殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
上 下
227 / 299

うざいピーター君

しおりを挟む
 俺とビャクヤとリンネは城からの呼び出しを受けて、トンデ・モ・ネレにある馬車駅まで向かっていた。

 しかし俺はこの無駄な時間が嫌いだったので、ビャクヤに文句を言う。

「転移魔法でちゃっちゃと行けばいいだろがよ。なんで一々、馬車で移動しなけりゃいけねぇんだぁ?」

「無粋ッ!」

 変態仮面に質問するんじゃなかったと俺は後悔する。

 こいつはなにか言う度にポーズを取る男だからだ。ビャクヤは今も無粋とブスいを掛けて、散歩途中の不細工なブルドッグを指差そうとし、リンネに指をチョップされている。

「コレ!」と婆ァがガキを注意する時みたいな声を出して、ビャクヤの指をチョップをするリンネの向こう側で、建物にもたれ掛かって石を蹴るピーターの姿が見えたが、俺は無視をする。

 ――――が、しかし。

 馬車駅まで歩こうとすると、同じ背景と通行人を繰り返し使っていた昔のアニメのように、視界の端で何度も邪悪なるピーター君が寂しそうに石を蹴っていた。

 うざってぇこと山の如し。空を見る以外どこにでも視界に入ってくる。あの地走り族を切り刻んで殺してぇ・・・。

「なんだ! ゴラァ! 糞ピーター! 俺様の周りをチョロチョロしやがって! ぶっ殺すぞ!」

 いい加減苛ついたので吠えると、ビャクヤとリンネがびっくりして俺を見る。

「どうしたねッ! キリマルッ!」

「ピーターって誰?」

 ピーターが白々しさ百%のキョトンとした顔で近づいてくる。

「あれ?! キリマルじゃないか! 昨日の今日で会えるなんて運命だね!」

 このクソチビ地走り族の体で、俺の新必殺技を試してぇ!!

「やだぁ! 可愛い! キリマルの知り合い? 子供の知り合いがいるなんて、キリマルも可愛いところあるじゃん!」

 リンネがピーターを抱きしめて頭を撫でている。

「僕、何歳?」

「十一歳でしゅ」

 意外と微妙な年齢だったのでリンネは戸惑ったが、それでも頭を撫でているとピーターはリンネの胸に顔を埋めた。

「お姉さん、なんだか良い匂いがするよ!」

 だろうな。発情した雌豚の匂いだ。と心の中で思っているとビャクヤが背後から膝カックンをしてきた。

 俺は思わずよろめく。

「吾輩の彼女をッ! ビッチみたいに言わないでくれますかッ!」

 ビャクヤは仮面に“阿修羅面・怒り”みたいな表情を浮かべている。

「勝手に俺様の心を読むな!」

 油断しているとこいつはすぐに心を読んでくる。わざわざ俺の魔法防御力やレジスト率を考慮して、スキルで魔法貫通力を上げてまで。

 そして、リンネの大きくも小さくもない胸に顔を埋める邪悪なるピーター君を、さり気なく魔法で鑑定している。ビャクヤも用心深くなったもんだ。

「ダウトッ! リンネ! 彼から離れて下さいんぬッ! 彼は地走り族でッ! 年齢は十六歳ッ! 地走り族の成人は十五歳ッ! 彼は立派な大人の男性ですよッ!」

 人を疑うことを覚えたビャクヤは、紙をくしゃくしゃに丸めて捨てる動作をした。それダストな。

「え~~~!」

 リンネはピーターをドンッ! と押して突き放した。

「ひゃっ!」

 哀れさを誘うような目をリンネに向けた後、突き放されてから数秒経ってから、ピーターは手札の中にあった“押されて転んだ”というカードを使った。

 しかし俺はそれを完全に無視して、ビャクヤとリンネに注意をする。

「ってか、ビャクヤは元々地走り族を知っているだろうしよ、リンネも俺を呼び戻すために西の大陸に行ったんだろ? だったらよぉ、地走り族か人間の子供かの見分けぐらいはつくだろが」

「それはウンコ無理無理」

 上品な生まれのビャクヤは“クソ”という言葉を滅多に使わない。ウンコ無理無理とはつまり糞無理無理という、最上級の表現だと思われる。

「ウンコ?!」

 腰でアマリが嬉しそうに反応した。

「ここにウンコはないぞ。黙ってろ」

「残念・・・」

 残念なのはお前だ、アマリ・・・。

「無理だよ~。だって地走り族って耳が大きいだけの子供みたいだもん。耳が大きい子供なんて割といるよ?」

 リンネは自分の耳を手で立てて大きく見せた。

「じゃあこれからは地走り族かどうか分からねぇ時は、足の裏を見せてもらうことだな。地走り族ってぇのは、足の裏にモジャモジャした毛が生えているからよ」

 地走り族は素足になると途端に足音がしなくなるのはこのせいだ。もし、格闘家兼スカウトの地走り族がいたら不意打ちコンボで結構なダメージを叩き出すかもな。

 転んだふりをした自分に誰も手を差し伸べないと気づいたピーターは、一瞬だけ邪悪な顔をして立ち上がり、尻の土をはらった。

「僕ね、一文無しなんだぁ。なにせ、いきなりこの国に転移させられたからね」

 あ? お前の一人称は俺だったろ。なんで僕に変わってんだ。

 それとこいつはニムゲイン語を喋っているな。なんでだ? リンネは通訳用のマジックアイテムを持っているからピーターの言葉はわかるだろうが、昨日の観衆がこいつの言葉を理解していたのはどういうこった? ってか今頃気づいた俺も間抜けだ。

「彼も中級の冒険者ですからねッ! それなりにマジックアイテムを持っていますよッ! 知性のある魔物と交渉する時用にッ! 翻訳のペンダントを身に着けていまんもすッ!」

 またビャクヤが俺の心を読んだ。

 そうだった。ピーターは盗賊としてそれなりに優秀なんだわ。パチンコで俺の口に麻痺毒クッキーを入れるという離れ業をして見せたのだから。

「お前は昨日、俺様を利用して金を稼いだはずだろ? あの金はどうした」

「知らない人たちに騙されてお金を取られちゃったんだぁ、僕」

 そう言ってピーターは小石を蹴るが、石は意外と根が深くてつま先を痛めただけだった。ざまぁ。

「酷い!」

 真っ先にピーターの言葉に騙されたのが、騎士の子リンネだった。が、すぐにビャクヤが恋人に真実を伝える。

「いや、彼は嘘を言っていますからッ。実際のところッ! ピーター君はッ! 娼館に入ってお金だけ取られて追い出されただけデスッ!」

「え! さ、最低・・・」

 白眼視をしてくるリンネに動じる事なく、邪悪なるピーター君は邪悪な顔をしてふんぞり返った。

「僕は大人だからね。大人とはそういう事をするものさ。でも騙されてお金を取られたのは事実だろ!」

「ま、まぁ・・・。騙された事には変わりないわね」

 フンと鼻を鳴らして勝ち誇るピーターに苛立ちが募る。

 俺は爪をカチカチ鳴らしながらイキる地走り族に問う。

「それが俺らとなんの関係がある? 金を取り戻すのを手伝えと、都合の良い事を言いに来たわけじゃないだろうな? ああ?」

「ち、違うよ! 今日の朝、冒険者ギルドに登録しに行ったら、君たちの噂でもちきりだったんだ。魔法院潰しが帰ってきたって」

「我々が直接ッ! 魔法院をッ! 潰したわけではありませんがねッ!」

「それで?」

 早く用件を言え。できればピーターの首を刎ねたいので、糞みたいな返答を期待している。

「近々闘技大会が開催されるらしいんだ。勿論君たちも出るよね? 賞金は金貨一千枚だよ! だから僕を君たちのチームに入れてほしいんだ!」

「断る。出るかどうかすら決めてねぇからな。それに闘技大会なんて初耳だしよ」

「二年前に闘技大会を開いたばかりで、その情報は恐らくなにかの間違いでしょうッ!」

「いや、こればかりは本当だよ! ギルドの掲示板に告知が貼ってあったもの!」

「だとしても、ギルドまで行って確認する時間はねぇ。俺らは今から城へ行くからな」

「だったら、僕が言った事が本当かどうかわかるよ。城のお偉いさんに聞けば一発でわかるから。僕もついていくよ!」

 そう言うとピーターは、迎えに来ていた城の馬車にスルリと乗り込んでしまった。

「どうする?」

 俺はリンネに訊く。

「私達が大会に出るかどうかは別として、連れていきましょ。彼も大会があるとわかれば気が済むでしょうし」

 まぁな。断れば確実にここでリンネに縋り付いて、「お母さぁぁぁん!」って演技を始めるだろうしよ、この邪悪なるピーター君は。マジクソうぜぇ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】追放される宿命を背負った可哀想な俺、才色兼備のSランク女三人のハーレムパーティーから追放されてしまう ~今更謝ってきても

ヤラナイカー
ファンタジー
 ◯出し◯ませハメ撮りをかまして用済みだからもう遅い!~ (欲張りすぎて、タイトルがもう遅いまで入らなかったw)  よくある追放物語のパロディーみたいな短編です。  思いついたから書いてしまった。  Sランク女騎士のアイシャ、Sランク女魔術師のイレーナ、Sランク聖女のセレスティナのハーレムパーティーから、Aランク|荷物持ち《ポーター》のおっさん、サトシが追放されるだけのお話です。  R18付けてますが、エッチと感じるかどうかは読む人によるかもしれません。

魔王の娘な陰キャロリ巨乳トラップマスターが罠で勇者を発情させ過ぎて、オナニーに夢中な姿を発見されて襲われ連続敗北イキして裏切り幸せ堕ちする話

フォトンうさぎ
ファンタジー
魔王の三女、ダルクネス・ユビドラ・フォーレンゲルス。通称、トラップマスターのダルクネス。彼女は魔王の子として生まれたとはいえ、魔力も体力も弱くて扱いも酷い一人ぼっちの根暗魔族であった。 貧弱でロリ巨乳な彼女がやることといえば、自分が作ったトラップだらけのダンジョンを監視しながら、哀れに散る冒険者達を観察しながらの引きこもりオナニー。 そんな彼女は今回、ダンジョンを攻略しにきた勇者クオンたちへ、特殊な催淫トラップを使用してその様子と快感を楽しんでいた。 しかし、勇者はいつの間にか催淫トラップを乗り越えて監視を潜り抜け、のけぞるほど激しい自慰をしているダルクネスの元までたどり着いていて……。 表紙は『NovelAI』に出力していただきました。

【R18】聖処女騎士アルゼリーテの受難

濡羽ぬるる
ファンタジー
清楚な銀髪少女騎士アルゼリーテは、オークの大軍勢に屈し、犯されてしまいます。どんなに引き裂かれても即時回復するチート能力のおかげで、何度でも復活する処女を破られ続け、淫らな汁にまみれながらメスに堕ちていくのです。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

処理中です...