料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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神様ありがとう

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 馬車に戻ってからまたブラッド領までの旅を続けたが、やはりすぐに夜になってしまいキャンプを張る事になった。晩御飯は食材がなかったので質素なものだ。

「わりいな。焼き肉パーティで一気に食材使っちゃったから、パンと目玉焼きと野菜スープだけになっちゃって」

「いいってことよ。明日はいよいよブラッド領に入るし、途中の村に寄ろう」

 そう。明日はいよいよブラッド領だが、領地に入ってから辺境伯のいる街を目指すまでが長い。樹族国の南西の端にあって、獣人国の国境に面している。

「はぁ~、ブラッド領って、結構物騒なんだよなぁ・・・」

 ピーターはパンを齧りながら嫌そうな顔をした。

「ここまで来て、行くのが嫌になったのか?」

「いや、ブラッド領の首都ブラッド自体は、強固な城壁に守られているんだけど、すぐ北にある荒野からは、霧の魔物が頻繁に攻めてくるし、南には獣人国と仲の悪い獣人国レオンがある。西にも、一応同盟国の獣人の国リンクス共和国があるだろ。いつ戦争や魔物の災害に襲われてもおかしくないんだぜ?」

 ピーターの憂いに、トウスさんが「ハハハ」と笑ってスープを飲んだ。

「あそこはエリート種だらけなんだ。大昔からずっと霧の魔物を撃退している。それに獣人国は今んとこサル人の横暴政治で混乱しているし、リンクスは国の真ん中に無理やり作られた傀儡国家ポルロンドのせいで、樹族国なんて気にしている余裕がねぇ。それにリンクス共和国と樹族国は元々仲は悪くねぇしよ」

「国の真ん中に?」

 どういう事だ? よその国の真ん中に国なんて作ったら、四方八方から攻められるだろ。

 不思議に思っていると、説明をしようと口を開きかけたトウスさんを遮ってサーカが話し始めた。

「ああ、リンクスは国がリボンや蝶ネクタイみたいな形をしていて、結び目の北には神聖国モティ。南には商人の国グラス。この二国がリンクスの地下資源を狙って、強引に建国させたのが、自由国家ポルロンドだ」

「じゃあリンクスは、カンカンに怒っているだろ」

「まぁな。しかしリンクスも一枚岩ではない。この二国の賄賂に、口を閉ざす者が多かった。国の事より自分の利益を優先したのだ。しばらく裏切り者の懐が温まって良いかもしれんが、いずれろくでもない事になるのは、火を見るより明らかだな。とはいえ所詮は他国の事。気にしても仕方がない事だ」

 話はそこで終わり、食事の音だけがする。

 どの国も問題を抱えてんだなぁ。地球だと地域間で大規模なトラブルが起きても、マザーコンピューターが解決策を提示して終わりだもんなぁ。まぁ滅多にトラブルなんて起きないけど。

 取り敢えずモティは糞みたいな国だってのは解った。こんな国が、神様の威光を振りかざして偉そうにしてんだから気に入らねぇなぁ。

「そういやニンゲン達は大丈夫やろか。あそこブライトリーフ領やろ?」

 リュウグが気になる事を言った。

「やばいのか?」

「多分、何か月も領主と音信不通やったら、怪しんで誰か塔に寄越すやろ」

「亡くなった塔の主は、世捨て人なんじゃないのか?」

「一応他者との交流はあったで。日記読んでたら、塔の主のパトロンがブライトリーフやったし。となると何かしらの取引があるはずやで。数か月に一度ポーションを納品するとか、そんな感じの」

「まじか・・・。何を納品するんだろう?」

「さぁそこまでは・・・」

 異世界の地球人たちが心配で、心の中がぐにゃりと歪むような感覚がした。早くあいつらの下へ戻らないと大変な事になりそうだ・・・。なんとか間に合うだろうか? ブラッドで剣を返したら、次には外国のポルロンドまで行かないといけない。

「心配なんか? あのニンゲンって種族が」

「そりゃな。関わった事で縁ができてしまったんだから、放ってはおけねぇよ」

「そやな。私の事も助けようとしてくれてるもんな・・・。オビオって優しすぎへん?」

「お人好しのウスノロオーガなだけだろ」

 サーカが鼻で笑っている。酷い奴だよ、全く。

「いや、俺だって自分ができる範囲でしか助けられないぜ? 誰でも彼でも助けられるわけじゃねぇぞ。現人神の聖様じゃないんだからよ」

「知ってた? ノームの神様も星のオーガなんやで? ノームが一番、星のオーガを信仰してるんや」

 食事を終えて俺に皿を渡すと、リュウグはなぜかうっとりとした目で俺を見ている。

「おい! 言っとくが俺は神様じゃないからな。(星のオーガ――――、地球人ではあるけども)」

「誰もオビオが神様なんて思ってへんわ! 厚かましい!」

「じゃあなんだよ・・・」

「なんでもない。可愛らしいオビオの顔見てただけや」

「俺は17歳だぞ、可愛いとかいうなよ。確かに童顔ではあるけども。それに俺の方が年上だろうが」

「可愛いもんは可愛いの。ほな、歯ァ磨いてくるわ。メリィいこ」

 食事を終えたメリィを誘ってから、リュウグはクスクスと笑い、小川の方へと向かった。サーカはまだ食事中だ。

「なんか嫌な予感がするな・・・。(リュウグは俺に何をさせるつもりなんだろうか。昼間の約束が気になる)」

「なにが嫌なのだ。ノームに好意を持たれるなんて滅多にない事だぞ。あいつらは自分の研究や、目的の事しか頭にないからな。なのにオビオに興味津々って事は、オビオを実験台として使いたがっているのやも」

「いや、普通に好意を持ってくれてるだけだろ! なに実験台とか、怖い事言ってんの」

「なぬ! そうなのか!」

 まさかのニブチンだったとは・・・。恋愛に疎いのか? 告白されても「なんだって? 聞こえなかった」とか言っちゃうタイプなのか? サーカは。

 ・・・おい! なんで口を∞にして俺を睨むんだよ。

「私のクマちゃんなのに~・・・」

 聞こえたぞ、サーカ。だったら尚更、俺を睨むのはおかしいだろ。リュウグを睨めよ。ここにはいないけど。




 エアベッドを地面に投げて大きくし、地面にポールを立ててタープを張っていると、サーカが【知らせ犬】というコモンマジックを唱えた。これは毎晩サーカが唱える魔法で、魔物等が近づいてくると、幻の犬が吠えて俺らを起こしてくれる。まぁ大抵は犬の鳴き声に驚いて、魔物や野生動物は去っていくのだけど。

 うん? なんかサーカの様子がおかしい。知らせ犬に全マジックポイントを振り分けたのか、幻の犬が異様にでかい。

 普通は各位階毎のマジックポイント分だけしかパワーを割りふれないが、サーカはいつの間にか、一つの魔法にあるだけ全部のマジックポイントをつぎ込んで、強化するスキルを覚えていた。

 それにしても、今回のは、なんだか頭の悪そうなグレイハウンドだな・・・。目の焦点が合ってない。ほんとに役に立つんだろうな? いつものビーグルの方が頭が良さそうなんですけど。

「オビオ、私ね、疲れたから早くベッドに入りたい。オビオも一緒に寝よ?」

 やっぱりそうなるわな。幼児化サーカは、俺のマントの裾を遠慮気味に引っ張っている。んん、可愛い。でも何で全パワーを【知らせ犬】につぎ込んだんだ? ここいらは危険な地域なのか?

 多分危険な地域ではないと思う。トウスさんはいつも通り、焚火の横で無警戒に寝転んでいるし。正直、この間抜けそうな犬より、トウスさんやピーターの方が敵察知能力は上なんじゃないのかって気がしてきた。

「わかったわかった。じゃあ着替えるからマントから手を離して」

 俺は鉄板の付いた皮鎧や腰あて等を脱ぐと、普段着姿になった。

 マントを毛布の上にかけて、ベッドに潜り込むとサーカも入ってくる。凄く嬉しそうに俺に引っ付いてくる。いつもこうだったら可愛いのにな・・・。

「あー! もう寝てる!」

 リュウグとメリィが歯磨きから帰ってきた。

「わ! なにあの幻影の犬。めっちゃでかい!」

「サーカが全マナを注ぎこんだ【知らせ犬】だぜ。多分その価値はないと思うけど」

「なんやて・・・? あ・・・。なんか、私わかった・・・。サーカちゃんは・・・。いや、言わんとこ。なんか腹立つし」

「オビオ、ぎゅーってして」

 サーカの前髪が流れておでこが見えてる。

 彼女が幼児化した時の目は真ん丸で可愛い。そして今日はすげぇ甘えん坊さんだ。俺は仕方ないなと言いつつも内心では大喜びでサーカをハグした。

(はぁ~、ふんわりしてて柔らかい。女の子ってほんと抱き心地いいなぁ~)

 向こうの暗闇で「チィー」っと蝙蝠が鳴いた気がしたが、ピーターの舌打ちだった。羨ましさで憤死しろ。

「サーカばっかりズルイ! 私もして!」

 リュウグがそう言ってベッドに入ってくる。その後にメリィも入って来た。リュウグは俺の背中にぴったりとくっついてる。

「サーカはほら、子供になっちゃうだろ? やらないと寂しがるからやってんの。リュウグは年頃のお嬢さんなんだし駄目ですよ、オホン」

 紳士ぶって俺はそう言ってみる。

「へーじゃあ、皆にばらしてもええんかな~? あの事・・・。お・ん・せ・ん」

 ひっ! 勘弁してください! っていうか俺はピーターに脅されてやっただけですし。

「ほら、さっさとハグしぃ」

 顔を真っ赤にして手を広げるリュウグも何だか可愛い。甘えん坊の妖精さんっぽくて可愛い。

「し、仕方ないな・・・。今晩だけだからな! 約束は守れよ?」

 何が仕方がないだ。寧ろご褒美だと喜んでるのは誰だ? 俺でしょう。

「解ってるって。ほら」

 まぁでもハグだけで済んで良かった・・・。人間椅子になれとか言われたら、どうしようと思ってたんだ。

 俺は身長145センチほどの小さなリュウグを、潰さないように優しくハグをした。

「もっとギュッとしてええんやで」

 俺がリュウグをハグすると、背中をサーカが耳を甘噛みしてきた。

「もぉ~! 私のクマちゃん取っちゃやだ! リュウグの馬鹿!」

「ええやん、いつも独り占めしてるんやし!」

「あらあら、二人とも甘えん坊さんね~」

 リュウグの向こうで、メリィが癒しのボイスで二人を笑っていた。

「ほらー! サンドイッチだぞ~!」

 メリィがリュウグを挟んで俺に抱き着いてきた。リュウグは大きな胸に埋もれている。

「うおっぷ! おっぱいに挟まれて圧死するわ!」

 おっぱい雪崩からリュウグは逃げる。

 ってかメリィと顔が近い。俺を見てニコニコしなくていいってば。キスをせがんでいるように見えて興奮するだろ。

 やばい、また感情抑制チップが作動していない。劣情が頭をもたげる・・・。こんな可愛い子達に囲まれてなんともならない男子なんていません。

 しかし、ここでおっきおっきさせるのは、恰好悪いし無粋だ。よし、またあの手を使うか。

 俺は仰向けになると体温をゆっくりと上げて、ベッド内を温かくする。

 五分ほどで寝息が聞こえ始めた。メリィは俺の左腕の中でキスをせがむような顔のまま眠り、リュウグはおっぱい雪崩から逃げた時に、お腹によじ登ってそのまま寝ている。サーカは右腕の中に。

(ああ、神様。ありがとうございます。この幸せがいつまでも続きますように)

 神様に感謝しつつも、よくよく考えてみると、パーティの女子たちとハグぐらいまでなら公認になってる気がする。ピーターに脅される意味がこれでなくなった。

 くっそー! じゃあ俺は無駄に女子たちの裸を見てしまい、ピーターの共犯になったって事か。でもリュウグが約束を守ってこれ以上なにも要求してこないのであれば、俺の憂いは消えた事になる。やったね!

 朧雲が晴れた月明りの下で、こちらを見てなにかゴソゴソしている邪悪なピーター君、お休み。
 
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