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必死の反撃

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「次は・・・。次はオビオに料理をさせる! おでんを、オビオに作らせるんや!」

 リュウグは、オビオが万能調理器具でおでんを煮ている姿をイメージした。

 そして、手の中のサイコロに成功の願いをこめて、それをテーブルの上に優しく投げる。

 ダイスの目は五と出た。

 成功したかどうかの判別は、ボードに描かれている吹き出しの文章によってわかる。

「ボードにはダイスの目が3から6で料理は成功とある。成功おめでとう。とはいえ、とうとう馬脚を現したか。この状況において、オビオ君に料理をさせるとはのう・・・。もう女騎士の事はどうでもよくなったのか? 暗殺者は平気で仲間を見捨てるものだ。フォフォ」

「好きなように言うたらいい。私は見抜いてるで! 辺境伯も、このゲームが初めてだって事!」

「ほう? なぜそう思ったのかね?」

 辺境伯は片眉を上げて、下から覗き込むようにリュウグを見る。

「辺境伯が女戦士に、昏倒攻撃ばかりさせてたからや!」

「呆れた。それだけで、ワシがゲーム初心者だと思ったのか?」

「そうや! 辺境伯のやり方には遊びや余裕がない! 相手を一発でノックアウトする事ばかり考えてる!」

「そうか。そう思うならそうなんじゃろうな。どのみち、女騎士サーカ・カズンは詰みじゃ。おでんとやらで何をするかは知らんが、ターン終了まで料理は終わらんだろう。ほーら」




 なんで俺はおでんを煮ているのか。

 予め用意していた練り物や大根などを寸胴鍋に入れて、おたまでかき回す。その横で、サーカがダーレに打ち倒されそうになっている。

 サーカは右手のメイスだけで、ダーレの獅子連撃をブロックしているが、ダメージを受けるのも時間の問題だ。

(くそ! サーカすまん。 お前がやられそうになってるのに、俺は何もできない。リュウグもなんで、こんな選択をしたんだ? おでんがそんなに美味しかったのか? そういえば、以前におでんを作った時、熱々のちくわをサーカの口に持っていって、怒られたな・・・)

 俺は寸胴鍋の中でグツグツと煮だったちくわを見る。ちくわは熱で膨らんで、汁の中で浮かんでいた。

「・・・もしかして、リュウグは!」




「ほう。中々粘るではないか」

 ダーレの連撃を右手だけで弾くサーカを見て、ブラッド辺境伯は感嘆している。

「重い鎧を着るダーレの連撃は、トウス君のものより遅いとはいえ、そう何度も受けきれるものじゃないぞ?」

「そんな事、わかってるわ! オビオ! 私の考える通りに動いて! お願いや!」

「そうそう物事が好転するとは思わない事だな。現実もゲームも同じ。人を都合よく動かすのは難しい。・・・ん?」



「熱い!!」

 獅子連撃の最後の一撃を見舞おうとしたダーレが、突然動きを止めて叫んだ。

「鶴太郎が悶絶する温度だぞ! おでん汁の味はどうだ!」

 ここでターンが終わる。

「うぐっ! 熱い!」

 鎧の内側に染み込む汁の対処をしたがっているが、ゲームのルールがそれを許さない。鎧を脱ぐ行為は一ターンを消費するのだ。

 ダーレはただ棒立ちになって、おでん汁が冷めるのを待つしかない。

 そうこうしている内に次のターンが開始した。

 致命的な傷の回復、というメリィの祈りで、サーカの折れた手首は元通りになっていた。

「濡れているなら丁度いい! 喰らえ! 【電の手】! パワーレベル全開!」

「ぎゃああ!!」

 ダーレはサーカからの雷撃を受け、悲鳴を上げる。

「えげつねぇ・・・。火傷を追っているだろうダーレに、追い打ちの電撃か。しかもパワーレベル全開だったら、最低でも十、最高八十のダメージだぞ」

「こうでもしないと、女戦士にダメージを与えられないからな。リュウグもこの連携を狙っていたはずだ」

 確かに。

 基本属性とは違って、風と水の複合属性である“雷”は、濡れたダーレに有効打となっただろう。それに雷属性を重点的に対策している戦士はそうそういない。それだけ扱いづらい魔法で、使い手が稀な存在なのだ。

 この属性で一番有名なのは、あの大神聖おおがひじりである。

 俺たちのような一般的な地球人が持つことのできない、パワーグローブから繰り出される雷撃は、ちっとも魔法的なんかじゃない。

「バオォォ」

 トウスさんが静かに吠えた。

 次のターンで勝負をつけるつもりだ。力を溜めている。力溜めプラス獅子連撃って、オーバーキルにならないかなぁ?

 そう思うと、なんだかダーレが可哀想に思えてきた。彼女だって命令されてここに来ているのだし。俺たちのことを憎いと思って攻撃しているわけじゃない。

(なんとかダーレを死なせないようにできないかな?)

 おでん汁ぶっかけといてなんだが、俺はその事ばかり考えるようになっていた。
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