料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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幸運

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 ヒジリと知り合いだという事を知った地走り族が、何とかピーターとのコネクションを作ろうしている横で、俺はあることに気がつく。

 ウメボシはどこだ?

 地走り族の商人に気のない返事をするピーターを見ながら、忙しく目を動かした。城の待合室に、かのアンドロイドはいない。

 もしかして、という気持ちが湧き上がり、俺は自分の幸運に震える。

 ウメボシがいれば、とっくに現れて、不法入星者に対し、警報を鳴らしているはずだ。というか、ヒジリを襲った暗殺者を追い払った時点で、彼女は姿を現したはずなんだ。

「いない!」

 急に奇声を上げてしまったので、一瞬待合室がシーンとなる。あちこちからの視線が痛い。

「・・・いない、ばぁ!」

 俺はサーカに、いないいないバァをする。

「何の真似だ。馬鹿オーガめ!」

 サーカが俺を叱咤した事で、待合室はまた喋り声でいっぱいになる。周りからは、知能の低いオーガの下人がふざけただけ、ということで済まされたようだ。

「いないんだよ、サーカ」

 俺はヒソヒソ声でサーカに報告する。

「ヒジリ聖下の使い魔が、か? 何故、解る?」

「いたら、入国した時点でバレていると考えるべきだったんだ」

 あのタイプのアンドロイドはサーチ範囲が広い。一キロ四方なら余裕で見通せるだろう。

「お前のごっこ遊びに、私はいつまで付き合ったらいい?」

 どうやっても説明できない事にイライラしつつも、俺はサーカに言い返す。

「永遠にだ」

「そんな愛の告白の仕方があるのかね?」

 いつの間にか俺らの順番が回ってきたのか、ヒジリが目の前に立っていた。

 やべぇ! どこから話を聞かれていた? っていうか、なんで何からなにまで自分一人でやってんだ? 客を呼びに行く召使いもいないのか?

「ご、ご機嫌うでゅわしゅう! ヒジリ聖下」

 俺はとびっきりのウスノロオーガを演じて話しかけた。

「やぁ。君たちが有名なバトルコック団か。噂はかねがね聞いているよ。一応シルビィの部下兼、冒険者という事でいいかね?」

 ヒジリの問いに、サーカは腰を深く折って挨拶をし、答えた。

「はい。王国近衛兵騎士団独立部隊隊員(仮)サーカ・カズンです、聖下。あちらの白獅子は、トウス。修道騎士がメリィ。地走り族のピーターはご存知でしょう。それから助司祭のウィング・ライトフット。そして、このウスノロが・・・」

 俺はサーカに紹介される前に、自分で名乗る事にした。

「おおお、オデは。バトルコック団リーダァ、ビチクソ・ビチビチです」

 プスーっとピーターが笑った。笑うだけにしとけよ。それ以上何も言うな。

「ビチビチ・・・。ああ。聞いたことがある。確かそんな名前だ。ここで立ち話もなんだ。部屋に入りたまえ」

 他人の名前にまるで興味がないようだ。無頓着というか。普通なら、そんな名前を聞かされたら、眉を潜めるはずだが、ヒジリは気にした様子がない。・・・ざっくばらん過ぎるだろ。

 俺たちは、現人神に誘われるまま、のそのそと応接室に入り、ソファに座った。

「今、コーヒーを出す」

 え! コーヒーすら現人神本人が出すの? 他の人は?

 ヒジリは部屋の奥にあるコーヒーメーカーを使って、人数分のコーヒーを作った。複製機を使ってない、本物のコーヒーだ!

 地球から持ってきたコーヒーは尽きたところなので、これは嬉しい。

 俺は久々のコーヒーに喜び震えながら、ヒジリに話しかける。

「たじか、聖下が運営するコーシィ農園が、あるんでぃすよね?」

「ほう。よく知っているね。流石は料理人だけはある。その通り。ゴブリンに仕事を与えるため、大規模な農園を経営しているのだ。商売としても軌道に乗ったのでな。今では他の国にまで輸出するようになった」

 そう。グランデモニウム王国産のコーヒーは、貴重で値段も高い。この星にコーヒー自体が無かったのだから当然だ。コーヒー豆一粒、金一粒と言われるぐらいにな。

 背の低いテーブルに、人数分のコーヒーが並ぶ。皆も久々のコーヒーを前に目が輝いていた。

「オビ・・・、ビチクソが毎朝、当たり前のように出していたから、当然のように飲んでいたが、神国産だったのだな」

 サーカはブラックコーヒーを、口の中で転がすようにして飲んだ。

「美味い! オビ・・・。ビチビチの入れたコーヒーよりも!」

 まぁ、現人神様自ら入れてくれたコーヒーを飲む、という価値も相まってそう思うのだろうが、それをさし置いても確かに美味い。コク、香り、酸味、キレ。どれをとっても一級品だ。

「ビチクソのコーヒーは、それこそビチクソだ」

 言い過ぎだろ、ピーターめ!

 他のパーティーメンバーが口々にコーヒーを褒め称えると、ヒジリも嬉しそうに微笑んだ。

「コーヒーを気に入ってくれて何より。熱いからゆっくり飲むといい。落ち着いたなら、要件を言ってくれたまえ」

 コーヒーで気持ちを和らげたところで、話を本筋に持っていく。相手の世辞や遠回しな問答を、見事に省かせて、尚且角も立たない柔らかい物言い。流石だな。

「じつは・・・。大変お願いしにぃくいのですが、樹族国のブラッド辺境伯に、お会いしてもらえないでしょうか?」

「グランデモニウム王国に来るのであれば、歓迎する」

 まぁそうだよな。ほぼ新興国みたいな国とはいえ、ヒジリは一国の王。外国の領主に呼ばれたからといって、ホイホイついて行くなんてのはおかしい。

「いえ、それなんでづが、辺境伯様はヒジリ聖下に、ぎてほじいと言っております」

「何故だね?」

 そう。何でヒジリをブラッド領まで連れて行かないと駄目なのか。

 俺はそういった話を聞いていない。

 同じオーガだし、上手くいくだろうという安易な考えで、辺境伯から丸投げされたのだ。

「ブラッド領は素敵なところです。是非とも遊びに行ってみてはどうでしょうか?」

 珍しくサーカが、助け舟を出してくれた。雨の中、ヤンキーが捨て犬を拾い上げるギャップ効果で、サーカが益々好きになりそうになったが、ぐっと堪えて、哀願するような目でヒジリを見つめる。

「エリート種が多く、霧の魔物が多く出現する場所とは聞いている。実に興味深い」

 ヒジリは顎を擦って、斜め上を見た。一考してくれているのだ。チャンスあるんじゃないのか? これは。

「だが今は断る。まだ国を立ち上げたばかりなんでね」

 早い! 一考どころか秒考だった。
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