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お~い! 皆!

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 この壁・・・。違和感を感じる・・・。

「ムク、この壁に何か感じないか?」

「何も感じないよ?」

 クッ! やはり当てずっぽうだと駄目か。もっと感覚を研ぎ澄まさないと。

「暗闇に目が慣れてきたとはいえ、やっぱり暗いなぁ」

 俺にもスカウトや盗賊のスキルがあれば。

 料理以外の乏しい知識を探ると出てきたのは、左手で壁を伝って行けば外に出られるという、本当かどうかわからないやり方だけ。

「なんかさっきからグルグルしていないか? ムク」

「うん、グルグルしてるよ?」

「やっぱり? その感覚が短くなってきた」

 ん? グルグルの真ん中は行き止まりだよな。そうなると、この道を行く意味がねぇ。

「取り敢えず、確認だけしとくか・・・。もしかしたら行き詰まりに転移装置があって、一階に戻れるかもしれねぇし」

 四角い渦巻の角を曲がると、急に声が聞こえてきた。

 ――――道は容易に見えるが・・・。

「なんだ? 誰だ?」

 ボソボソと声が聞こえる。

 奇妙な声に警戒しながら、更に角を曲がった。渦巻の中央まで、そう遠くはない。

 ――――後悔は先に立たず・・・。

「おい! さっきから誰だよ!」

 きっと渦巻の中央に誰かがいるに違いない。また角を曲がってみる。

 ――――行く末は寒くて暗い・・・。

「お兄ちゃん、危ない!」

 ムクが俺の肩から飛び降りて、後ろに回り、マントを引っ張った。

「ぐえ」

 マントで喉を締め付けられて、動きを止め、振り返る。

「なんだよ、ムク」

「前を見て、お兄ちゃん!」

 あと一歩踏み出そうとしたその床は、煤のような瘴気のような、よくわからない気体に覆われており、中で蠢く骸骨が沢山見えた。

「即死トラップだよ!」

「まじ? あぶねぇ!」

 ムクに命を救われた。でも、ムクもここまで気づかなかったのだから、相当高度で悪質な罠だ。

 あの不気味な声は、死者からの警告だったんだ。死んでも生者を気にかけてくれるなんて、良い奴らだな・・・。

 俺は周辺に塩を撒いて、この罠で死んだ冒険者達が早く成仏できるように祈った。

「あ! 何人か成仏したよ! お兄ちゃん、凄い!」

「なに!? ムクが言うなら成仏したんだろうな。やったぜ!」

 俺はムクとハイタッチをして、引き返す事にした。




「ゔぉえっ!」

 私はなぜ、こんな事をしている?! 吐き気が止まらない。

 そうだ! こんなものはあのオビオにやらせておけばいいのだ!

「オビオ! オビオはどこだ!」

「現実逃避しないで、しっかりとウジウジを取れよ! サーカ!」

 ふん! 生意気なピーターめ! キノコの孔口を取ってまで、これは食べないといけないものなのか?

「お前がやれ! ピーター!」

「こっちもカマドウマの脚もぐのに必死なんだよ! こいつらピョンピョン跳ねる上に、チミっと噛み付いてくるんだぜ?」

「では、トウス!」

「残念だが、騎士様。俺はノルマをこなした。ちゃんと大鼠を捕まえてきただろ? もう捌き終わったしな」

「メリィ!」

「ふえぇ~。ナメクジの体液でヌメヌメだよぉ~」

「そんなものは捨てろ! いつまでナメクジに拘っているのだ!」

 メリィはヌルヌルした体液で、独り相撲をするかの如し転んでいる。ウスノロの修道騎士め! もう少し知恵をつけたらどうだ?

 我々は結局、洞窟で一晩を過ごす事となった。

 朝目が覚めると、空腹になっている事や、食材の下ごしらえをする必要がある忌々しさに腹が立った。

「バカバカしい! 朝食など、食べなくてもいい!」

 蛆虫キノコを投げ捨てようとすると、ウィングが私の手を掴んで止めた。

「食べ物を粗末にするなかれ。どの神にもそういった戒律があるだろう?」

「ここぞとばかりに聖職者面をするな!」

「ノンノンノン!」

 指と顔を横に振る顔が、実に憎たらしい。

「オビオだったら、このキノコを捨てるかな?」

「オビオだったら・・・」

 オビオ・・・。オビオ! あいつさえ、ここにいれば! こんな惨めったらしい訓練なぞ、しなくて済んだのだ!

「お~い! 皆~!」

 オビオの事を考えていると、奴の呼ぶ声が聞こえた。

 ウスノロオーガは壁からぬっと現れて、手を振っている。

 あぁ、あそこは一方通行壁だったか。向こう側からしか来れないのだな。

「オビオ! オビオが帰ってきた!」

 私以外の皆が、歓喜の声を上げた。随分と飼いならされたものだ。

 ふん、まぁいい。ようやっと帰ってきたのだ。そのまま直ぐにでも食事の用意をしろ。

「お~い、皆~!」

「なんだよ! 早く来いよ!」

 ピーターが返事をするも、オビオは一定の場所から近づこうとしない。ん・・・?

「オビオは暗視ができねぇからな。俺たちがどこにいるのか、わからないのかもしれねぇ」

 は? 魔法のトーチはまだ消えていないぞ? それにカリカリに枯れたキノコを燃料にした焚き火だってある。

「お~い、皆~!」

 しつこいな。

 トウスが腰を上げて、オビオに近づこうとした。

「待て! トウス! 一応剣を持っていけ! それからオビオの匂いを確かめろ!」

「お? おう・・・」

 トウスが鼻を上げて、空気を嗅いでいる間に、私はオビオを観察することにする。

「おい! オビオ! ムクはどうした?」

「お~い! 皆~!」

 やはり同じ返事か。そして決して動こうとはしない。

「何か重い食料でも見つけたんじゃないのかなぁ~? だからオビオは動けないんだよぉ~」

 相変わらずメリィは馬鹿だ。頑固で信念を貫き通そうとする反面、知性は低い。カクイの件も、カルト信者が占拠した村の出来事がなければ、追求はしなかっただろう。あれだって、オビオの上位鑑定の指輪があったからこそ。

「あのオビオには近づくな、メリィ」

 トウスが鼻に皺を寄せ、牙を見せた。決まりだな。

「大ナメクジといい、あの偽オビオといい、一体、どこからやって来たんだ?」

 ピーターが無限矢クロスボウを、偽オビオに向けた。

「さぁな。とにかく気を緩めない事だ。今いる場所が平凡な洞窟路から、魔界のような場所に変わったのやもしれん」

 私は今一度、オビオに目を向ける。

「お~い、皆~!」

 なんだろう? 異様に腹が立つ。なぜオビオの姿なんだ? 私の大切なクマちゃんの姿を騙るのは許せん!
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