殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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写し身との闘い

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「これから始める戦いは、きっと壮絶なものになるだろうよ」

 俺は砦の上空を漂う不穏な空気を察知する。

 なぜ砦の連中を逃さないのか、という顔をヤイバがしているので、俺は心の中で彼らのことを必要な“贄”だと念じる。

 一瞬、ヤイバの顔に困惑と怒りの色が浮かんだが、同時に俺が世界を守りきるという考えも汲み取ったのか、暫し目を閉じた。

「キリマル君が何をしたいのか、僕にはわからないですね」

 ヤイバは三十路はいっているだろうか。以前会った時よりも年をとっている。だから俺を君呼ばわりなのだ。

「あまり詮索するな。成功確率が下がる。オビオの作る三度の飯よりも、ダイスを振るのが大好きな神様が、今もどこかで見ているかもしれねぇ。ヤイバが余計な思考をしただけで、失敗する可能性が出てくる。俺様はもう世界を救うと決めた。邪魔をするな」

「悪魔の言葉とは思えないですよ」

「確かに俺は元人間とはいえ悪魔であり、属性もカオティック・イービルだ。混沌と悪を好む。だが、無は好きじゃねぇ。それに・・・」

「それに?」

 ここで読心の魔法効果が切れたのか、ヤイバは俺にそう尋ねた。

「なんでもねぇ」

 カナやミドリの子孫がここに二人もいる。ビャクヤとダーク。

 未来のヒジランドにはナンベルもいる。脈々と受け継いできたであろう俺の血を、歴史から消し去るなんてことは許さねぇ。俺ぁ強欲でもあるんだ。

 血統の維持と殺しへの渇望。それ以外に人修羅の冷えた金床のような心に熱を与える源はねぇ。

「悪魔は身勝手なもんさ。契約以外では間違いなく自分の気分で動く」

「でしょうね。基本的に悪魔は本能のままに生きている。僕が戦った悪魔の一人は、弟を依り代にして魔界から現世へ具現化しましたからね」

「悪魔は死なねぇからな。その悪魔の弟は肉の体を贄にされて魔界に戻っただけだ。俺もよく分からねぇが、心が折れて復活したくねぇと思った時が、悪魔にとって死を意味するのだろうよ。さぁそろそろお喋りタイムはお終いだ。来るぞ!」

 この過去の世界に来てから、実質一年。

 俺がくどく予告を出して根付かせた、人々の悪魔王Qへのイメージ。

 正直、世界を救うのに高々百五十人程度でなんとかなるかは疑問だ。

 だが、砦の真ん中の庭にそれは具現化する。

 ――――門だ。

 禍々しさはこれっぽっちもない観音開きの赤い門が現れた。至って普通の門なのが、逆に不気味だ。無機質で光沢を放つ冷たい扉。

 砦の連中は恐怖におののき、なるべく庭から離れようとしている。

 俺は事前に逃げるなと言ってある。一人でも逃げると世界は確実に終わると脅してあるからな。なので誰一人、砦の外に行こうとはしない。

 どの道、この島からは出られはしねぇしよ。

 悪魔王は外から転移してくると勝手に思い込み、怯えに怯えたドリャップが貴重なマジックアイテムを使って、転移結界を張ってしまったからな。

 未来でニムゲイン島と大陸を自由に行き来できなくなった事情は、ドリャップにあったってわけだ。

「そんな馬鹿な! 俺のアイテムの効果は?」

 ドリャップが喚いている。結界用のアイテムは相当高価だったんだろうよ。

「相手は悪魔王だぞ(実際はお前らのイメージの産物だけどな)。外からの転移魔法を封じる結界如きでどうにかなるわけねぇだろ」

「くそっ!」

 悔しがるオーガを背にして扉から何が出てくるのか見守る。

「なにんぬッ!」

 まっ先に驚いたのがビャクヤだった。

 扉から出てきた悪魔は、俺の偽者だったからだ。

「チッ! 俺が脅しまくったからって、俺が出てくるとかよ・・・」

 砦の連中の想像力は浅い。

 この偽物が世界の終わりを具現化しているとは到底思えねぇ。

(失敗か・・・)

 そう思いながら親指の爪を噛んでいると、オビオが喜び勇んで竜人化した。

「その偽キリマルを倒せば、世界の崩壊が止まるのか? じゃあ俺はやるぞ!」

 こいつは俺を許すとは言ったものの、感情的には未だ許していねぇ。その怒りを俺の紛い物にぶつけるつもりだ。

 ――――カッ!

 空間を削り取る球形のブレスが俺の偽物の半身を奪う。

 竜人オビオの攻撃は竜化した時よりも範囲は狭いが、効果は抜群である。人修羅の半分を削り消した。

「ギエェェェ!」

 怒りの咆哮を上げた偽者はすぐに失った左半身を再生させる。人修羅の再生能力舐めるなよ、オビオ。

「攻撃してもいいのかねッ?」

 勝手に俺の偽物を攻撃したオビオを見て、ビャクヤがヤキモキしている。

 あの扉から出てきて俺の偽者のダメージが、俺自身に反映されないか心配しているのだ。

「ああ、構わねぇ。あれは俺とは関係ねぇ。それにあの程度の幻がラスボスだと困る」

 俺は白々しくオビオに野次を飛ばした。

「そいつはまだまだ雑魚だぞ。悪魔王Qの手下に過ぎねぇ! 精々足掻けよ、オビオォ!」

 絶望の悲鳴と共に砦の連中がざわめく。

 俺の偽物は悪魔王Qなどではなく、まだまだ雑魚でしかないと認識したのだ。

(よしよし。もっとだ。世界を終わらせるエネルギーを擬人化した強力な悪魔が出てくるまで戦いは続くぞ!)

 と気楽に言ってみたが、俺の偽者は中々強かった。

 竜人化したオビオの赤い鱗の隙間に爪を差し込んで爆発を起こす。

 勿論、オビオにダメージを与えはするが爪は自分の起こした爆発で壊れる。だが、またすぐに爪は生えてきた。

「俺の偽者は賢いな。あんな戦い方があるのか。クハハ」

「あれは守りし者のいない捨て身の戦法! あのような戦い方では! いつか自滅をする!」

 仮面ライダーブラックに似たダークが跳躍して、縦に体を一回転させると、体重を乗せた大鎌の一撃を人修羅の背中に突き刺す。

 そうか、ダークも・・・。こいつはコズミックペンの悪戯で生まれたような存在。過去がねぇ。生まれついての孤独。

 くそったれのコズミックペンが! 俺様の子孫を薄っぺらいキャラにしやがって!

 急にダークが可哀想に思えてきた。しかも愛おしくも感じる。俺はつくづく子孫に甘い。

 その不憫な我が子孫が新必殺技を見せた。

「即! 次元断!」

 お? 時間差次元断じゃねぇのか? すげぇ!

 ダークの鎌の突き刺した傷跡が、灰色に光る。

 と同時にクラックで光る人修羅の裏拳がダークに飛んだ。

「ゲボァ!」

 体の芯を捉えたようなドンという音と共に、ダークは派手に地面を転がる。

 どこまでも転がって行きそうな子孫を掬うようにキャッチすると、リンネ、ビャクヤ、ヤイバから【再生】の魔法がダークに飛んできた。

 悪魔の裏拳の衝撃で内臓にかなりのダメージを食らっただろうダークは、三人の回復魔法で苦痛から開放された。致命傷になる前に凄まじい速さで回復していったのだ。

 祈りの回復と違って、【再生】の魔法は体内の新陳代謝を活性化させるものではなく、マナの力を使っての再生なので腹が減ったりはしねぇ。便利だねぇ。魔法。

 で、俺の偽者はというと次元断に飲み込まれて消えていく。

「やったぁ!」

 素の声でダークが腕の中でガッツポーズをとる。クソ可愛い。

 オビオはサーカに文句を言われながら、再生の魔法で回復してもらってる。

「油断ならないぞ。雑魚でも気を抜くと死にそうになる」

(お前が弱いだけだろ。料理人がしゃしゃり出てくんな)

 俺は心の中でオビオをディスって次の敵を待った。

 すると扉が安っぽいお化け屋敷の扉みたいにバタンと内側に開いた。

「次が来るぞ!」

 俺が注意を促すと、皆に緊張が走る。

 扉の奥の闇から出てきたのは鉄騎士を大きくしたような鉄巨人だった。きっと急に現れたヤイバへの不審感がイメージに反映したのだろう。砦の住人達の想像力は転石の如く、コロコロ変わる。

 ・・・待てよ。ヤイバの能力まで真似していたりしないだろうな? 流石にそれはねぇか。ここの連中はヤイバの事なんて知らないだろうしよ・・・。
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