上 下
25 / 282

魂を送る料理 2

しおりを挟む
 あの目は俺たちを人間と認識していない気がする。

 化け物として一括りで見ている目だ。騎士や戦士が四人、後ろには弓使いとマスケットライフルを持ったガンナーがいる!

 バケツのようなフルヘルム、鎖帷子の上にサーコートを着たリーダーっぽい騎士が、何かを指示を出している。大昔の英語のようにも聞こえるな。もしかしたら翻訳できるかも。

 俺はすぐに亜空間ポケットから翻訳機を出して、騎士達の言葉を聞かせた。・・・ビンゴ! やはり古い英語だった! 翻訳機は瞬時に翻訳してデータを俺の脳へと転送してくれる。

 バケツ頭の騎士から、くぐもってはいるが芯のある声が聞こえてきた。

「ガンナーは、まっさきにエルフを狙え! ここが魔法研究家達の言っていた世界ならば、エルフは魔法を使う! 厄介だ! いいか、あいつらをサンプルとして持ち帰るのが任務だ。なるべく綺麗な状態で殺せよ!」

 やべぇ! 話をしようとしなくて良かった。交渉しようがしまいが、あいつらはどの道、俺らを殺す気だ!

「サーカ!【弓矢そらし】の魔法を唱えて盾を構えろ!」

 くそ、何で俺は次から次へと戦闘に巻き込まれるかね。呪われているのか?!

「ニンゲンとはなんだ? あれはレッサー・オーガだろ。時々どこからともなく現れて、魔物に食われて道端で死んでいる弱いオーガじゃないのか?」

「いいから魔法を唱えろって! あいつら問答無用で襲ってくるつもりだ」

「もうその魔法は常駐させてある」

 サーカがそう言って盾を構えた途端、銃声が鳴り響いた。と同時に横にいた相棒が後方へ吹っ飛んだ。

「サーカ!」

「問題ない!」

 負けず嫌いな返事が直ぐに返ってきて、俺は胸を撫でおろす。

 あらゆる飛来物の速度を緩和する、透明な盾である【弓矢そらし】の魔法をもってしてもこの威力だ。幸い、あの銃は弾込めに時間がかかる。次に銃を構える前になんとかしなければ。

 デイジーさんはどこだ? 石像の近くで詠唱しているな。触媒をいっぱい手に持ってる。凄い魔法を唱えているに違いない。

「ピーター! スリングであの黒い筒を持った奴を狙い撃ちして、戦闘不能にしてくれ! あれは厄介だ!」

「あわわわ」

 怯えて丸まってる・・・。こいつ・・・。戦闘ではほんと役に立たないな・・・。

 俺は魔剣蛇殺しを亜空間ポケットから取り出すと、トウスさんに投げた。

 トウスさんはそれをキャッチして前に出ようとしたが、それをけん制するように弓矢が地面に突き刺さる。

「チッ!」

 トウスさんが舌打ちをしている間に、騎士二人、大柄な戦士二人が突撃してきたので、俺は中華鍋を構えた。恐怖心でいっぱいだった心がスーッと冷静になってくる。ナノマシンや感情制御チップのお陰だ。

「敵は連携が取れてて、いいパーティだな」

 俺は誰に言うでもなく皮肉を呟いた。

 樹族の騎士も集団だと、とても連携が取れていて戦場では強いと少し前にサーカに聞いた事がある。しかし、俺たちのパーティは昨日今日組んだようなパーティだ。上手く立ち回れなくても、仕方ないじゃないか。

 俺はちらりともう一度デイジーさんを見る。随分と長い詠唱なので、気になって仕方がなかったのだ。

 が、これがいけなかった! ガンナーがデイジーさんに気が付いてしまったのだ。

「隊長! 石像の所にもう一人魔法使いらしき女がいます!」

「なにっ?」

 敵の前衛の動きが止まった。魔法を警戒したのだ。ガンナーがデイジーさんを狙っているのを見て、敵のリーダーは成り行きを見守っている。

 多分、デイジーさんに銃の攻撃は効かない。その銃は魔法を帯びてないからね。あいつらここを魔法の世界と呼んでいた。という事は魔法を見た事がないはず。

 ―――ドゴォォン!!

 マスケットライフルが、轟音を響かせて火を噴いた。

 俺は特に心配はせずにその様子を見ている。しかし一つ懸念しておく事を忘れていた・・・。

 そう・・・。弾はデイジーさんに当たらず、石像に当たってしまったのだ!

 彼女の愛しい恋人のナハトさんの石像から、小さな破片が弾け飛んでいく。服の部分が少しだけ欠けたが、これって言い伝えだと、ナハトさんの魂は地獄行き決定なんじゃないのか?

 途端に詠唱中のデイジーさんの顔色が変わった。

「よくも・・・! よくもやってくれたなぁ!」

 温厚そうなデイジーさんは口調まで変わって顔も般若のようだ。そりゃそうだろう。恋人と共に成仏するという願いは、儚く散ってしまったのだから・・・。

「異界の魔物よ、元の世界へと帰れ! 【送還】!」

 え! 怒っててもデイジーさんは優しかった。俺はてっきり凄まじい攻撃魔法を繰り出すのかと思っていたのに、生きたまま強制送還させちゃうんだ?

 相手は魔物ではないのだけど、効果あるのか? まっ先に消えたのが、異世界への扉である謎の霧だ。

「隊長、安定化に成功した霧が消えていきます! うわぁぁ! 自分の体も、体も消えていきます! 隊長~~!」

 とても大きな魔法陣が地面に現れて光ると、異世界の人間は足元から光の粒子となって消えていく。

 俺は苦笑いした。

「魔物扱いなんだな・・・。異世界の人間も・・・」

「そこに驚くとは流石は馬鹿オーガだな。この規模の光魔法を唱えられる、大魔導士レベルのデイジーに驚かないとは」

「うるせぇ」

 やはり凄い魔法だったんだ。生前も凄い魔法使いだったんじゃないかな。死んでからは魔法を極める時間はあっただろうし、ここまでの使い手になっていてもおかしくはないさ。

 敵のリーダーの騎士は、地面に剣を突き刺して微動だにしない。

「これが、魔法というものか・・・。フハハ! 欲しい! 実に欲しいぞ! これさえあれば我が国も安泰だ! ・・・もしこの魔法を受けてなお生きていたならば、私はまた戻ってこようぞ!」

「来なくていいわ、アホ!」

 魔法陣の光が消えると、そこかしこに異世界人の、装備やら服やら荷物やらが散らばっていた。

「強制送還されるのは本体だけなんだな・・・。という事はあいつら、今頃は自分の世界で真っ裸なわけだ? プスス!」

 笑う俺のマントをたくし上げて、サーカが尻をピシャア! と叩く。

「いたぁ!」

「お前も似たようなものだろ。変態パンイチオーガ」

「誰のせいで、俺が裸のままだと思ってんだよ!」

 俺がサーカとやいのやいの言い合っていると、石像の近くで咽び泣く声が聞こえてきた。デイジーさんが石像に縋るようにして泣いているのだ。

「そうだ、ナハトさんの石像!」

 俺は石像に近づいて壊れた個所を確かめる。何度見ても服の裾部分が欠けてしまっている。

「ナハトさんの霊はどこに?」

「わかりません・・・。どこにも姿が見当たらないのです。もう・・・、地獄に堕ちてしまったのでしょうか・・・」

 その可能性は高い・・・。くそ! 何で、死んでも人々や土地を守ろうとする守り人の末路がこれなんだよ!

 かける言葉が無かったが、それでも俺は何とかしてデイジーさんを励ましてあげたいと思った。

「ほ、ほら。今は昼間だから。ナハトさんは強力なワイトであるデイジーさんと違って普通の霊だし、夜にしか現れないんじゃないかな?」

 こんな気休めが通じるはずがない・・・。解っている。解っているけどデイジーさんが、アンデッドになってまで待った結果がこれだと救いがないじゃないか。

「あぁ! そうかも!」

 パァァ、とデイジーさんの顔が明るくなった。

「えぇ・・・」

 どうしよう。変な期待をさせてしまったかもしれない。

 サーカも同じ気持ちだったのか、俺の尻の肉をギュッと捩じって睨んでくる。

(夜になっても、ナハトさんが現れなかったどうしよう・・・)

「責任持てよ、オビオ」

 くっ! サーカの追い打ちで、異世界の人間と戦った時よりも冷や汗が流れ出てくる。まぁ直ぐにナノマシンが汗を吸収してしまうのだけど。

 俺は覚悟を決めた。もし夜になってデイジーさんが恋人に会えなかったら、二人が一緒に成仏できる方法を探る。どう足掻いてもダメだった場合は・・・。ひたすら謝ってデイジーさんに成仏してもらうしかねぇ・・・。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸
ファンタジー
 幼馴染の皐月と結婚した修二は、次男という事もあり、婿養子となる。  色々と特殊な家柄の皐月の実家を継ぐ為に、修二は努力を積み重ねる。  結婚して一人娘も生まれ、順風満帆かと思えた修二の人生に試練が訪れる。  家族の乗る車で帰宅途中、突然の地震から地割れに呑み込まれる。  呑み込まれた先は、ゲームの様な剣と魔法の存在する世界。  その世界で、強過ぎる義父と動じない義母、マイペースな妻の皐月と天真爛漫の娘の佐那。  ファンタジー世界でも婿養子は懸命に頑張る。  修二は、異世界版、大草原の小さな家を目指す。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...