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暗黒騎士(うんこ食うきし)
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リンネは自分を蘇らせたと言われるオーガを目の当たりにして思う。
(凄く魅力的な人。でも何かが足りないというか。存在が嘘っぽいというか・・・)
身長は二メートル五十センチはあるだろうか? 体重も百キロは余裕で超えているだろう。
鋼の束のような筋肉が、黒い張り付く服から浮き出ている。その肩には、触れると危険とでも言いたげな雷のマークが入っていた。
桃色城の門を叩いて通された先は、客間ではなくロビーだった。それほど重要な案件ではないとヒジリに思われているのだ。
良く言えばざっくばらんに、悪く言えば軽く扱われているという事だ。
それも仕方がない。この城にはひっきりなしに樹族国の役人やら商売人のゴブリン、ヒジランドの地方を任された官吏がやって来る。
国王とは多忙なのだ。全てを仕切ろうとするワンマン国王であれば尚更。
「久しぶりだな、ビャクヤ君は元気かね。用件は手短に頼む」
現人神ヒジリはニッコリと笑ってはいるが、笑顔の時間は短い。早くしろという無言の圧力を感じる。
「えっと、過去に行く魔法を使えますか?」
「残念ながら使えないな。終わりでいいかね?」
次の客に目をやったヒジリに、リンネは食い下がる。
「現人神様にも出来ない事があるのですか?」
「無論だとも。この世に万能な存在など、いないのだよ」
話を終わらせようとするヒジリになんとか関心を持たせようとリンネは考える。
そして思い出したビャクヤの言葉。
――――ヒジリは探求者である。
「時間魔法と虚無・・・サダモト粒子、関係があると思いませんか?」
リンネの背後で、揉み手をするゴブリンの商人を見るヒジリの視線が戻ってきた。
「サカモト粒子の事かね。その名前をなぜ知っている? 例の料理人か? しかし彼は科学者ではない。ウメボシ、オビオ君の居場所を確認してくれ」
ヒジリは料理人が不法入星している事を知っていたが、相手はただの料理人という事で放置していたのだ。
地球に帰った時に罰を受けないよう、入星許可証も密かに与えていた。
ただし邂逅した場合には滞在許可を取り消し、地球に帰還するよう命令するつもりだった。
「オビオ様の追跡ナノマシンが消えております、マスター」
羽なしのイービルアイはどうやって浮いているのか不思議に思うリンネだったが、慌てて話を繋ぐ。
「コックさんもビャクヤも、時間魔法の魔法陣の中にいましたから!」
「ほう。なぜ彼らが過去に行ったとわかったね?」
「時間魔法を使った本人がそう言ってました」
「では、その魔法の使い手に頼んだらどうか」
「ところが、彼はそれ以降時間魔法が使えなくなったのです」
「ふむ。君の話通りなら時間魔法は一度限りなのかね?」
「いえ、そんな事はないと思いますが、なぜか使えなくなりました。もし使えていたらタゴリさんを頼っていません」
「タゴリ? マスターの名はヒジリです。ヒジリ・オオガが正式な名前です、リンネ・ボーン様。ヘカティニス様同様、他人の名前を覚えない人ですね」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていい。どのみち君の力にはなれない。私は時間魔法も虚無の魔法も使えないからな」
「そうですか・・・」
「だが、虚無の魔法の使い手なら知っている。自由騎士セイバーだ。彼を探したまえ」
「でもどうやって・・・」
「そこまで面倒を見る事はできん」
至極当然の答え。自由騎士セイバーは伝説の人物である。時間から時間へ移動しているような人物を現人神でも探すのは難しいだろう。
どうやって会えばいいのかとリンネは悩む。
ヒジリとの話はここで区切られてしまい、考え事をしている間に後ろのゴブリンがリンネを押しのけるようにして国王に挨拶を始めた。
「ハァ・・・」
結局何も得られなかったリンネを城門で待っていたダークとピーターが近寄る。
「その様子からすると、現人神様からは良い返事はなかったんだね」
「うん・・・。自由騎士セイバーを探せだって・・・」
ピーターは手を顎にやって険しい顔をする。
「西の大陸の英雄か。色んな時代に現れては、吟遊詩人が歌う数よりも遥かに多くの人助けをして立ち去る自由騎士のオーガ。まぁ眉唾だけどな。色んな人の逸話を一人の鉄騎士にまとめたものだって言う奴もいるし」
「伝説の騎士・・・。キリマルが会った事があるって言ってたけど・・・。ビャクヤ曰く、セイバーさんはヤイバさんと同一人物でヒマリさんの息子・・・」
「惜しい、ヒジリな」
ピーターのツッコミを無視してリンネは考える。
「その奥さんは、あの帝国鉄騎士団団長のリツさん。確かヒジランドで外交官をやっていたはず」
帝国軍の要を他国に置くという酔狂な事をするヴャーンズ皇帝の考えは理解できなかったが、取り敢えずリンネはリツを探すことにした。
「ヒジランドの政治の中央って、この小さなピンクのお城だよね?」
「そうだろうね。樹族国で見たことのある役人の顔もチラホラ見たし」
ピーターは何か後ろめたい事でもあるのか、樹族国の役人にビクビクしながら、リンネの鎧の後ろに時々隠れる。
「また門を叩くの嫌だなぁ・・・。さっきは小さな地走り族の女の子が出てきてくれたから、気が楽だったけど・・・」
「フハハ! では我(われ)が魔界の門を! 闇の正拳突きで開いてみせよう!」
ダークの余計なスイッチが入ってしまった事をリンネは後悔する。
「いや、いいから・・・」
――――ドゴーン!
が、中二病の騎士は本当に正拳突きで城の門を吹き飛ばしてしまった。
ダークが怪力とは聞いていたが、ここまでとは思っていなかったのでリンネは驚く。
門の奥にいたのが砦の戦士だったのが幸いして怪我人はいない。オーガは飛んできた門が当たったぐらいではビクともしないのだ。
「おわぁ! 敵襲! カァチコミだぁぁ!」
城からオーガの叫ぶ声が聞こえてきた。
その叫び声に応じるように、昆虫の顔を模したような革のフルフェイスを揺らす。
「クフフ・・・。フハハハッ! 闇の声が聞こえる! この場の生者を全て屠れと誘う声が! 我の名はダーク・マター! 暗黒騎士魔戦将軍が一人! 名のある戦士は前に出て戦え!」
「え! そうだったの?」
驚くリンネに半眼のピーターが溜息をつく。
「暗黒騎士魔戦将軍なんて、初めて聞いたんだけど?」
「なんが、凄いのが来たど! あん・・・あん・・・? うん・・・? ウンコ食う騎士の万年ショーだってよ!」
頭の悪そうな若い砦の戦士の一人が、負のオーラを放つダークを見て慄く。
すると奥からベテランっぽい戦士が若いオーガに聞き返した。
「ウンコを食う騎士だと? そいつはいけねぇ! そんな頭のおかしい旅芸人をヒジリに会わせたらウメボシちゃんに怒られるわ!」
門の前に飛び出てきたのは、フットワークの軽そうなオーガだった。
ステップを踏みながら、両手を構えている。格闘家タイプだとダークも判断して大鎌をリンネに預けた。
「戦闘において我は万能。貴様の土俵に立って! 貴様を地面に這いつくばらせた後! 問答無用で押し通ーーーーーる!」
暗黒騎士の意気込みに、常に前から風でも受けているような髪型のスカーはヒュー! と口笛を吹いて軽くジャブを空打ちした。
「へへへ! 俺は砦の戦士スカーだ。悪いが国王様にウンコ食い芸を見せるわけにはいかねぇ!」
(凄く魅力的な人。でも何かが足りないというか。存在が嘘っぽいというか・・・)
身長は二メートル五十センチはあるだろうか? 体重も百キロは余裕で超えているだろう。
鋼の束のような筋肉が、黒い張り付く服から浮き出ている。その肩には、触れると危険とでも言いたげな雷のマークが入っていた。
桃色城の門を叩いて通された先は、客間ではなくロビーだった。それほど重要な案件ではないとヒジリに思われているのだ。
良く言えばざっくばらんに、悪く言えば軽く扱われているという事だ。
それも仕方がない。この城にはひっきりなしに樹族国の役人やら商売人のゴブリン、ヒジランドの地方を任された官吏がやって来る。
国王とは多忙なのだ。全てを仕切ろうとするワンマン国王であれば尚更。
「久しぶりだな、ビャクヤ君は元気かね。用件は手短に頼む」
現人神ヒジリはニッコリと笑ってはいるが、笑顔の時間は短い。早くしろという無言の圧力を感じる。
「えっと、過去に行く魔法を使えますか?」
「残念ながら使えないな。終わりでいいかね?」
次の客に目をやったヒジリに、リンネは食い下がる。
「現人神様にも出来ない事があるのですか?」
「無論だとも。この世に万能な存在など、いないのだよ」
話を終わらせようとするヒジリになんとか関心を持たせようとリンネは考える。
そして思い出したビャクヤの言葉。
――――ヒジリは探求者である。
「時間魔法と虚無・・・サダモト粒子、関係があると思いませんか?」
リンネの背後で、揉み手をするゴブリンの商人を見るヒジリの視線が戻ってきた。
「サカモト粒子の事かね。その名前をなぜ知っている? 例の料理人か? しかし彼は科学者ではない。ウメボシ、オビオ君の居場所を確認してくれ」
ヒジリは料理人が不法入星している事を知っていたが、相手はただの料理人という事で放置していたのだ。
地球に帰った時に罰を受けないよう、入星許可証も密かに与えていた。
ただし邂逅した場合には滞在許可を取り消し、地球に帰還するよう命令するつもりだった。
「オビオ様の追跡ナノマシンが消えております、マスター」
羽なしのイービルアイはどうやって浮いているのか不思議に思うリンネだったが、慌てて話を繋ぐ。
「コックさんもビャクヤも、時間魔法の魔法陣の中にいましたから!」
「ほう。なぜ彼らが過去に行ったとわかったね?」
「時間魔法を使った本人がそう言ってました」
「では、その魔法の使い手に頼んだらどうか」
「ところが、彼はそれ以降時間魔法が使えなくなったのです」
「ふむ。君の話通りなら時間魔法は一度限りなのかね?」
「いえ、そんな事はないと思いますが、なぜか使えなくなりました。もし使えていたらタゴリさんを頼っていません」
「タゴリ? マスターの名はヒジリです。ヒジリ・オオガが正式な名前です、リンネ・ボーン様。ヘカティニス様同様、他人の名前を覚えない人ですね」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていい。どのみち君の力にはなれない。私は時間魔法も虚無の魔法も使えないからな」
「そうですか・・・」
「だが、虚無の魔法の使い手なら知っている。自由騎士セイバーだ。彼を探したまえ」
「でもどうやって・・・」
「そこまで面倒を見る事はできん」
至極当然の答え。自由騎士セイバーは伝説の人物である。時間から時間へ移動しているような人物を現人神でも探すのは難しいだろう。
どうやって会えばいいのかとリンネは悩む。
ヒジリとの話はここで区切られてしまい、考え事をしている間に後ろのゴブリンがリンネを押しのけるようにして国王に挨拶を始めた。
「ハァ・・・」
結局何も得られなかったリンネを城門で待っていたダークとピーターが近寄る。
「その様子からすると、現人神様からは良い返事はなかったんだね」
「うん・・・。自由騎士セイバーを探せだって・・・」
ピーターは手を顎にやって険しい顔をする。
「西の大陸の英雄か。色んな時代に現れては、吟遊詩人が歌う数よりも遥かに多くの人助けをして立ち去る自由騎士のオーガ。まぁ眉唾だけどな。色んな人の逸話を一人の鉄騎士にまとめたものだって言う奴もいるし」
「伝説の騎士・・・。キリマルが会った事があるって言ってたけど・・・。ビャクヤ曰く、セイバーさんはヤイバさんと同一人物でヒマリさんの息子・・・」
「惜しい、ヒジリな」
ピーターのツッコミを無視してリンネは考える。
「その奥さんは、あの帝国鉄騎士団団長のリツさん。確かヒジランドで外交官をやっていたはず」
帝国軍の要を他国に置くという酔狂な事をするヴャーンズ皇帝の考えは理解できなかったが、取り敢えずリンネはリツを探すことにした。
「ヒジランドの政治の中央って、この小さなピンクのお城だよね?」
「そうだろうね。樹族国で見たことのある役人の顔もチラホラ見たし」
ピーターは何か後ろめたい事でもあるのか、樹族国の役人にビクビクしながら、リンネの鎧の後ろに時々隠れる。
「また門を叩くの嫌だなぁ・・・。さっきは小さな地走り族の女の子が出てきてくれたから、気が楽だったけど・・・」
「フハハ! では我(われ)が魔界の門を! 闇の正拳突きで開いてみせよう!」
ダークの余計なスイッチが入ってしまった事をリンネは後悔する。
「いや、いいから・・・」
――――ドゴーン!
が、中二病の騎士は本当に正拳突きで城の門を吹き飛ばしてしまった。
ダークが怪力とは聞いていたが、ここまでとは思っていなかったのでリンネは驚く。
門の奥にいたのが砦の戦士だったのが幸いして怪我人はいない。オーガは飛んできた門が当たったぐらいではビクともしないのだ。
「おわぁ! 敵襲! カァチコミだぁぁ!」
城からオーガの叫ぶ声が聞こえてきた。
その叫び声に応じるように、昆虫の顔を模したような革のフルフェイスを揺らす。
「クフフ・・・。フハハハッ! 闇の声が聞こえる! この場の生者を全て屠れと誘う声が! 我の名はダーク・マター! 暗黒騎士魔戦将軍が一人! 名のある戦士は前に出て戦え!」
「え! そうだったの?」
驚くリンネに半眼のピーターが溜息をつく。
「暗黒騎士魔戦将軍なんて、初めて聞いたんだけど?」
「なんが、凄いのが来たど! あん・・・あん・・・? うん・・・? ウンコ食う騎士の万年ショーだってよ!」
頭の悪そうな若い砦の戦士の一人が、負のオーラを放つダークを見て慄く。
すると奥からベテランっぽい戦士が若いオーガに聞き返した。
「ウンコを食う騎士だと? そいつはいけねぇ! そんな頭のおかしい旅芸人をヒジリに会わせたらウメボシちゃんに怒られるわ!」
門の前に飛び出てきたのは、フットワークの軽そうなオーガだった。
ステップを踏みながら、両手を構えている。格闘家タイプだとダークも判断して大鎌をリンネに預けた。
「戦闘において我は万能。貴様の土俵に立って! 貴様を地面に這いつくばらせた後! 問答無用で押し通ーーーーーる!」
暗黒騎士の意気込みに、常に前から風でも受けているような髪型のスカーはヒュー! と口笛を吹いて軽くジャブを空打ちした。
「へへへ! 俺は砦の戦士スカーだ。悪いが国王様にウンコ食い芸を見せるわけにはいかねぇ!」
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