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魚市場
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――――辺境伯の代理人。
これが今のリュウグの二つ名だ。
西の大陸から旅行でやって来だけの、普通のノームが受けるには十分過ぎる称号を持つ彼女が、どうしても欲しいとねだるのは、一度だけ思い出を再現する魔法のロケットネックレスだった。
チャームの中に思い出したい人の髪の毛を入れるだけで、その効果を任意で発動させる事ができるアイテム。
「き、金貨百枚もするのか・・・。ごめん、リュウグ。メリィに寄付したから、金貨五十枚とちくわしか持ってねぇ」
「そっか・・・。ごめんな、オビオ。無理言って」
リュウグは寂しそうに笑って、素直に諦めてくれた。
魔法道具点のショーケースの中のネックレスは、高そうな宝石が付いている。店員さんの説明によると、グランデモニウムの魔人族が付魔した物らしい。魔人族の付魔師がエンチャントしたアイテムってのは、最早ブランド品みたいなもんだ。
「俺たち、グランデモニウムにいたのにな。あそこで買えば、もっと安かったかも」
「ははっ! そやな」
「このネックレス以外で、なんか欲しい物ある?」
「ううん、無いよ。ありがとうな、オビオ」
不甲斐ない。リュウグがこのことで俺を責めてくれたら、どれだけマシか。彼女の笑顔を見る度にそう思う。
俺が出来ることはないかな・・・。俺が出来ること・・・。俺は料理人。ゆえに料理を作ってあげることしかできねぇ。
「何か食べたいものある? 俺、何でも作っちゃうよ?」
そう言うと、リュウグは人差し指を顎を乗せて考え始めた。
「う~んと、じゃあね! 私、うなぎの蒲焼が食べたい! 香ばしいく焼けた鰻と甘辛いタレが最高やん、あれ!」
「鰻の蒲焼きか! 渋いチョイスだな。よしきた! じゃあ材料を買いに行きますか!」
「うん!」
ノーム国に帰るリュウグの為にも、とびきりの鰻の蒲焼きを作らなきゃな!
俺は魚屋を探しながら、必要な材料の手持ちを調べた。
「米はある。ヒジリんとこで日本米が売られていたのは幸いだった。あれをグランデモニウムでしか売ってないのは残念だぜ・・・。次に買いに行ったら、間違いなくウメボシに見つかっちゃうだろうし」
「ヒジリ様或いは、ヒジリ聖下やろ? 現人神様を呼び捨てにするなんて、あかんことやで」
おっと、そうだった。ノームの多くが、オーガの始祖神を崇めているんだった。
「ハハ・・・。そうそう、ヒジリ聖下ね。お! 魚屋があった! というか、魚市場だな!」
一つの通りが全て魚屋。店ごとに魚の種類が違う。淡水魚、海水魚、汽水域の魚。
「流石、商業都市国家ポルロンド! 何でもあるな!」
「西の大陸にある全てが売られているんやで」
「すげぇ!」
こんな狭い国なのに、何でもあるなんて! 北に神聖国モティ。南に・・・。なんだっけ。名前を忘れたけど地走り族の国、西と東は同じ民族の獣人の国があって、今はポルロンドに分断されている。
政治情勢的には不安定に見えるのに、何でこんなに繁栄しているのかな。
「おっちゃん、一番いい鰻を売ってる店はどこだい?」
俺は撥水加工のされた革靴と前掛けを身に付ける魚屋のおっちゃんに訊いてみた。
「それなら、あんちゃん! ミト湖産の高級鰻を売ってる店があるぜ。ほら、あそこだ」
ミト湖! 西の大陸の真ん中にある大きな湖か。その沿岸の殆どが、ツィガル帝国の領土なんだよなぁ。グランデモニウム王国の北にもあって、大きな淡水クラーケンが棲んでいるらしい。クラーケンもいつか食べてみたいな。
「よーし、行くぞ。リュウグ」
「美味しいのあるとええな!」
通りの一番奥に行くと、鰻があった! 保冷の魔法がかかっている棚の上に並ぶ鰻、鰻、鰻!
大蛇のような大鰻やら、大昔の日本で食べられていたサイズの鰻。果てはしらすのような幼魚まで!
「うほー! どれも目が濁ってないし、新鮮だ! リュウグ、時間はまだ大丈夫?」
「うん、飛空艇出発まで、あと二時間ぐらいあるよ」
二時間あれば十分。効率の良い調理器具のお陰で、なんでも短時間でできるからな。
早速、生きの良いのを二匹と、大鰻の一切れを一つ買った。思っていた程値段は高くなくて、それだけ買っても銀貨二枚程度だった。地球で本物の鰻を買おうものなら、ボランティアポイントがどんだけ必要か・・・。
「さーてと」
魚屋の横で俺は亜空間ポケットから、料理台や調理器具一式を出して、リュウグの為の料理を始める。
「待ってろよ、リュウグ! 最高に美味しいの作るからな!」
これが今のリュウグの二つ名だ。
西の大陸から旅行でやって来だけの、普通のノームが受けるには十分過ぎる称号を持つ彼女が、どうしても欲しいとねだるのは、一度だけ思い出を再現する魔法のロケットネックレスだった。
チャームの中に思い出したい人の髪の毛を入れるだけで、その効果を任意で発動させる事ができるアイテム。
「き、金貨百枚もするのか・・・。ごめん、リュウグ。メリィに寄付したから、金貨五十枚とちくわしか持ってねぇ」
「そっか・・・。ごめんな、オビオ。無理言って」
リュウグは寂しそうに笑って、素直に諦めてくれた。
魔法道具点のショーケースの中のネックレスは、高そうな宝石が付いている。店員さんの説明によると、グランデモニウムの魔人族が付魔した物らしい。魔人族の付魔師がエンチャントしたアイテムってのは、最早ブランド品みたいなもんだ。
「俺たち、グランデモニウムにいたのにな。あそこで買えば、もっと安かったかも」
「ははっ! そやな」
「このネックレス以外で、なんか欲しい物ある?」
「ううん、無いよ。ありがとうな、オビオ」
不甲斐ない。リュウグがこのことで俺を責めてくれたら、どれだけマシか。彼女の笑顔を見る度にそう思う。
俺が出来ることはないかな・・・。俺が出来ること・・・。俺は料理人。ゆえに料理を作ってあげることしかできねぇ。
「何か食べたいものある? 俺、何でも作っちゃうよ?」
そう言うと、リュウグは人差し指を顎を乗せて考え始めた。
「う~んと、じゃあね! 私、うなぎの蒲焼が食べたい! 香ばしいく焼けた鰻と甘辛いタレが最高やん、あれ!」
「鰻の蒲焼きか! 渋いチョイスだな。よしきた! じゃあ材料を買いに行きますか!」
「うん!」
ノーム国に帰るリュウグの為にも、とびきりの鰻の蒲焼きを作らなきゃな!
俺は魚屋を探しながら、必要な材料の手持ちを調べた。
「米はある。ヒジリんとこで日本米が売られていたのは幸いだった。あれをグランデモニウムでしか売ってないのは残念だぜ・・・。次に買いに行ったら、間違いなくウメボシに見つかっちゃうだろうし」
「ヒジリ様或いは、ヒジリ聖下やろ? 現人神様を呼び捨てにするなんて、あかんことやで」
おっと、そうだった。ノームの多くが、オーガの始祖神を崇めているんだった。
「ハハ・・・。そうそう、ヒジリ聖下ね。お! 魚屋があった! というか、魚市場だな!」
一つの通りが全て魚屋。店ごとに魚の種類が違う。淡水魚、海水魚、汽水域の魚。
「流石、商業都市国家ポルロンド! 何でもあるな!」
「西の大陸にある全てが売られているんやで」
「すげぇ!」
こんな狭い国なのに、何でもあるなんて! 北に神聖国モティ。南に・・・。なんだっけ。名前を忘れたけど地走り族の国、西と東は同じ民族の獣人の国があって、今はポルロンドに分断されている。
政治情勢的には不安定に見えるのに、何でこんなに繁栄しているのかな。
「おっちゃん、一番いい鰻を売ってる店はどこだい?」
俺は撥水加工のされた革靴と前掛けを身に付ける魚屋のおっちゃんに訊いてみた。
「それなら、あんちゃん! ミト湖産の高級鰻を売ってる店があるぜ。ほら、あそこだ」
ミト湖! 西の大陸の真ん中にある大きな湖か。その沿岸の殆どが、ツィガル帝国の領土なんだよなぁ。グランデモニウム王国の北にもあって、大きな淡水クラーケンが棲んでいるらしい。クラーケンもいつか食べてみたいな。
「よーし、行くぞ。リュウグ」
「美味しいのあるとええな!」
通りの一番奥に行くと、鰻があった! 保冷の魔法がかかっている棚の上に並ぶ鰻、鰻、鰻!
大蛇のような大鰻やら、大昔の日本で食べられていたサイズの鰻。果てはしらすのような幼魚まで!
「うほー! どれも目が濁ってないし、新鮮だ! リュウグ、時間はまだ大丈夫?」
「うん、飛空艇出発まで、あと二時間ぐらいあるよ」
二時間あれば十分。効率の良い調理器具のお陰で、なんでも短時間でできるからな。
早速、生きの良いのを二匹と、大鰻の一切れを一つ買った。思っていた程値段は高くなくて、それだけ買っても銀貨二枚程度だった。地球で本物の鰻を買おうものなら、ボランティアポイントがどんだけ必要か・・・。
「さーてと」
魚屋の横で俺は亜空間ポケットから、料理台や調理器具一式を出して、リュウグの為の料理を始める。
「待ってろよ、リュウグ! 最高に美味しいの作るからな!」
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