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ほの明るい地下墓地の幽霊 2
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罠で召喚された幽霊が出て以降、道中に危険はなかった。
出てくるのはオオネズミやスケルトンといった、初心者冒険者でも倒せるような敵ばかりだ。当然、トウスさんやサーカの一撃で雑魚は沈んでいく。
(やはり俺の勘に狂いはなかった)
順風満帆な道のりを見て、ナノマシンの暴走で死にかけた事すら忘れて、俺はニコニコしている。
「楽勝だな。トウスさんもラッキーだよ。こんな軽い任務で、樹族国の国籍を貰えるなんて」
「んぁ? ああ、まぁそうだな・・・。ふぁぁ」
空返事と噛み殺した欠伸。退屈そうだ。
まぁトウスさんは生粋の戦士だし、雑魚相手では物足りないのだろう。でもその方がいい。タンク役をしなくて済むのだから。
振り返って、ようやく地下墓地に慣れ落ち着いてきたピーターに、俺は機嫌よく話しかけた。
「ピーター君は、何でそんなに幽霊が怖いんだ?」
地走り族特有の丸い目が少し伏せ目がちになる。なんだよ、その演技ががった表情。
「・・・僕は昔から、盗み癖とか痴漢癖が酷くて、孤児院に入っては追い出されてを繰り返していたんです。今の孤児院に来てからもそれが治らなくて・・・。知っての通りシスター・マンドルは、元ベテランの傭兵。僕が孤児院に来て直ぐに盗みを働いた時、烈火の如く怒りました。それで僕の性根を叩き直すと言って、地下墓地に一晩放置したんです。霊廟の扉の閂をしっかりと外から閉めて・・・。これって酷い児童虐待だと思いませんか?」
ぐぅ! 可哀想な顔をして同情を誘うな! 地走り族の二面性には騙されないからな!
「それで?」
同意を求める彼をスルーして、俺は話の続きを訊いた。
「閉じ込められて直ぐに、部屋の隅の暗がりに、恨めしそうな顔が沢山浮かんでいたのです!僕はパニックになって地下墓地を逃げ回りました。道に迷ってしまい、こわいな~こわいな~と思いながら、それでも休めそうな場所を見つけて何とか落ち着こうとしたんです。でもその時! フゥッ! と背後から、これまでのお化けとは違う、異様な気配を感じたんです! 僕は両目をカッ! と見開いて、近づいて来る朧な影の正体を確かめようとしました。その正体はなんと・・・。ワイトだったんですよ! もうね、必死になって逃げました。ワイトですよ! 元メイジの幽霊! 逃げる後ろから、待てぇ~置いてけ~と、地獄の底から響くような声が追いかけてきました。僕はもう無我夢中になって逃げ回りましたね。そして朝になって、霊廟の開いた扉から勢いよく外に出て、噴水の水をガブガブと飲みました。一晩中走り回っていたので喉がカラカラだったもので・・・。で、なんとなーく水面に映る自分の姿を見て驚きました。なんと髪が真っ白になっていたんです・・・」
「その割には、今は艶々な茶髪で白髪一つないけどな。ピーター君」
「それ以降、僕は幽霊が怖くて怖くて」
「自業自得だろう」
サーカが冷たく言い放つ。
「ゾンビとかスケルトンとかは平気だよな?」
「ええ、幽霊だけが怖いんです」
「まぁでも、ワイトに殺されなくて良かったじゃないか」
「ん? 言ってなかったか? 今から退治しにいくのはそのワイトだぞ」
「ええぇー!」
俺は某長寿アニメの婿養子のような声を、ピーターと上げる。
「ワイトは魔法に長けている。この中で生命力があって、一番魔法防御力や無効化率の高いオビオが、勿論タンク役をするのだ。挑発スキルを磨いておけよ」
サーカが当たり前のように言う。
「びゃぁぁああ! 怖い!」
また某婿養子のような声で俺は怯える。
「怖いも糞も、お前がタンクをするのが、一番最適な戦い方なのだが? 普通は魔法防御力や無効化率なんて、マジックアイテムで身を固めているツィガル帝国の鉄騎士でもない限り0だ。なのにお前は何故か知らんが、素の状態で魔法を25%の確率で無効化し、更に攻撃魔法を受けたとしても、そのダメージの四分の一を無かった事にする。レジストした場合はなんと、ダメージの75%を無効化できるのだぞ。そしてそこに魔法無効化の25%が加わり、実質100%だ!」
え! まじ? って言いそうになったけどそんなわけあるか!
「そんなゆでたまご理論、信じないぞ!」
「ゆでたまご?」
「ごほん、何でもない。確かに俺は他の人より魔法を防ぐが、お前の【火球】を喰らって、俺は大ダメージを喰らってただろ! 喰らえば同じって事だ! 相手だってこちらの防御を貫通させる術を持ってるかもしれないしよ」
「魔法貫通スキルは、メイジよりも我ら騎士の方が覚えている。メイジは強力な魔力と威力の高い魔法でごり押しできるからな」
「なんだ、メイジは魔法貫通スキル持ってねぇんか。良かった良かった・・・って、なるか、あほ! もっとたちが悪いわ! 魔法でごり押しとか範囲魔法でパーティ全滅だろうがよ!」
「それだけワイトの危険度は高い。だから、永住権を得られる条件となっているのだ。なのに貴様は勝手にトウスに同行すると言い出した。だからお前が責任を取って、我らの盾となるのは当然だろう?」
どう考えても、その条件は不法移民を樹族国に留まらせない為のものだな。諦めさせて帰国させる。挑んでもワイトに殺される。ほんと糞意地が悪いな、樹族ってのはよぉ! だからサーカはあんなに地下墓地に行くのを嫌がっていたのか。
でもよ、ここで引き返したらトウスさんはいずれ逮捕されるし、そうなったら路頭に迷う子供たちが可哀想だろうが!
「だったら・・・。なってやるよ! タンクに! その代りお前がワイトをなんとかしろよな! 攻撃手段持ってるんだろうな!」
「当たり前だ。私は自分のメイスには光属性魔法を付与する。それでワイトの霊体を攻撃して、弱ったところを三段階目まで上げた【光玉】でとどめを刺す」
サーカは第五位魔法まで各三つずつ唱えられるから、魔法のパワーレベルを上げられるのは三段階目が限界なのか・・・。三段階目の【光玉】って攻撃力どのくらいなんだ? ワイトをやれるのか?
怪訝そうな目でサーカを見る俺の考えに気が付いたのか、トウスさんが俺の尻を叩いて爽やかな笑顔を見せる。
「しんぺぇすんな。俺がいる!」
あんたとピーターが一番ワイト戦で役に立たないんですよーーー! なんですか、その手に持ってる棒! 空き家になった農家から拾ってきた鍬の柄でしょうがーーー! そんなもので霊体が叩けますかってーの!
「なんか俺の棒に不満がありそうな顔してるな? オビオォ。でもお前は一つ忘れている事があるぜ? この俺の棒にも光属性魔法を帯びさせれば、立派な対アンデッド武器になるんだわ。名付けて俺の光の棒作戦!」
なんだよ、その卑猥な感じのする作戦名は。大昔のエロ本かっつーの。
「サーカに魔法を付与してもらうってわけか。そもそもその棒、攻撃力はどれくらいなんだ?」
「どれくらいって言われてもなぁ・・・」
試しに俺は棒を鑑定する。
「なになに・・・。ただの長い棒。お、攻撃力が解りやすく数値で表示してくれるようになってる! ミドルレンジでダメ―ジ値1D6・・・。何で某テーブルトークRPGっぽい表示なんだろうか。まぁ俺の趣味に鑑定の指輪が合わせてくれたんだろうな。つまり1~6のダメージを与えるって事か。正直、ショボい・・・」
「何をさっきからブツブツ言ってんだ。こんなただの棒きれに攻撃力なんてあるか。精々オオネズミやオオグモを叩き潰して、スケルトンの頭蓋骨を砕くぐらいだ」
だったらもっとましな武器探しとけよ!
「あぁ、心細い・・・。ん? 待てよ、ここは元戦場だよな? そこかしこに大昔の武器でも埋まってんじゃないのか?」
「そんな都合よく見つかるか、馬鹿オビオ。二千年も経っているのだから、盗掘されているに決まっているだろう」
と言いつつも土壁に武器がないかを探すサーカさん、ちょっと見直した。
「あそこをごらんよ。剣の柄が見えるよ」
流石はピーター君! 盗賊兼レンジャーなだけはある! 確かに天井近くの土壁に剣が刺さっている。これは背の高い俺しか抜けないな。よし。
剣を触れた途端に脳が痺れるような感覚を覚えた。
「うぉ!」
「どうした、オビオ!」
トウスさんが下から心配そうに俺を見上げている。
「だ、大丈夫・・・。あれ? なんか頭に映像が浮かんでくる・・・」
迫りくる闇側の鎧騎士や鉄傀儡。これは・・・剣の持ち主の記憶? 光側種族と闇側種族が戦ったこの戦場での記憶か。
―――父さんは狂ってしまった・・・。研究に打ち込むあまり他人の命なんてどうでもよくなってしまったんだ。家族の命さえも・・・。息子の僕をこんな最前線に出すなんて・・・。この星を守るだって? 余所者を消し去るだって? そんな事できるものか! 敵の神様が死んだからって、この状況は覆らないぞ! 僕はここで死ぬつもりはない! 逃げるんだ! 逃げてブラッド家の再興を・・・。うわぁぁ―――
最後に見えた映像は、鉄傀儡の光るモノアイだった。
「わぁぁぁ!」
死ぬ瞬間の恐怖が俺の全身を駆け巡る。と同時に頭に凄い衝撃を受け、鼻の奥で血の味がした。
実際は衝撃なんて受けていないし、血も出ていない。恐らくこの剣の持ち主は鉄傀儡の持っていたハンマーに叩き潰されたのだろう。
「だ、大丈夫か? オビオ」
お? サーカも他人を心配する事があるんだな?
驚いて腰を抜かした瞬間に抜けた剣は、波状の刀身から鈍く赤い光を放っている。アイテムが赤い光を放つのは魔法効果が付与されてるからだって、本で読んだことがあるぞ。そういやその本を読んだ魔法店で、サーカは【吹雪】の魔法書を買ってたんだっけ。ありがたやありがたや。
「鑑定の指輪の効果なのかな・・・。剣の持ち主の記憶が流れ込んできてびっくりしただけだ。なにも死ぬ手前の記憶を見せなくてもいいのに・・・」
「なんだ、そんな事か。てっきり俺は、剣の呪いかなんかでオビオが狂ったのかと思ったぜ。無事で良かったな」
「で、その剣にはどんな力があるの?」
好奇心旺盛な地走り族のピーター君が目をキラキラさせている。なんか隙あらば盗みそうな予感。
「え~っと。蛇殺しだって・・・。蛇嫌いだったセージ・ブラッドが作らせた魔法の剣だそうだ。1D8+2。蛇系に対して攻撃力が倍になる。び、微妙だな・・・。まぁショートソードにしては攻撃力が高い方か」
それを聞いて何故か、サーカが腰を抜かした。少しM字開脚気味なので、短いスカートからパンツが見えている・・・。
「白!」
すかさずピーターが丸見えなサーカの下着の色を言う。一々言わなくてよろしい。
「いいいいい、今何と言った? ブラッド家と言ったか?」
「え? そだけど?」
「ブラッド家といえば樹族の神の末裔。一番古い家柄だぞ。今も辺境伯として強い力を持っている。神の末裔なせいか、ブラッド領で生まれる者は、皆エリート種となるのだ。そんな名家の先祖の・・・。しかも大戦時の魔剣! 正直、性能は微妙だが国宝級の価値があるぞ! ブラッド辺境伯に返還すれば、間違いなく莫大な褒美を貰えるだろう!」
「へー」
それを聞いても俺はそういう反応しかできなかった。名門ブラッド家と言われてもなぁ・・・。ウォール家とどっちが上なんだ? まぁ歴史的価値があるのは解るけど、今はトウスさんの武器が欲しいんだ。
「トウスさん、はい、これ」
俺はトウスさんに魔剣蛇殺しを渡す。
「お、おい! こんな剣、振れるか! 俺は国宝級なんてガラじゃねえんだよ!」
すぐに突き返されたので、俺はもどかしくなって吠える。
「もぉぉぉ! めんどくせぇぇ! 今はそんな時じゃねぇだろ! ここに魔法の武器がある! これがあるとワイトを退治し易い! それでいいじゃねぇか! 剣の事はワイトを倒してから考えればいいだろ!」
「はいはいはい! じゃあ僕が持つよ! ショートソードなら僕でも扱えるし!」
ピーターが涎を垂らして剣を見ている。お前、絶対盗む気だろ!
「いや、ピーター君はこれまで通り、スリングで頑張ってくれ」
「ギッ!」
あ! 今見たぞ! ピーター君の悪い顔! なんね、だその、霧の向こうからやって来た邪悪なゴブリンみたいな睨み方は! 思い通りにならないとそんな顔するんだね! あぁ驚いた!
それにしても今は何時だろうか。
随分と時間が経ったような気もする。亜空間ポケットから時計を出して見ようかと思ったけど止めた。もし随分と時間が経っていたなら、俺の気力が萎れるからだ。
俺は剣を強引にトウスさんの震える手に握らせて、先を急ぐ事にした。
時間が経てば経つほど、ワイト退治への不安が増していくからだ。正直、今回はダメなんじゃなかろうか。メイジって瞬間的な攻撃力でいえば、全クラスでトップクラスだろうし。初っ端から魔法なんて撃ってこられたら、俺たちはどうなる事やら・・・。
なんとなく今のパーティメンバーの実力を思い返してみる。
戦闘能力は高いが、いつポンコツになるか解らない騎士と、性能は微妙だが国宝級の魔剣に尻込みする生粋の戦士と、幽霊が苦手で性格に裏表があり属性が悪人の盗賊・・・。そして非戦闘員の料理人兼タンクの俺・・・。
・・・あれ! やだ! なんだか不安になってきた!
出てくるのはオオネズミやスケルトンといった、初心者冒険者でも倒せるような敵ばかりだ。当然、トウスさんやサーカの一撃で雑魚は沈んでいく。
(やはり俺の勘に狂いはなかった)
順風満帆な道のりを見て、ナノマシンの暴走で死にかけた事すら忘れて、俺はニコニコしている。
「楽勝だな。トウスさんもラッキーだよ。こんな軽い任務で、樹族国の国籍を貰えるなんて」
「んぁ? ああ、まぁそうだな・・・。ふぁぁ」
空返事と噛み殺した欠伸。退屈そうだ。
まぁトウスさんは生粋の戦士だし、雑魚相手では物足りないのだろう。でもその方がいい。タンク役をしなくて済むのだから。
振り返って、ようやく地下墓地に慣れ落ち着いてきたピーターに、俺は機嫌よく話しかけた。
「ピーター君は、何でそんなに幽霊が怖いんだ?」
地走り族特有の丸い目が少し伏せ目がちになる。なんだよ、その演技ががった表情。
「・・・僕は昔から、盗み癖とか痴漢癖が酷くて、孤児院に入っては追い出されてを繰り返していたんです。今の孤児院に来てからもそれが治らなくて・・・。知っての通りシスター・マンドルは、元ベテランの傭兵。僕が孤児院に来て直ぐに盗みを働いた時、烈火の如く怒りました。それで僕の性根を叩き直すと言って、地下墓地に一晩放置したんです。霊廟の扉の閂をしっかりと外から閉めて・・・。これって酷い児童虐待だと思いませんか?」
ぐぅ! 可哀想な顔をして同情を誘うな! 地走り族の二面性には騙されないからな!
「それで?」
同意を求める彼をスルーして、俺は話の続きを訊いた。
「閉じ込められて直ぐに、部屋の隅の暗がりに、恨めしそうな顔が沢山浮かんでいたのです!僕はパニックになって地下墓地を逃げ回りました。道に迷ってしまい、こわいな~こわいな~と思いながら、それでも休めそうな場所を見つけて何とか落ち着こうとしたんです。でもその時! フゥッ! と背後から、これまでのお化けとは違う、異様な気配を感じたんです! 僕は両目をカッ! と見開いて、近づいて来る朧な影の正体を確かめようとしました。その正体はなんと・・・。ワイトだったんですよ! もうね、必死になって逃げました。ワイトですよ! 元メイジの幽霊! 逃げる後ろから、待てぇ~置いてけ~と、地獄の底から響くような声が追いかけてきました。僕はもう無我夢中になって逃げ回りましたね。そして朝になって、霊廟の開いた扉から勢いよく外に出て、噴水の水をガブガブと飲みました。一晩中走り回っていたので喉がカラカラだったもので・・・。で、なんとなーく水面に映る自分の姿を見て驚きました。なんと髪が真っ白になっていたんです・・・」
「その割には、今は艶々な茶髪で白髪一つないけどな。ピーター君」
「それ以降、僕は幽霊が怖くて怖くて」
「自業自得だろう」
サーカが冷たく言い放つ。
「ゾンビとかスケルトンとかは平気だよな?」
「ええ、幽霊だけが怖いんです」
「まぁでも、ワイトに殺されなくて良かったじゃないか」
「ん? 言ってなかったか? 今から退治しにいくのはそのワイトだぞ」
「ええぇー!」
俺は某長寿アニメの婿養子のような声を、ピーターと上げる。
「ワイトは魔法に長けている。この中で生命力があって、一番魔法防御力や無効化率の高いオビオが、勿論タンク役をするのだ。挑発スキルを磨いておけよ」
サーカが当たり前のように言う。
「びゃぁぁああ! 怖い!」
また某婿養子のような声で俺は怯える。
「怖いも糞も、お前がタンクをするのが、一番最適な戦い方なのだが? 普通は魔法防御力や無効化率なんて、マジックアイテムで身を固めているツィガル帝国の鉄騎士でもない限り0だ。なのにお前は何故か知らんが、素の状態で魔法を25%の確率で無効化し、更に攻撃魔法を受けたとしても、そのダメージの四分の一を無かった事にする。レジストした場合はなんと、ダメージの75%を無効化できるのだぞ。そしてそこに魔法無効化の25%が加わり、実質100%だ!」
え! まじ? って言いそうになったけどそんなわけあるか!
「そんなゆでたまご理論、信じないぞ!」
「ゆでたまご?」
「ごほん、何でもない。確かに俺は他の人より魔法を防ぐが、お前の【火球】を喰らって、俺は大ダメージを喰らってただろ! 喰らえば同じって事だ! 相手だってこちらの防御を貫通させる術を持ってるかもしれないしよ」
「魔法貫通スキルは、メイジよりも我ら騎士の方が覚えている。メイジは強力な魔力と威力の高い魔法でごり押しできるからな」
「なんだ、メイジは魔法貫通スキル持ってねぇんか。良かった良かった・・・って、なるか、あほ! もっとたちが悪いわ! 魔法でごり押しとか範囲魔法でパーティ全滅だろうがよ!」
「それだけワイトの危険度は高い。だから、永住権を得られる条件となっているのだ。なのに貴様は勝手にトウスに同行すると言い出した。だからお前が責任を取って、我らの盾となるのは当然だろう?」
どう考えても、その条件は不法移民を樹族国に留まらせない為のものだな。諦めさせて帰国させる。挑んでもワイトに殺される。ほんと糞意地が悪いな、樹族ってのはよぉ! だからサーカはあんなに地下墓地に行くのを嫌がっていたのか。
でもよ、ここで引き返したらトウスさんはいずれ逮捕されるし、そうなったら路頭に迷う子供たちが可哀想だろうが!
「だったら・・・。なってやるよ! タンクに! その代りお前がワイトをなんとかしろよな! 攻撃手段持ってるんだろうな!」
「当たり前だ。私は自分のメイスには光属性魔法を付与する。それでワイトの霊体を攻撃して、弱ったところを三段階目まで上げた【光玉】でとどめを刺す」
サーカは第五位魔法まで各三つずつ唱えられるから、魔法のパワーレベルを上げられるのは三段階目が限界なのか・・・。三段階目の【光玉】って攻撃力どのくらいなんだ? ワイトをやれるのか?
怪訝そうな目でサーカを見る俺の考えに気が付いたのか、トウスさんが俺の尻を叩いて爽やかな笑顔を見せる。
「しんぺぇすんな。俺がいる!」
あんたとピーターが一番ワイト戦で役に立たないんですよーーー! なんですか、その手に持ってる棒! 空き家になった農家から拾ってきた鍬の柄でしょうがーーー! そんなもので霊体が叩けますかってーの!
「なんか俺の棒に不満がありそうな顔してるな? オビオォ。でもお前は一つ忘れている事があるぜ? この俺の棒にも光属性魔法を帯びさせれば、立派な対アンデッド武器になるんだわ。名付けて俺の光の棒作戦!」
なんだよ、その卑猥な感じのする作戦名は。大昔のエロ本かっつーの。
「サーカに魔法を付与してもらうってわけか。そもそもその棒、攻撃力はどれくらいなんだ?」
「どれくらいって言われてもなぁ・・・」
試しに俺は棒を鑑定する。
「なになに・・・。ただの長い棒。お、攻撃力が解りやすく数値で表示してくれるようになってる! ミドルレンジでダメ―ジ値1D6・・・。何で某テーブルトークRPGっぽい表示なんだろうか。まぁ俺の趣味に鑑定の指輪が合わせてくれたんだろうな。つまり1~6のダメージを与えるって事か。正直、ショボい・・・」
「何をさっきからブツブツ言ってんだ。こんなただの棒きれに攻撃力なんてあるか。精々オオネズミやオオグモを叩き潰して、スケルトンの頭蓋骨を砕くぐらいだ」
だったらもっとましな武器探しとけよ!
「あぁ、心細い・・・。ん? 待てよ、ここは元戦場だよな? そこかしこに大昔の武器でも埋まってんじゃないのか?」
「そんな都合よく見つかるか、馬鹿オビオ。二千年も経っているのだから、盗掘されているに決まっているだろう」
と言いつつも土壁に武器がないかを探すサーカさん、ちょっと見直した。
「あそこをごらんよ。剣の柄が見えるよ」
流石はピーター君! 盗賊兼レンジャーなだけはある! 確かに天井近くの土壁に剣が刺さっている。これは背の高い俺しか抜けないな。よし。
剣を触れた途端に脳が痺れるような感覚を覚えた。
「うぉ!」
「どうした、オビオ!」
トウスさんが下から心配そうに俺を見上げている。
「だ、大丈夫・・・。あれ? なんか頭に映像が浮かんでくる・・・」
迫りくる闇側の鎧騎士や鉄傀儡。これは・・・剣の持ち主の記憶? 光側種族と闇側種族が戦ったこの戦場での記憶か。
―――父さんは狂ってしまった・・・。研究に打ち込むあまり他人の命なんてどうでもよくなってしまったんだ。家族の命さえも・・・。息子の僕をこんな最前線に出すなんて・・・。この星を守るだって? 余所者を消し去るだって? そんな事できるものか! 敵の神様が死んだからって、この状況は覆らないぞ! 僕はここで死ぬつもりはない! 逃げるんだ! 逃げてブラッド家の再興を・・・。うわぁぁ―――
最後に見えた映像は、鉄傀儡の光るモノアイだった。
「わぁぁぁ!」
死ぬ瞬間の恐怖が俺の全身を駆け巡る。と同時に頭に凄い衝撃を受け、鼻の奥で血の味がした。
実際は衝撃なんて受けていないし、血も出ていない。恐らくこの剣の持ち主は鉄傀儡の持っていたハンマーに叩き潰されたのだろう。
「だ、大丈夫か? オビオ」
お? サーカも他人を心配する事があるんだな?
驚いて腰を抜かした瞬間に抜けた剣は、波状の刀身から鈍く赤い光を放っている。アイテムが赤い光を放つのは魔法効果が付与されてるからだって、本で読んだことがあるぞ。そういやその本を読んだ魔法店で、サーカは【吹雪】の魔法書を買ってたんだっけ。ありがたやありがたや。
「鑑定の指輪の効果なのかな・・・。剣の持ち主の記憶が流れ込んできてびっくりしただけだ。なにも死ぬ手前の記憶を見せなくてもいいのに・・・」
「なんだ、そんな事か。てっきり俺は、剣の呪いかなんかでオビオが狂ったのかと思ったぜ。無事で良かったな」
「で、その剣にはどんな力があるの?」
好奇心旺盛な地走り族のピーター君が目をキラキラさせている。なんか隙あらば盗みそうな予感。
「え~っと。蛇殺しだって・・・。蛇嫌いだったセージ・ブラッドが作らせた魔法の剣だそうだ。1D8+2。蛇系に対して攻撃力が倍になる。び、微妙だな・・・。まぁショートソードにしては攻撃力が高い方か」
それを聞いて何故か、サーカが腰を抜かした。少しM字開脚気味なので、短いスカートからパンツが見えている・・・。
「白!」
すかさずピーターが丸見えなサーカの下着の色を言う。一々言わなくてよろしい。
「いいいいい、今何と言った? ブラッド家と言ったか?」
「え? そだけど?」
「ブラッド家といえば樹族の神の末裔。一番古い家柄だぞ。今も辺境伯として強い力を持っている。神の末裔なせいか、ブラッド領で生まれる者は、皆エリート種となるのだ。そんな名家の先祖の・・・。しかも大戦時の魔剣! 正直、性能は微妙だが国宝級の価値があるぞ! ブラッド辺境伯に返還すれば、間違いなく莫大な褒美を貰えるだろう!」
「へー」
それを聞いても俺はそういう反応しかできなかった。名門ブラッド家と言われてもなぁ・・・。ウォール家とどっちが上なんだ? まぁ歴史的価値があるのは解るけど、今はトウスさんの武器が欲しいんだ。
「トウスさん、はい、これ」
俺はトウスさんに魔剣蛇殺しを渡す。
「お、おい! こんな剣、振れるか! 俺は国宝級なんてガラじゃねえんだよ!」
すぐに突き返されたので、俺はもどかしくなって吠える。
「もぉぉぉ! めんどくせぇぇ! 今はそんな時じゃねぇだろ! ここに魔法の武器がある! これがあるとワイトを退治し易い! それでいいじゃねぇか! 剣の事はワイトを倒してから考えればいいだろ!」
「はいはいはい! じゃあ僕が持つよ! ショートソードなら僕でも扱えるし!」
ピーターが涎を垂らして剣を見ている。お前、絶対盗む気だろ!
「いや、ピーター君はこれまで通り、スリングで頑張ってくれ」
「ギッ!」
あ! 今見たぞ! ピーター君の悪い顔! なんね、だその、霧の向こうからやって来た邪悪なゴブリンみたいな睨み方は! 思い通りにならないとそんな顔するんだね! あぁ驚いた!
それにしても今は何時だろうか。
随分と時間が経ったような気もする。亜空間ポケットから時計を出して見ようかと思ったけど止めた。もし随分と時間が経っていたなら、俺の気力が萎れるからだ。
俺は剣を強引にトウスさんの震える手に握らせて、先を急ぐ事にした。
時間が経てば経つほど、ワイト退治への不安が増していくからだ。正直、今回はダメなんじゃなかろうか。メイジって瞬間的な攻撃力でいえば、全クラスでトップクラスだろうし。初っ端から魔法なんて撃ってこられたら、俺たちはどうなる事やら・・・。
なんとなく今のパーティメンバーの実力を思い返してみる。
戦闘能力は高いが、いつポンコツになるか解らない騎士と、性能は微妙だが国宝級の魔剣に尻込みする生粋の戦士と、幽霊が苦手で性格に裏表があり属性が悪人の盗賊・・・。そして非戦闘員の料理人兼タンクの俺・・・。
・・・あれ! やだ! なんだか不安になってきた!
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ファンタジー
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本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
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