上 下
43 / 282

カルト教団と修道騎士 7

しおりを挟む
 広い集会所を走る間、キリマルはトウスさんと戦いながらも隙を見て、サーカを攻撃していた。

「そら!」

 キリマルはパーティの中でも、剣が得意なトウスさんのフェイントを織り交ぜた攻撃をヒラヒラと躱し、素早い動きでサーカを狙う。

 しかしサーカも盾で弾いて、詠唱が不必要なコモンマジック【魔法の矢】を撃つ。

 至近距離から即時発動した魔法だから、躱せるはずがないと思ったが、キリマルは後方に素早くバックステップして、自分に追いつく魔法の矢を刀で叩き落した。

「どうなっているのだ、あの刀は!」

 サーカが悔しそうな顔してから自分の盾を見る。妖刀アマノジャクの攻撃を防いだ盾は切り傷が付き、あと数回で壊れてしまうだろう。いつも無表情なサーカの顔に一筋の汗が見えた。

「くそ! あの野郎、サーカを狙ってるとは思えないな。後ろで着替えてるメリィさんを狙っているんだ」

 サーカもそれに気が付いているのだと思う。時折後ろを気にしながら【物理防壁】を唱えた。バリアが自分とメリィさんを包む。

「そんなもの妖刀の前では無意味だぜ? おっと!」

 剣と爪と時折、牙で連撃を仕掛けるトウスさんの攻撃を、やつは簡単に避ける。

 トウスさんは力も素早さも体力もある。スピード型とパワー型を足した、理想の戦士と言っていい。

 キリマルはいつまでも攻撃を回避し続けられないぞ。

「よし、なんとか間に合った」

 俺が戦いの繰り広げられている場所に到着すると、サーカが片眉を上げてこちらを見た。

「なにをしに来た? オビオ。普段の雑魚戦と違って、お前の出番はないぞ」

「それはどうかな。それにしてキリマルは素早いな・・・。あの素早さを食い止めるには【捕縛】とか、お前の得意な土魔法の【蔦縛り】か?」

「そんなものはとっくにやっている。周りの騎士もな。だが奴はトウスを盾にするような動きをしたり、どういう仕組みかはしらんが魔法を無効化したりと、隙を見せない」

 話をしている間にも、菜の花騎士団が接近戦に持ち込もうと、じわじわと戦う二人を取り囲むようにして近づいている。が、近づいた途端、数人があっさりと斬り殺されてしまった。

「くそ! 何人かやられたぞ!」

「馬鹿が、後ろに下がれ! 菜の花騎士団! 聞いているか! 副団長!」

 サーカがそう叫ぶも副団長は無視している。

「あれ、でも騎士減ってなくね?」

「・・・ん? あぁ、そういう事か。あいつら身代わり人形を持っているのだな。じゃあ今、斬られた奴は死んでいない。代わりに懐に入れた藁人形が壊れたはずだ」

 何それ。メッチャ便利なアイテムじゃん。俺も今度買っとかないと。

「でも次はないんじゃ・・・」

「うむ、高価なマジックアイテムだからな。菜の花騎士は、王国騎士団所属とはいえ、精々買えて各々一個だ」

 そのせいか・・・。騎士の動きに戸惑いが感じられる。

「もういい! 下がれ、役立たず!」

 サーカの怒声が飛ぶと、副団長も接近戦は通じないと理解したのか、合図を出して下がり始めた。

 その崩れた輪の隙間から、キリマルが真っ直ぐに滑るような速さで、またサーカを狙って走って来る。

 いや違う、今度こそメリィを狙っているんだ!

 サーカや俺の目の前で、狂気の殺人鬼は軌道を変え、まだもたもたと装備を装着している彼女に斬りかかった。

 あっという間の出来事で俺もサーカも対応できない。電光石火とはまさにこの事なんだろう。だが【物理防壁】が少しは時間を稼ぐはず。その間に・・・。

「無駄ァ!」

 【物理防壁】を切り裂いて、キリマルは突きの姿勢のままメリィに突っ込んでいく。

「さっきから獅子人の傷が回復してんだが、お前の奇跡のせいか? うっとおしいぜ、尼さんよ!」

 違うな、それは俺の【再生】の魔法のお陰だ。

「ああーっと! キリマルがメリィを襲うーー! しかしそれを、サーカが盾で防いだーー!」

 しかしサーカはそうはしていない。

 もしかしてヤンスさんの歌の効果は、実現可能な範囲でしか効果がないのか?

 サーカとキリマルは、距離が少し離れている。寧ろキリマルとの距離は俺の方が近い。俺に守らせるべきだったんだ。

 キリマルがメリィさんに迫る一秒ほどの間で、俺の中の何かが弾けた。お! 種割れか? まぁこれは俺の勝手なイメージなんだが、アニメの見過ぎだな・・・。

 足が素早く動いて、斜め後ろでメリィさんに襲い掛かるキリマルの背中に、八極拳の鉄山靠のような体当たりを食らわせる。

「なに?」

 大男である俺からの体当たりを受けて、ザトウムシのようにヒョロヒョロと手足の長いキリマルは、吹き飛んで地面に這いつくばった。吹き飛びはしたが刀はしっかりと握っている。

 くそ、刀を落としてくれれば良かったのに。

 すぐに立ち上がって顔に血管を浮かせて怒る細身の男は、俺に向けて刀を上段に構えてた。クソこえぇ。

「お前は最初か最後に殺すと決めてたんだがよぉ、気が変わった。今殺してやるぜぇ。クハハハハ!」

 上段の構えのまま床を滑るようにして、殺人鬼は一気に間を詰めてくる。

「あぁーっと! キリ・・・」

 ―――ビュッ!

 ―――ゴン!

「ぎゃっ!」

 実況をしようとしたヤンスさんの口に、マグカップが当たった。

 キリマルが予め床から拾っていたものを投げて、実況の邪魔をしたのだ。

 痛みで口を押さえるヤンスさんは、これで暫くは実況ができないぞ・・・。あのチートのようなサポートがなくなるんだ・・・。いよいよ、やべぇ・・・。

「ヒャァッハーーー!」

 脳天唐竹割りのような攻撃に、俺は小盾を向けてタイミングよく弾こうとした。

 良いタイミングだ! これなら防げる!

「なーんてな」

 キリマルは急に構えを変えて俺の腹を突いた。スッと妖刀は俺の腹に吸い込まれて突き抜けていく。

「うわぁぁぁ! いってぇ!!」

 だが、これも想定内。と強がっているが気を失いそうな程痛い。が、耐えられないこともない。

「うぉぉぉ!」

 俺はキリマルをそのまま抱きしめた。すると指輪の力で情報が流れ込んでくる。

 種族、宇宙の理に囚われし者。なんだそりゃ? 人間だろそこは。いや、人間じゃねぇ、キリマルは悪魔だ! 力12・・・。俺と同じか。意外と力がないんだな。じゃあトウスさんと渡り合えていたのは妖刀のお陰か。妖刀に右手が触れていれば、アマノジャクの力も視れたのに、残念だ。

「オビオ!」

 サーカが俺を心配して見ている。涙目だ・・・。意外だな。そこまで俺を心配してくれてるのか、嬉しい。

 キリマルが現状を楽しむような声で喚いた。

「さぁどうする、騎士さん達よぉ。今が絶好のチャンスだぜ? 魔法を撃ったらどうだ! だが、この状況で攻撃魔法なんて撃てばよぉ! 俺を抱きしめているオビオまで魔法が及ぶぜ! そしたら大事な仲間を殺す事になるなぁ? ピンク頭のお嬢ちゃんよ! ヒハハ!」

 鎧を着終えたメリィさんが祈りを開始した。俺を癒すつもりか。でもお腹に刀が刺さった状態で意味あるのかなぁ、それ。

「回復は止した方が良いと思うがな。ここまでオビオに近いと、俺まで回復する可能性があるぜぇ? いいのか? 獅子人が俺に与えたダメージまで回復しちまうぞ。そうなったら俺は、この気色の悪い抱擁を逃れて真っ先にお前を斬るぜぇ、尼さんよぉ。ハハ!」

 それを聞いたメリィさんは、迷った末に祈りを止めてしまった。正解だ。こんな奴、回復なんかしなくていい。

 こら! キリマルの糞野郎! 大口開けて笑いながら、刀をグリグリすな!

 力が抜けそうになる。それにしても俺はよく耐えてるな・・・。ピーター・・・、まだか・・・。あいつ逃げたんじゃないだろうな・・・。駄目だ・・・。もう力が入らない・・・。

 俺は決死の覚悟で行った抱擁を解くと、キリマルに縋る様な形で床に膝を突いた。

「オビオォ!」

 サーカが泣きながら近づいてこようとしている。駄目だ・・・、来るな・・・、殺されるぞ。くそ、視界が朧だ。キリマルめ、俺の肝臓グリグリしやがって・・・、普通なら激痛でショック死だぞ。

「あーあ! 嬢ちゃんがワンドを構えるから・・・。オビオは死んでしまったぜ? いやまだ死んでないか! 中々しぶといな! ヒャハハハハ! んぐ!」

 やっとか・・・。ピーター!

 キリマルは、ピーターがパチンコで飛ばした例のクッキーを口に咥えている。

「モグモグ・・・。なんだこれは・・・。美味くて思わず食っちまったわ。クッキーか? ありがとよ、ちっこいの! 苦し紛れの攻撃だったんだろうが、俺に栄養を与えただけだぜ? ヒヒヒ! さぁそろそろとどめを刺してやるよ、オビオ。肝臓を刺されると、痛くて辛れぇもんなぁ?」

 トウスさんの吠える声が聞こえる。キリマルに襲い掛かったんだ。あの吠え方は相当怒ってるぞ。

「おお、怖い声だな! どのみちオビオはあと少しで死ぬ。致命傷だ。祈りも間に合わないだろうよ! 残念だったなぁ! キヒヒヒ!」

 消えそうな意識の中で、トウスさんの吠える声と剣戟の音、そしてサーカが啜り泣きをする声が聞こえた・・・。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...