上 下
107 / 282

侵攻

しおりを挟む
 俺が! 困惑する皆の顔を欲したばかりに・・・。

 欲したばかりにぃ~! ウィングの命を危険に晒してしまっている~。

 いや、まだだ。まだ、ヒジリの神罰を阻止する手立てはある。彼が手刀を振り下ろしたその時に、命を賭してウィングをこの身で守れば・・・!

「これより、神罰を下す」

 そう言ってからのヒジリは神速とも言える速さで、神罰を下してしまった。俺が身構えるよりも前に、手刀は振り下ろされた。

「あぁ! ウィングを助けられなかった! 俺のせいだ!」

 俺は目を手で押さえ、半泣きでそう喚く。

 ウィングとのこれまでの旅の記憶が走馬灯のように・・・。いや、言うほど一緒に旅してないわ。

「おしり、ぺんぺん」

「へ?」

 シャア・○ズナブルのような声が、俺の耳に入ってくる。

 俺は手の隙間から、ウィングを見た。「おしりぺんぺん」の言葉通り、ヒジリに臀部を軽く叩かれているだけだ。

 どういう事? ヒジリって、実はここまでおフザケキャラだったってこと?

「おお! 我ら現人神様は、寛大であられる!」

 ウィングが、ヒジリの手の甲にキスをした。

 かの助司祭の信仰する神は、星のオーガ。まさにヒジリのこと。

「現人神様は中々、面白い人物だな。いや神か」

 トウスさんが、俺にヒソヒソ声でヒジリの印象を伝える。

「あ、ああ。そうだな。噂通り変人だった」

「星のオーガ様って優しいねぇ~」

 メリィが、対アンデッド用の魔剣を鞘にしまって微笑んでいる。その彼女に対し、ウィングも微笑み返す。

「君も、運命の神教から星のオーガ教に乗り換えたらどうかね? メリィ。いつでも歓迎するよ」

「考えとく~」

 ホッ・・・。なんとかこの場は収まったか・・・。殺伐とした世界から優しい世界への振れ幅が激しすぎる。

「一時はどうなるかと思ったよ」

 そういうピーターは鼻くそをほじっている。絶対気にしてなかっただろ。

「喝ーーッ!」

「まだやるのかよ、それ」

 俺はピーターの嫌気のさした声を無視して、最後にサーカを紹介する。

「彼女は自称ムダン家臣、ジブリット家の娘、サーカ・カズンです。そしてシルビィ隊の仮隊員です」

「うむ」

 あ、興味なさそう。(察し)

 嫌な紹介の仕方をされて、サーカが肘突きをしてくる。

「お前のごっご遊びに、聖下を巻き込むな!」

「ご、ごめん」

 つい調子に乗りすぎた。ヒジリも乗ってくるから・・・。

「じゃ、先を急ごうか。行きましょう、聖下」



「さぁ、行け! リュウグ君。敵の侵攻はまだ初期段階だ。君たちがここで死ねば、国際問題になる」

「でも、オビオが帰ってくるまで待つって決めたから嫌や! ちゃんとお別れの挨拶しないと!」

 セロ・ブラッドはそれを聞いて、即座に説得を諦めた。

「そうか・・・。好きにするが良い。ノーム国に事の次第を説明するのに困らぬよう、一筆書いておいてくれると助かるがの」

 今はノームの一家の事など、どうでもいい。直ぐにでも敵の侵攻に備え、対策を考えなければならない。

「奴らは霧の魔物ではない。だが、非常に強力だ」

 霧の魔物が頻出する北の平原の守り人(石像)は、何も警告音を発しなかった。

 そして、その姿は一週間前に戦った蛇人とそっくりだ。蛇人とは呼んでいるものの、多頭の蛇人はこの世界にはいない。大体一つの体に一つの頭だ。神の気まぐれで、二つの頭を持つ者もいるが長生きはしない。

「それが、二百体ほどか・・・」

 バルコニーから簡素な望遠鏡でざっと見ただけでもそれだけいる。

「ダーレ! 戦闘員に伝えろ。接近戦はするなと。それから爆発した敵に近づくなとも言え」

「ハッ!」

 全身鎧のダーレは、煩く鎧を鳴らして館を出ていった。

「さて、どれほどの強さか。バトルコック団やワシが戦った相手程度なら、問題はない。一人が一匹を相手できるだろう。しかしそうでなければ」

 冒険者ギルド、私兵、常駐の王国騎士、傭兵のアーチャー達が一斉に弓を射だした。

「下男をしていた時の記憶はまだある。ブラッドを乗っ取った蛇人の指揮はどうだったか」

 屈辱的な記憶の中を探って、オビオがヒドラ星人と呼んでいた蛇人の戦い方を思い出す。

「ふむ、霧の魔物には勝てておった。まぁ、指揮がお粗末でも、うちは末端のマンパワーが凄まじいからの」

 戦闘員の全てがエリート種である。生命値が通常の四倍ある者、能力値が高く平均している者はざらだ。

 相手が強力な霧の魔物といえど、こちらとて尋常ならざる者の集団なのだ。

「む?」

 ヒドラ星人はこちらの弓矢を弾いて無傷だ。雨あられと降る矢に対して微動だにもしない。ゆっくりと館へ近づいてくる。

「オビオ君達は、あれを突破していた。はて、どうやって突破していたか」

 セロは緑の髪を撫で付けながら、記憶を辿った。

「いかん、思い出せん・・・」

 山程あった政の仕事で、記憶は遥か遠くだ。

 その時、リュウグがバルコニーに駆けてきた。

「辺境伯! あの物理障壁魔法みたいなのは、短い間に攻撃を重ねないと突破できへんで!」

「そうか! 連携技か!」

 セロは指を鳴らして気づく。そうだった。リュウグはオビオの仲間だ。情報がここにあるではないか!

「悪いが、暫く横でいてくれるか? リュウグ君。ワシは耄碌してきておる。君の助言はありがたい」

「ええで!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...