料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
上 下
91 / 291

そびえ立つ筍

しおりを挟む
 間近で轟々と音を立てて燃える火球は、掛け声と共に大きくなっていく。

「1、2、3・・・」

 ヒドラ星人の唱える数字はパワーレベル加算数だ。確かサーカは、十位階までの魔法を唱えられるようになっていたはず。

 一位階、十回唱えられるとしたら、パワーレベルは百加算される。しかしマスタークラスじゃない限り、高位魔法の詠唱回数は多くない。全部合わせても、精々七十ぐらいだろう。

 七十・・・。

 つまり大火球(ダメージ十から百)×七十で、最大7千の生命値が削られるってわけだ。

 俺は目の前で死の宣告をされているような気分になり、膝が震えた。自分で勝負を挑んでおいてなんだが、流石に七千ダメージが出たら死ぬ。まぁでも、実際のところ、数値通りのダメージが出ることはない。

「だ、大丈夫だ。レジストすれば何とかなる。耐えろよ! 俺!」

 顔をバシバシ叩いて、気合を入れる。
 
 果たして俺は物語の主人公のような奇跡を起こせるか? そして見事にサーカの遺体を取り戻せるだろうか?

「駄目だ! 弱気になるな。 弱気になればそれだけレジスト率が下がる」

 俺の強みはなんだ? タフさだ! ダメージを受けている間でも、ナノマシンが生命値を回復をしてくれる。

 父ちゃんと母ちゃんが、丈夫な子になれと願った結果が、今の俺!

 それに、こんな狭い中での【大火球】だ。俺が受け止め来れなかったら、仲間にもダメージがいく。

「67」

 運命の神様、俺に力を!

「68」

 仲間を守る力を!

「69。終了」

「エッチな数字で止まりやがった!」

「なんの話だ? 喰らえ! 【大火球】」

 俺、生き延びたらサーカと69するんだ・・・。って、何言ってんの? ピーターみたいな事言ってる。

 本来、広い場所で使うこの魔法は頭上から降ってくるものだが、牢屋の中ではそうもいかない。

 真正面からぶつかってきた大火球を、俺は両手を広げて受け止める。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 ン? あれ? 熱くない。寧ろ、無感覚だ。

「うわぁぁ! オビオ!」

 ウィングが目をむいて驚いている。なんだ?

「ひぃぃぃ!」

 リュウグが体の向きを変えて背中を見せた。

 なんだ? どうしたどうした?

 ん? 焦げ臭いな。というより焦げてる。体より少し前に出した手が、黒檀の棒みたいになってるな。あ、これ駄目なやつだ・・・。

「オビオォォォ!」

 トウスさんが泣いてる。サーカの時は泣かなかったのに。

 あれ? やっぱり死んじゃうの? 俺。

 最期の言葉は何にしようか? 辞世の句ぐらい考えさせてくれよな。

 よし、なんか言うぞ。

「あれ! 目が見えない!」

 おい! 最期の言葉がそれかよ! 確かに目は見えなくなったけど! うむ、真っ暗だ。




「はぁ・・・。君がここに来るとは思わなかったでヤンス」

「うわぁ! まだ火球がある!」

 俺は闇の中の見知ったゴブリンよりも、大きな火球を見てそう叫んだ。いや、これは俺が、受け止めた大火球ではないな。宇宙の海原に浮かぶ太陽のようだ・・・。

「ん? なんでヤンスさんがいるの?」

「それはこっちのセリフでヤンスよ!」

 ヤンスさんが指を鳴らすと、闇にスクリーンが現れた。

「これを見るでヤンス」

 スクリーンに映し出された光景は、さっきまでいた俺のいた地下牢のようだが、床から変な物が生えている。

「なに? この炭化した筍みたいなの」

「オビオでヤンスよ!」

「おーれーー?!」

 嘘だろ・・・。これ、黒いところ剥いたら、ホカホカの筍の身が出てくるやつじゃん。

「えっと・・・。つまり、俺は死んだって事?」

「そうでヤーンス」

「じゃあ、皆も死ぬって事じゃん!」

「いや、そうはならなかったでヤンス。どういうわけか、オビオから鱗粉みたいな物が散って、魔法ダメージを吸収したでヤンス」

「くぅぅ! 俺が死んだ後に、ナノマシンが働いてくれたのか! 可愛い奴らめ! 素敵! できれば生きている時に機能してくれれば良かったのに!」

 普段は意識しないナノマシンを、脳内で擬人化して褒め称えた。

「なんでオビオは、あんな賭けに出たでヤンスか?」

「だって、あの状況だと、俺しか戦えないじゃん。まともに戦っても、ヒドラ星人には防御シールドがあるから、攻撃は通じないしさ」

「その “ぼうぎょし~るど” とやらは、サーカの体には無いでヤンス。賭けるなら、気合を込めた一撃のほうが良かったでヤンスね」

「まじ? まじ山まじ夫?」

「まじ山まじ夫でヤンス」

「くっそおおおお!! あれ? ・・・ヤンスさんも死んだの? こっから帰る手段とかない?」

「残念ながら。オビオはそういった星の下に生まれてないでヤンスから・・・」

 このゴブリン、本当にヤンスさんかな? なんか時々運命的な事を言う。

「じゃあ、俺は完?」

「完」




 背骨の半ばを頂点にして、そびえ立つオビオの死体を見て、白蛇は勝利の味に酔い、喜びというを噛み締めていた。

「さっきは、リュウグ君に負けたが、今回は勝った! 勝利するという事は! これ程にまで胸躍るものなのか!」

 多くの仲間が死に、単体となった白蛇の心に芽生えた新たなる感情。喜び。

「フン!」

 サーカの視界から見る、屈服した者たちの顔は実にみすぼらしい。

「オビオ・・・」

 リュウグは放心して、オビオの焦げた死体を見る。

 上半身の殆どが炭だ。内臓も焼け焦げて、下腹部にはポッカリと穴が空いている。細くて筋肉が適度についた体と甘い顔はどこを探しても無い。

「ハハハ! ハハッ!」

 笑いながらもツカツカと歩いて、白蛇は身動きができないトウスの腹を蹴った。

「――――!」

 獣人は呻かない。鼻の横に皺を寄せて牙を見せている。

「威嚇か? 身動きもできないのに、どうやって反撃をするんだ? ハーッ! 無駄無駄無駄! あぁ、最高だ! これが嗜虐心というものか! 仲間と意識を共有していた時は感情が均されて気が付かなかったが、実に気分が良い」

 白蛇は気が済むまでトウスを蹴る。

 そして視線はメリィに向いた。

「奇跡というものは、実に素晴らしいな。メリィ君には何度か煮え湯を飲まされた。オビオ君が受けた猛毒を、祈りで和らげた時は正直驚いた! なので君を仲間にすれば死を遠ざけ、今後は安泰だろう」

 白蛇はしゃがんで、メリィの顔を覗き込む。

 修道騎士の顔は険しい。

「どうしたね? 私を睨んだところで、オビオ君は生き返ってこないぞ? さぁ、笑いたまえ。君は新たな苗床となるんだ」

「・・・」

「どこに卵を産み付けて欲しい? 耳の中か? 口の中? それとも・・・。あぁ! アソコがいいか!」

 白蛇はゆっくりと口を開いて、喉奥から自身を出す。そして、メリィの下半身へと頭を動かした。

「いやだ」

 身動きできず、恐怖で引きつるメリィの瞳に映った蛇の喉元は、わかりやすいぐらいに卵型に膨らんでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...