気がして、急いで出口に向かうが、扉はちゃんと開いたままだった。扉の前で、メリィが仏様のように鎮座していたからだ。

 ぐ~。

 誰かの腹が鳴った。そういえば、もうお昼か。

 俺は洞窟の前の野原で、料理道具を取り出し、昼食の準備を始める。

「おほー! おビオの料理が食える! やっぱ、オビオがいねぇとな? な? 皆」

 皆一様に、そしていつになく真剣な顔で頷いている。何があったかは知らねぇけど、俺の料理が期待されているってのはわかる。

「よーし! 今日は、良い食材が手に入ったからさ、とっときの料理を作るぜ!」

 そう言って、食材を亜空間ポケットから出した瞬間!

「うぁはぁぁ!」

 サーカが悲鳴を上げる。なんだよ?

「カマドウマーーー!!」
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