料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
上 下
49 / 291

地下墓地と謎の道化師

しおりを挟む
 前回に来た時と違って、今回の地下墓地探索はイージーモードだった。

 なぜなら修道騎士様が片っ端から、アンデッドを成仏させていくからだ。

 メリィは、刃物が御法度の樹族のメイジではないので、小剣を持っている。

 輝きの小剣という名の魔法剣は、襲い掛かって来る霊やゾンビやスケルトンを斬っては、現世に固執する思いや恨みを浄化しているのだ。

「流石は修道騎士だな! アンデッドが手も足も出ない。以前来た時なんて、蛇殺しを見つけるまでトウスさんは長い棒で戦ってたもんな・・・」

「あんときの俺は、装備も買えない程貧乏だったからな・・・。すまんかった」

 パーティ全体がスピリットやワイトなどの唱える魔法に備えて、塊にならないようばらけている。なので少し離れて前衛に立つトウスさんだったが、俺の声が聞こえていたのか周囲を警戒しながらそう返事した。

「ははっ! 確かに何も装備がなかったんだから、仕方ないよな。別に責めてはいないからさ?」

 俺はわざわざ前衛から中衛の場所まで来て、大活躍している自分を褒めろと差し出すメリィの頭を撫でて、亜空間ポケットから、一応蛇殺しを出した。そしてメリィにトウスさんに渡してくれと頼んだ。

「魔法のかかっていないブロードソードじゃきついだろうからな。サーカの光属性付与魔法も、効果時間はそこまで長くなさそうだし」

「いいなー。僕も魔法の武器が欲しい。前みたいに落ちてないかな・・・」

「そういや、蛇殺しはピーターが見つけたんだったな。盗賊兼レンジャーのピーターなら、またなんか見つけるんじゃないの?」

「そんな都合の良い話があるか、バカオビオ。それからメリィは聖職者だ。気安く触るな。無礼だろう」

 前衛にいるサーカが振り返って、鬼のような顔をしている。うるさいな、メリィが撫でろって言ってんだからいいだろうが。

「別に気にしないよぉ~」

 メリィは眠たそうな垂れ目をサーカに向けると、彼女にも撫でろと頭を差し出した。

「撫でるものか!」

「えぇ~」

「なんだその、なぜ撫でないのかという顔は。撫でられて当然だと思うなよ!」

「ひゃー、怖いねぇー。サーカのおばちゃん、怖いねー」

 俺たちの倍は生きているのに、短命種換算すると17歳と言い張るサーカをおばちゃん呼ばわりしてみる。

「おおおお、おばおば・・・」

 やべぇ! こりゃ電撃ビリビリが来るぞ! レジストする準備をしないと!

「おやぁ! なぜアルケディアの地下墓地にオーガがぁ?」

 俺がサーカの電撃に備えていると、地下墓地の壁に掛かる魔法灯の弱い光が届かない闇から、ホラー映画のようにヌ~っと道化師が現れた。

「うわ! びっくりした!寧ろ、なんで道化師がこんなところにいるんだよ!」

 この道化師、種族はなんだ? トウスさん並みに大きいぞ。180センチってところか。某悪魔系ヘビーメタルバンドみたいなメイクしてるな・・・。

「いやー、なんか歩いていたら穴に落ちちゃいましてね、ストーンと。そしたら地下墓地にいたのですよぉ。キュッキュ!」

「そりゃ大変だったな。そうだ、道化師のおっちゃんも一緒に来るか? 賢者の石手に入れたら出口まで案内してやるよ」

「それは地獄に仏! 小生の事はナンちゃんと及びください。よろしキュッキュー!」

 指先まで覆う鶯色のアンダースーツに、黒いボロボロのローブを着た道化師は、嬉しいのか素早くタップを踏んでいる。が、高速の足さばきは無駄に埃を舞い上げてしまうので止めてほしい。

「おい、オビオ! あんな怪しい男を連れていくのか。道化師ってのは暗殺業を兼ねているんだぞ! もしかしたらお前に送った、モティの暗殺者かもしれないだろ」

 ピーターがひそひそと俺に言う。

 昨日の今日でモティが暗殺者なんて送るかなぁ? それに優先順位でいえば宗教国家にとって目の上のたんこぶであるヒジリに強そうなのを先に送るだろ。

 このオッサン、めっちゃ強キャラ感出てるじゃん。そういや、アニメや漫画でも道化師って強キャラ扱いだよな・・・。

「大丈夫でやんすよ、あれは知り合いでやんすから」

 最後列にいたヤンスさんが、俺たちの会話に入ってくる。いつも思うのだが、この人は地獄耳なのかな? ゴブリンは耳が良いのかもしれない。

「そうなの? でも向こうはヤンスさんを知らないみたいだぞ」

「あの人は気まぐれでやんすからねぇ。知らないふりをして、楽しんでいるんでやんすよ。それからあまりあの道化師を詮索しない方が身のためでやんす。暗殺者としては一級品ですから」

「こわっ! わかった、詮索はよしとく」

 ヤンスさんの知り合いなら大丈夫だろ。ヤンスさんは顔も広いんだろうな。世界のあちこちで友人とか知り合いを作ってそう。

 サーカは、ナンさんに何か引っかかるのか、首を何度も捻っていたが結局なにも思い出せなかったようだ。

 トウスさんやメリィは道化師に普通に挨拶をしている。疑ったり怪しむ素振りすらない。

 ナンさんに会ってから、俺たちは再び広い地下墓地をひたすら歩き回る。なぜ迷子にならないのかというと、これまた魔法のお陰だ。その便利な魔法はピーターが持っている。

 実はこの痴漢小僧はメイジとしての素質もある。

 コモンマジックの【魔法の地図】を習得しているし、他にも覚える難度が割と高い風魔法の【透明化】や【遠見】などの実用的な魔法も覚えているのだ。出会う前から覚えていたので、どうやって覚えたのか気になる。魔法書は孤児が買うには高いぞ?

 で、この【魔法の地図】はどれくらい便利かというと、歩いた場所と通ったルートがの頭に地図のように浮かぶのだ。なので迷う事がない。

「意外とないなぁ、賢者の石。レアアイテムなのか?」

 俺が誰に言うとなく、そうぼやくとナンさんが気味の悪いメイクの顔で闇から現れた。普通に出てこいよ。一々闇に潜むな!

「そこまでレアではありませんが、マナ溜まりと沢山の死体という条件が合わさらないといけませんからねぇ」

「うん、知ってる」

「それにそういった場所は大抵アンデッドに遭遇しますし、取りに来るのは面倒なんですよねぇ。このパーティのように、正式な聖職者がいるなんてのは稀ですから。破戒僧よりも成仏の祈りが優秀な修道騎士様がいるなんて、素敵ですよぉ」

 ナンさんは軽く踊ってからターンして、メリィの顔の前でパチンと指を鳴らした。

 メリィは驚いて「わぁ~」とゆっくりと尻もちをついている。

 ナンさんは何食わぬ顔で、またシュッと俺の横に戻ってきた。

「そうそう。そういえば賢者の石の話なのですが、最近は偽物が出回っているそうですよ。辰砂に鑑定魔法すら欺く偽の情報を乗せて、賢者の石として売る不届きものがいましてねぇ。小生の国にもどういうルートで入ってくるのかは知りませんが、そのお陰で大変困っているのですよぉ」

「それだ! じゃあニーシ村の錬金術師の爺さんも、それに騙されているんだ!」

 小生の国って事は、ナンさんは外国人か。まぁ詳しくは訊かないほうがいいな。色々知ると後で「貴方ぁ、知り過ぎましたねぇ?」とか言って襲ってきそうだし・・・。

「じゃあ尚更、本物を持ち帰って、その情報をあの爺さんに教えてやんないと」

 あの頑固爺のスペンクは、日に日にアッチさんの症状が酷くなっているのに気が付かないのだろうか?

 きっと村人に頼られているという面子が目を曇らせているんだ。地球にも時々いたな、自分の立場を最優先にする人。

 組織が機能不全、あるいは非効率的になっていても気にせず、自分の考えをごり押しする人が。流石に最終的にはそういう人は降格させられるんだけど、立場の強い人がずっとその地位に居座るこの星では、そうはいかないと思う。

 父親を心配するチッチの姿を思い出して、俺は早く賢者の石を持って帰らなければと思っていると、骨の塗りこまれた壁に違和感を感じた。ずっとこれまで同じような壁だったが、何かが違う。俺の直感が怪しいと言っている。

 同じ中衛にいたピーターも気が付いたのか、足を止めて皆を呼んだ。

「隠し扉があるよ!」

 流石は盗賊兼レンジャー。

「ふむふむ、中から何者かの気配を感じますねぇ?」

 ナンさんは白く塗られた耳に、手を当てて音に集中している。

「もしかしてこの中で、何者かが偽物を作っているとか?」

「となると相当魔法に精通したメイジだな。アイテム情報を偽装する魔法など聞いた事ない。地下墓地はどうも、はぐれメイジが育つ環境らしいな。ワイトのデイジーの時もそうだった」

 サーカがメイスを抜くと一同に緊張が走る。

 今回は強そうな道化師のナンさんもいるから大丈夫だろう。

 そう思ってたら俺はキリマルに裏切られたけど・・・。そういや、この人キリマルと似たような雰囲気しているんだよなぁ。どこか狂っているというか・・・。

 いやいや、余計なことを考えるのはやめよう。今は戦いに備えるべきだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...