料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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腹減るトロール

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「なぜ、その少女を信じる? オビオ。何か確証でもあるのか?」

 皮肉の権化は、腕を組んでムクを見た。

「なぜって言われてもな・・・」

 それは「お前はなんでこの世界を受け入れているんだ?」と言われているようなもんだ。

「ここでは皆、不思議な力を何かしら持ってんだろ? 盲目の少女が魔物の心を読めても、おかしくはないと思うんだが」

 地球じゃ、誰も魔法を使えなけりゃ、スキルも使えねぇし、必殺技なんて論外。でもここじゃそんなものは、当たり前のように存在する。同じ宇宙の話とは思えない。

「なるほど、魔物使いの素質か!」

 サーカが勝手に納得した。

「そう、それだ。多分」

 本を読んで学習しているとはいえ、俺に現地人ほどの知識はない。

 サーカがムクを魔物使いと思うなら、きっとそうなんだろう。

 突然、ムクを抱いている右手から、情報が流れ込んできた。

 ――――名前ムク。種族:地走り族。職業:魔物使い。実力値1。

 今のこの瞬間、ムクは魔物使いになった。

 周りに魔物使いだと認知され、自身もそう自覚したから、魔物使いになったのか? と疑いたくなる出来事だった。

 本当に不思議な少女だ。いや、この世界が不思議なのか?

「この子、もうすぐ目を覚ますよ」

 ムクがそう言った途端に、トロールは息を吹き返すようにして目を覚ました。そして、半身を起こしてじっとムクを見つめている。どうやら、オトナシ草の効果はあったようだ。怒りと恐怖の精霊がまだ取り憑いているような気配はない。

「この子が、ここはどこだって言ってる」

「ワシの領地。樹族国のブラッド領じゃが」

 後ろ手を組んで、辺境伯が話に入ってきた。

「なぜ、ここに来たんじゃ? トロル」

 興味半分、敵意半分といった感じで、辺境伯はトロールに尋ねる。勿論、通訳はムクだ。

「人間に追われて、怖くなって霧の中に飛び込んだの。気がついたらここにいたって言ってるよ」

「ニンゲン?」

 そっか、ここじゃ普通の人間は希少種で、レッサーオーガだと思われているからな。

「人間は小さいのに、恐ろしいって言ってるよ」

 トロールは「ボイボイ、モゴモゴ」としか言ってないが、ムクが言うならそうなんだろう。

「ふーん。まぁいい。どうしてこの街を襲った?」

「ボコボコ」

「皆を人間と見間違えたんだって」

「なにぃ! ニンゲンとかいう魔物に間違えられるのは心外じゃな! で、もう落ち着いたのかの?」

「ムイムイ」

「落ち着いたって」

 ――――グキュルルル!

「ビチクソでも漏らしたかのような音だな? オビオ」

「俺じゃねぇよ! それから、いつまでビチクソネタを引っ張るつもりだ!」

 サーカめ。常に俺に恥をかかせようとする。嫌な奴だ・・・。いや、それほど悪くはないな。って、何いってんだ、俺。

「落ち着いたら、お腹が減ったって」

「ふむ、ここからはオビオの出番じゃな。こやつがもう暴れないというのであれば、我々も攻撃したりはせん。取り敢えず、これからの話はトロルの食事が終わってからじゃ」

 辺境伯はもうトロールに興味をなくしたのか、ダーレたちを引き連れて館に入っていった。

「辺境伯もお人好しだな。ムクの言ってる話が本当かどうかなんて、まだわからないってのに」

 ピーターがいつの間にか近くにいた。どうやら俺の仲間は、俺の隙きを突いて現れるのが好きなようだ。

「うるせぇな。俺はムクを信じるつったら信じるんだよ。なー」

「ねー」

 ムクを地面に下ろしながら、俺は頭を傾けた。

「うぜ~」

 ピーターの顔がゆがむ。その邪悪顔、全く怖くないけどね。

「ひえぇ!」

 一緒にいた名も知らぬ樹族が、ピーターの顔を見て腰を抜かした。M字開脚で驚いている。いや、驚きすぎだろ、あんた。

「で、トロールの食事は何にすんだ? オビオ」

 さっき食べたばっかりなのに、トウスさんは、猫のように口周りを舌で舐めていて可愛い。

 そうだ。このでっかいお相撲取りさんみたいなトロールに、一体何を食べさせればいいのか。

「取り敢えず、肉だろう。肉ならいっぱいあるし。肉でいいかな? トロール君」

「お肉食べたいって。でも、オビオお兄ちゃん。その子、女の子だよ」

「えっ!」

 ムクの言葉に、俺は亜空間ポケットから引っ張り出そうとしていた鬼イノシシ肉を、地面に落としてしまった。

「おっぱい丸出しじゃん!」

 ピーターがそう言って、腰蓑だけのトロールの胸を指差した。

 いや、そうなんだが、あまりエロくないな・・・。

「【閃光】!」

 サーカの魔法がピーターの目を焼く。

「このスケベいが」

「ずぎゃああ!」

 自称十二歳で思春期の地走り族は、目を押さえて地面を転げ回っている。トロールの胸を見た代償がこれとは酷い。

 俺は保身の為、粘着性のある大きな葉っぱをそこいらから見つけ、素早くトロールの乳首に貼り付けた。

「これなら問題ないだろ。(【閃光】してくんなよ、サーカ)」

「ふん」

 あ! お前、なんでワンド構えてんだよ! 俺が乳首対策しなかったら、速攻で魔法で攻撃しようとしてたな?! サーカめ!

 ・・・まぁいいや。肉を焼こう。
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