殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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キレるキリマル

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 白獅子トウスと戦いながら、俺はサーカの力も試してみる事にした。

 取り敢えず、邪魔な獅子人のブロードソードを弾いてよろめかせ、その隙に一直線にシルビィの部下へと向かう。

「そら!」

 通常攻撃が五回、サーカのターゲットシールドを叩く。敢えてそうしてやってんだ。本人は自分で反らしたと思っていそうだが。

 攻撃を防いだサーカから、即座に無詠唱の【魔法の矢】が飛んでくる。この矢は割と追尾してくるからバックステップで追いつかれないように動いて叩き切る。

「どうなっているのだ! あの刀は! くそ!」

 オビオの女は改めて悔しそうにして、それから自分の盾を見ている。

 魔法を簡単に無にしてしまうアマリの力もさることながら、盾がボロボロになっている事にも脅威に感じたらしい。

 それでも力加減してやったんだぜぇ? 中々難しいんだ、手加減ってのは。本来なら俺は、トンカチみたいな姿の悪魔なんだぜぇ? ワイルドだろう?

 俺は次に、まだノロノロと着替えている修道騎士に目をやった。

「あの野郎、本気でサーカを狙っていなかったのか! 後ろで着替えてるメリィさんとの間合いを測っているんだ!」

 オビオがそう喚いたあと、メリィを守ろうと彼女の近くまで走っていく。

 だから厚かましいんだわ、お前。料理人ごときが誰を守れるってんだぁ? えぇ?

 サーカもそれに気が付いているのか、【物理防壁】を唱えた。バリアがメリィとオビオを包む。

「そんなもの、妖刀の前では無意味だぜ? おっと!」

 トウスが爪で襲いかかってきた。接近戦で遊べるのはこいつぐらいだ。

 なんとか戦えているように見える獅子人を見て、樹族の騎士たちに士気が戻ってきた。

 素人ってのは達人が簡単そうに何かをやってると、自分にもできると勘違いするンだよなぁ。

 俺もロックスターを見て、エレキギターなんて掻き鳴らすだけの簡単な玩具だろうと思ってたがよぉ。弾いてみたら、まともな音すら出せなかったぜ。何事も積み重ねや練習が大事だって事か。

 それがわかっていない王国騎士たちが、戦闘スタイルを接近戦に切り替える。

 中盾を構えて【光の剣】を詠唱すると、魔法で生み出された輝く剣を構えた。振るとライトセーバーみたいな音がする。

 じわじわと取り囲む騎士たちの中にオビオもいた。まぁお前が何をしに来たのかは、お見通しだけどな。

「なにをしに来た? オビオ。普段の雑魚戦と違って今回はお前の出番はないぞ」

 ピンクの前髪に隠れる冷たい目が、オビオを睨んでいる。

「フッフッフ。それはどうかな。それにしてキリマルは素早いな・・・。あの素早さを食い止めるには【捕縛】とかお前の得意な土魔法の【蔦縛り】か?」

「オーガの小さな脳では、これまで見た出来事が理解できないようだな。あの刀は何度も魔法を無効化していただろう! お前が言うような魔法は、私も他の騎士もとっくに使っている。だが奴はトウスを盾にするような動きをしたり、即座に呪文に反応してあらゆる魔法を切り捨てる。隙を見せないのだ」

 二人がイチャイチャしている間にも、ライトセーバーを意気揚々として振る騎士を俺は数人殺した。

 今回は首を真上に跳ね上げたりせず、地球を透過する暗黒物質のように斬って回っているので、騎士たちは仲間が死んだことに気が付いていない。

 傷口がぴったりとくっついているのだから、自分が斬られた事に気が付かない騎士はそのまま動いてゴロリと頭を落とす。

 それからようやく仲間が味方の死に気が付て騒ぐ。

「くそ! 何人かやられたぞ!」

「馬鹿が、後ろに下がれ、菜の花騎士団! 聞いているか! 副団長!」

 王国近衛兵騎士団独立部隊隊員サーカは、左手を水平に薙ぎ払って怒鳴る。

 シルビィの部下の立場や権限が、どれほどのものかは知らないが、菜の花騎士団の副団長に戦闘に参加するなと命令したのだ。その判断は正解だ。

(賢明だな。俺の通常攻撃で簡単に死んでしまう程度の練度の低い騎士なぞ、何人いても無意味だからな。蟻に砂糖をやらないという判断は正しい)

 しかし傲慢な顔をした菜の花騎士団の副団長は、彼女の命令を無視した。

 なぜ無視したのか。多分、無視するだけの理由があるからだろうよ。

 そう。俺が斬ったはずの騎士が誰一人として死んではないなかったのだ。何事もなかったように普通に立っている。俺は幻でも見ているのだろうか?

(おかしいな。即座に蘇生などしねぇはずだぞ)

 俺は刀を見たが、アマリは何も言わない。って事はアマリに関係のない事なのだろう。

「あれ、でも騎士減ってなくね?」

 オビオも騎士が死んでいない事に気がついて、コソコソとサーカに訊ねている。丸聞こえだ。

「・・・ん? あぁ、そういう事か。あいつらは身代わり人形を持っているのだな。だとすれば今斬られた奴は死んでいない。代わりに懐に入れてある藁人形が壊れたはずだ」

 ほぉ~、便利なアイテムだな。これだから魔法ってのはワクワクするんだわ。

「でも次はないんじゃ・・・」

 オビオは心配そうにしていると、サーカは鼻を鳴らした。オビオの心配通り、身代わり人形などその場凌ぎの愚策でしかないという事だろう。

「うむ、高価なマジックアイテムだからな。菜の花の騎士らは王国騎士団所属とはいえ、買えても各々が精々一個だ」

 じゃあ次はないってこったぁな。それでも騎士を前に出す副団長は鬼畜だねぇ。クハハ!

 案の定、騎士たちは戸惑っている。まだ斬られていない者は、俺に攻撃するかどうか二の足を踏んでいた。

 戦う気満々で鼻息が荒いのは副団長だけだが、それとは裏腹に奴の脚は震えている。

 まぁそうだろうな。お前ら騎士の攻撃が俺に当たる確率はほぼゼロだ。ロト7で一等を当てるぐらいの確率だろうよ、知らんけど。

「もういい! 下がれ、役立たず!」

 サーカの怒声が飛ぶと、副団長もこれ以上の接近戦は意味がないと理解したのか、合図を出して下がり始めた。

 俺を囲む輪が崩れたのでその隙間を狙って、オビオの恋人サーカをもう一度狙った。

 と見せかけてサーカをスルーし、まだ鎧を着るのに手間取っている修道騎士に襲いかかる。

 のろまのメリィの手前現れた【魔法防壁】を叩き切り、そのまま突っ切る。

「さっきから獅子人の傷が回復してんだが、お前の奇跡のせいか? うっとおしいぜ、尼さんよォ!」

 俺が楽しみながら、少しずつ殺さねぇようにトウスに与えたダメージが、じわじわと回復しているのはこいつの仕業だろう。料理人の付け焼き刃な再生魔法程度でここまで回復はしねぇ。

 能力の高い者が集うオビオのパーティで、こいつだけ無能ってこたぁないだろ。コソコソと回復していたにちげぇねぇ。

「ああーっと! キリマルがメリィを襲うーー! しかしそれをサーカが盾で防いだーー!」

 しかしサーカはそうはしていねぇ。サーカは既に俺の五メートル後ろにいる。

 そこから高速で動いて、俺のいる場所までバックステップをして盾を構えたとしても間に合わねぇ。物理的に不可能だ。

(なるほど、神にも無理な事は無理なんだな)

 ゴブリン糞神の、吟遊詩人としての能力にも限界があるようだ。事象の可能性以上の動きはさせられないという事だ。

 トウスが俺の無残一閃を回避できたのも、あの獅子人の能力ならギリギリ可能だったという事だ。

 しかし今回のメリィをサーカが守るという行動は、何度シミュレートしようが無理なんだろうさ。

 どう足掻いてもトウスよりも機動力の劣る女騎士サーカでは、メリィを守る事が不可能ってこった。

(死ねや、メリィ!)

 ヒーラーを真っ先に狙うのは戦いにおい定石。まぁ俺は真っ先に狙わなかったがよ。だが、その覚悟ぐらいあったんだろう? メリィさんよぉ。

 メリィを守らせるなら、オビオにやらせるべきだったな、クソ神。オビオの方が近くに・・・。

 ―――ドンッ!

 衝撃で脳が揺れる。

 背中に身長二メートル半の大男の体当たりが当たったのだ。オビオだ。

「なに?」

 俺は吹き飛んで地面に這いつくばった。勿論すぐに立ち上がって姿勢を戻しつつオビオを見た。

 こいつにそんな身体能力はないはずだぞ。なにせ戦闘職じゃねぇからな。ただのコックさんだ。もしかして足技か何かを駆使して戦うコックさんなのかぁ?

 あ~、今のは完全に俺のミスだわ。オビオを意識しておきながら、戦力として見なしていなかった俺のミス!

 自分に腹が立つねぇ。こういった油断を反省し、今後の戦いの糧にできればいいがな。

 俺はオビオに対して殺意を籠め、額に血管を浮き上がらせながら刀を上段に構えた。

「お前は最初か最後に殺すと決めてたんだがよぉ、気が変わった。今殺してやるぜぇ。クハハハハ!」
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