上 下
124 / 282

オビオびんびん物語

しおりを挟む
 一体どうして、トロ子の命は消えようとしているんだ? トロールなら、こっから驚異的な回復で俺たちを驚かせてもいいはずだ。

 なんで? ヒドラ星人の影響なのか? くそ! 俺は科学者じゃねぇから、細かいことはわからん!

「諦めろ。それ以上何ができるというのだ」

 いつものようにサーカが言う。こいつは何かあると直ぐに「諦めろ!」だ。あまりの美味しさに、食べた者の気力を失くすといわれている、アキラメロンを常に食っていると疑わざるを得ない。

「ああ。確かにこれ以上なんにもできねぇよ。でもよ、トロ子の命が消えるその瞬間まで、俺は諦めねぇからな!」

 俺の態度にサーカはカチンときたようだ。

「役立たずのオビオが祈ったところで奇跡は起こせまい。それなら、メリィの祈りのほうが、まだマシだ」

 それを聞いて俺の頭に、あの悪魔の言葉が過る。

 ――――仲間を頼れ。

 その言葉が似つかわしくない人修羅キリマルを思い出して、一瞬身震いをした。そしてその後、メリィを見る。

 そういやメリィも修道騎士一筋。そろそろ蘇生の祈りを習得しててもおかしくないよな?

「メリィって、もしかして蘇生の祈りを習得してたりする?」

「あるよ~。でも触媒や儀式無しでやったら、成功率が下がるんだよぉ~」

 そうだった。確か、不死鳥の羽等の触媒が必要だった。魔法も祈りもそうだけど、触媒を使って儀式をすると、成功率が格段に上がるんだっけか。

 僅かでも成功率を上げる必要のある、蘇生の魔法や祈りは、触媒や儀式有りきで物事を進めるので、メリィ一人の祈りだけだと心細い。

 それでも死にゆくトロ子を放っておくわけにはいかない。うだうだ言っている間に、彼女が本当に死んでしまう。

「やってくれ! 可能性があるなら、それに縋りたい!」

「わかった~」

 俺から伝わる雰囲気を察してくれたのか、メリィはすぐに片膝をついて祈り始めた。

 銀髪の彼女がブツブツと念じて両手を組むと、メリィとトロ子に天から光が降り注ぐ。

 薄明光の中、トロ子がキラキラと光り輝いて眩しい。

 祈りを終えた修道騎士は、じっと事の経過を見守っている。そして結果がわかったのか、目を見開いて驚いた。

「あっ・・・! これは!」

 メリィがそう声を漏らすと、間もなくトロ子の体が外側から灰になっていく・・・。

「これは・・・。失敗・・・、したのか?」

 目に涙を溜めながら、俺はメリィを見た。修道騎士は静かに頷く。

 うう・・・。失敗確率が高いとはわかっていたけど・・・。 俺の料理を美味しいって言ってくれたトロ子が! 目の前で死ぬなんて!

「こればかりは神の気分次第だ。今度こそ、諦めろ」

 サーカが俺の肩に手を置くが、それを跳ね除けてじっと灰の中を見る。

「まだだ。トロ子が完全に灰になって風で飛ばされるまで、俺は諦めねぇ!」

 鼻を啜る俺の周りから、もう戦闘は終わったと言わんばかりに、人が去っていく。

 死と隣り合わせに生きているこの世界の住人は、トロ子の死に何も思わないようだ。そりゃそうだよな。トロ子は余所者だし、明日は我が身。一々悲しんでなんかいられない。

 辺境伯とその部下は館へと帰り、傭兵や冒険者達はギルドへ。

「オビオ殿・・・」

 ダーレは辺境伯についていかなかったのか・・・。俺のことを気にかけてくれるのかよ。優しいな。サーカを倒した時のような非情さは、これっぽっちも感じねぇ。

「大変、気の毒に思うが」

 ダーレが俺を慰めてくれようとした、その時――――。

「おぎゃあ!」

 前方から、産声が一つ。

「――――?!」

 消えかえていた天からの光が、灰の山の上にいる赤ん坊を照らした。

「?? 赤ちゃん? この子は、トロ子・・・。なのか?」

 赤ん坊はオレンジ色の髪をしている。そういや、トロ子もオレンジ色の髪を頭頂で束ねていたな。

「馬鹿な。トロールにしては小さすぎる。普通のトロールでも、生まれたては五十センチくらいはあるぞ!」

 サーカが驚いて、赤ん坊を抱き上げ、まじまじと見ている。

 股間に何もついていないから、確かに女の子だ。

「地走り族・・・か? いや、足の裏に毛が生えていないな。耳も長く尖っていないので、樹族ではない」

 俺には人間の赤ん坊に見えるが・・・。

「転生・・・。トロールが転生したのでは?」

 ダーレがマントを脱いで、それで赤ん坊を包んだ。

「何に、だ?」

 サーカが訝しそうに、赤ん坊とダーレを交互に見ている。

「それは判らないが、修道騎士殿の蘇生の祈りが、何かしら作用したのだと思う。どうだろう?」

 短髪の戦士は、振り返ってメリィを見たが、蘇生の祈りを施した当の本人は、何もわからないといった様子だった。

「蘇生に失敗すると、転生する事もあるのか?」

 俺は他の仲間に尋ねてみた。すると顎を擦って何かを考えるウィングが一歩前に出た。

「ないことはない」

 お? 知っているのか? ウィング! そういや、こいつは助司祭だった。

「この目で見るのは初めてだけどね。はるか昔に神降ろしをした、地走り族の聖騎士を知っているかい? 彼も元は樹族だったらしい。転生時の描写が、書庫の本と同じでびっくしたよ」

「それは眉唾だな。お前ら樹族は、他種族の手柄を横取りするからよ。その聖騎士様は、元から地走り族だったに違いない」

 おっと、トウスさんが珍しくウィングに噛み付いた。

「それは否定しないさ。所詮は昔話だしね」

 否定せんのかーい。意外とウィングは寛容だった。修道騎士のメリィに非寛容だけど。

「取り敢えず、この子の情報を・・・」

 俺は生まれたてホヤホヤの赤ちゃんに、恐る恐る触れてみる。

「名前は・・・。トロ子! やっぱり! この赤ちゃんはトロ子だ!」

 上位鑑定の指輪は、更に情報を流し込んでくる。

「種族は、人間。母親はトロ子、父親はオビオだって! ハハッ!」

 トロ子の転生が嬉しくなって、情報をペラペラと喋っていたら、俺はとんでもない事を口走っていた。

 空気がサーーッと音を立てて凍る。

 どこからともなく、オッオッオッ! と聞こえてきた。

「オビッ! オビビッチ! オビオ、ビンビンモノガタリッ! オォォビィィオオオオ!!」

 途中のオビオびんびん物語ってなんだよ! 俺は神に誓って、やましい事はしていねぇって!

 赤ちゃんをダーレに預けたサーカのワンドが、雷を纏ってバチバチと鳴っている。これは【雷の手】ではなく、【雷撃】の魔法だ。下手すりゃ俺は、一瞬で灰と化して死す。死すーッ!

「ちょっ、待てよ!」

 俺は焦りから喉声になり、じりじりと後ずさった。

 マジで待ってほしい。 なんで俺が父親なんだ? は? え? は?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

処理中です...