料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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冒険者ギルドにて

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 俺は村の市場で誤発注で鶏の肉の在庫を、大量に抱えていた肉屋から鶏肉を安く仕入れた。

 頭を抱えていた店の主は、鶏肉を全て買った俺に大喜びして感謝している。オーガなのに広い販路があるのは羨ましいと褒めてくれたが、実はそうじゃない。

 食料は亜空間ポケットに入れておけば腐らないから、大量に買って入れておく事ができる。流石に鬼イノシシみたいな大きいのは入らないが、鶏肉のニ十羽ぶんは入る。

 それでも俺はズボラなので食材が足りなくなる事もあるけどな・・・。

 亜空間ポケットの中に物を入れると二分ほどで分子の動きが止まるのだが、凍るわけでもない。とはいえ、どういう仕組みなのかはわからない。

 なので手探りできるのも二分までなのだが、大抵欲しいと思った物が、手の近くに漂ってくるので直ぐに取り出せる。

 人の脳波に反応して取り寄せたい物が寄って来るらしいのだが、これも詳しくはわからない。そもそも亜空間がどういう仕組みでできているのかすら知らない。

「鶏は肉質も良いし、シンプルに丸焼きにするか。シンプルなのが一番美味しいんだよなぁ。醤油をかけて香ばしく焼くのもありだ」

 今夜は村の冒険者ギルド兼酒場で、アッチさんの全快祝いをする事になっている。

(そうだ。ちょっと冒険者ギルドにある酒場を見てみるかな。きっとキッチンは小さくては入れないだろうし、料理できる場所を確保できるか見とかないと)

 俺は冒険者ギルドの大きな扉を開いた。そろそろ夕方だし酒を飲んでいる冒険者が、ギロリと睨んでくるはず・・・。アニメやラノベだと大抵そうだ。

 はずなんだが、殆ど客はいなかった。

 ギルドの方では冒険者が受付で手続きをしていたが、酒場はさっぱりだ。

「えらい閑散とした酒場だな。定休日なのかと思ったけど、カウンターに給仕らしき猫人もいるし・・・」

「いらっしゃい! お食事ですか?」

 カウンターの向こうでむっちむちの猫人が愛想よく笑う。

 流石に胸があるし女だよな? 猫人は性別が解りにくい。男でも女に見える時がある。獅子人のトウスさんみたいに雄々しいと解りやすいんだけどなぁ。

「いえ、場所を借りたくて予約した者です」

「あ、はいはい。確か・・・」

 猫人は帳簿をめくって、予約を確認している。

「サーカ・カズンとその下僕たちという名パのーティですね?」

 あの糞アマ・・・。下僕ってなんだよ!

「はい。おでは下僕オーガのオビオです」

 俺もノリがいいなぁ・・・。

「どうぞ、好きなだけご覧ください」

 言われるまでもなく俺はキッチンの入り口を確かめた。う~ん、アウト。狭すぎる。

 これじゃあトウスさんすら通れない。

 きっと昔からの作りでこうなっているんだろうな。古い家は地走り族と樹族に最適化された作りになっている。というかニーシ村に至っては、家が木のように硬くなったキノコだしなぁ。

 ギルドの入り口や酒場は大きいのだけど、キッチンの中は狭い。多分この国の基準でも狭い。

「やっぱりスペースをとって、そこで料理を作るか。まぁ広い場所さえあればどこでも作れるしな。他のお客さんの邪魔にならないかなぁ・・・」

 俺が悩んでいると、いきなり見知らぬ地走り族が笑いながら話しかけてきた。

「そんな心配はする必要ないぞ」

 如何にも冒険者といった感じの男は、馴れ馴れしく俺の太腿を軽く叩いた。

「なんでだ?」

「ここの料理は不味いから一見の客しか来ねぇ。しかもニーシ村の酒場の飯は不味いって噂は、既に広まっているから一見の客すら滅多にない。つまり、あんたのご主人様の貸し切りだって事さ」

 まじか。逆に不味い料理って作るのって難しくないか? レシピ通りに作れば取り敢えずは美味しくなるのに。

「じゃあ心配しなくていいか」

 キュル!

 変な音がした。音なのか? 人の声を早回ししたようなものにも聞こえる。

 キュルル!

 俺は音のような声のようなものの正体を確かめようと振り返ると、5メートルほど離れた場所に地走り族より小さい、コーンハットを被った女の子が銃らしきものを構えて立っていた。

「キュルルル!」

 バシュン! と音がして銃からリップルビームが放たれたが速度が遅く、容易に躱せた。

 しかしビームが当たったカウンターは弾け飛ぶ。猫人のバーテンダーも危険を感じたのか、カウンターを乗り越えて跳躍して回避していた。良かった・・・。

「おい! 危ないだろうが! その銃を下せ! 何やってんだ!」

 っていうか、銃はこの星にもあるんだな。なんかレトロフューチャーな銃だなぁ・・・。

「キュルルッ!」

 またこっちに銃を向けている! 地球だと使った時点で逮捕だ。一世紀前まで使われていたビーム銃を持っていればの話だが。

「なんで俺を狙う! さてはワンドリッターか神聖国モティの差し金か?」

 っていうかあいつ、種族はなんだ? 見た目はノームっぽいけど、ノームって住んでいる島国から、滅多に出ないと聞いたぞ。

 ノームらしき女の子は喉のチョーカーをポンと叩いた。すると女の子の言葉が解るようになった。翻訳機か。

「見つけたでぇ! 親の仇ぃ!」

「なんやてぇ!?」

 俺は思わず連載を打ち切られた漫画の終わり方のような返事をしてしまった。

「ちょ、待てよ! 俺は誰も殺してやいない!」

「黙れ! 私が得た情報を分析した結果、親を殺したオーガが、未だ樹族国にいる確率は90%や! 死ねぃ!」

 ポワンポワンとリップルビームが飛んでくるが、常人の動体視力と反応速度で躱せるレベルだ。

 が、ビームが何かに当たった時の衝撃は凄まじく、爆発したみたいになるのはいただけない。破片が、さっきの地走り族に飛ぶ。俺は咄嗟に覆うようにして、破片から男を守った。

「助かった! すまねぇ!」

 男はギルドから走って逃げていく。

「しかし、参ったな・・・。躱せば店に被害が出る・・・。躱さないときっと大怪我するだろうし・・・。ん?」

 女の子の後ろのテーブルの陰に見慣れた顔が。ピーターだ! よし! いいぞ! ・・・ダガーはだめだ! しまえ! そうだ! 手刀で首筋を狙うんだ!

 影のように霞む盗賊は女の子の後ろに音もなく立った。

 トン! とピーターがイキり顔で、ノームらしき女の子の首筋を手刀で叩く。これであの子は失神するはず・・・。

「いたっ! なんや!」

 おい! アニメとかじゃ簡単に気絶してたろ! 普通に痛がってるじゃんかよ! そうか、ピーターだ! あいつがしくじったんだ!

「ひぃぃ! 見つかった!」

 さっきまでのイキり顔が消え、怯えたチワワのような顔になる。

(んだよ! あいつ! ほんと戦いに関してはダメだな)

 俺は女の子がピーターに気を取られている間に、一気に間合いを詰めて銃を奪った。

「危ないだろうが! 玩具みたいに簡単に撃ちまくりやがって!」

「くっ! 殺すなら殺せや!」

「殺さねぇって。殺す理由がない」

「コロース!」

 形勢逆転した途端、イキリ直すんじゃないよ! ピーターは! いっちょ前に拳鳴らすな! 話がややこしくなるだろ!

「まず、俺は君の神様に誓って、誰も殺していない。信じてくれ!」

「でも私の得た情報では、この国で料理人を名乗るオーガは、お前しかおらへん!」

「まず、自分の得た情報を疑おうぜ。誰に聞いたんだ?」

「神聖国モティの司祭様や! 司祭様が嘘つくはずないやろ!」

「っていうか、司祭様がなんで俺の事なんて知ってんだよ! 情報ルートは教えてくれたのか?」

「そ、それは・・・」

 ピーターがやれやれと首を振る。

「暗殺者の代わりに、送り込まれたんだな」

「そうだな。この女の子は騙されて俺を仇だと思い込こんだんだ。んだよ、まずは聖を狙えよ・・・」

「それにしても酒場が台無しだ。今日はアッチさんの全快祝いは無理だな」

 ピーターは散らかった酒場を見渡して、腰に手を当てた。

 この女の子をどうしようか迷っていると、冒険者ギルドの奥の扉から、警備兵が三人ほど小剣を構えて出てきた。

「何事だぁ!」

「今頃になって来るなよな。どうせ戦いが終わるまで待ってたんだろ」

 ピーターが細い目をして、兵士たちを見る。

「ウッ! と、取り敢えずそのノームは引き渡してもらおう。騎士様のいる詰め所まで連れていく」

 兵士が女の子の腕を掴もうとしたその時、ギルドの入り口がバーンと開いた。

「いや、それには及ばん。私は王国近衛兵騎士団独立部隊隊員、サーカ・カズンであーる!」

 仰々しく入ってきやがって。一緒に入って来たトウスさんとメリィさんがお供みたいに見える・・・。

 兵士たちは一般人なので、貴族のサーカに頭を下げて道を開けた。

「ご苦労であった」

 サーカは銀貨を三枚ピピピと、兵士に投げて下がらせる。

「羽振りがいいからって、無駄遣いすんな」

「やかましい。で、そこなノーム。貴様は何者か」

 なんだよ、喋り方まで偉そうにしやがって。

「キュルっ! 私は・・・親の仇を追ってノーム国からやって来た、リュウグ・ウーノオト・ヒメノモート・ユイノキリハズや!」

「長いわ!」

 ぼんやりしているメリィ以外の全員が、そう突っ込んだ。
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