殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
上 下
253 / 299

オビオ蘇生

しおりを挟む
 この未知なる時代・世界で、ビャクヤは自分の置かれた状況をすぐに察知したのか、慌てる事もなく俺の腕の中で詠唱を開始し始めた。

 左手に干からびた何かを持っている事から、ビャクヤが触媒を使っているのが分かる。

 こりゃあ特大魔法が来るぜぇ。

「ブチュリ・・・。ビヨーンド・・・。ウーーーーリタァァァリホォォンヌッ!」

 なんだその詠唱は・・・。

 高位のメイジ程、詠唱はいい加減らしい。それを簡略化とか効率化とか言っているが、要は魔法のイメージさえ掴めれば何を唱えようが、魔法名がデタラメでも発動するのだ。

 「【極寒地獄】ッ!」

 それを見たサーカが泣き喚く。

 「氷系最上位魔法だと?! やめろぉぉ! なんとか躱せ、オビオォォォ!」

 相手の魔法の総合能力をオーラで見ることのできる樹族にとって、この魔人族の発動させる魔法が常軌を逸するものだと分かる。

「この魔人族の魔法の総合能力は、闇魔女様以上だ! 聞こえているのか、オビオ!」

 最早、自我を失っているように見えるオビオに、助言などしても無意味だと思うがな。

 そもそもビャクヤの魔法を躱しようがない。

 勿論、魔法無効化や魔法回避率という概念があるが、生まれついたその時からその数値は変わらない。

 ヒジリやマサヨシのようなチート能力者じゃない限り、魔法なんてものは基本的に無効化できないのだ。

 抵抗数値を上げる為のアイテムが見つかるのは稀で、目玉が飛び出るほどの高額なのに、上位冒険者たちが即買いしてしまうので、店からはすぐに消える。なので市場には中々出回らない。

 よって普通の冒険者は基本的に、自前の魔法防御力と精神力による呪文抵抗に頼ってダメージを軽減するしかない。

 ナノマシンで竜化したオビオがどこまで竜を再現しているのかによって、ビャクヤの最上位魔法のダメージ量が決まる。

 あの姿が魔法に対してハリボテならば、魔法抵抗に成功しても瀕死、更に即死判定もある。二重の抵抗を試みるのは無理だ。

 しかしオビオはヒジリと同じ地球から来た人間。普通よりは魔法抵抗力が高いはず・・・。

 ヒト種というのは複数の魔法抵抗が必要な場合、ダメージ軽減を優先する。

 オビオの体の芯から発生した冷気は、菌糸のように氷の枝を張り巡らせて竜の体を包み込む。

 どうやらビャクヤの魔法が勝ったようだ。物理防御は高いが、竜のような高い魔法抵抗力は、ナノマシンでも再現できなかったらしい。

「ふぅ、やっぱ魔法使いってのは必要だな。物理攻撃が効かない相手にはビャクヤみたいなのが頼りだぜ」

 俺がビャクヤを褒めるも、本人は項垂れている。

「はぁ・・・。吾輩は・・・・。善人を殺してしまった」

 気落ちするビャクヤを、サーカが短い足を伸ばして蹴ろうとした。

「貴様ぁぁぁ! オビオを殺したな! 許さんぞ!!」

 しかし、ビャクヤのマントが自動的にそれを弾いた。

「おい、勝負はほぼついただろ。お前単体でどうやって俺らに勝てるんだ? そもそもここはどこだ」

 俺の言葉にサーカの勝気な目が返ってくる。

「うるさい! ここがどこかなんて、最早どうでもいい!」

 諦めの悪い樹族だなぁ。

 が、勝ちを確信したその時、氷が砕ける音がした。

「チィ! やっぱり簡単にはいかねぇか」

 俺は空中に飛んで逃げようかと考えたが、結局その必要はなかった。

 砕けた氷の中で竜も砕けて、機能を停止したナノマシンが氷の割れ目から灰のように風に飛ばされていく。

 そして、浜辺に転がる死体が一つ。

 オビオの亡骸が砂浜と波の間でうつ伏せになって倒れていた。

「オビオォォ!」

「もう諦めろ、サーカ」

 腕の中で暴れるサーカのポニーテールの紐が解けて、モモと同じ色の髪がストレートになる。

 俺はサーカを離すとしたいようにさせた。

 サーカはオビオを波の近くから引っ張って砂浜へと移動させ、蘇生を試みる。

 蘇生つっても鼻を摘んで接吻をして、息を通し心臓を押す、を繰り返しているだけだ。

「嫌だぁ! お前は私のクマちゃんなんだぞ! 死んでいいはずないだろ! 私をもうこれ以上、一人ぼっちにしないでよぉ!」

 その光景を見たビャクヤが、仮面にショボーンとした顔を浮かべて俺を見ている。

 やだねぇ、善人ってのはすぐに相手の感情に共感して可哀想がる。

「勿論、キリマルはオビオ君を生き返らせてくれますよねッ? (´・ω・`)

 俺が渋っていると、段々顔を寄せてくる。ショボーンの顔に影が増す。

「顔が近いな! おい! いいか、ビャクヤ。あいつは俺を相当憎んでいる。生き返らせても厄介なだけだぞ。俺だけが憎まれるのはいいが・・・」

 そこまで言って俺は言葉を飲み込んだ。

(お前をオビオの憎しみに巻き込みたくねぇんだわ)

「ウフフッ! 問題ありませんよッ! 吾輩、料理人に負けるほど弱くありませんからッ! それにしてもキリマルはどうしたのです? 金槌みたいな悪魔の心から親みたいな感情が伝わってきますんごッ!」

「こら、心を読むな! それから受け口で俺の顔マネをするな! 仮面が少し浮いているからわかるんだぞ! いいか、お前と離れていた間、おれは自由に人殺しを楽しんだ。逃げ惑う弱者を残虐に残酷に殺して笑っていた。そして純粋真っ直ぐ君なオビオはそれを目の当たりにし、誰も守れなかった自分と、人殺しを楽しんでいた俺を憎んだ。多分、奴の住んでいた星の国では到底起こり得ない虐殺だったんだろうよ」

「わかりまんしたッ! 悪魔が殺しをするのは当然の事ッ! しかし契約が弱まっていた間の出来事とはいえッ! キリマルの責任は全て吾輩の責任ッ! 誠心誠意、吾輩が謝りますッ! なので、今すぐオビオ君を生き返らせてカキフシャシャラァァァー!」

 ビャクヤは喋り終える前に、クルクルとドリルのように回った後にオビオを指差した。

 最後なにを言ったんだ? 早く行って蘇生してこい的な? 相当俺に怒ってるな、ビャクヤは。

「仕方ねぇ・・・」

 可愛い子孫の命令だ。

 そもそも竜に变化したら元に戻らなかったんじゃないのか? Qよ。

 オビオは人の姿に戻っているぞ。なんなら赤古竜の鎧もゆっくりと再生してんだが。

 鎧のナノマシンが増殖を繰り返しているな。しかしそのスピードは遅い。悪魔の目は便利だねぇ。

「どけ」

 俺はサーカを蹴り飛ばすと、後ろでビャクヤが「これっ!」と怒った。爺みたいな怒り方すんなよ。リンネか!

「貴様ァァァ!」

 サーカがメイスを抜く。勿論メイスは【光の剣】の魔法で、ライトソードみたいになっている。

「うるせぇ! そこで黙って見てろ! 愛しい恋人を生き返らせたいんだろ?」

「ぐ・・・、ぐぎぎぎ」

 サーカの耳は怒りによるものか、照れからくるものなのかはわからねぇが、真っ赤になっている。

「はぁ・・・。めんどくせぇ奴を生き返らせたくねぇなぁ・・・。なぁ、アマリよ」

「本気でそう思っている事を確認」

 腰のインテリジェンスウェポンは感情なくそう答える。

 生き返らせたくない、つまりずっとこのまま死んでいて欲しいと願いながらの一突き。

「・・・」

 サーカは何も言わなくなった。こいつはアマリの力を知っているからな。あの集会場で人々が蘇る光景を目の当たりにしただろうから、サーカは確実にアマリの能力を知っているはずだ。

 俺が殺意を込めて魔剣天邪鬼で斬った相手は暫くして蘇る。

 それにしても、胸糞悪いシーンを見なくてよかったぜ。カルト村で死んだ騎士や村人が蘇ってハッピーエンド。オエッ!

 だが俺自身が殺した奴は蘇らない。アマリで死体を刺さない限り。

 確か数人は爆発の手で殺した。だから蘇生は無しだ。だからオビオは怒っていたのだ。

 五分後、サーカはメイスを砂に落として、上体を起こすオビオに抱きついていた。

「馬鹿オビオ! お前なんか死んだままでよかったんだ! 剥製にしてクマのぬいぐるみを被せてやるつもりだったのに! 生き返ったからにはまた毎晩添い寝をしてもらうぞ! それから甘いデザートも毎日作れ! それから・・・それから・・。うわぁぁん!」

 泣き出すサーカの頭を優しい顔で撫でたオビオが、次に俺を見た時には、やはりというか、目に憎しみが籠もっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【R18】追放される宿命を背負った可哀想な俺、才色兼備のSランク女三人のハーレムパーティーから追放されてしまう ~今更謝ってきても

ヤラナイカー
ファンタジー
 ◯出し◯ませハメ撮りをかまして用済みだからもう遅い!~ (欲張りすぎて、タイトルがもう遅いまで入らなかったw)  よくある追放物語のパロディーみたいな短編です。  思いついたから書いてしまった。  Sランク女騎士のアイシャ、Sランク女魔術師のイレーナ、Sランク聖女のセレスティナのハーレムパーティーから、Aランク|荷物持ち《ポーター》のおっさん、サトシが追放されるだけのお話です。  R18付けてますが、エッチと感じるかどうかは読む人によるかもしれません。

処理中です...