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夢か幻か

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 どれくらい寝ていただろうか。

 俺は暗い集会所でエアベッドに寝かされていた。エアベッドは空気を抜いて、普段からポーチに入れているので、サーカが、それを取り出し、怪力のトウスさんが俺をベッドに運んでくれたのだと思う。

 まだまだ眠たいし、今が夢か現実かもわかっていない。それに俗にいう金縛りという状態になっている。意識は起きているが、体は寝ているといった状態。疲れ過ぎていると、こうなるらしい。

 うっすらと開いた目は、どこかにある灯りに照らされた天井の梁を見つめるだけで、動こうとはしない。

 菜の花騎士団の副団長・・・。なんて名前か忘れた。が、サーカと話しているのが聞こえる。

「今回の件・・・、現地徴用・・・、報酬は・・・、我々の手柄として・・・」

 よく聞こえない。

「いいだろう。いつまでも弱小騎士団のままで、王の騎士団を名乗るのは辛かろう。それで手を打つ」

 サーカの声だけはよく聞こえるんだよなぁ。芯のある声だから。

 なにか約束をしたようだな。

 まぁ大体わかる。手柄を菜の花騎士団に譲ったんだろう? その代わり報酬は頂くと・・・。がめついな、サーカ。その金は勿論、パーティの共有金になるんだろうな? うーん、ならなさそうな予感!

「では私はピーターが持っていた印台リングを持って、今回の顛末を王へ報告しに城へ戻ります」

「うむ」

 相変わらず偉そうだな、サーカは。お前は仮隊員で、相手は副団長なんだかもう少し気を使え。

 それにしても王へ直接報告するだって? 相当な大事だったみたいだな。あのホキキとかいう奴は全部吐いたのだろうか?

 ピーターの持っていた印台リングって、ハンコが指輪についているやつだよな? あいついつの間に手に入れていたんだ?

 集会所が静かになった。鎧のカチャカチャという音が近づいてくる。樹族は丈夫で軽い鎧を着るので、音は思ったほどしないし、動きも重々しくもない。

「寝ているのか?」

 はい、寝ています。起きていますが、寝ています。

「まぁ明日までは起きないだろうな。気を失うほど無理をしていたのだから。さて私も寝るか・・・」

 鎧を脱ぐ音と着替える音がする。いつものネグリジェを着たんだ。洗濯とかいつやってんだろな、こいつ。

 いつものようにベッドに潜り込むと、脚を俺の体に絡めてくる。やばいぞ・・・。その足を下腹部に持っていくなよ?

「どうせ聞いてないだろう? だから褒めてやる。今日はよく頑張ったな、オビオ」

 なんで寝てる時に、俺を褒めるんだよ。逆だろうが。

「今日の私は風呂に入れなかったから匂うぞ。だが、お前は泥のように眠ってしまっているから、問題ないな?」

 俺は感性特化型地球人だから五感は良い方だぞ。ちょっとでも臭かったら、臭いって思うからな! うん、臭い。樹族の体臭は、青草の匂いがするのだな。臭くはないか。寧ろいい匂いだな。春の草原みたいだ。

「あのホキキという闇樹族は、どうやら神聖国モティのスパイだったようだ」

 今それをなんで話す? 寝ているんだぞ?

「例の現人神様が樹族国に現れた事で、宗教国家としての威厳が落ちると思ったのだろうな」

 大神聖の事ですね? あいつのせいで、俺らは巻き込まれたって事?

「新興教団を乗っ取って、星のオーガ教のイメージを落とそうとしたらしい。だが、お前があの殺人鬼に刀を渡した事でそれも瓦解した。お前の行動は良かったのか、悪かったのか私にはわからん。だが結果的には上手くいった。お前が体を張って、頑張ったからだぞ。偉いな。それにしても私は、どうも大きな事件に巻き込まれる運命にあるようだ。ソラス・ワンドリッターの件といい、今回の件といい・・・。しかも騎士修道会も巻き込んで・・・。あのメリィとかいう修道騎士は、それに気が付いてずっとあの教団を追いかけていたらしい。ある程度情報を集めたら、騎士修道会に報告するつもりだったらしいが・・・」

 暫く沈黙が続く。その間、サーカは俺の乳首を弄んでいる。やめなさい、これ! やめなさい。

 男だってそこは性感帯なんだぞ! 多分サーカは無意識にやっているんだろうけど、変な気分になるで止めてくださいましぃ。

「おおお・・・」

 おおお?

「オビオはどうして修道女とまぐわったのだ! お前は私の、大きなクマちゃんなのに!」

 どういう事ですかー。つまり俺はサーカに、大きなクマのぬいぐるみか何かだと思われているのですかー! っていうか変な事は一切やってませんが?

 いややったか。修道騎士様に、股間の位置で魚肉ソーセージを食べさせるという紛らわしい行為を・・・。メリィさん、ごめんなさい。

「お前は私の下僕なのだ! 勝手な事をされては困る!」

 いや、下僕じゃありませんが? 勝手な事言われて困るのは俺ですよぉー。もー・・・。

「クマさんは、えっちぃ事はしないのだぞ!」

 クマさんじゃねぇし! クマって意外と賢くて怖いんだぞ。逃げたと思わせて、再び襲ってきたりするんだぞ!

「ここここ!」

 ここここ? 鶏さんかな?

「これがっ! 悪さをしたのか!」

 こらズボンの上から大事なところを触るんじゃない! セクハラ撲滅委員会委員長のタスネ子爵に報告すっぞ!

「ふにゃふにゃ・・・。こんなに柔らかくては、大事な物が守れないではないか。プロテクターとか入れないのか?」

 こら! 止めなさいって! そんな場所にプロテクターを装着するなんて、某ビジュアル系歌手か格闘家ぐらいですよ!

「オビオ・・・」

 ふぅ・・・。止めてくれた。今は胸の辺りに顔を置いて、抱き着いている。ほんと俺はクマのぬいぐるみ扱いなんだな・・・。

「しゅき・・・」

 えっ! なに? 急に告白? そんな素振り見せなかったでしょうが!

「シュキッタラトゥビッビドビドゥ♪」

 歌の出だしなんかーい! 子守り歌的な?

「・・・」

 止めるんかーい! 歌わんのかーい!

「お前はオッパイの大きい子が好きなのか?」

 いや別に。ただ大きいと見ちゃいますよね。でもそれは、見慣れない物が胸についているから、見るのだと思います、キリッ!

「他の子の物になるのは、許さないんだからな」

 え、サーカさんはヤンデレ系か何かですか?

「クマちゃんは・・・・。ママが病気になる前に買ってくれた大きなぬいぐるみなのだ。ママが病気になってからは・・・、幼かった私を守ってくれる者がいなくてな。祖父母の冷たい態度や、使用人からの差別的な扱いを受けて、怖い思いをした時はいつもクマちゃんに抱き着いていた。時々、意地悪で食事を持って来てくれない時もあった。そんな時もクマちゃんに抱き着いていたら、我慢できたんだ」

 う・・・。何その話・・・。泣けてくるんですが・・・。

「試練の塔で会った時も、お前は私をゴブリンシャーマンから守ろうとしてくれた。ニンゲン戦でも、的確な指示がなかったら私は死んでいたかもしれない。キリマル戦でも私を気にかけていた事は知っている。だからお前は、私のクマちゃんなのだ。いつも私を守ってくれるクマちゃんなのだ」

 この前まで俺はママでしたよね。今度は俺をクマちゃんにするのですか。でもこないだ幼児化した時にサーカは、俺のことをオビオと呼んだ。それは少しずつ幼児化から脱却しているからだと思う。サーカのトラウマが少しでも軽くなるなら、俺は嬉しい。

「オビオが寝ているとはいえ、恥ずかしい話をしてしまった。でも話を聞いてくれて、ありがとう」

 左側でサーカが毛布から顔を出そうと、もそもそ動く音がする。

 柔らかい唇が俺の左頬に当たった。うふふ、くすぐったい。

 ってか、普段からそうやって素直でいれば可愛いのに。

「おやすみ、オビオ」

 おやすみ、サーカ。

 しかし、サーカがここまで素直になるとは・・・。夢じゃないだろうな? これは脳が作り出した俺が理想とするサーカの幻か?

 できればこれが夢じゃない事を願う。旅のパートナーが、信頼して俺を頼ってくれる事を知るのは、やっぱり嬉しい。

 集会所は冬になりつつある寒さを漂わせている。毛布から少し腕が出ていて寒いけど、寝てしまえば気にならない。気になるのは夜の集会所が、凄く静かになったという事だ。

 昼間に、ここで死闘を繰り広げたとは思えないほど静かで、なんだか不気味な感じがする。

 キリマルレベルの強い敵が、この世界にはゴロゴロいるのかな。俺はなんでかは知らないが、戦いによく巻き込まれる気がする。

 ほぼ毎日か、或いは二日に一度くらい戦っている気がするぞ。冒険者ですらこんなに戦わないだろ。お蔭で実力値はモリモリ上がっている気がする。でも暫くは、戦いのない日が続くといいな・・・。

 などと色々考えていると、サーカから静かな寝息が聞こえてきた。俺はその寝息を子守り歌にして、深く眠る事にした。
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