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進化するヒドラ
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あの変わり者達は、本当に見下して良い存在だったのか?
蛇は転移の罠にかかり、マグマの上で燃えながらそう考えた。
今戦っているブラッド領の戦士らは、一筋縄ではいかない。こんな強者がいる領土を、あの我々は、一時的とはいえ、支配したのだ。
「森の前に罠がある」
「罠を回避せよ」
他の我々へのテレパシーが伝播し、役目を果たすと蛇はマグマに沈んだ。
「余計な考えを巡らせたから、あの我々は死んだ」
共同意識を持つ他の蛇達は、個性を少しでも見せる者に無慈悲だった。
「そうか」
「そうだ」
「敵の斥候を捕まえた」
捕まえたと言っても、蛇は木の影に沈もうとしていた地走り族のスカウトに噛み付いたのだ。
スカウトは全身を毒で溶かして消える。
「死んだ」
「死んだ」
「なるべく殺すな。奴隷が減る」
「それは難しい。奴らは脆い」
「我々が戦ったアレは、脆くはなかった」
「アレ? アレの名は? 我々以外は名前があって、覚えるのが面倒だ」
「覚えている。その名はオビオ!」
「オビオか!」
「オビオだ!」
蛇たちはざわめく。殺しても死なないオーガを脅威と感じているのだ。
「あれに勝たねば、また暗い宇宙を旅する事になる」
「それは嫌だ」
「ああ、嫌だ。殻の外は寒い」
蛇たちが舌で鼻先を舐め、不快感を鎮めようとしたその時、茂みから敵の戦士が一斉に飛び出してきた。
「樹族国最強の名に泥を塗るなよ! お前ら! 高火力で一気に攻めて逃げろ!」
セロが望遠鏡で状況把握をしようとするも、森が邪魔でそれは無理だった。
「魔法水晶を持たせたスカウトは、あっという間に見つかって殺されてしまった。蛇たちは隠遁スキルを見破る目を持っているのかもしれん」
「いや、普通に乗っ取った体のスキルを使っただけやと思うで」
「そ、そうか。確かに」
セロは尤もだと思いながら、何気にテーブルを見る。
バルコニーのテーブルの上に鎮座する水晶は、薄暗くなってきた森の地面を映し出している。
「キャアア!」
突如として、魔法水晶から聞き覚えの声が聞こえてきた。
「ダーレ!」
セロは望遠鏡を投げ捨てると、魔法水晶に齧りつく。
「どうした! ダーレ!」
「陽動に出ていた戦士たちが、う、裏切りました!」
誰かが拾い上げる魔法水晶には、確かに冒険者ギルドの戦士たちが映っており、ダーレを複数で羽交い締めにしていた。
「しまった! そんな短時間で支配されるものなのか!」
蛇の洗脳を受けた戦士たちの目に光はない。
「セロ・ブラッドよ、この女戦士を救いたければ、ここまで来い」
操られた犬人の戦士が、魔法水晶に向かって話かけている。
「そんな・・・」
背後で驚くリュウグの声をよそに、セロは義足でぎこちなく走り出す。その後を数人の部下が追いかける。
「大将が動いてどうすんのよ!」
「大将はお前じゃ、リュウグ! ワシは行かねばならん! ダーレはワシの娘のようなもんじゃからの!」
「えーー!」
辺境伯には息子がいる。今は留学していてブラッド領にはいないが、普通は我が子を愛すものだ。
なのに辺境伯はダーレを愛している。それほどの絆なのかとリュウグは感動するも、自分に大将を任せるいい加減な彼に怒りを覚えた。
「もう! 何でもかんでも私に押し付けて!」
しかし、オビオを待つと言って勝手に残ったのは自分だ。考えを切り替えてリュウグは、バルコニーで待機するブラッドの騎士に指示を出すことにした。
「皆、聞いていた? 一時的に指揮系統が私に移ったで! そこの騎士様、南の補給路の様子を見てきて。貴方は街道の北側を偵察。オーガが現れたら直ぐに教えるんやで!」
オビオは北のグランデモニウム王国にいる。見えるとしたら間違いなく北から。
「早く帰ってきてオビオ・・・。私一人じゃ心細いわ」
近くに両親がいるとはいえ、その両親を守ろうという気持ちがまた負担となる。
リュウグは、頭にあるゴーグルを目に当てると、暗くなっていく外を不安げに見つめた。
「馬鹿なのか? こんな単純な誘いに乗るとは。それでよく領主が務まるな」
平野と森の境目で、義足を折られて倒れるセロは、ヒドラ星人に見下されている。セロの護衛はあっという間に猛毒の牙で殺されてしまった。
「悪かったな。最近は感情的になりやすいもんで。歳は取りたくないもんじゃ。さぁ、ワシはこれこの通り来た。ダーレの身の安全を確保しろ」
「安全の確保? ダーレはそれを望むのか?」
ヒドラ星人はダーレに視線を向けると、彼女はゆっくりと首を横に振った。
「卑怯者め! ダーレを返せ! 洗脳を解け! ペッ! ペッ!」
セロは必死になって、ヒドラ星人に唾を吐きかけるが届かない。
「忘れたか? セロ・ブラッド。お前の脚を斬ったのが、誰か」
「煩い! あれはお前らの仕業だろうが! ダーレが自分の意思でワシの脚を斬ったのではない!」
「困った。お前は中々我々に支配されない。強い意志があるからだ。あの我々は、やはり優秀だったのかもしれん。個性を持つことで、チャンスを見極められたのだろう。さて、では我々も個性を持つべきか?」
首から上は無数の蛇であるヒドラ星人は、暫く黙った。仲間と交信しているのだろう。
「まずは何を持つべきか・・・。相手の心を折る、嗜虐的思考。・・・どうだろうか?」
「意義なし」
「意義なし」
近くにいたヒドラ星人が、集まり始める。
「セロ・ブラッドの心を折るにはどうすべきか?」
「難しい」
「難しい」
「あの我々がしたように、今度は腕を斬らせてみてはどうか」
「それがいい」
「そうしよう」
蛇は転移の罠にかかり、マグマの上で燃えながらそう考えた。
今戦っているブラッド領の戦士らは、一筋縄ではいかない。こんな強者がいる領土を、あの我々は、一時的とはいえ、支配したのだ。
「森の前に罠がある」
「罠を回避せよ」
他の我々へのテレパシーが伝播し、役目を果たすと蛇はマグマに沈んだ。
「余計な考えを巡らせたから、あの我々は死んだ」
共同意識を持つ他の蛇達は、個性を少しでも見せる者に無慈悲だった。
「そうか」
「そうだ」
「敵の斥候を捕まえた」
捕まえたと言っても、蛇は木の影に沈もうとしていた地走り族のスカウトに噛み付いたのだ。
スカウトは全身を毒で溶かして消える。
「死んだ」
「死んだ」
「なるべく殺すな。奴隷が減る」
「それは難しい。奴らは脆い」
「我々が戦ったアレは、脆くはなかった」
「アレ? アレの名は? 我々以外は名前があって、覚えるのが面倒だ」
「覚えている。その名はオビオ!」
「オビオか!」
「オビオだ!」
蛇たちはざわめく。殺しても死なないオーガを脅威と感じているのだ。
「あれに勝たねば、また暗い宇宙を旅する事になる」
「それは嫌だ」
「ああ、嫌だ。殻の外は寒い」
蛇たちが舌で鼻先を舐め、不快感を鎮めようとしたその時、茂みから敵の戦士が一斉に飛び出してきた。
「樹族国最強の名に泥を塗るなよ! お前ら! 高火力で一気に攻めて逃げろ!」
セロが望遠鏡で状況把握をしようとするも、森が邪魔でそれは無理だった。
「魔法水晶を持たせたスカウトは、あっという間に見つかって殺されてしまった。蛇たちは隠遁スキルを見破る目を持っているのかもしれん」
「いや、普通に乗っ取った体のスキルを使っただけやと思うで」
「そ、そうか。確かに」
セロは尤もだと思いながら、何気にテーブルを見る。
バルコニーのテーブルの上に鎮座する水晶は、薄暗くなってきた森の地面を映し出している。
「キャアア!」
突如として、魔法水晶から聞き覚えの声が聞こえてきた。
「ダーレ!」
セロは望遠鏡を投げ捨てると、魔法水晶に齧りつく。
「どうした! ダーレ!」
「陽動に出ていた戦士たちが、う、裏切りました!」
誰かが拾い上げる魔法水晶には、確かに冒険者ギルドの戦士たちが映っており、ダーレを複数で羽交い締めにしていた。
「しまった! そんな短時間で支配されるものなのか!」
蛇の洗脳を受けた戦士たちの目に光はない。
「セロ・ブラッドよ、この女戦士を救いたければ、ここまで来い」
操られた犬人の戦士が、魔法水晶に向かって話かけている。
「そんな・・・」
背後で驚くリュウグの声をよそに、セロは義足でぎこちなく走り出す。その後を数人の部下が追いかける。
「大将が動いてどうすんのよ!」
「大将はお前じゃ、リュウグ! ワシは行かねばならん! ダーレはワシの娘のようなもんじゃからの!」
「えーー!」
辺境伯には息子がいる。今は留学していてブラッド領にはいないが、普通は我が子を愛すものだ。
なのに辺境伯はダーレを愛している。それほどの絆なのかとリュウグは感動するも、自分に大将を任せるいい加減な彼に怒りを覚えた。
「もう! 何でもかんでも私に押し付けて!」
しかし、オビオを待つと言って勝手に残ったのは自分だ。考えを切り替えてリュウグは、バルコニーで待機するブラッドの騎士に指示を出すことにした。
「皆、聞いていた? 一時的に指揮系統が私に移ったで! そこの騎士様、南の補給路の様子を見てきて。貴方は街道の北側を偵察。オーガが現れたら直ぐに教えるんやで!」
オビオは北のグランデモニウム王国にいる。見えるとしたら間違いなく北から。
「早く帰ってきてオビオ・・・。私一人じゃ心細いわ」
近くに両親がいるとはいえ、その両親を守ろうという気持ちがまた負担となる。
リュウグは、頭にあるゴーグルを目に当てると、暗くなっていく外を不安げに見つめた。
「馬鹿なのか? こんな単純な誘いに乗るとは。それでよく領主が務まるな」
平野と森の境目で、義足を折られて倒れるセロは、ヒドラ星人に見下されている。セロの護衛はあっという間に猛毒の牙で殺されてしまった。
「悪かったな。最近は感情的になりやすいもんで。歳は取りたくないもんじゃ。さぁ、ワシはこれこの通り来た。ダーレの身の安全を確保しろ」
「安全の確保? ダーレはそれを望むのか?」
ヒドラ星人はダーレに視線を向けると、彼女はゆっくりと首を横に振った。
「卑怯者め! ダーレを返せ! 洗脳を解け! ペッ! ペッ!」
セロは必死になって、ヒドラ星人に唾を吐きかけるが届かない。
「忘れたか? セロ・ブラッド。お前の脚を斬ったのが、誰か」
「煩い! あれはお前らの仕業だろうが! ダーレが自分の意思でワシの脚を斬ったのではない!」
「困った。お前は中々我々に支配されない。強い意志があるからだ。あの我々は、やはり優秀だったのかもしれん。個性を持つことで、チャンスを見極められたのだろう。さて、では我々も個性を持つべきか?」
首から上は無数の蛇であるヒドラ星人は、暫く黙った。仲間と交信しているのだろう。
「まずは何を持つべきか・・・。相手の心を折る、嗜虐的思考。・・・どうだろうか?」
「意義なし」
「意義なし」
近くにいたヒドラ星人が、集まり始める。
「セロ・ブラッドの心を折るにはどうすべきか?」
「難しい」
「難しい」
「あの我々がしたように、今度は腕を斬らせてみてはどうか」
「それがいい」
「そうしよう」
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