277 / 299
コロネ
しおりを挟む
ヒジリがいる時代に戻ってきたヤイバは、父親の城である桃色城の前で泣いている獣人を見て、報告を優先するか、無視をするかで悩んだ。
(獣人が闇側国にいるのは珍しい。光の種族は闇側の怪物に狙われやすいからね。さぞかし危険だったろう)
ドワーフたちが滅多に地上に出てこないのもこれが理由である。彼らは光の住人でありながら、神話の時代に樹族を見限って闇側に来たからだ。
「どうしたのか、鉄騎士殿。城に入ろうではないか。それともあの獣人に見覚えでも?」
ダーク・マターが早く目的を果たそうと急かす。自分がビャクヤたちの子孫かどうかは関係なく、仲間に託された使命を果たさないと気がすまない律儀な性質なのだ。
(確かに彼の言う通りだ。一刻も早く父を手伝ってこの馬鹿げた無の侵食を止めなければならない。禁断の箱庭を停止させれば、きっと全てが良い方向に転がるはずだ)
しかし彼の優しさが足を動かそうとはさせない。これがヤイバの長所であり短所でもある。過去にもこの優しさの所為で、付き合う相手の人間性が見抜けず、裏切られた経験がある。
ヤイバは兜を被ると振り向いた。
「オビオ君・・・だったかな? 門前で泣いているあの猫人の事情を聞いてやってくれないか? 僕は国王に会って事情を説明してくる」
ヤイバの願いをオビオは笑顔で快諾する。
「ああ、いいよ。あんた優しいな」
城に入って待合室兼商談室であるラウンジで、ヤイバは忙しそうに書類を運ぶリツ・フーリーと目があった。
「ヒジリ国王陛下はどこですか? 母さ・・・、リツ・フーリー鉄騎士団団長殿」
ツィガル帝国の騎士団長でありながらヴャーンズの命令で、ヒジランドで在外公務をしているリツは、所属不明の帝国鉄騎士に対して太い眉をしかめた。
まず騎士団長のメガネの奥が真っ先に確認したのは階級章だった。
彼の鎧のネックガードには団長を表す三ツ星の階級章がついている。更に胸部にはグリフォンの紋章。自由騎士でもある証拠だ。
(目の前のオーガがツィガル帝国の騎士なのは間違いないのだけど、団長で自由騎士? どういう事かしら)
しかし、リツは察する。
自由騎士というのは基本的に外交問題に関わっていたり、極秘任務を以来されていたりで素性を隠しているものだと。
国内外から強い信頼を得た騎士だけが自由騎士の称号を受け、自由に国を行き来し、且つ強力な権限を持つ事ができる。
誰でも彼でも自由騎士になれるものではないのだ。
となると、一団長である自分が目の前の自由騎士を知らなくても納得がいく。彼の素性を知っている者がいるとすれば、それは間違いなくヴャーンズ皇帝だけだろう。
自分がメイジで、【読心】の魔法を覚えていたら良かったのにと思いながら、リツは必要最低限の情報をヤイバに教えた。
「ヒジリ国王は重要な任務で外出しております。残念ですが、出直してもらえますか?」
私は神国ヒジランドの臣下ではない、という気持ちが乗ったリツの冷たい声と、父の行動の速さに驚いてヤイバは面食らう。
「もう遺跡探しに出かけたのか・・・。流石は父さんだ」
「父さん?」
リツが聞き返した。ヒジリはまだ二十歳前後だ。こんなに大きな子供がいるはずがない。
「い、いや。なんでもありません。忘れてください。ところで、王はどこへ行くと仰っていましたか?」
「貴方が信頼のできる自由騎士とはいえ、安易に一国の主の詳細を伝える事はできません。それに私はツィガルの騎士。この国での権限はそう多くはありませんから」
「では、誰かヒジリ国王陛下に近い・・・。そうだ! タスネさんか、フランさん、イグナさんは? サヴェリフェ姉妹がいるはずでしょう?」
「残念ながら不在です。彼女たちも樹族国からの任務を受けているのです。私同様忙しい身。また時間を置いて尋ねて下さいませ、自由騎士様」
そう言うとリツは書類の山を持って二階へと上がっていってしまった。
「では、これほどの客を一体誰が対応しているのか・・・」
ラウンジに溢れかえる商人や貴族を見てダークが不思議がる。
「幻が相手をしているのですよ。暗黒騎士ダーク殿」
「幻?」
「ええ、実体のある幻が業務をこなしています」
ダークはマスクを脱いで、【魔法探知】で周囲をよく見る。
色んな種族の商人の対応をしているのは、彼らの同族ばかりだ。それらが魔法の幻で作られた人ならば、赤く光っているはずだがそんな事はなかった。
「願いを叶えしマナが形作る、魔法の幻ではないようだが?」
どこかビャクヤに似たその大仰な喋り方に、ヤイバは内心でうんざりしながら答える。
「あの幻は魔法ではないからね。彼らには触れることもできるし、感情も知性もある」
「???」
混乱するダークに説明している暇はない。
「とにかくヒジリ王を探そう」
ドアへと向かおうとして踵を返したヤイバの目に、なにか点のような物が映った。
「【高速移動】!」
魔法の脚絆が光るとヤイバは瞬間移動したかのように動き、放物線を描いて飛来してきた物体を回避した。
「コロロさん、また鼻くそを飛ばして! 僕が潔癖症な事を知ってるでしょう!」
「名前間違えるな! コロネだよ! 久しぶりだね、セイバー。シシシ」
小さな子どもの地走り族、サヴェリフェ姉妹の末妹が、鼻くそを丸めながら白い歯を見せて笑っていた。
(獣人が闇側国にいるのは珍しい。光の種族は闇側の怪物に狙われやすいからね。さぞかし危険だったろう)
ドワーフたちが滅多に地上に出てこないのもこれが理由である。彼らは光の住人でありながら、神話の時代に樹族を見限って闇側に来たからだ。
「どうしたのか、鉄騎士殿。城に入ろうではないか。それともあの獣人に見覚えでも?」
ダーク・マターが早く目的を果たそうと急かす。自分がビャクヤたちの子孫かどうかは関係なく、仲間に託された使命を果たさないと気がすまない律儀な性質なのだ。
(確かに彼の言う通りだ。一刻も早く父を手伝ってこの馬鹿げた無の侵食を止めなければならない。禁断の箱庭を停止させれば、きっと全てが良い方向に転がるはずだ)
しかし彼の優しさが足を動かそうとはさせない。これがヤイバの長所であり短所でもある。過去にもこの優しさの所為で、付き合う相手の人間性が見抜けず、裏切られた経験がある。
ヤイバは兜を被ると振り向いた。
「オビオ君・・・だったかな? 門前で泣いているあの猫人の事情を聞いてやってくれないか? 僕は国王に会って事情を説明してくる」
ヤイバの願いをオビオは笑顔で快諾する。
「ああ、いいよ。あんた優しいな」
城に入って待合室兼商談室であるラウンジで、ヤイバは忙しそうに書類を運ぶリツ・フーリーと目があった。
「ヒジリ国王陛下はどこですか? 母さ・・・、リツ・フーリー鉄騎士団団長殿」
ツィガル帝国の騎士団長でありながらヴャーンズの命令で、ヒジランドで在外公務をしているリツは、所属不明の帝国鉄騎士に対して太い眉をしかめた。
まず騎士団長のメガネの奥が真っ先に確認したのは階級章だった。
彼の鎧のネックガードには団長を表す三ツ星の階級章がついている。更に胸部にはグリフォンの紋章。自由騎士でもある証拠だ。
(目の前のオーガがツィガル帝国の騎士なのは間違いないのだけど、団長で自由騎士? どういう事かしら)
しかし、リツは察する。
自由騎士というのは基本的に外交問題に関わっていたり、極秘任務を以来されていたりで素性を隠しているものだと。
国内外から強い信頼を得た騎士だけが自由騎士の称号を受け、自由に国を行き来し、且つ強力な権限を持つ事ができる。
誰でも彼でも自由騎士になれるものではないのだ。
となると、一団長である自分が目の前の自由騎士を知らなくても納得がいく。彼の素性を知っている者がいるとすれば、それは間違いなくヴャーンズ皇帝だけだろう。
自分がメイジで、【読心】の魔法を覚えていたら良かったのにと思いながら、リツは必要最低限の情報をヤイバに教えた。
「ヒジリ国王は重要な任務で外出しております。残念ですが、出直してもらえますか?」
私は神国ヒジランドの臣下ではない、という気持ちが乗ったリツの冷たい声と、父の行動の速さに驚いてヤイバは面食らう。
「もう遺跡探しに出かけたのか・・・。流石は父さんだ」
「父さん?」
リツが聞き返した。ヒジリはまだ二十歳前後だ。こんなに大きな子供がいるはずがない。
「い、いや。なんでもありません。忘れてください。ところで、王はどこへ行くと仰っていましたか?」
「貴方が信頼のできる自由騎士とはいえ、安易に一国の主の詳細を伝える事はできません。それに私はツィガルの騎士。この国での権限はそう多くはありませんから」
「では、誰かヒジリ国王陛下に近い・・・。そうだ! タスネさんか、フランさん、イグナさんは? サヴェリフェ姉妹がいるはずでしょう?」
「残念ながら不在です。彼女たちも樹族国からの任務を受けているのです。私同様忙しい身。また時間を置いて尋ねて下さいませ、自由騎士様」
そう言うとリツは書類の山を持って二階へと上がっていってしまった。
「では、これほどの客を一体誰が対応しているのか・・・」
ラウンジに溢れかえる商人や貴族を見てダークが不思議がる。
「幻が相手をしているのですよ。暗黒騎士ダーク殿」
「幻?」
「ええ、実体のある幻が業務をこなしています」
ダークはマスクを脱いで、【魔法探知】で周囲をよく見る。
色んな種族の商人の対応をしているのは、彼らの同族ばかりだ。それらが魔法の幻で作られた人ならば、赤く光っているはずだがそんな事はなかった。
「願いを叶えしマナが形作る、魔法の幻ではないようだが?」
どこかビャクヤに似たその大仰な喋り方に、ヤイバは内心でうんざりしながら答える。
「あの幻は魔法ではないからね。彼らには触れることもできるし、感情も知性もある」
「???」
混乱するダークに説明している暇はない。
「とにかくヒジリ王を探そう」
ドアへと向かおうとして踵を返したヤイバの目に、なにか点のような物が映った。
「【高速移動】!」
魔法の脚絆が光るとヤイバは瞬間移動したかのように動き、放物線を描いて飛来してきた物体を回避した。
「コロロさん、また鼻くそを飛ばして! 僕が潔癖症な事を知ってるでしょう!」
「名前間違えるな! コロネだよ! 久しぶりだね、セイバー。シシシ」
小さな子どもの地走り族、サヴェリフェ姉妹の末妹が、鼻くそを丸めながら白い歯を見せて笑っていた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】追放される宿命を背負った可哀想な俺、才色兼備のSランク女三人のハーレムパーティーから追放されてしまう ~今更謝ってきても
ヤラナイカー
ファンタジー
◯出し◯ませハメ撮りをかまして用済みだからもう遅い!~
(欲張りすぎて、タイトルがもう遅いまで入らなかったw)
よくある追放物語のパロディーみたいな短編です。
思いついたから書いてしまった。
Sランク女騎士のアイシャ、Sランク女魔術師のイレーナ、Sランク聖女のセレスティナのハーレムパーティーから、Aランク|荷物持ち《ポーター》のおっさん、サトシが追放されるだけのお話です。
R18付けてますが、エッチと感じるかどうかは読む人によるかもしれません。
魔王の娘な陰キャロリ巨乳トラップマスターが罠で勇者を発情させ過ぎて、オナニーに夢中な姿を発見されて襲われ連続敗北イキして裏切り幸せ堕ちする話
フォトンうさぎ
ファンタジー
魔王の三女、ダルクネス・ユビドラ・フォーレンゲルス。通称、トラップマスターのダルクネス。彼女は魔王の子として生まれたとはいえ、魔力も体力も弱くて扱いも酷い一人ぼっちの根暗魔族であった。
貧弱でロリ巨乳な彼女がやることといえば、自分が作ったトラップだらけのダンジョンを監視しながら、哀れに散る冒険者達を観察しながらの引きこもりオナニー。
そんな彼女は今回、ダンジョンを攻略しにきた勇者クオンたちへ、特殊な催淫トラップを使用してその様子と快感を楽しんでいた。
しかし、勇者はいつの間にか催淫トラップを乗り越えて監視を潜り抜け、のけぞるほど激しい自慰をしているダルクネスの元までたどり着いていて……。
表紙は『NovelAI』に出力していただきました。
【R18】聖処女騎士アルゼリーテの受難
濡羽ぬるる
ファンタジー
清楚な銀髪少女騎士アルゼリーテは、オークの大軍勢に屈し、犯されてしまいます。どんなに引き裂かれても即時回復するチート能力のおかげで、何度でも復活する処女を破られ続け、淫らな汁にまみれながらメスに堕ちていくのです。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる