殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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神気を放つゴブリン

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「やりすぎだ! キリマルさん! さっきから何人殺してんだよ! もういいだろ!」

 オビオは鎧を着るのに手間取りながら、そう喚いて魔法を使った。

(ほぉ~! 【再生】の魔法か。樹族の小僧の腹の傷が刀を締め付けるようにして治っていくが、残念ながら完治する前に出血死だ。修道騎士は何をしている?)

 オビオ同様、鎧を着るのに必死なメリィは、若い信者の致命傷には気付いていない。

 俺は信者の腹から刀を抜くと、その信者の首を刎ねた。

(キヒヒ! 次はお前だぜ? オビオォ!)

 しかし、俺の刹那の攻撃を剣で受けた奴がいる。

 トウバの息子だ。こりゃあ相当の強者だな。本気を出していないとはいえ、一秒間に五回訪れる斬撃をトウスはブロードソードで全部受けやがった。

 中級冒険者って感じなのによぉ、才能を感じるねぇ。

 トウスは吠えてから後ろのオビオに指示を出す。

「離れてろ! オビオ!」

 攻撃を受けながら、ただの料理人であるオビオを余裕なく守る獅子人に、俺は訊ねてみた。

「トウバは元気か」

 しかし悪魔の戯言かなんかだと思っているのだろう。トウスは答えない。

 それもそのはず、刀と剣の押し合いの中、ブロードソードに映った俺の目は悪魔の目をしていたからだ。おかしいな、召喚されてから村の広場に向かう途中で、ちゃんとした人間に変身し直したのに。

「こいつはオビオを殺す気でいたぞ! 間違いなく殺意の籠った目でお前を見ていた!」

「ばかな! キリマルさんは俺らの味方・・・」

 オビオは動揺しているねぇ。甘ちゃんなんだよ、お前は。

「ヒャハハハ! その信頼を裏切られたって顔ぉ! いいぜぇ? オビオォ!」

 それにしても、いつから俺の姿が変わっていた?

「神属性の者がここにいる」

 俺の考えを察知したアマリがそう言った。

「なんでそんな事がわかる?」

 俺はトウスとまだ力比べをしながら相棒に訊く。が、こういった押し合いでは純粋な戦士であるトウスに分がある。

 押されながらアマリの解説を聞く。

「私は神に一度会った。キリマルは覚えていないだけ。神気にあてられて、キリマルの本性が出た」

 そう言われてヒジリの匂いを探る。が、奴のフェロモンは皆無だ。

「ヒジリはいねぇぞ」

「ヒジリじゃない。この星の、純粋な精神統合体」

 押されながら俺は、呆気に取られて誰も動こうとしない部屋の中を見える範囲で探る。

 雑魚騎士の他には、シルビィの部下、鎧を着るのに手間取っているオビオと修道騎士。

 俺を見てヤバいと思った”邪悪なるピーター君“が、スーッと真顔で消えていく。隠遁スキル使いやがった。

 ピーターがバックスタブを狙ってきたら、嬉々としてカウンターをさせてもらうぜ。あいつぁ見ててイラっとする奴だからなぁ。

 なんかゴブリンみたいなのが集会所の入り口にチラチラ見えるな・・・。

 今は闇側の種族が樹族国を旅できる時代だという事か。

(まぁ相手がなんだろうが、今の俺はここにいる奴らを全員殺せる。が・・・・)

 今回に関して、俺はコズミックペンのシナリオには従わねぇ。従わねぇとどうなるか知りたいからな。死にはしねぇだろ・・・。多分。

 あれこれ考えていると、右肩に痛みが走った。見るとトウスの爪が食い込んでいる。

 奴はブロードソードを右手で片手持ちしているからな。もう片方の爪で攻撃できる事を忘れていたぜ。

 獣人の爪は種族にもよるが、獅子人だとロングソード並みの威力がある。猫人ですらダガー程度の脅威があるんだわ。

「チッ! いてぇな」

「だろう? 他にも自前の武器はあるんだぜ? 俺は素手でも並みの戦士には負けねぇ自信がある」

 そう言ってトウスは牙を見せて笑った。

 ライオン丸がイキるんじゃねぇぞ。俺はイキるのは好きだが、イキられるのは嫌ぇなんだよ。

 トウスが更に牙を剥いて威嚇をしてきた瞬間、奴の手の力が緩んだ。

(アホめ、調子に乗るからだ)

 俺はトウスのブロードソードを弾き飛ばす。

 ガードの付いてない片手剣を弾くのは簡単だ。鍔迫り合いをしている部分を支点にして、長い刀の柄でトウスの剣の鞘を上に押し上げるだけだからな。

 とはいえ器用さと素早さに特化している俺だからできる芸当だ。

(詰んだな、トウバの息子)

 俺は息を軽く吸って腹の底から声を出した。

「無残一閃!」

 近距離からの悪魔の攻撃だ。

 広範囲技だし、絶対に躱せねぇぞ。しかし残念な事が一つ。技発動前にトウスがじりじりと位置を変えて背後に誰もいない場所に立ったのだ。

(か~、あの女騎士といい、こいつといい、一々有能だな)

 範囲内に誰かいりゃあ、この技に意味があった。だが、得意技だからといって無意識に無残一閃を使ってしまう俺にも問題有りだな。

(だがなぁ! 死は免れねぇぞ? トウス!)

「あぁぁーーっと! キリマルの一薙ぎをトウスが避けたぁーーー!」

 ―――は?

「なんだぁ? あの糞チビは。なぜ俺様の名前を知ってやがんだ」

 俺が技を放ったと同時に集会場の入り口で、ゴブリンがマイク実況を開始した。というか、俺の心を読まねぇとそんな芸当は無理だろうが。あいつか? あのゴブリンが神気を放つ神か?

 ゴブリンを見ている刹那の間に、回避不可の無残一閃を、トウスはブリッジをして避けた。慣性の法則とか重力とかを一切無視したような動き。ありえねぇ。やっぱりあのゴブリンは神だ。

「誰だよ! こんな時にふざけて!」

 オビオが喚く。お前、仲間の能力も知らなかったのか。その右手に光る上位鑑定の指輪は何のためにある?

「嘘・・・だろ?」

 一番驚いているのはトウスだった。

 だろうな、ある程度の実力がある戦士なら、今の一閃は絶対に避けられないと瞬時に悟るはずだからよぉ。

「いいぞーー! トウスはそのまま転がって刀の攻撃範囲から出るぅーー!」

 また糞ゴブリンの実況。その実況の通り、トウスは俺の無残一閃の範囲から出た。まぁその位置にいても神速居合斬りで殺せるがな。

「どういうことだ・・・?!」

 オビオが不思議そうな顔でゴブリンを見た。するとオビオの彼女が真面目な顔で解説を始める。

 お前ら、なんだかんだ言って余裕があるな・・・。

「聞いた事がある・・・」

「知っているのか? テリーマン!」

 そのネタ・・・。この場にいる俺以外、誰に通じるんだぁ? オビオよぉ。

「誰が、テリーマンだ。もう一度その小さな脳みそに私の名前を刻んでおこうか? 私の名はサーカ・カズンだ。よく覚えておけ」

 ほぉ、オビオの彼女の名前はサーカ・カズンというのか。美人だがキツイ顔してんなぁ。如何にも傲慢な樹族といった顔だ。ワンドリッターの血筋か?

「で、何を聞いたって?」

 オビオが話を元に戻す。

 俺も解説が気になって、トウスを睨みながら間の読み合いをしているフリをした。

「吟遊詩人についてだ。奴らは基本的に戦場に出てこないから、私も詳しい事は知らないのだが、戦いの場において吟遊詩人は、歌や音楽で味方を奮い立たせたり、回避力を高めたりとサポートに特化した役割を持っているらしい」

「でも、ヤンスさんは実況しかしてないけど・・・」

「ヤンスの手元を見ろ」

 実況してんだから、マイクぐらい持つだろうよ。

「恐らくあれは魔法の拡声器か何かなのだろう。実況されるとなるべくそのように動くよう魔法がかかっているのではないかな? 実況も歌のように聞こえなくもない」

 マイクを見た事がないのか。それにしても・・・。ほ~。なんだそのご都合主義漫画みたいな設定は。

 オビオはサーカの言葉を鵜呑みにしている。急に顔が明るくなりやがった。あのヤンスとかいうゴブリンをリスペクトして見ている。

「トウスは転がった先で、落とした剣を拾うぅーッ!」

 奴の実況通り、トウスは横転してブロードソードを拾った。トウバの息子は明らかに素早さが上がっている。

 実況の度にマイクを口元で小さく一回転させるヤンスが腹立つな。神属性なら尚更真っ先に殺しておくか。

 が、ここでようやっと王国騎士どもが動き始めた。サーカと同じく傲慢そうな顔の樹族の騎士が命令を出す。

「悪魔に一斉攻撃をしろ! 獅子人に先を越されるな!」

 怒声に似た命令の後、雨霰のような攻撃魔法がほぼ全方位から飛んできた。
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